ISSUE インクルーシブ

2 years ago - 2014.09.16

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多様な”母の生き方”を感じて欲しい。映画上映イベント『映画の中で生きる母たち』に込められた、ひとりの女性の想いとは


弓桁あやさん

あなたは“母親”にどんなイメージを持っていますか?

家族に尽くす献身的な姿でしょうか。規範に厳しい模範的な姿でしょうか。それとも、朗らかな肝っ玉かあちゃんのような存在でしょうか。

考えるうちに、私たちの頭の中にはいくつかの“お母さんのステレオタイプ”があることに気が付きます。「人にはそれぞれ違う個性があるもの」という言葉はさまざまなところで語られるのに、どうして私たちの中の母親像はこうも固定化されているのでしょう。

そんな疑問を投げかけ、「母親だっていろいろでいいのでは?」と問いかける。そんなイベントが、ひとりの母親の手によって開かれようとしています。

9月20日から26日、小田急線新百合ヶ丘駅徒歩3分の川崎市アートセンターにて行われる「映画の中で生きる母たち~パリ、NY、マドリッド、東京」と題した映画上映イベントです。
 
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イベントで上映される4本の映画はどれも、母親を主人公として魅力的に描き出している作品。企画の提案者であり今まさに実現に向けて疾走している弓桁あやさんは、「花のように咲き誇る、多様な母の生き方を感じて欲しい」と話します。

今回はこのイベントに込めた想いやこれまでの道のりを、弓桁さんに伺ってみました。

映画への情熱

弓桁さんは現在フルタイムで働きつつ、3歳の女の子の子育ての真っ最中。

“母”というテーマを映画にのせて伝える今回の企画が生まれたのは、弓桁さんが長年持ちつづけて来た映画への情熱と、弓桁さん自身の出産・育児の経験がクロスした結果でした。

映画研究で修士号をおさめるなど、映画に対して人一倍情熱を持っていた弓桁さん。就職後も映画に対する情熱は消えず、大学院在学時に行った俳優・池部良さんへのインタビューを出版社に持ち込み、書籍化。出演作品の監督や共演した女優へのインタビューも新たに行い、出版にあわせて上映会を開くなど活動をつづけました。

出産後は映画を観る回数は格段に減ったものの、なんとか時間を工面して定期的に映画館に行くようにしていました。そして、全国の単館系の映画館の閉館が相次ぐにつれ、自分なりの方法で映画文化に関わりたいという思いが強くなっていきました。

そんなある日、弓桁さんは偶然「こども映画教室」の取り組みを知ります。

子どもに映画づくりや名画鑑賞の機会を提供するこの取り組みに強く関心を持った弓桁さんは、 調べるうちに主催の女性が講師を務める日本映画大学の社会人講座を発見。講座自体にも面白さを感じ、1月から受講を始めました。

週1回のこととはいえ、仕事を抱え、子育てをしながらの受講。子供を連れて講座に参加したこともあったと言います。

母親へのバリアフリー

弓桁さんが受講した講座の主題は“バリアフリー”。 バリアフリーというと身体的な障害や高齢に伴うさまざまな障害への対応をイメージしますが、弓桁さんはそこで母をテーマにした今回の企画を課題として提出し、優秀賞を獲得しました。

“母”と“バリアフリー”はどうつながるのか。そこには、弓桁さんが自身の出産・育児を経て感じた、生活に根ざした問題意識がありました。

世の中にある“バリア”って、視覚障害など身体的なものに限らないと思うんです。

たとえば、子どもが小さいうちって、映画館で映画を見ることが本当に難しいんですよね。上映時間に往復の移動時間も合わせると、場合によっては4時間以上になってしまう。私自身も、前々から家族と時間を調整してなんとか映画館に行くようになりました。

そこで今回のイベントでは、全12回の上映のうち2回を保育付き上映とする予定です。

小さなバリアフリーかもしれませんが、足が遠のいてしまったお客さんに再び来てもらうためには、重要なことではないでしょうか。


初日にはトークイベントも開催。ゲストの、漫画『ママだって、人間』の作者・田房永子さんとの打ち合わせ

また、弓桁さんは、今回のイベントを通して“母”に関する心のバリアも取り払いたいと言います。

“母親”というものに対する、固定化したイメージってどこかにないですか?「母親だったら○○であるべき」「母親は○○するもの」みたいな。

そこには自分の親から受けた影響もあれば、ドラマや漫画などで描かれる母親像から刷り込まれたものもあると思います。どちらにしても、ひとりひとり違うはずの女性をひとつの枠に押し込めることが、子を持つ女性が人生を楽しむ“バリア”になっているように感じるんです。

そう話す弓桁さんも、自分自身に固定化した母親像の枠をはめ、苦しんだ時期があったと言います。

私の母は専業主婦で、 私の中にはその姿が“あるべき母の姿”として焼き付いていました。なので、たとえば仕事が忙しく、家の掃除が行き届かなかったり外食が多かったりすると、自分は親としてだめなんじゃないのかという罪悪感を覚えていました。

子育て世代の中心となる今の20代・30代の若者の親は、専業主婦が今よりずっと多かった時代。その影響を受けている人は、女性だけでなく男性にもたくさんいるのではないでしょうか。

自身の親が子育てのモデルになることは自然なことですが、親子を取り巻く環境も大きく変わっている今、それが母親の生き方を縛ってしまうのでは、あまりに不自由です。弓桁さんが掲げる母親へのバリアフリーは、そういった不自由からの解放と言えるかもしれません。

