ISSUE ものづくり

2 years ago - 2014.09.22

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枕で世界を救いたい!建築会社の社長が提案する、間伐材チップを利用した寝具シリーズ「フィトンの寝具」

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(C)私の森.jp 写真部

みなさんが毎晩お世話になっている枕。
その中身には何が入っているか、ご存知ですか? 

現代ではほとんどが、ポリエステルなど石油由来の素材でつくられていて、木綿(綿花のワタ)や真綿(絹のワタ)、そば殻などの天然素材は少数派。

1日の約3分の1を占める睡眠の間じゅう、地下深くから掘り出した持続不可能なモノの上に頭をのせているのは、健康的といえるだろうか?

山梨県の豊かな大地で、自然の恩恵を受けつつ暮らしてきた横内靖英さんは、ふと疑問を抱きました。そして、地元南アルプス山系のヒノキやスギのうち、森の手入れで発生する間伐材と、曲がりなどが理由で製品化できない木材を、スライスして枕に詰めることにしたのです。

今回はそうして誕生した「フィトンの寝具」をご紹介します。
  
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森の生命力を詰め込んだフィトンの寝具

身近な環境の変化に心を痛めて

フィトンの寝具を展開する横内さんの本職は建築業。1980年に有限会社を立ち上げ、プレハブ住宅や輸入住宅や新建材が台頭する世の中で、社員3人と常駐の大工7人を抱え忙しく働いてきました。

会社は成長しましたが、本来は無垢の木材を加工し構造物をつくることに魅力を感じて起業した横内さん。アルミサッシやウレタン、ポリエステル、塩ビなど石油化学製品ばかり扱ううちに、職人としての技、心意気、人情、情熱、向上心、創作心が削がれていくのを感じ、生き方に悩み始めます。

ついに9年前、工事の量より質だと割り切って会社の規模を縮小。やりたかった家づくりに向き合おうとしましたが、その頃には、思い描いていたような無垢の木材を使う仕事自体が、ほぼ無くなっていました。
 
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横内靖英さん

もう無理はせず、人員や借金を整理して守りの人生に入ろうと思いました。しかし、職人としての血が騒ぐんですよね!

周りを見回せば、田んぼも畑も山も荒れ放題になっているじゃありませんか。「このままじゃいかんよな!」と奮起して、もし失敗したとしても最終的にゼロで終わることができればいいと、新規事業を立ち上げたんです。

こうして、全国的な課題でもある間伐材の活用も目指して開発したのが、「フィトンの寝具」シリーズでした。山荒れから環境問題へと関心が広がり、吸水性が高く、熱を吸収し油を吸着し、消臭効果もある木の特性を学んだ結果、寝具に行き着いたのです。

ところが枕の試作を始めてすぐに、先人のご苦労と、なかなか世間に普及しない原因が分かりました。どんな加工をしても、天然素材の羽毛や羊毛、綿などと同じで、「へたり」や「つぶれ」は避けられないのです。どうりで、市場に出ている枕の中材としての木は、サイコロ型のみなんですね。

自然のものは長持ちしない上に価格も高い。一方、石油化学製品は耐久性があり価格も安い。普通ならここで「なるほどね~」と諦めてしまいそうですが、横内さんは諦めませんでした。

人工のものが人気を得る理由が分かった。それならば、木で「へたりづらい」「つぶれにくい」ものをつくろうと考えました。そして、既存の道具や機械を改造して完成したのが「カールチップ」です。

これで、目標の「へたりづらい」「つぶれにくい」は達成できました。それでも、まだ石油化学製品の耐久性にはかなわない。そこで、次に開発したのが「板ばねチップ」です。

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「カールチップ」は、くるくるとカールしたスライス状の木片。木ならではの柔軟性を保ちつつ、しっかり反発力があります。

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「板ばねチップ」は、その名の通りバネのような弾力。これなら長持ちしそう

