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小笠原舞さんインタビュー「私がasobi基地を始めた理由」 [クラウドファンディングのその後]

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代表の小笠原舞さん

クラウドファンディングもだいぶ定着してきましたが、資金調達に成功した人たちの「その後」って、意外と紹介されないものですよね?そこで、グリーンズではファンドレイズに成功した人々のその後のお話を伺っています。

今回は、Readyfor?上で「大人も子どもも平等でいられる場「asobi基地」」として300,000円を目標に、508,000円のファンドレイズ(2012年11月3日に終了)に成功した「asobi基地」代表の小笠原舞さんにお話を伺いました。子育てが難しくなったと言われる時代に、とても斬新で現実的な子育て支援を展開しています。
 
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高馬 保育士と言うことで、最初から子供への目線があったと思いますが、asobi基地をつくるきっかけというのは、あったのでしょうか。

小笠原 もともと、会社員を2年ほどしていてから、フリーターをしていて、独学で保育士の資格をとりました。そもそも、通っていた大学はソーシャルワーカー的なことを幅広く学べる学部だったので、大学のボランティア掲示板で、自閉症の子供たちのケアの保育園のようなもので働いたのが、きっかけです。

大学卒業後、オフィスの空間デザインの仕事をしていたのですが、子供への想いが大きくて、土日は子供たちのキャンプに行ったりしていましたが、メンタルを崩したために、会社を辞めることにしました。そこで、バイトして25歳の時に保育士として働きはじめました。

最初は、保育士として一生懸命働いていましたが、ボランティアとして働いている中で、おカネを持っている子供は、キャンプなどに来ますが、おカネがない子供はそういうことができません。だから、家庭環境によって、スタートラインが違っているのかもしれないと考え込みました。

いい悪いではなくて、ひとつの疑問として。だから、そういうチャンスを用意してあげたいと考えていた時に、児童専門の精神科医や子育てカウンセラーの友人に、その話をしたら、「それはやるべきだよ」ということで始めたのです。2012年の7月に単発でカフェ形式のasobi基地を始めたら、盛況になったので続けています。

高馬 asobi基地では、実際にどのようなことをされていますか。

小笠原 asobi基地には、折り紙やハサミのような簡単なものしかないのです。つまり、素材と道具しかない。また、おうちでも再現できるものを用意しています。

そこには、こだわりがあって、一時的に、どこかに行って体験できるものではなくて、やはり、家庭で親子が会話をしながら遊ぶことや触れ合うこと、コミュニケーションをとることが大事だと思っています。

保育園だと、その保育園のメソッドは受けられるかもしれませんが、親子関係の支援までしているところがないというのが、実感でした。それで、子育てコミュニティをつくれば、フェアに情報をシェアできるのではないかと思って、そういう場をつくっています。

親になるための準備は、両親学級と母子手帳くらいしかない状況です。そうすると、自分で調べるしかないのですが、そうすると、悪い方向に行きがちです。

親が不安定になると、子供にもすごく影響が出てきます。それならば、お母さんたちがちょっとでも楽になることで、子供も幸せになれるので、そういう学びの場や息抜きの場が必要なのではと思ったのです。それは、仮説でしたが、カナダ・トロントの事例があって、その本を見て、現場で感じたこととすり合わせて、asobi基地をつくりました。
 
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高馬 やはり、保育士という資格は必要だったのでしょうか。

小笠原 保育士というと、向こうの方から相談を持ちかけてきます。保育士ということで安心するみたいです。また、なかなか、子供が通っている保育園では、聞けないこともあります。第三者的な保育士がいると安心するようです。

行き詰っても、「私だけなのかもしれない」といったような不安で、公的な相談所にも行きづらい状況です。電話もできない中で、「ちょっと聞いてもいいですか」という悩みがお母さん方には、かなりあります。

女性はおしゃべりをすれば、かなり気がすむこともあるので、そういうおしゃべりをすることで気分転換ができて、もう一度、子供と向き合う場にもしたかったのです。

やはり、asobi基地の場合は、同じ空間に大人と子供がいるということで、心理的な安心感が生まれます。大人は大人で楽しめる場で、子供は子供で楽しめる場であって、家に帰った時に「asobi基地は楽しかったね」という会話が生まれればいいと思っています。

高馬 昔、駅のプラットフォームで、外国人の母親が子供の前でしゃがみこんで、色々と話しかけていたのを見たことがあります。その時に、最後に「理解できましたか?」と、必ず確認していました。それは、かなりのカルチャー・ショックでした。

つまり、一方的に叱りつけるのではなく、子供と対話しようという基本姿勢に驚きました。

小笠原 その通りだと思います。知っていればやれるのかもしれませんが、子育てのロールモデルが自分が親にされたことしか知らないわけです。日本の文化は「黙っていても、わかるだろう」文化ですが、目に見える形で愛されなければ、愛することもできないと思っています。

それが、「あなたのままで、そこにいていい」という自己肯定感につながると思うのです。そのベースがなければ、他人とコミュニケーションは怖くてとれないだろうし、自己実現もできないのではないでしょうか。

今、社会が抱えている課題は、一番ベースにあるべき安心感であるとか、自分は自分のままでいいということが、とても認められにくい環境にあると思っています。大人も若者も生きづらくなっているからこそ、いじめや不登校も生まれてきているのだと思っています。
 
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高馬 いまや、いじめの問題は日常的にニュースに流れるようになりました。また、子育てを放棄してしまう母親も後を絶ちません。「子は親の鏡」といいますが、親世代のメンタルな荒廃が、子供にかなり影響していると思うのですが。

