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2 years ago - 2014.04.26

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太陽と水素でビル丸ごとオフグリッドに!オーストラリアに誕生した”R水素大学”を見学してきました [イベントレポート]


グリフィス大学のサー・サミュエル・グリフィス・センター

思い切って施設を1棟丸ごと電線から切り離した、いわゆる”オフグリッド”の校舎が、オーストラリアのある大学で実現しました。6階建ての教育棟で使う電力のすべてを、太陽光発電とバッテリーと水素エネルギーだけでまかなっているのです。

今回は、この完全オフグリッドビルを見学してきた「NPO法人R水素ネットワーク」の有泉利菜さんの報告会の様子を、かいつまんでご紹介します。

有泉利菜さん

有泉利菜 さん
国際基督教大学在学中にR水素を知り、卒業後、NPO法人R水素ネットワークの国際部員として活動を始める。2013年にイギリスの大学院(気候変動専攻)を卒業。日本生まれのアメリカ育ち。http://greenz.jp/author/rina/

ついに誕生! 完全オフグリッドビル


オーストラリアの明るい日差しがさんさんと降り注ぐ

世界に先駆けてオフグリッドを実現したビルは、グリフィス大学のサー・サミュエル・グリフィス・センターです。大きなうろこのようなガラスに覆われた斬新な外観です。

ガラス張りの廊下は明るく、ガラスとガラスの間から風も入ってきて、本当に外にいるような感じです。地下1フロアを含め6階建て、各フロア1000平方メートルもあって広いけれど、建物全体のベースロード(常時必要な電力)は約60キロワット、エレベーターを使っても90キロワットと、ものすごく低い。

人感センサー付きLED照明とか省エネ機器を採用しているからですが、それ以上に、この建物には理系の実験室が全く入っていないんですね。

機器類を24時間動かす理系の棟はハードルが高いので、まずは消費電力の小さい棟を完全オフグリッド化したということ。それにしても、大勢の学生が毎日利用する施設が完全オフグリッドというのは画期的です。

その秘密は、立地にもありそうです。ビルが建つのは、オーストラリア第3の都市ブリスベン。毎日4~6時間の日差しと、短い冬を除き昼間はTシャツで過ごせるような暖かさに恵まれています。

屋根にはびっちり1194枚、330キロワット分のソーラーパネルが敷き詰められています。窓の日よけにも84キロワット分、それぞれ春夏と秋冬の日射角度に合わせて設置されていて、ほぼ毎日、使う量よりも25%も多めに発電できています。


発電量は季節によって1日1100~1900キロワットアワー(年平均1640キロワットアワー)、一方、使用量は1日平均1200キロワットアワーなので、ほぼ毎日、電気が余る。

太陽光発電の変動の影響をなくすため、すぐに使う電気も、いったんはバッテリーにためます。夜間はバッテリーに残っている電力で冷却機を動かして水を冷やし、建物の脇に建つ巨大なタンクにためて翌日の冷房に使います。「それって非効率では?」と質問したら、「通常のエアコンは1日で発電量の24%を消費してしまうから、このほうが良い」という答えでした。

熱湯を地域や建物全体にめぐらせて暖房するセントラルヒーティングの冷房版として、冷水を作って循環させて、ブリスベンの長い夏をしのぐというわけ。貴重な冷温を節約するため、教室には席ごとに風量を調節できるパネルが付いています。

そのほか、巨大な屋根で雨水を集めてトイレ水とスプリンクラー(庭木の水やり)に活用するなど、ビル全体に工夫がこらされています。オーストラリア政府は、この建物を「持続可能なビル」と認め、州政府などと建設費の約半分を助成しました。

そして、本題はここから!

このビルを特徴づけるのは、なんといっても、大規模な水素システムです。今のところ、あくまで「第2の」登場人物ではありますが、その存在感は、表舞台で太陽光発電を支えているバッテリー(蓄電池)以上です。

私たちが身近な充電池で経験しているように、バッテリーは時間とともに残量が目減りする上に、繰り返しの使用で劣化します。太陽光発電とバッテリーだけに頼るオフグリッドビルは、太陽が出ないままバッテリーが空になればアウト。そこで水素の出番なのです。水素を使えば、大量のエネルギーを長期間保管できるので、補欠選手というよりは、イザというとき最も頼りになる切り札として、バッテリーの力不足を補っています。

水素があれば、雨が続いても安心!

電気を水素でためる概念は、まだ一般的ではありませんが、その原理は学校で習った「水の電気分解」と、その逆の反応(燃料電池)です。同施設では装置を長持ちさせるため、水道水を純水器できれいにしてから使っています。純水を電気分解装置で水素と酸素に分け、1日に最大3.6キログラムの水素を取り出します。

水素の貯蔵技術は何通りかありますが、ここでは、水素吸蔵合金にためています。合金に吸わせた水素は漏れないし劣化しないので、何年経っても目減りしないといいます。再び電気を得たいときに、ためておいた水素を燃料電池に投入すれば自在に発電できるので、水素貯蔵は蓄電の代わりになるというわけです。なお、燃料電池で発電する際に発生する熱も、合金に水素を吸わせるのに利用するとのこと。

燃料電池が稼働していないときは、水素吸蔵のための熱を得るのに電力を消費してしまいますが、燃料電池車の水素ボンベのように高圧にして貯める方式ではないので、加圧するための電力は不要。全体として最適化しているそうです。

