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“歴史意匠グッズ”がブレイク中!4人の子どものママ、金田あおいさんに聞く「奈良で見つけた商品企画のポテンシャル」 [ママごと・しごと・じぶんごと]

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欲しいと思えるグッズが見つからないとき、いっそ自分でつくりたいと思ったことはありませんか?近頃、一部でブーム到来か?と噂される”歴史意匠グッズ”は、奈良の金田あおいさんの発想から生まれたプチヒット商品です。

鹿児島の屋久島生まれ、考古学を学ぶために奈良女子大の大学院に入学した金田さんは37歳。卒業後に結婚し、そのまま奈良で暮らしています。「子どもを育てることを思うと自宅でできる仕事がしたい」と考え、長男が生まれる前に専門学校に通いデザイナーを目指したのがそもそもの始まりでした。

現在は4人の子ども(0歳、6歳、8歳、10歳)を育てながら歴史意匠グッズのアイデアを生み出す金田さんに、世界遺産「興福寺」の隣にある猿沢池のほとりでうかがいました。
 
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金田あおいさん。奈良の猿沢池のほとりにて

したためた「宝物」を、正倉院に収めたい!

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毎年、モチーフがかわる正倉院の一筆箋

奈良の風物詩のひとつといえば、毎年開催される「正倉院」展があります。天皇に献上された数々の宝物から選ばれる今年の目玉展示は「なんぞや?」と注目を集めるほど。

そんな正倉院ファンが密かに待ち望んでいるのが金田さんがつくった「一筆箋」です。毎年、「宝物」をモチーフにデザインした一筆箋は「正倉院」に見立てた封筒に収めることができます。

自分が使いたい便せんがなくて、「ないならつくってみよう」と思ったんです。印刷物ならコストも高くないですしね。それで正倉院の管理課に問い合わせてみたら、デザインに使ってもいいですよ、と。著作権はないみたいでOKがでました。

図面に忠実な、学べる薬師寺公式グッズ

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薬師寺の一筆箋は封をする場所に歴史意匠を学ぶ工夫が!

次に紹介するのは薬師寺の公式グッズにもなった東塔バージョンです。こちらは、封をするシールが“水煙(すいえん)”になっていて(水煙とは、塔の九輪の上にある火炎状の装飾具)塔のてっぺんにある“水煙”の部分を貼ることで封ができます。他にも拝観された観光客の方が、チケットを折らずに保管できるチケットケースもデザインしました。なんとも、マニアック!

研究で判っている事実を正確にデザインに落とし込んで伝えたいんです。「塔ってこんな感じだよね〜」で済ませるのは考古学をやっていた者としては許せない(笑)

九輪であることに仏教的な意味があるのにいいかげんに扱えませんよね。だから薬師寺さんには東塔の図面を出していただいて忠実にデザインしました。

“水煙”で封をすることで、それがまたひとつの勉強にもなります。“水煙”てここにあるもののことなんだなと覚えてくれたら嬉しいですね。

考古学者が「萌える」、クリアファイル

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研究者うけがすごくいい(らしい)クリアファイル

続いてはノベルティで制作したクリアファイルです。一般の人にはぴんとこないですが、研究者には受けるデザインになっているとのこと。実は考古学に使う道具などが描かれていて、金田さんが言うには、「“すぐに測りたがる人たち”だそうで、方眼紙模様にも“萌える”」のだそうです。はい、全くわかりません!

ブーム到来か?ぞくぞく企画を発掘する「歴史意匠グッズ」

考えてみてれば古墳は、造られた当時は大自然のなかに現れた人工物でした。今でいうところのコンクリート打ちっ放しのようなもの。それが、時が流れて森の中の自然の一部のようになっています。でももともとは違う。そういった人の思いこみを、「面白く崩すことができたらいい」と金田さんは言います。
 
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古墳のかたちをした多目的容器「こぷん」も人気グッズ/ 写真提供:美濃加茂市民ミュージアム

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「こぷん」で型をつくったプリンやアイスを、「発掘シャベル」を模したスプーンでいただきます。/ 企画・写真提供: 美濃加茂市民ミュージアム

子どもを保育園にあずけるのは、悪いことなの?

今では仕事と子育てのバランスが取れている金田さんですが、長男が生まれた頃は、「働くことなんてできない」と思っていたそうです。3歳になるまでは「母親は子どもにかかわっているのが一番だ」と信じ切っていたと振り返ります。

それがよい親である、いいお母さんにならなくちゃいけないというロックがかかっていたように思います。もちろん初めての子育てということもあったから、今では慣れてきたというのも事実ですが、全部自分で背負いこんでいたんでしょうね。保育園に入れるのはかわいそうだよねって。

そんな金田さんの気持ちを楽にしてくれたのは旦那さんの一言でした。

「保育園に預けているお母さんたちは悪い事をしていると思う?」と聞かれたんです。はっとしました。主人は「私も働いたほうがいい」と言ってくれていましたが、私は母親として保育園に預ける大義名分が欲しかったんだと気づきました。