この「板ばねチップ」で座布団を試作したところ、非常に硬いけれど座り心地が良く「これまでに無い感覚」「元来の日本人の生活に合う」と好評。そこで、座敷用の座布団だけでなく、敷き布団や車いす用の座布団にも採用し商品化しました。

枕に詰まっているのは、軟らかい方のカールチップ。ほんのりと漂うヒノキの香りに頭を沈めれば、森の中で寝転がっている気分です。

「枕を着替える」というコンセプト

長く使っている人からは「肩こりが楽になった」「枕に熱がこもらず、さわやか」「首回りに汗をかくことがなく快適」といった声が届いているのだとか。

横内さんはさらに、「枕を着替える」というコンセプトも提唱しました。チップの詰め替えが自由にできる「ひのき枕キット」に加えて、敢えて使い捨て商品も発売。約2年ごとに枕を丸ごと取り替えることを勧めています。

数年使用したヒノキチップは汗や脂分を吸着しており、どうしても機能が低下します。もちろん「モッタイナイ精神」で長く使っていただきたいのですが、再生可能な資源でできた循環型製品なので、処分しても温室効果ガスの発生はゼロカウントです。

健康的でさわやかな睡眠のために、ときどきは枕も“着替えて”いただきたいのです。

一般の枕でも、カバーは洗っても本体はなかなか洗わないもの。寝汗を毎晩吸い込む枕はカビやダニの温床になりやすく、手入れを怠った枕は、かなり不衛生だと聞きます。

フィトンの寝具の枕は、2年で使い捨てた場合、1日9円。この価格をどう考えるかは、睡眠にかける思い次第なのかもしれません。

寝ている時間が多い高齢者や赤ちゃんにこそ良い寝具を

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横内さんがまず「フィトンの寝具」を届けたのは、高齢者向け介護施設でした。寝たきりの方の床ずれ防止にも良いと考え、モニター利用を依頼したところ、やはり非常に好評。ひと安心したものの、いざ施設に販売しようとすると思わぬ壁にぶつかりました。

介護施設で使うパジャマやシーツ、布団、枕、枕カバー、バスタオル、タオルなどリネン類の通年入居者お一人当たりの費用は、調べてみたところ1日わずか54円。これ以上はリネン費をかけられないそうなんです。

施設には、一日中ベッドの上で過ごす方がたくさんいます。人生の大先輩たちが認知症などで、満足に意見も言えないまま最低限の寝具で過ごしている実情を知り、寂しくなってしまいました。

落胆した横内さんは介護業界に施設単位で導入してもらうことは一旦あきらめ、今は、おじいちゃんおばちゃんにプレゼントする人など、個人向けに販売しています。
 
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新シリーズ「フィトンの寝具 for Baby」

また、高齢者と同じように寝ている時間が長く思うように不快を言い表せない上に、とても汗っかきでもある赤ちゃんのために、「フィトンの寝具 for Baby」も2014年に発売しました。

お母さんたちからは「すやすや良く眠る」「敷き布団の下に湿気がたまらなくなった」といった声が届いているそうです。これは、出産祝いに贈っても喜ばれそうですね。

フィトンの寝具は、要らなくなったら中身のチップを庭にまいて土に返すこともできます。保育園など施設単位での利用が増えれば、使用済みチップを回収してペレット燃料の素材にすることも可能でしょう。

使い始めも使い終わりもエコな寝具を、人生の最初と最後に使っていこうという、建築会社社長からの提案。ちょっと面白いと思いませんか?

writer ライターリスト

瀬戸内千代

瀬戸内千代

greenz シニアライター 東京生まれ。両親の故郷で瀬戸内海に親しみ海洋動物生態学者を志すも理系文系の橋渡しに興味が移り出版業界へ。2007年からフリーランスの環境ライターとして書籍・雑誌、ウェブに執筆している。プロフィール画像は伊豆下田でスケッチしたムラサキクルマナマコ。

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