ISSUE 環境

2 years ago - 2014.08.07

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貝の健康を見守る「貝リンガル」から亀の気持ちを探る「タートル・トラック」まで。声なき声を聴き、海の生きものを救うプロジェクトを紹介!

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「動物の気持ちがわかったらいいのに」と思ったことはありませんか? 犬や猫なら、表情や鳴き声、仕草からなんとなく気持ちがわかるかもしれませんね。

でも、カイやカメのような寡黙な生きものの気持ちは、どうやって推し量ったらよいのでしょうか。彼らと真剣に向き合った結果、その心の声を聞く手段を編み出した人たちがいます。

アコヤガイの声に耳を傾ける

東京・銀座に本店ビルを構える「ミキモト」は、世界で初めて真珠養殖を確立した会社です。真珠は、アコヤガイやシロチョウガイなどの貝がつくり出すもの。めったに見つからない大変な貴重品でしたが、創業者の御木本幸吉氏が度重なる失敗にもめげずに挑戦し、1893年に人の手で真珠をつくり出すことに成功しました。

天然真珠は偶然のきっかけで貝の体内に形成されますが、養殖真珠は人為的にそのきっかけをつくります。それが、核入れ作業です。

でも、核入れは人の作業でも、真珠を作るのは貝の仕事。あの、えもいわれぬ柔らかい光沢は、結局、自然にしかつくり出せません。だから、真珠の美しさは、母貝の健康、つまり貝が育つ海の環境次第なのです。
 
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アコヤガイと真珠(ミキモト提供)

御木本幸吉氏が苦労した原因の一つは、せっかく育てたアコヤガイが、ふいに襲ってくる台風や赤潮のせいで大量に死んでしまうことでした。そして、その心配は養殖真珠の量産に成功した後も続きました。

赤ちゃん貝の育成から真珠完成までは通算4年もかかりますが、プランクトンの大量発生(赤潮)や感染症の流行などは、大切に育てたアコヤガイを一瞬で駄目にします。ミキモト真珠研究所所長の永井清仁(ながい・きよひと)さんたちの研究チームは、この真珠養殖の大敵にユニークな方法で立ち向かいました。

そして、2004年に九州大学や東京測器研究所と共同開発したのが、貝の声に耳を傾ける「貝リンガル」です。犬の気持ちを知りたい飼い主向けのおもちゃ「バウリンガル(Bow-Lingual)」のように、貝の気持ちを代弁してくれるツールです。
 
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東京大学臨海実験所のミキモト真珠研究所分室でアコヤガイについて解説する永井さん

貝は鳴かないので録音して翻訳するわけにはいきません。永井さんたちが声の代わりに注目したのが、殻の動きです。二枚貝のアコヤガイは、弱ったときや苦しいとき、パクパクと普段とは違う速さやリズムで殻を開け閉めします。

例えば、赤潮に見舞われると、貝は嫌なプランクトンを体の中から排除しようと何度も貝殻を開閉します。また、貧酸素環境になれば、私たちが苦しいときにハアハアと肩で息をするのと一緒で、より多くの海水を取り込んでより多くの酸素を得ようと懸命に殻を動かします。

貝リンガルは、殻にあらかじめ取り付けておいたセンサーで、このパクパクを感知して解析するわけです。

赤潮の襲来や酸欠、硫化水素の発生など危機の種類によって殻の動き方は変わります。永井さんたちの研究チームは、それを分析し約10種類のパターンを見つけ、アコヤガイのいくつかの“言葉”を分かるようになりました。

貝リンガルはセンサーやパソコンからなる海洋環境観測システムで、真珠研究所のスタッフの携帯電話と連動しています。24時間監視を続け、貝が落ち着いていて普段と変わりない場合も定期的に様子をメールで知らせます。そして、異常が発生した時には、困った顔マークとその原因をメールで速報します。
 
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左から定時メール、赤潮接近時の「クルシイヨー」メール、赤潮に囲まれてしまった時の「タスケテー」メール

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養殖場に設置された貝リンガルの模型(ミキモト主催のイベント会場で撮影)

アコヤガイのいかだは海に浮かべてあり、簡単に見に行けるものではありません。かといって、深刻なダメージを与える赤潮に気付かず放置すれば手遅れになります。

貝リンガルで赤潮の接近が分かれば、すぐに船で駆けつけて、養殖貝を赤潮の影響のない深さに設置し直すことができます。陸上にいながら海中の貝の様子が分かるので、被害を軽減できるようになりました。