うまく説明できないのですが、子どもを産む前は思っていなかったのに、いざ育てるとなると、預けるにしても何か理由付けをしないといけないような気持ちがわいてきました。

子どもから離れることに、すごく葛藤があったという金田さん。母親になっても自分の好きなことを続けていいんだと思えるようになるまでは、時間がかかりました。そんな中、同じように子どもを育てながら起業し仕事をしているというママたちと出会ったことが、思い込みをときほぐすきっかけになったそうです。

母親になったことでかえって自由になれました。他のママたちと話ができるようになると「こうしなければならない」的なものって家庭によってそれぞれで、意外と自由なものだなあと。うちの子どもより年上の子どもを持っているママたちは「今からこういう風になっていくから」という「展望」を教えてくれます。

私は親として親の演じ方に凝り固まっていたように思います。たとえば、子どもの前では失敗する自分を見せてはいけない、だとか。でもそんなことはないんですよね。

実際に長男とは仕事の失敗話もしているそうです。印刷物の文字校正を誤って、刷り直し費用が自腹になって赤字がでた話も「あほやろ〜(笑)」と言って聞かせたとか。
 
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木簡に文字を書いてみよう!というワークショップを開催し、参加者が書いた木簡を持って満面の笑みを浮かべる金田夫妻

開業届けを出さないと、保育園に入れない

金田さんが一番困ったのは、子どもを保育園に預けたくても預けられないという問題でした。実は個人事業として「時代意匠考案 藍寧舎(らんねいしゃ)」を開業したいきさつには入園手続きの問題がありました。

勤務実態の証明が必要で、一般企業に勤めている人であれば就業証明書をとることができますが、個人にはそういう証明書がありません。それに当時、金田さんは育児の片手間でやっと仕事をもらえるようになったばかり。まだ開業などは意識し始めたにすぎませんでした。
 
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「時代意匠考案 藍寧舎」を2009年に開業。ネット通販もあります

当時はボランティアのような仕事でデザインをすることも多かったので、そろそろ開業してきちんとお金を頂こうという気持ちはありました。ただ、その準備のために子どもを預けようとしたら働いていることを証明するものが必要だったんです。

これは、子どもがいて、さあこれから起業しよう!と考えている人にとっては困りますよね。働きたいから保育園を利用したいのに、そのために働かないといけない(笑)なんだか逆になります。

幸い金田さんの場合は短い「待機」期間で、預けることができたそうです。待機期間中は一時保育を利用しながら働いていました。自治体によっても基準や手続きは異なると思いますが、「仕事を自分でつくりたい」ママたちにとって同じ問題が起きているなら、この問題はこれから社会が取り組むべき社会課題の1つになりそうです。

興味を持てれば、文化財を残していける

金田さんが奈良の歴史文化をモチーフに商品を企画し続ける理由のひとつには、「これからの時代を生きる人が文化財に興味を持つきっかけになって欲しい」という思いがあります。

大和路を歩くと幾つもの文化財がありますが、反対に興味を持たなければ見過ごしてしまうものもたくさんあります。人は自分が興味を持つものによりよく反応する生き物だから仕方がありませんが、受け継がれてきた大切な価値観や技術まで失われてしまっては、どこか寂しいものがありませんか?

古墳も私のものづくりも似たところがあるなって思います。古墳は昔の人がまず1基目を造ってみたら、「いいね!」と言ってくれる人が現れて、その数が増えながら広まっていった(笑)

そうすると古墳について教える人が大和のあちこちに出てきて、次の世代にも受け継がれていったんだと思います。私のグッズの役目もそうあれば嬉しいですね。

古墳って前・中・後期とあるんです。あれこれ試行錯誤するのが「前期」、代表的な形が生まれ広まるのが「中期」、バリエーションと応用が「後期」だとしたら、そろそろ歴史意匠グッズも「後期」に突入してきたかなと思っています。

さらに広がる金田さんのクリエーションに注目です。
 
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時代考証にもとづいたイベント「天平BAR」には沢山の人が集まりました

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2012年に発売した風呂敷は、版を重ね製作。奈良に存在する古墳を44基、縮尺を揃えてあしらったもの

マニアな専門性を、エンターテイメントに。

金田さんの商いは、どれも思わずにやけてしまうほど面白い企画です。関西弁でなら「ほんまに、あほやな〜。そんなん、誰もやらへんよ〜」。とでも言いましょうか。もちろん褒め言葉としてです!

つまり、誰もやらないくらいにマニアな(金田さんの場合は考古学や歴史学)知識を、企画としてとがらせれば面白く、それが、ここでしか変えない商品や体験という付加価値につながっています。

SNSやウェブサイトでつながることのできる時代は、そのマニアで付加価値のある商品を、欲しい人に情報として届けることができます。趣味に終わるしがなかったものも顧客をつくることができ、口コミからさらに一般の人の関心をも取り込むことができるようになりました。

もしかしたら、みなさんの経験や知識のなかにも、アイデアの種が眠っているかも知れませんね。一度それを「掘りおこして」みてはいかがでしょうか?