このビルには現在、900キロワットものバッテリーが用意されています。でも、全部にたっぷり蓄電してあっても、発電できない天候が続けば、4日で使い果たしてしまいます。でも水素は、フルで132キログラム貯蔵してあれば、1週間はもちます。


現在ある水素吸蔵合金。熱処理システムが別途必要だったり不都合があり、追加分は別メーカーに決まった。

この施設に今ある水素吸蔵合金は水素12キログラム分だけ。2014年6-7月に120キログラム分が追加され、計132キログラムの水素貯蔵が可能になります。

太陽光のような再生可能な(リニューアブル)エネルギーで水から取り出した水素を、リニューアブル水素、略してR水素といいます。水も空気も汚さないエネルギーですが、今はまだ、“もしも”のときの保険的な位置付けなんです。でも、グリフィス大学としても本命はR水素なので、少しずつバッテリーの量を減らし、いずれは水素貯蔵に完全移行したいそうです。

まだ市場がなく、ひとつひとつが高くつくR水素。この現状を説明するとき、R水素ネットワークは、よく、かさばる上に高額だったかつての携帯電話を例に出します。市場が本気で求めれば、技術の加速度的な進歩と低価格化が望めるというわけです。

R水素は“破壊的”!

完全オフグリッドの同施設の現状を整理すると、こうなります。

通常運転: 太陽光発電→バッテリーにためる→建物で使う

バッテリーが満タンになったとき: 行き場のない余った電力で水を電気分解しておく→取り出した水素を処理する(精製して純度を上げてから乾燥させる)→吸蔵合金にためる→長期保存

バッテリーの残量が20%まで減ったとき: 保存しておいた水素を燃料電池に投入→燃料電池で発電→バッテリーにためる→建物で使う※ここでも“いったんためる”のは、変動する需要側と直接つなぐと燃料電池が傷みやすいから
※毎日学生が通う施設なので、効率よりも何よりも安全重視。そのため、導入機器から配置から運用方法まで、かなり保守的な選択になっている。実は完全オフグリッドと言いながら、万が一のときのために一応、電線もつないである(でも使っていない)

このように、余剰電力を捨てずに、ずっと残しておけるのが水素貯蔵の強み。一方で、水素吸蔵合金や貯蔵技術の多くは未熟で、燃料電池も触媒にレアメタル(白金:プラチナ)を使うという課題を抱えてはいますが、需要が増えることで量産につながるはず。

送電線の延伸にやたらお金がかかるなど、オフグリッドに駆り立てられる独特の背景はあっても、R水素を後押しする政策は何一つないオーストラリアで、世界に前例のないR水素ビルが誕生しました。私立大学が2500万豪ドルを負担してチャレンジしただけの魅力が、そこにはあるのです。

“破壊的技術”という概念があります。音楽業界で言えばiPodのように、既存システムを一度壊して構築し直すようなテクノロジーを指します。R水素は、まさにそれにあたります。

R水素に長く関わる有泉さんは、「なんでこんないいものが広まっていないのか」という素朴な疑問からイギリスに渡り、大学院で「既存技術にない社会価値を持つ代替技術は、どのようなプロセスを経て社会に導入されるのか」を研究してきました。


イギリス留学中に研究していた「破壊的技術」を解説する有泉さん

日本と同じく島国で、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼っているイギリスは、燃料電池車と水素ステーションに関するロードマップを示し、2050年までにガソリン車から燃料電池車に完全移行する目標を掲げています。

イギリスのお手本は、先行するドイツです。両国の調査をしたマッキンゼー(国際的なコンサルティング会社)は、いろいろ比較して、最後の最後には、水素が二酸化炭素の削減に最も貢献する技術だと結論付けています。

イギリスは2008年にエネルギーと気候変動だけに特化した省ができて、すべてが動き出しました。EU→イギリス(国)→ロンドン(都市)と、上からポタポタとドリップコーヒーのように補助金が落ちてきていて、産官学からなる大きなネットワークができています。この動きには、日本からもトヨタや日産も参加しています。

日本でも2015年から自動車メーカー各社が燃料電池車の量産に踏み切る予定ですが、「日本では化石燃料から取り出す水素が主流なのが、イギリスとの違い」だと言います。

イギリスは水素製造方法までちゃんと考えていて、2015年から水の電気分解をやるとロードマップに最初から書いてあります。2030年には51%の水素を水の電気分解で作るという目標も示しています。

水も空気も汚さないR水素を手招きするような政策は、日本には、まだありません。でも燃料電池技術と水素社会の節目となる2015年は、もう目前です。近いうちに“破壊的技術”によるエネルギー革命を体験できるのか、すべては遠くにある蜃気楼で終わるのか、日本にとっては、今がその瀬戸際なのかもしれません。

オーストラリアで、イギリスで。世界ではどんどん動き出しているR水素社会。みなさんももっとR水素のことを知ってみませんか?

writer ライターリスト

瀬戸内千代

瀬戸内千代

greenz シニアライター 東京生まれ。両親の故郷で瀬戸内海に親しみ海洋動物生態学者を志すも理系文系の橋渡しに興味が移り出版業界へ。2007年からフリーランスの環境ライターとして書籍・雑誌、ウェブに執筆している。プロフィール画像は伊豆下田でスケッチしたムラサキクルマナマコ。

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R水素は、水の中にある水素をパートナーにすることで再生可能エネルギーのポテンシャルを高める、持続可能なエネルギーのかたちです。 NPO法人R水素ネットワークの公式ウェブサイトはこちら

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