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旅は最高のリハビリ!“旅をあきらめない”介護付添旅行サービス「しゃらく」から見える福祉の未来とは? [ハローライフなひとびと]

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ふと出かけたくなる。誰にでもあるその気持ちを我慢して、家にこもることを強いられる生活は大変苦しいものです。しかし、思うように体を動かせなくなり介護が必要になったことで、旅をあきらめないといけない人たちがいます。

でも、本当にあきらめることしかできないものでしょうか?「無理だ」と思うのは社会全体の思い込みであって、見えない形での差別ではないのか?

NPO法人「しゃらく」の活動は、そのことに気づかせてくれます。「しゃらく」は“旅をあきらめない”、“旅は最高のリハビリ”をコンセプトに介護付添旅行サービスを提供し、これまでのべ1200名以上のお客様の旅をコーディネートしてきました。

実は、現行の介護保険法では「旅行」や「お出かけ」に制度を利用できません。旅行代金が割高になるにもかかわらず、「しゃらく」には次々と旅の依頼があります。そこにはどんな理由があるのでしょうか。代表理事を務める小倉讓さんにうかがいました。
 
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しゃらく代表の小倉讓さん。しゃらくとは「物事に頓着せず、さっぱりとしてわだかまりのないこと」少しでも多くの「しゃらくなおじいちゃんやおばあちゃん」に出会うことができたら幸せですと小倉さんは語る

12年ぶりに故郷の徳之島へ。最後かもしれない同窓会に行きたい。

しゃらくを利用される方は要支援〜要介護2までの軽度の方、要介護3〜5といった重度の方、また酸素吸入、胃ろうや嚥下障害など移動や外出に様々な配慮が必要な方たちです。

その理由もまた様々で、近くのデパートへの買い物からご実家への帰省、お孫さんの結婚式への出席、お墓参り、観光など、ときには海外旅行にも対応されています。旅はひとつひとつがお客様の状況や希望に応じたオーダーメイドで、エスコートヘルパーや看護師が同行して安全と健康を守ります。
 
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オーダーメイドツアーから定期的に催行する日帰りツアーまで、旅もいろいろ

小倉さん たとえば、脳出血の発作から8年、それ以来リハビリを頑張っておられた方に、ある日同窓会の招待状が届きました。これが最後になるかもしれないから、何が何でも行きたい。

でも故郷の徳之島は自宅の神戸から遠く離れていて、車椅子の移動以外にも多くの介助が必要になる要介護4のお体でした。連絡を頂いた電話に向こうからは不安と希望の入り交じった声が聞こえてきます。その気持ちを察して、私ははっきりと「帰れます」とお伝えしました。

小倉さんたちは数ヶ月前から準備し、エレベーターや階段の状況、ホテルの部屋やお風呂の設備などを事前にリサーチしてお客様の不安を減らしていきました。

そして当日、介護タクシーで迎えに行き、飛行機の座席移動などのハードルを乗り越え、徳之島の空港に到着。お客様は空港に着くなり笑顔を見せ、懐かしい故郷のことを途切れることなく語ってくれたそうです。
 
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徳之島では同級生との再会を果たすことができました

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2ヶ月前から準備し、3泊4日の旅になりました。そうした事前準備が旅の安心をつくります

このような事例がいくつもあります。そして「しゃらく」を利用されるお客様は「これが最後の旅になるかなあ」とおっしゃりつつも、実に8割近い方がリピーターとして再び”おでかけ”されるというから驚きです。

小倉さん 本人は外に行きたくても「周りに迷惑がかかる」とか「そんなの無理だから」と言われつづけることで、あきらめるしかないと思い込まされてしまっているだけなんです。

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上海で起業して大失敗!18歳で借金返済の毎日。

小倉さんが「しゃらく」を設立するまでには紆余曲折がありました。もともと旅が好きでアジアをバックパッカーで旅しながら、中国の上海で人材派遣の会社を起業。それが18歳のときです。

小倉さん やんちゃでしたが、見事に失敗しました(笑)。あのときは苦しかった。体重は50キロ以下、毎日の生活費が1000円もなかった。人生のどん底ですよね。

でもなんか人間って立ち直るもんですよ。事業に失敗した後は雲南省で貿易のお手伝いをして日当3万円!それで借金を返して日本に戻りました。

そのとき雲南省で出会ったのが、「しゃらく」のメンバーのひとり須貝さんです。

須貝さん 僕も中国に留学していて、小倉とは何か気があったんですよね。当時の小倉は若さもあってやんちゃでしたから、会う人会う人に噛みつくような性格で。でも、不思議と僕にはそうならなかった。それで2人で旅もしたし面白かったですね。

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中国で出会って以来、須貝さん(左から3人目)とは二人三脚で歩んできました

小倉さんが須貝さんに一緒にやろうと電話をしたのは、それから7,8年後のことでした。須貝さんは商社に内定していたそうですが、家の事情により断わらざるを得なかったときに偶然連絡がありました。それも縁というものでしょうか。

選ぶことができない暮らしは、見えない差別ではないか?