母親のイメージを変える、4本の映画

弓桁さんが、多様な母親の姿を感じて欲しいと選んだ作品は、『ニューヨーク、恋人たちの2日間』『ボルベール<帰郷>』『キングス&クイーン』『魂萌え!』の4つ。

それぞれ違う国を舞台に、キャラクターも境遇も異なる母親たちが、生き生きとした姿を見せています。そのひとつひとつが、弓桁さんが母親として忘れられないメッセージを受け取った作品です。

たとえば『ニューヨーク、恋人たちの2日間』で描かれるのは、下品なジョークも言えば失敗もする、ちょっと情けない母親の姿。

子どもの頃って、親が万能に見えますよね。年齢を重ねて自立してもやっぱりどこかにその感覚は残ります。でも本当は親だって迷うし、失敗するものです。この作品からはそんなリアルな姿が伝わります。


『ニューヨーク、恋人たちの2日間』(C)Polaris Film Production & Finance, Senator Film, Saga Film, Tempete sous un Crane Production, Alvy Productions, In Production, TDY Filmproduktion – 2012 All rights reserved.

『ボルベール<帰郷>』でペネロペ・クルスが演じるのは、強く美しい母親。

出産後、子どもを心から可愛いと思う一方で、実は、自分が人生の脇役になったような寂しさを感じることがありました。

もともと皆の中で主役になりたいタイプではなかったのですが、当たり前のように、自分の人生では自分が主役だと思っていました。でも、子どもが自分の価値観の最優先になって、当たり前だと思っていたその感覚が揺らいだのです。

この作品のペネロペ・クルスは子どもを愛しながらも、ひとりの女性として美しく輝いています。その姿を見ると不思議と元気づけられました。


『ボルベール<帰郷>』(C)EL DESEO, D.A.S.L.U.

上映されるのはどれも素晴らしい作品ばかりですが、人によっては「これが母親をテーマにした映画?」と感じる人もいるだろうと弓桁さんは話します。

いわゆる”親子の感動の絆“の物語ではない上に、どの作品の母親も、普段脇役で描かれる場合の母親像と大きく異なるので、違和感を覚える人もいるかもしれません。

多くのドラマや漫画の中で脇役として登場するお母さんは、“誰それの母親”という形でしか描かれていません。たとえば『ドラえもん』に出てくるのび太くんのお母さんの、母親以外の側面って見たことがないですよね。

でも実際は、母親も四六時中子どものことばかり考えているわけではないと思うんです。

これまで慣れ親しんできた描かれ方とは異なる母親像との出会い。それは、「イメージしていた母親ではない」という違和感につながるかもしれません。そしてそれは、自身の中にあるステレオタイプが裏切られたことへの驚きとも言えるでしょう。

その驚きを体験すること、そしてステレオタイプに当てはまらない母親像を受け入れることで、母親もひとりの人間だということに気付いて欲しい。それが4本の映画に込められた弓桁さんの想いです。

母と共に生きる、全ての人へ

今回のイベントは、各主演女優を花に見立てたグラフィックを使用するなど女性向けの印象が強いものの、男性にもぜひ見て欲しいと弓桁さんは言います。

子どもがいる男性にも、独身の男性にも、足を運んでもらえたら嬉しいです。女性だけでなく男性の意識も変わることで、パートナーとの関係や家族のあり方に変化が生まれると思います。

また、弓桁さんは、母親という存在自体が、全ての人にとって切り離せないものだと考えます。

一緒に暮らしてきたかなど出産後の事情は別として、全ての人に母親は存在します。そういう意味で、“母”というのはあらゆる人に共通のテーマです。しかし、母親の“親”以外の側面を理解するのはなかなか難しいことだと思います。私自身も、自分の親に対して、それができているかは自信がありませんし。

今回のイベントを通して「母親にもいろいろな面があるんだ」と気付くことが、自分自身の親について新しい見方を持つきっかけになるのではないでしょうか。

「こんな風に自分の気持ちを形にしていくことに、気恥ずかしいような想いがあります」とはにかむ弓桁さん。

悩みや不安を受け止め、今回のようなイベントに昇華させる姿は、ひとりの人間としての静かな強さを感じさせます。

出産・子育てで感じた戸惑いや疑問が企画の出発点になってはいるのですが、実際子どもを育てるのは、発見に満ちた本当に刺激的な体験です。

幼い命を預かると、「何かを飲み込んでしまったら」「目を離したすきに事故が起きたら」と緊張が絶えませんが、その反面、子どもに強く必要とされることで、今までにない深い自己肯定感を感じます。

また、子育てを通じて地域社会の人や様々なママ友と知り合う中で、世界が広がったように感じます。特に魅力的な母たちとの出会いは、 私がこの企画に向けて動き出す原動力になりました。

そう。弓桁さんはこの企画を通して不満を訴えたいのではなく、母親も、その周辺ももっと楽に生きられるように、“母親”という存在の新しい捉え方を皆で考えてみようと呼びかけているのです。
 

駅に貼られたイベントのチラシ。HP作成からチラシの掲示まで、多くの人が弓桁さんを支えている

イベントが行われるのは、土日と祝日を含む6日間。子どもがいる人もいない人も、川崎市アートセンターへ足を運んでみてはいかがでしょうか。母親について、家族について、新しい発見が生まれるかもしれません。

イベント「映画の中で生きる母たち」にいってみよう!
公式ホームページ

writer ライターリスト

栗林 明子

栗林 明子

大学卒業後、不動産ポータルサイトにてウェブディレクション、編集などに従事。現在はサンフランシスコでライター兼、主婦ときどき学生。 主なテーマは住まい、都会と地方、食、健康、旅 etc....

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