小笠原 いじめの問題でも、いじめっ子を一方的に悪いと決めつけて済ましていますが、その背景を考えるべきではないでしょうか。どうしたら、自分に自信を持って生きていけるかという問題です。

人間が本来、失ってはいけないもの、たとえば、人と会話をすること、人を信じること、愛することを見失っています。でも、そこがなければ、社会は成り立ちません。

子供たちは、とてもシンプルに生きています。逆に親たちがそういうことに向きあって、気づかなければ、子供も変われません。どういう家族にしたいのかということや、ちゃんと対話をすることがすごく大事だと思います。だから、あえて「子供と大人が対等の場」ということを掲げました。

しかし、今の女性は、働いている経験をしている人が大半です。仕事は、短期的な結果を求められます。しかし、子育ては、すぐに結果が出るものではありません。

そこを、仕事の時間軸のように、結果を求めても上手くいくはずもありません。そこで、「なぜ?」ということになりますが、子供は、とても予想外のことばかりしますし、大人のように予定調和的な行動はしません。そこを新鮮に驚くことで、子育てはガラッと変わると思います。

高馬 しかし多くの女性は現実として365日、3食つくって、べったりと子供と一緒にいることが多いので、なかなかそういう目で子供を見ることができないのではないでしょうか。

小笠原 コツがあると思うのです。多くの子供たちを見ていると、ある子は、絵を見せた方が理解が早いし、別な子は、何か持ってきた方が理解が早い。つまり、ひとりひとりの受け止め方が違うので、アプローチも変えなくてはいけません。

そこで、今は、Face to faceの育児相談を始めようと思っています。実際に子供を見てみなければ、変なこと言ってしまって、逆に苦しめることにもなりかねません。

保育士は、いわば子育てのプロなので、子供を見れば、どういうタイプの子供かということがわかります。そこへ、親が相談に来れば、経験知としてアドバイスができるので、個別に具体的なことが言えたりもします。

高馬 今は、20-30歳代の女性の心の悲鳴のようなものを感じることがありますが、いかがですか。

小笠原 それはとても感じます。asobi基地に来ることで心に余裕ができたという声は、よく聞きます。また、一人で抱え込んでいないで、誰か一人でも相談できる人がいれば、ずいぶん違うとも思います。そうすれば、精神的に追い詰められる女性が減るのではないでしょうか。

自分の失敗を繰り返してもらいたくないということを子供に押し付けるのではなく、本音で子供とやりとりしなければならないし、簡単な言葉で伝えなければいけません。

特に0歳から1歳のころは言葉も通じないので、表情などで心を読み取ることも必要で、高いコミュニケーション能力を必要とします。さらに、余裕がない社会なので、そこで何ができるかと考えた時に、asobi基地が「親子の理想の姿」としてあればいいなと思います。

今は、ママ・キャストという人たちがいて、次の世代のママたちに、ベビーカーやだっこ紐は、こうしたらいいと言ったアドバイスをして、経験から生まれた知識の伝承のようなことしています。

あるいは、子育てをしてみたら、全く予想とは違っていたけれど、こういうふうに考えれば、ずいぶん楽になったということを、先輩ママたちがブログで書いてくれています。子供は環境しだいです。子供は素直なので、環境次第でどうにでもなると思っています。もちろん、子供なりの個性はあると思いますが。
 
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高馬 欧米では、「ワーク・ライフ・バランス」が定着していますね。夏時間ともなれば、夕方4時には仕事をやめて、5時にはご主人が家にいるのが当たり前だそうです。そういう仕事のスタイルになれば、もっと子育てもしやすくなるのではないでしょうか。

小笠原 アメリカでも、朝7時ごろから働いて、夕方4時か5時には帰路に向かいます。その時間帯に渋滞が起こるので、だいたい、6時頃には、ご主人も家にいますね。

働き方やライフスタイルは、子育てと密接な関係にあると思います。だから、子育てに入る前に、色々なファミリーがいるし、様々なライフスタイルもあるということを、実際に見て回ることは、絶対に必要だと思います。

子供はとてもシンプルに生きているので、その部分で子供と向き合えば、学びを多いと思います。子供の目線で、子供を考えることも大事だと思います。言語レベルが低い時点で、子供は大人に太刀打ちできないので、保育士が、子供の代弁者として機能しなくてはいけないと思っています。そのために、子供の人権をテーマにシンポジウムを開催したりもしています。
 
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高馬 今後の展開を教えてください。

小笠原 子育て支援を通じて、色々な働き方もあるという提案につながっていくのではないかと思っています。私は自分たちにしかできない家族の形があると思います。教育も大事かもしれませんが、家族とは何かということ、子供を見守るとはどういうことかということを、考えていきたい。

みんなが思っていたこと、子供たちにいいと思えることは、どんどん告知していきたいし、大人も大人らしく生きてもらいたいと思います。色々な家族のロールモデルを見せることも、ひとつのミッションだと思っています。

クルマのハンドルと同じで、やはり、遊びがないと、うまく人生も運転ができないと思っているので、あえてasobi基地にしたということもありますね。
 

(インタビューここまで)

 
今の時代のキーワードのひとつに「シェア」(共有)があります。取材を通して「子育てをシェアする」という言葉が浮かびました。みんなで子育てについて考え、学び、色々な実際の姿を、お互いにシェアすることで、実際的なよりよい子育て支援ができる…そんな大きな可能性を感じました。