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キャンプの数だけ仲間ができる! 自然体験を通じて人の居場所をつくる会社「僕らの家」

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この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

みなさんはキャンプというと、何をイメージしますか?寝泊まりするための三角形のテントや、火の粉が舞いあがるキャンプファイヤー、寝転がって眺める星空観察など、思い浮かぶシーンは人それぞれかもしれません。

ふと思い返してみると、どのシーンにも一緒にすごす仲間の姿が思い浮かんだのではないでしょうか?自然の中で、心も体もリラックスして、仲間と衣食住をともにすることで、人とのつながりを強く実感できるのはキャンプの大きな醍醐味です。

キャンプでの「様々な人との出会い」と、自然の雄大な景色を目にしたときに感じる「心揺さぶられる体験」が、人の心を豊かにするのではないか?そんな想いから生まれた会社が、「僕らの家」です。

設立は2011年。18歳以上の大人を対象に、一年間を通して全6回同じ仲間とキャンプを共にする「通年キャンプ」、スカイツリーの標高と同じ高さの山に登る「岩殿山トレッキング」、山頂にも関わらず海岸の砂浜のような絶景に出会える「日向山キャンプ」など、季節に合わせて様々なテーマで自然体験を企画しています。

それらの野外体験を通し、肩書も年齢も越えて人と人がつながれる場所を提供するのが彼らのミッションです。
 
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僕らの家のキャンプの参加者は、ほとんどの人が初心者です

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夜はたき火を囲んでぽつりぽつりと語りあいます

キャンプができる場所は都内にも沢山ありますが、僕らの家で行うキャンプの多くは、自然が豊かな山梨で開催されています。それは、代表の中島さんの、「ー自然の中で自分が感じた景色や気持ちを分かち合いたい」という想いから、「実際に行ってみて自分の心が震えたかどうか」を基準に、フィールドを選んでいるからです。
 
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スカイツリーの標高(634M)と同じ高さの山、岩殿山のトレッキング

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山梨県の日向山の登山道でのワンシーン。頂上までは2時間弱かかります

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山梨県の日向山の頂上。山の頂上なのに砂浜が広がり、ビーチのような光景。感動して泣いてしまう人もいるそうです

僕らの家がユニークなのは、人と人をつなぐことに重きを置いている点です。どのプログラムの際にも必ず行うのが“アイスブレイク”といわれる手法。簡単なゲームやグループワークを通し初対面の人達も、みるみる打ち解けていきます。
 
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キャンプが始まり自己紹介が終わると必ず行うのが、アイスブレイク。遊びを通して心と体をほぐしていきます。最初は表情が硬かった参加者が、 1時間後には大笑いするまで関係が近づきます

キャンプが終了したころには、出会って2~3日目とは思えないくらい、参加者同士の仲が深くなっていきます。参加者に聞くと、「僕らの家に出会ってから、友達が増えて毎日が楽しくなった」という声がたくさん!

ここまで参加した人たちの多くが元気になる理由は、僕らの家がつくり出す“場”に秘密があるのでは?そこで、その秘密について代表の中島昭聡さんにインタビューしました。

「高校時代の恩師との出会いが今の自分をつくっている。」
僕らの家代表、中島昭聡さんインタビュー

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中島さんが僕らの家をつくった背景には、中学校の時の体験が大きく関係しているといいます。人間関係のもつれから人と接するのが恐くなり、よく保健室に逃げ込むように。

そのときは学校に自分の“居場所”を感じることができなかったんです。それはすごく孤独感がありました。家でも会社でも、居場所がないと、自分が自分で居られなくなる感覚があるんですよね。だからこそ、自分で居られる感覚になる場所があったらいいんだろうなと思うんです。

中島さんに転機が訪れたのは、高校の柔道部の先生との出会いでした。当時柔道部に入部した中島さんは、決して柔道の才能がある生徒ではなかったと振り返ります。しかし柔道部の先生は本気で関わり、本気で接してくれた。当時、居場所が見つからず孤独感を感じていた中島さんにとって、そんな先生の存在はとても大きかったそうです。

親以外の人で初めて、存在自体をまるっと認めてもらえた。その経験があるから、今があります。「自分が居てもいいんだ」という感覚を持つことは、心の安定につながると思うんです。

高校の恩師との出会いを経て大学に進学。大学でキャンプに出会い、一気にのめりこみます。そして野外体験を通して「様々な人との出会い」と「心揺さぶられる体験」をもっと多くの人に届けたいと思い、仕事にするのは難しいといわれている野外の業界で起業することを決心。

