ISSUE ☆日本と世界のソーシャルデザイン

2 years ago - 2014.09.30

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聖地エルサレムは誰のもの?紛争がつづくエルサレムの少年たちの日常を描いた映画『デイビッド&カマル』

デイビッド&カマル

映画『デイビッド&カマル』は、日本人監督の川崎規久雄さんがエルサレムを舞台にイスラエルのアラブ系の少年たちを描いた映画で、現在、各地で自主上映会が開催されている作品です。

イスラエルといえば、現在パレスチナとの間で戦争状態がつづき、双方に多数の死者が出ているという大変な国、その国を舞台に川崎監督は何を描きたかったのでしょうか。

明日開催する、次回のリトルトーキョー・シアターではこの映画を上映します。

子どもの世界

まずは、簡単にストーリーの説明から。

母親とアメリカに暮らすユダヤ系の少年デイビッドが、エルサレムに暮らす父親の元に滞在するためにやってきます。

到着した翌日、古いコイン集めが趣味のデイビッドは旧市街のコイン商を訪れるが、その近くで地元のアラブ系の少年カマルにコインが入った袋を奪われてしまう。カマルを追いかけるデイビッドは別の少年たちに追われ、今度はカマルに助けられるのだが…

泥棒とその被害者という出会いをした少年2人が、少しずつ理解し合うというこの物語は、子どもの世界と大人の世界の違い、もっと言えば子どもの目から見える世界と、(大人が考えている)現実の隔たりを見事に描いています。

子どもを主人公にした映画の中には、そのようにして「子どもの心を思い出させてくれる」作品があって、それは観る私たちに生きる活力を与えてくれたりするのです。

そういう作品だというだけでこの作品は観る価値があるといっていいと思うのですが、しかし、日本人監督がわざわざイスラエルでそのような作品を撮ったということに「何かあるのでは」とわたしは思ってしまいます。

この作品では「パレスチナ」の存在はほぼ完全に無視され、物語には浮上してきません。そもそもカマルが「アラブ系」だということもほとんど問題にされません。だから、その問題を問題だと意識してみなければ、何が問題になっているのかはわからない映画なのです。

でも、もしかしたらそれこそがこの映画の核心なのではないでしょうか。大人の世界では目に見えて存在する対立も、子どもの世界においてはないに等しい、もちろん影響が全くないわけではないけれど、子どもの視点からは「ユダヤ」と「アラブ」の間にどれくらい違いがあるものなのか。

この映画はまずはそんなことを言っているのです。

そして、それだけではありません。この映画で一回だけカマルについて「アラブ」という言葉をデイビッドが発する場面があります。その一瞬に私は、大人の世界と子どもの世界のつながりと隔たりをみて、はっと気付かされたのです。
 

ニュートラルであることの難しさ

中東の映画というと、私がまず思い出されるのはイラン映画で、イラン映画といえば子どもが主人公の優れた作品が多いという印象を持っています。

これは映画(に限らず出版物など全体)に対する規制が厳しかった時代に、子どもの主人公にすることで社会問題を扱っているとみられることを避けるというのが理由の一つとしてあったといいます。

そのことを考えると、この映画もあえて子どもを主人公にすることによって、ストレートに国際問題を扱うのを避け、社会的な主張になってしまわないように工夫されているのではないかとも思えます。

社会的な主張になることを避けられれば、中立的な視点を提供することができ、ここで描かれたものの先を考えようという人は、ニュートラルな立場でそこにある問題を考えることができるのではないでしょうか。

イスラエルとパレスチナの問題は長年に渡ったために複雑化してしまい、解きほぐすことは不可能と言っていいほどになってしまっています。問題を理解するためにはそれを単純化することが近道とされることもありますが、あまりに複雑な問題は単純化してしまうと本質が失われてしまいます。

この映画は非常に単純な映画です。しかし、その単純さの背後には2人の少年が抱えた「複雑な事情」というものも存在します。2人はそれぞれにその問題を解決したいと考え、特にカマルは単純な解決策に辿り着こうとします。

デイビッドもそれに何とか協力しようとしますが、彼自身にも複雑な事情があり簡単には行きません。そのあたりに現実の複雑な問題を、複雑なまま理解するヒントがある、そう考えるのは考えすぎでしょうか。

そんな難しいことを考えなくても、なかなか実際に見ることのない世界を子供の目を通してみることができると、普段ニュースなどを見ているだけでは見逃してしまうようなものが見えてくることはあります。

この映画はそんな新たな視点を私たちに与えてくれるのです。そして、そこから何を考えるかは見る人に任せられている、そんな映画なのだろうと思います。
 

デイビッド&カマル

2011年/アメリカ/78分
監督・脚本:川崎規久雄

「リトルトーキョー・シアター」イベント概要
日時
2014年10月1日(水)19:30~22:00(19:00開場)

内容
・ミニ太陽光発電システムのバッテリー+普通のプロジェクターを使用して、映画『デイビッド&カマル』(78分)の上映
・参加者によるシネマダイアローグ

定員
先着15名

参加費
参加費500円+1ドリンク500円=1,000円
※ 2杯目からはキャッシュオンで注文いただけます。

参加方法
こちらのページから

『デイビッド&カマル』を観に行ってみよう!
『デイビッド&カマル』

writer ライターリスト

石村 研二

greenz シニアライター 東京生まれ。大学の法学部を卒業するも、法律に向いていないことに気づき、長いモラトリアム期間を過ごしながらひたすら映画を観る。 2000年にサイト「日々是映画」を立ち上げ、書くことを仕事にすべく駄文を積み重ねる。現在、ライター/映画観察者。greenz.jp以外には六本木経済新聞、WIRED.jpなどに出没。暇なときはSFを読んで未来への希望を見出そうとし、世界は5次元だと信じている。 日々是映画-ヒビコレエイガ http://www.cinema-today.net/

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