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廃校した中学校を、パーマカルチャーの実践の場に!地域の人がつながり、ほしい“循環”を自分たちの手でつくる「片浦 食とエネルギーの地産地消プロジェクト」

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

皆さんは、自分の母校、卒業した小学校、中学校を大人になってあらためて訪れることはありますか?地方から都会に移り住み、暮らしている方など、なかなかその機会も少ないのではないでしょうか。

そしてもし、自分の母校がなくなっていたとしたら。ちょっと寂しいかもしれませんね。

今回はかつて学び舎であった旧中学校を、もう一度地域のみんながつながる憩いの場にしよう!と、卒業生など地域の人がつながりながら活動している「片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクト」をご紹介します。
 
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(右)片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクトを推進する帰山寧子さん。(左)片浦電力代表の鈴木篤史さん

片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクト

プロジェクトの拠点となっている旧片浦中学校は、神奈川県小田原市の西部にある石橋、米神、根府川、江ノ浦の4地区から成る片浦地区の根府川駅側にあります。
 
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山と海に囲まれ四季折々美しい景色を見せてくれる片浦地区、中学校校庭からは海が一望。

かつて、学び舎だった片浦中学校ですが、現在は閉校。

気持ちのよい風が吹き抜けるこの校庭の一区画に、片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクトの活動拠点となっている畑と野外キッチン、名付けて「キッチンガーデン」は誕生しました。
 
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校庭に広がっているのは、野菜やハーブが豊かに実る畑、土のかまど、アースオーブン、ロケットストーブ、調理台&流し台、池とバイオジオフィルター、太陽熱温水器、太陽光発電システム、くつろぎのスペース、コンポスト。

パーマカルチャー・デザイナーの四井真治さんの指導のもと、「暮らしの知恵の場」をテーマにつくられたこのキッチンガーデンには、”つながり、めぐる”しかけがぎっしりと詰まっています。
 
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授業の一環として地元の小学生と作家さんが制作したアースオーブン。

場づくりには片浦小学校の生徒さんたちや片浦中学校の卒業生も参加。地域の作家さんや得意技を持った人生の先輩の知恵なども借りながら、一緒に取り組んだそう。
 
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充実したキッチンも全部手づくり!

自分たちの食べるものは育てることから始める。食べるための調理は火を起こすところから。火を起こして調理するキッチンはレンガづくりから。なんでもできる事は自分たちでやってみようと、循環する食やエネルギー”をものづくりを通じて楽しんで学ぶ場として、旧校庭は息を吹き返しました。
 
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パーマカルチャーを取り入れた畑づくりにも挑戦!

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収穫した野菜を調理するためのかまども手づくり。完成式では火の神様にご挨拶。

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アースオーブン完成お披露目ではヒルトン小田原の総料理長水口氏も駆けつけ盛大に。

また、”片浦とエネルギーの地産地消”プロジェクトの”エネルギー”の部分は、小さな太陽光発電システムを片浦地区の至るところに設置し、夕方になると暗くなる学校の通学路を灯すなど、エネルギーも地産地消する「片浦電力」もプロジェクトの一環として積極的に活動しています。
 
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根府川郵便局の入り口を照らす照明。

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郵便局内の待ち合い室から見える片浦電力のソーラーシステム。

その場で発電、その場で発光。設置箇所にはひとつひとつ「片浦電力」と記されていて、エネルギーの地産地消が地域の方にも分かりやすく伝わります。

また、太陽光発電システムのワークショップを開催しながらこれまでに、公民館や診療所など片浦地区の公共スペースや畑に現在15個ほどの太陽光パネル設置を実現してきました。

片浦中学校からつながる新たな地域コミュニティへ

今年で3年目となるこのプロジェクトですが、もともとは2010年の片浦中学校閉鎖がきっかけでした。

少子高齢化が進み、地域の問題としても年々深刻化する中で、片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクトは内閣府による神奈川県新しい公共の場づくりのためのモデル事業として動き始めました。

プロジェクトを立ち上げた帰山寧子さんは、3年の活動を通じて見えてきたことや学びについてこう話します。
 
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”身の丈”社会事業コーディネーター 帰山寧子さん。

帰山さん 2011年、地域の課題に対し、行政だけでなく、NPOや企業、学校や住民など様々な立場の人達が、協働して解決にあたる試行事業としてスタートしました。

2012年に片浦小学校が学区外からも入学できる小規模特認校に認定されたこともあり、何か特色のある地区活動をということで、小学校とも連携をとりながら、子供達やPTA、地域住民を中心に、このキッチンガーデンづくりを進めてきました。