永井さんたちの開発した貝リンガルの技術はアコヤガイ以外の二枚貝にも応用できるため、その活用先は国内外に広がっています。

アコヤガイの声を聞こうと開発したツールによって、アサリやカキ、ホタテ、タイラギ、イシガイなど各地の無口な貝たちが、少しずつ“声”を発しつつあるのです。

カメの気持ちを読み取る

一方、NPO法人「表浜(おもてはま)ネットワーク」代表理事の田中雄二さんは、ウミガメの足跡(タートル・トラック)を調べています。産卵のために砂浜に上陸するウミガメの足跡を見つめ、彼らの発するメッセージを読み解く試みです。

表浜とは、遠州灘の西半分、愛知県の南端に約60キロメートル続く海岸の通称。愛知県内にはカメが登場する浦島太郎伝説が残っています。表浜にも、毎年5~8月にアカウミガメがやってきます。
 
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ウミガメは砂浜がないと子孫を残せません。ウミガメの全種類がIUCN(国際自然保護連合)指定の絶滅危惧種になってしまった今、世界有数のウミガメ産卵地である日本の太平洋岸の砂浜を守ることは、一層重要です。

ところが、ここ数十年の埋め立てやゴミの投棄で日本の海岸の多くは本来の姿を失いました。しかも、砂の供給源である河川環境も改変され、全国的に砂浜自体が減少中です。表浜でも離岸堤などの人工構造物が増え、その影響で産卵に適した砂浜が減ってしまいました。

ずっと昔から代々、日本の浜辺に通って命をつないできたウミガメたちは今、何を思うのでしょうか。声を発さないので、その心は行動から読み取るしかありません。

田中さんたちは、産卵に来たアカウミガメの足跡(タートル・トラック)を2012年から記録し始めました。ヒトがGPS(全地球測位システム)を手に持って、カメの足跡をトレースするのです。それを科学的に分析したところ、ウミガメの苦悩が明確に伝わってきました。

体の構造上、前進しかできないウミガメにとって、不意に現れるコンクリートの塊は「わな」と同じです。バックができないので、はまりこむと脱出不可能で、そのまま死んでしまう個体も少なくありません。

足跡を追うと、障害物に出合い、ぐるぐる回って混乱している様子などが見えてきます。タートル・トラックは個体ごとの思考や経験、能力の結果であり、ウミガメからのメッセージなんです。

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タートル・トラックの一例。手前から上陸して波消しブロックに当たり折り返し行動を8回繰り返している。結局、波打ち際で産卵し、卵はすべて水没してしまった(NPO法人表浜ネットワーク提供)

産卵期のウミガメはあまり食べないまま何回も産卵するため、無駄に体力を消耗することは命取り。右往左往するタートル・トラックからは、「産みたい場所まで行けないよ、疲れたよ」そんな悲しい声が聞こえてきそうです。

田中さんは蓄積したタートル・トラックのデータを産卵が成功した場合と失敗した場合とに分けて比較分析しました。そうすると、失敗例のほとんどが障害物でUターンして産卵を諦め、海に帰ってしまっていたことが分かりました。
 
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GPSを用いたタートル・トラック・トレース法で、上陸から産卵、帰海までの一連の過程を可視化する(NPO法人表浜ネットワーク提供)

試しに1キロメートルだけ人工構造物を取り去ったところ、そこにウミガメの産卵が集中しました。撤去の効果は数年で表れました。産卵成功率が明らかに上がったんです。

砂浜に残されたメッセージを正しく読解できれば、ウミガメにとって好ましい海岸を回復させることも可能です。もちろん産卵は音や光にも邪魔されますし、人工構造物を取り除くだけで解決とはいきません。

海洋には、クラゲと間違えてウミガメが誤飲するビニールゴミが漂い、魚と一緒にウミガメを混獲してしまう漁網が張られ、さらに彼らを追い詰めています。それでも、繁殖地の環境復元は、ウミガメを絶滅から救うための大きな一歩になることでしょう。
 
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産卵後約60日でふ化した子亀たちが一斉に海を目指す

アコヤガイやウミガメに限らず、ヒトに管理され、あるいはヒトから迷惑を被り、それでも物も言わずに懸命に生きている命がたくさんいます。パソコンやセンサー類やカメラなど便利なツールを手にした私たちには、積極的に彼らの声に耳を傾ける責任があるのかもしれません。

writer ライターリスト

瀬戸内千代

瀬戸内千代

greenz シニアライター 東京生まれ。両親の故郷で瀬戸内海に親しみ海洋動物生態学者を志すも理系文系の橋渡しに興味が移り出版業界へ。2007年からフリーランスの環境ライターとして書籍・雑誌、ウェブに執筆している。プロフィール画像は伊豆下田でスケッチしたムラサキクルマナマコ。

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