大学卒業後は起業支援を行っている会社で経営を学び、2年半後に独立。その後、千葉県勝浦市にある一軒の古民家を仲間と一緒に4カ月かけて修繕し、僕らの家の象徴となる古民家をつくりあげました。
 
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2011年11月~2012年3月まで行われた古民家修繕キャンプの第2回目の様子

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千葉県勝浦市の古民家で、2012年3月31日~4月1日に行われたOPEN記念キャンプ

僕らの家は、キャンプやトレッキングのような野外体験の他にも、企業向けの研修も行っています。全ての事業で一貫しているキーワードは「居場所づくり」。人生の大半を過ごす仕事の環境でも、コミュニケーションを深めるためのきっかけづくりをしています。
 
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企業研修では、様々な遊びやチームワークを必要とするゲームを通して、職場での関係を見つめ直すきっかけを提供しています。中島さんは、以前担当した企業から研修を機に職場の離職率が激減したとの報告をもらったことを嬉しそうに語っていました

場をつくるうえで大切にしていることは、孤独感を感じさせないようにすること。

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一年間通して全6回同じメンバーとキャンプを行う通年キャンプにて

僕らの家に参加すると、みんな不思議と元気になります。もともと全員が元気だったわけではないはずなのに、どうしてそうなるのでしょうか。中島さんは「大事なのは孤独感を感じさせないようにすること」だと言います。

繰り返しになりますが、「自分はここにいてもいいんだ」という感覚を全員に持ってもらえるように工夫しています。ひとりになりたい人がひとりになるのは全然OKだけど、ひとりになりたいわけじゃないのに、ひとりになってしまう人はつくりたくない。

僕らの家では、”グランドルール”という4つのルールを設けているそうです。

キャンプの始めに、「ニックネームで呼び合う」、「敬語は使わない」、「受け入れる」、「みんなで創る」という4つのルールを共有します。
 
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僕らの家の4つのグランドルール。「孤独感をつくらないようにするために、一番大切にしているのがグランドルール」と中島さんは語ります

年齢や肩書きを超えるというのが僕らの家のテーマで、みんなでフラットな関係をつくっていくために、このグランドルールがあります。ニックネームで呼んだ方が親近感が湧くし、敬語使わない方が、フラットな感じがする。

色んな人がいるけど、「この人無理だな」って思わずに、ちょっと話を聞いてみる。そうやって受け入れてみることから見えることもあるんじゃないかと思っています。

また、「みんなで創る」というルールは、スタッフと参加者の境界線を薄くしてくれるそうです。

テントやタープを一緒に張るところから、片づけるところまで、みんなでやろうという想いが、このルールにはあります。スタッフと参加者が「提供する」「提供される」ではなく、その垣根を越えて「みんなでこのキャンプをつくっていくぞ」という雰囲気の方が、関係性って縮まっていくと思うんです。

とはいえ、孤独にならないように関わることと、依存が生まれやすくなることには、とても絶妙なバランスがあるように感じます。「依存関係を生む可能性もありますよね?」と意地悪な質問をぶつけてみると、中島さんはこのように答えてくれました。

うん。僕も一時期悩んでいたときがあって、「なんか良い空気が流れないな。なんだろうこの違和感。依存って良くないんじゃないか?」って考えていたときもあった。でも最近は、考えが変わってきたんですよね。ちょっと依存していたとしても、それで元気になってだんだんと自立していけば、それでいいんじゃないかって。

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自然体験事業は今では年間約800人の方が僕らの家の企画に参加し、そこで沢山の人とのつながりと、自然の中で得た感動を糧にそれぞれの日常に戻っていくそうです。キャンプから戻って、都会で会う際、「スーツだと印象変わるね」と話しながらも、集まるとまたキャンプで出会ったときと同じ関係に戻ります

人は、ひとりでは生きていけません。一度は誰かにもたれる時期があって、徐々に自分の足で立ち上がれるようになります。「その人自身が元気になるなら、例え一時的に依存が生まれたとしてもいい」。その懐の大きさが、参加者のエネルギーになっているのだろうなと感じました。

僕らの家が提供しているものは、言葉を越えて共有しあえる感動と、年齢も肩書も越えて関われる人とのつながりです。自然の中の穏やかで力強いリズムに身をゆだねると、次第に素直な気持ちで人と関わることができるようになっていきます。

「そう言えば最近、心の底から笑ったのっていつだっけ?」
そう思った方は、月に数回行われている、僕らの家の体験会に一度足を運んでみては?普段の自分とはちょっと違った、新しくて、懐かしい自分に出会えるかもしれません。

(Text:齋藤伊慈)