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子どもも保護者も地元の方も一緒に旬の食材を楽しむキッチンガーデン

帰山さん 例えば、最初につくったアースオーブン制作は、小学校の美術工作の時間に、片浦中学校の卒業生である陶芸家の方に特別授業をしてもらいながらデザインをみんなで考えました。また、流し台への給水は地元の長老が配管をしてくれました。

卒業生や縁ある地元の方が母校のために力を貸してくれる、片浦プロジェクトの魅力のひとつです。

とはいうものの、立ち上げ当初、帰山さんは地元の方々から伝わってくる地域活性化活動へのトラウマを感じていたといいます。

以前、何度かまちづくりの活動団体が片浦の地域活性に手をつけては成果が上がらなければ、また任期がきれてしまえば撤退という事例があったことから、地元の人たちに心に残る「どうせいなくなってしまうんでしょ?」といったトラウマ。

それを取り除きながら活動することが大切だと感じた帰山さんは、積極的に地域の方々に声をかけながら一歩一歩このプロジェクトを進めてきました。
 
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根府川郵便局にて。局長と立ち話から始まる次回ミーティングの打ち合わせ。

「顔の見える関係は活動する中でとても大切なこと」と帰山さん。

帰山さん 地元の方々とのコミュニケーションはしっかり取れていると思います。そこにはひとつ、「鈴木さん家のせがれが頑張ってるんだったら」というように地元の若者の頑張りが挙げられますね。

小さなころから顔馴染みである地域地元の若者が地域活動に関わることは、地域の人たちが安心感を持って協力してくれるひとつの要因になると帰山さんは話します。

3年目になる今年は、地域で別の活動をしている団体どうしが横につながりあう「まちづくり委員会」も発足、片浦小学校への学区外からの入学希望者も増加するなか引っ越してくる新住民も増え、片浦プロジェクトは少しづつ、でも確実に進んでいます。

プロセスとセレンディピティ

現在、埼玉に拠点を置きながらも片浦プロジェクトを進める帰山さんですが、なぜ、片浦プロジェクトに取り組んでいるのでしょうか。片浦プロジェクトに携わる想いを伺いました。
 
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畑で実った小麦をその場で粉引きし、アースオーブンでクッキーやホットケーキを焼きました。プロジェクト1年目、構想が形になった記念の一枚。

帰山さん 会社員を勤めながら10年程、パーマカルチャーやエコビレッジ、ローカリゼーションを学んでいました。その後、トランジション・タウンの理念に触れ、「これだ!」と思ったんですね。

仲間と一緒に「NPOトランジション・ジャパン」の立ち上げに携わり葉山を拠点に活動していました。

「解決策を外に求めるのではなく、既にそこにある資源や人やネットワークを活かしながら自分達の創意工夫で新たな価値をつくっていく」というトランジション・タウンの理念に感銘を受けたという帰山さん。

しかし、活動を続けるうちに、トランジションやまちづくりやエコというアイコンに特段関心がない人や場所に、こういった理念を暮らしや社会に落とし込んでいくことが、未来にとって大切なのでは、と気持ちが変化していったと言います。

そんな背景の中、旧片浦中学校の有効利用を考えている人達と出会った帰山さん。ここに実践の場ができればいいなという想いでチャレンジを始めました。
 
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帰山さん プロジェクトがスタートして3年目。キッチンガーデンはあくまで手段であって、大事なのは、それをつくり運営していく過程で地域内外の様々な人達が交流し、それぞれの得意分野を発揮し、新たな化学反応が起こっていくことだと思ってます。

実際1年目はガーデンをつくりましたが、2年目には電気の得意な人がいいだしっぺで片浦電力が生まれ、3年目は手仕事が得意な方が加わったおかげで染めや綿づくりを経験しました。また、地域の他の団体と協力して片浦ツアーを催したり、行政との協働で、地域内の団体に横串をさすまちづくり委員会が発足したり…。

