ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

2 years ago - 2014.04.07

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“デザイン思考”って、ほんとのところ何ですか?「Re:public」田村大さんに聞く、日本発イノベーションの起こし方

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

最近よく聞く”デザイン思考”というキーワード。ビジネスなどでイノベーションを起こすのに必要な発想法という使われ方をしていますが、果たしてそれが本来の意味のデザイン思考なのでしょうか?

東京大学に「イノベーションの学校」と呼ばれる、東京大学i.schoolという教育プログラムがあります。バラバラにある知の構造を作り変えていくことで新しい価値を生み出す、イノベーション教育をするところです。

i.schoolの共同創設者でありシンク&ドゥ・タンク「Re:public(リ・パブリック)」代表の田村大さんに、「デザイン思考とは何か?」「イノベーションはどのようにして起こすのか?」を伺ってきました。

イノベーションというのは道の無い山を登ること

最初にデザイン思考という言葉を切り出すと、「実は僕自身はあまりデザイン思考という言葉は使わないんですよ」といきなりのカウンターパンチ。基本的には「イノベーション」「イノベーションプロセス」という言葉を使うのだそう。

元々コンピュータサイエンスの研究者だった田村さんは、2007年頃から「応用エスノグラフィー」という、人類学的なアプローチでビジネスのチャンスを見つけ出す領域の国際会議に出ていました。エスノグラフィーの中でも「エスノグラフィック・プラクシス」という、理論と実践を行き来しながらどちらにも成果を生み出していく学術領域で活動をしていたのです。

さらに、デザイン思考を一躍有名にした「IDEO」とも深い関わりがあったため、日本でデザイン思考やエスノグラフィーがブームになった時、田村さんは自然とその先頭にいたという訳です。

田村さんは、i.schoolの学生たちに「君たちは道がある山だったらいくらでも高い山に登れるけど、道がないとすぐにあきらめるよね」と叱咤します。道がない山に自分で見通しをつけ、自分で道を切り拓き、どんなに小さな山でもいいから自分で登れるようにする、それこそがイノベーション。1年間かけてそのトレーニングをするのがi.schoolなのです。
 
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i.schoolの様子

i.schoolの卒業生が東北で立ち上げた「i.club」

i.schoolが3年目を迎えようとした春、田村さんたちが合宿で山中湖にいた時にちょうど東日本大震災が起こりました。

富士山が噴火したかと思うほどの揺れと衝撃は、東京に戻ってからも強く心に残り、これから東北で人々が未来を切り拓き、変化を起こしていく過程で、i.schoolに何かできることがあるのではないかと考えました。しかし、こればかりは会議室で考えてもしょうがない、と知人の紹介で東北の気仙沼に行くことに。
 
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今の気仙沼がどのような状況にあるのかを丹念に調べていくうちに、若い人の地域離れが一番の課題だと気付きました。このままでは、10年後には人口の7割が70歳以上ということにもなりかねない。そこでi.school卒業生の小川悠さんを中心に「i.club」を立ち上げ、この2つの課題に答える方向性で進めることにしました。

・これから地域を離れるであろう若い人たちが、いつかは戻ってきたいと思うようなきっかけをどう作るのか?
・その人たちが地域を離れた後に戻ってきたくなるような魅力をどう作るか?

気仙沼で「なまり節ラー油」ができるまで

未来をつくる方法として、気仙沼と地域づくりのうまさに定評があるイタリアを直接つないで、ローカル・トゥ・ローカルで取り組むことにしました。

i.schoolでつながりがあったミラノ工科大学の紹介で南イタリアに赴き、そこでドライフードの食べられ方を見ているうちに、日本では「鮮魚が魚を一番美味しく食べる方法だ」という“鮮魚信仰”が根強く、それが自分たちの首を絞めているのではないかということに気付きます。

そこで「ドライフードを食卓の真ん中へ」というスローガンを掲げ、ドライフードで地域おこしをすることに。(この辺りの詳しい話はこちらの記事を参照してください)
 
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なまり節

気仙沼に戻り、i.clubの高校生たちを4つのチームに分け、気仙沼のドライフードのリデザインに取り組みました。その中で、あるチームが「なまり節」という素材を引っ張り出してきました。

なまり節というのは、15回ほど薫製を繰り返してできるかつお節の製造過程のうち、2〜3回目の薫製でできる中身がソフトな状態のかつお節です。地元ではサラダにしたり、キュウリと一緒にマヨネーズにつけて食べたりと、シンプルに食べられているものでした。それを、ある高校生の「ラー油にしてみたら?」というアイデアを試作してみたのがはじまりです。
 
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最初の試食会で地域の人になまり節ラー油をふるまったところ、「おお!」と驚きの声があがり、地元の水産加工会社からは商品化したいという申し出が。しかし、ここでアイデアだけを渡すのではなく、実際に売り出すまでを高校生がプロデュースするように、i.clubでプログラムを組みました。

高校生たちがコンセプトや商品名を考え、ラベルのデザインを考えて作り、クラウドファンディングで生産の資金を調達し、売り方も考えて実際に自分たちで売っていく、というプロセスをひとつの活動にしたのです。そして最終的に実現したのが「なまり節ラー油」です。
 
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なまり節ラー油

お披露目の場となった気仙沼漁港での朝市では、用意した300個がまたたく間に売り切れ、観光庁が主催する「世界にも通用する究極のお土産」にもノミネート。今や気仙沼を代表するお土産品になりました。

アイデアはイノベーションのほんの一部でしかない

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なまり節ラー油は、まさにデザイン思考やイノベーションのひとつの成功事例と言えます。しかし、プロジェクトの途中で、色々なアイデアが出てきた時に、どれか一つを選ぶ決め手となる大事なポイントは何なのでしょうか?