話を戻します。22歳で日本に戻り、小倉さんはビジネスを学び直そうと大学に通います。ただ、中国でもまれてきた小倉さんが勉強するだけ満足できるはずがありません。留学生の多い大学に彼らの雇用先をつくろうと語学塾をつくったりもしながら、福祉のボランティアやビジネスについても学んでいきます。

小倉さん ずっと障がい福祉には関心がありました。僕自身大きな病気や手術で入退院を繰り返していて。それがきっかけで福祉のことを考えるようになったんです。

言い方は悪いですが、福祉の仕事はどこにいってもやっていることが変わらない。ズバ抜けたサービスをやっているところがない。制度の限界ってそこやなって思いました。

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当時、世間はソフトバンクや楽天などの台頭でベンチャーブームの最中。小倉さんもビジネスで儲けたキャッシュフローで福祉や支援をしようと考えていたそうです。しかし、だんだんと二次的なもので達成するよりも、直接のサービスとしてやった方が早いし、ビジネスとしても面白いと思うようになります。

小倉さん 障がい者版のユニクロをつくりたかったんです。大学生のボランティアで脳性麻痺のこうちゃんって人に会って、何がしたいかを聞くとバイクのハーレーに乗りたいと。誰もが乗れないと思うじゃないですか。でも僕が運転すれば「乗れるはずだ」と、サイドカーにベルトで体を固定して、落ちないように胴回りにも詰め物を入れて、一緒に走ったんですよ。

小倉さんにとって、この経験があきらめない旅の原点になったのです。

小倉さん でもね、こうちゃんは革ジャンを着られなかった。ハーレーといえば革ジャンでしょ。これって見えない差別じゃないの?着たい服じゃなくて着られる服から選ばないといけないのは差別だろう?と。

その経験があって障がい者のためのかっこいい服をつくりたくてアパレルに就職したんです。結局は、大きい組織ではうまくいかなくて、自分でNPOを起ちあげることになるのですが。

この「選択肢がない、見えない差別」をなくしていくことは、後のしゃらくのサービスにもつながるひとつの軸となっています。

おじいちゃんの里帰りに見た、旅の力。

小倉さんが「しゃらく」を起ちあげる直接のきっかけは、家族の里帰りでした。足が悪く車椅子を使わないと歩けなくなっていたおじいちゃんを連れての里帰り。そこで衝撃的な体験をしました。

懐かしい地元の神社に、みんなで詣でようと思いましたが階段しかなく、どうしようかと困っていました。ふとおじいちゃんを見ると、なんと、立ち上がり手すりをつかんで階段をのぼろうとしていたのです。

小倉さん 衝撃でした。旅に出たり、行きたい場所に行けば、人間は信じられない力が湧き出てくるものなんです。表情もいきいきとし、思い出がよみがえり饒舌になることだってあります。旅に出ることで、前を向いて生きるようになれる。だから最高のリハビリなんです。

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国内だけにとどまらず、希望に応えて海外旅行にも同行します。写真はスリランカでの1枚

福祉業界には、枠組みにとらわれないイノベーションが必要。

あくまで法制度がまかなえない部分の補填にこだわるしゃらくの事業方針は、他でもできることは他に任せ、究極のサービス業としてクオリティを高めていくことにあります。それが、地域社会から見落とされている障壁を取りのぞき、いつでも誰もが社会参加できる暮らしをつくることにつながると考えているのです。

小倉さん 福祉業界は制度に依存し過ぎてきたと思います。制度は制約が大きく、得られる金額も介護保険法などから入って来るお金が見えているので、経営努力をしなくなるんです。

雇用や若手の育成に関しても同じ。制度の枠組み内でしか発想しないから大学生とかが新卒で入ってきたときに「親」のルールを押しつけていく。そこのルールに従わないといけない。

それを全部とっぱらって好きなように3年やってみなよってなれば、いろんなことが変わっていくんじゃないか。イノベーションが起きるんじゃないか。

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しゃらくを支えるメンバーと小倉さん

最後に小倉さんが言ったこの言葉からは、小倉さんの強い気持ちが伝わってきました。

小倉さん しゃらくは旅のリーディングカンパニーでありたい!いつもセンセーショナルなサービスで、先のところを走っていたいですね。

「無理だ」と判断を下す理由はたくさんあります。でも本当に無理なのか?その問いかけは「旅にでる」ことだけではなく、今の福祉業界全体に問いかけられているような気がしました。たくさんのハードルを乗り越えて旅に出かけたお客様の笑顔が、福祉の持つ可能性を私たちに教えてくれています。
 
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