最初はこんな展開になっていくとは思ってもいませんでした。あらかじめゴールを決めて走っていくのではなく、プロセスの積み重ねと、常に注意深く丁寧に観察しセレンディピティを誘発していくことで自然派生的に未来が紡がれていく、今後どうなっていくのか、そんな旅の途上が楽しみなんです。

中学校が閉校という事態に、危機感を募らせていた片浦地区ですが、今では、自分たちで地域魅力のアピールや地域に役立つ仕事づくり、更には移住者誘致まで、片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクトを通じて、地域の方も社会づくりに携わっています。

閉校された母校、大好きな片浦のために自分たちができること

今や、過疎化や少子高齢化はどの地方でも抱える社会問題ですが、片浦プロジェクトのように近い未来、みんなが地域の主役であり、地域の問題を解決するためにどんな可能性があるのでしょうか。

閉校となった母校の活用や大好きな地元のために自分ができることを仕事にした片浦電力代表、鈴木篤史さんに地域をみんなでつくるヒントについて伺いました。
 
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片浦電力代表 鈴木篤史さん

鈴木さん 中学校が閉校になった時、自分を含め、地域全体が危機感を持っていて、「片浦のためになにかしたい、でもどうしたらいいかわからない」という状態でした。

僕は丁度立ち上がっていた地元の青年サッカーチームに所属していて、、チームのコンセプトが「地域に役にたつサッカーチーム」だったんです。定期的に駅前の掃除などをメンバーと行っていました。片浦プロジェクトが始まるにあたりチームの代表としてスタッフ参加をしたのが、片浦電力を始めるきっかけでした。

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片浦小学校の通学路に取り付けられた片浦電力第一号のソーラーパネル

第一回のソーラーパネルづくりにスタッフとして参加した鈴木さん。パネルの制作から取り付けを体験し、「これなら自分にもできる」と感じたそうです。

奇しくも、鈴木さんの職場には使用期限の超えたバッテリーが複数あったこともあり、バッテリーを再利用した地域に役立つエネルギーづくりに取り組む”片浦電力”が誕生しました。
 
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キッチンガーデンの屋根に取り付けられた再利用バッテリーのソーラーシステム。災害時、付近住人への電力補給所にも。

鈴木さん 自分ができることで地域にまつわる肩書きを持つ、すると自然に自分と地域づくりがつながっていったなと思います。「鈴木さん家のせがれ」ではなくて、片浦電力の鈴木さんになったというか(笑)。

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独立型太陽光発電ワークショップにてこどもたちと発電確認をする鈴木さん。地元の小学校でのワークショップも開催予定だとか。

鈴木さん 肩書きをもつと次に大切なのは、当たり前だけど「地域の役に立つ」こと。根府川の公民館や小学校通学路の明かりをつけることはまず一歩目。今はもっと地域の方の生活に役にたつエネルギーづくりに力を入れたいと思っています。

例えば、いのしし被害が多い畑の電柵のエネルギーをソーラーシステムにした事例もあるんですが、電柵とソーラーシステムを片浦電力オリジナルモデルで組むことでコストパフォーマンスを少しでも下げて地域の方に提供していければいいな。

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小田原のおひさまマルシェさんから譲り受けた小水力発電ピコピカ。根府川の星が山テラスさんに設置し外灯として活躍してます。小水力発電にもチャレンジしていきたいとのこと。

地域の問題を自分事に置き換えた時、「自分にできること」で手をあげ、つながる。それが”地域をみんなでつくる”大切な一歩であることを鈴木さんは教えてくれました。

今後のチャレンジについて「根府川で撮影された祭りのフィルムをキッチンガーデンで上映会をしたいんです!」と笑う鈴木さん。

地元のお祭りを題材に上映会を開くことで、地域の人たちが気軽に片浦中学校の新しいコミュニティに集まり、そこから新しいつながりが生まれる。そのエネルギーを片浦電力がまかなう。まさに地産地消のつながるしかけです。
 
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閉校した片浦中学校の有効活用からスタートした片浦“食とエネルギーの地産地消”プロジェクトと、片浦電力。

ここには、みんなが自分のできることで主役になり、閉校になった中学校を蘇らせ、さらに楽しくわくわくする地域になっていく、そんな未来づくりが始まっていました。

みなさんも、片浦の海と山、豊かな自然に触れに一度足を運んでみませんか?持続可能なエネルギーとまちづくり、あなたのほしい未来が片浦にあるかもしれません。