「自分がどれをやる気になるか」ということだと思います。この場合は、水産加工会社が商品化しましょうと言ってくれたので、すんなりと決まりましたが、いくつか出たアイデアの中からどれかを選ぶ時に大事なのは、「自分がこれを達成するんだ」という意志をどれだけ持てるかです。

アイデアはイノベーションのほんの一部でしかない、とよく言っています。なまり節ラー油もアイデアがすごいのではなく、なまり節を掘り起こしてきたことがすごいんです。

一人であれば自分で決断するだけで済みますが、複数人でやっているプロジェクトとなると、意志の統一や全員のモチベーションを同じように保つのが大変そうです。

そういう意味では「実現できる」ということは何においても大切です。

例えば、フカヒレのカップヌードルを作ろうというアイデアが出たとしても、原材料のコストや生産設備などを考えると、その時点でもう現実的ではなくなってくる。どういうリソースが必要で、どういう人たちとどういう関係を結べば自分たちのアイデアが実現できるのか、そういう実現性があるのかということです。

プロダクトの場合はそれを作ることにより、どれくらいのコストで販売できるのかというところまで考えていないと、やはりそれはアイデア止まりになります。

田村さんのこれまでの経験から見て、イノベーターというのはこの辺りの問題把握能力が非常に高いのだそうです。

コンサルでもシンクタンクでもなく「シンク&ドゥ・タンク」

田村さんは、前職の広告会社でコンサルティング業務に就いていましたが、外部アドバイザー的な立場で仕事をしていると、結局アイデアを提供するだけで、なかなか実現の過程に入りこめないのがフラストレーションでした。

アイデアはイノベーションの一部に過ぎないと分かっているのに、イノベーションを起こすところまで関われない。それがコンサルタントとしてイノベーションに関わる限界だと。そこで、田村さんは前職の仲間とともにRe:public(リ・パブリック)を立ち上げます。

リ・パブリックではコンサルティングはしません。共同研究や共同事業のような深いパートナーシップを組んでやっていく。やっているプロジェクトのすべてがイノベーションを生み出すものでなければならない。それが僕らのバリューです。

リ・パブリックは、「シンク&ドゥ・タンク」だと田村さんは言います。新しい取り組みには試行錯誤がつきものですが、近視眼的にならないようにするには、常に理論的に実践をとらえなければなりません。

リ・パブリックでは、理論と実践の間を絶え間なく行き来しながら、理論は実践に活かし、実践を理論の素材に変えていく。現在リ・パブリックが関わっている、福岡の「障がいがある子どもたちのバウンダリー(境界)をリデザインする」プロジェクトも、同じように進められています。
 
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福岡でのダイアログの様子

実はイノベーティブな日本人

日本企業はイノベーティブではないとか、イノベーションが起こせないとよく言われ、自信を失っているように見えます。しかし田村さんに言わせると、日本企業はイノベーションの強力なエンジンを持っているのだそう。

日本人とか日本企業ってどうしてあんなに働くのか、働き過ぎと非難もされるし、僕もあまり良いことだとは思わないけれど、ここまで仕事に対してオーナーシップを持っている社会というのは世界にも類がありません。

一見、生産性は高くないけれど、逆にそこが独創性の源になっている気がします。「合理的に考えればこういう解しかない」という結論で終わりそうなところを、「ちょっと待てよ、もう少し考えたらまったく違う結果にできるんじゃないか」と追求する文化を持っている側面もある。もっと自信持てよと思うんですよね。

他の国では決して出てこないようなプロダクトやアイデアが生まれるのが、日本の強みだと力説します。

海外の事業家や起業家と仕事をすると、日本はとても面白い国で興味はあるけれど、どう付き合っていけばいいか分からないと言われることがよくあるのだそう。リ・パブリックでは、そのような機会をうまく活かして、日本が持つイノベーション力を世界に発信する橋渡しができたらと考えています。
 
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デザイン思考というのは、それを使えば何でも解決できる魔法の杖のようなものではありません。イノベーションという道のない山を登るための知恵のようなものです。どのように道を切り拓き、どのように山を登るのかは、自分で考えるしかなく、山を登り切るためには、最後はこの山を登るのだという強い意志が重要になります。

何か新しいアイデアややってみたい事が浮かんだら、本当に実現できるのかという現実的な問題をクリアしながら、これを実現するという強い意志を持ち続けることがイノベーションのカギなのだ、ということを思い出してみてください。

イノベーション学習の現場を見学してみよう!
東京大学 i.school

writer ライターリスト

的野 裕子

的野裕子(Yuko MATONO)。福岡生まれ。大学入学をきっかけに東京に住み、数年前に福岡に戻る。サイトデザイン、コンテンツプランニング、サイトマネージメントなど、WEBサイトに関わる仕事を生業にしてきた。理に適っているデザインが好き。ユーモアのあるデザインも好き。そういう心あるデザインの良さをもっと人に伝えていきたくて、次第にWEBサイトで文章を書き、情報を配信することが中心となる。2006年にアシュタンガヨガを始めてからは、生活のあらゆる場面でのチョイスが、シンプルで無理と無駄のないものとなってきた。荷物は軽く、心も軽く、ヨガを通じて旅を続ける毎日。

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ミラツク

ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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