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気持ちいい音楽は、気持ちいい電気で!ソーラー音響を手掛ける”エネルギー×音”のスペシャリスト集団「RA-energydesign-」

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

みなさんは、「電気には“ノイズ”が含まれている」ということを知っていましたか?

遠い発電所で発電された電気は、送電線や変電所を経て家庭に届くまでに、さまざまな影響で、波形がゆがんでしまうのです。そんなノイズのない“最高の音”を求めて、ソーラー電源による音響システムにたどり着いた音響チームがいます。その名は「RA-energydesign-」。

彼らが手掛けるソーラー音響システムは、プロのミュージシャンやエンジニアなど、音にとことんこだわる人たちに幅広く支持され、RISING SUN ROCK FESTIVALや朝霧JAMなどの野外フェスなどのほか、神社での薪能などでも使われています。

今回は、「RA-energydesign-」のメンバーである「田口造形音響」デザイナーの田口和典さん、空間プランナーの藤田晃司さん、活動家の村上智章さんに、エネルギーと音の関係についてお話を伺いました。

クオリティにこだわった結果が、「ソーラー音響」だった

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どれくらいのスピーカーをつくったかという質問に「分からないね、もう50年になるからね」と笑う田口和典さん

「田口造形音響」は、個人用のスピーカーはもちろん、ライブハウスなどで使われるハイスペックなスピーカーを手掛けています。サントリーホールや劇団四季の劇場、国立西洋美術館、築地本願寺、さらには国会議事堂…と、挙げればきりがないほど、みなさんも知っている施設で使われているのです。

田口さん 例えば神社仏閣なんかも、実は音響にこだわっているんですよ。お説教は一番後ろに座った人までちゃんと届けたいから。でも、「スピーカーは柱と同じ色にして隠さなくちゃだめ」って。「じゃ、その柱を誰がつくったの?」と聞いたら、豊臣秀吉だとか(笑)だから、必然的に特注になるんです。

「音の天才」とも言われる田口さんがソーラー音響システムに取り組むようになったきっかけは、9年ほど前に明治神宮で開催された雅楽の演奏会。当時、電源に発電機(ジェネレーター)を使っていたところ、エンジンの音と石油の臭いで、荘厳な空間が台無しになってしまったのだそう。

田口さん 昼間のリハのときには大丈夫だったんだけど、夕方の本番になったら発電機から「ゴー」って音が聞こえるようになって。クオリティにこだわれば、結果は当然ソーラー電源だったという、単純な話なのね。

鎌倉で開催された野外ライブで、初めてソーラー音響システムを使って感触を得た田口さん。2012年には、武道館で行われたライブ「THE SOLOR BUDOKAN」でもソーラー電源によるライブを敢行し、新たな分野への挑戦に乗り出すなど、”音響”という高い電源環境のクオリティを要求される分野で、ソーラー電源の実用化と研究を続けています。

研ぎ澄まされた音を生む、ソーラー音響システム

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ライブで使われるソーラー電源システム。あずき色の箱1つに105Ahのバッテリーが入っている。それらを2直列、3並列の24Vで運用して、実効容量およそ3,500Whのバッテリーバンクを構成。上の箱にチャージコントローラーとインバーターが組み込まれている。供給可能電力最大値はAC100V/3.000Wだとか

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こちらは活動初期のソーラー電源システム。バッテリー、インバーター、電源の入出口を丁寧に工作してある

新木場にあるラボを訪問して、ソーラー電源に繋げた音と通常のコンセントに繋げた音を聴き比べてみると、違いは一目、いや一耳瞭然。

通常のコンセントから出てくる音は、のっぺりとした丸い音。ところがソーラー電源から出てくる音は、ひとつひとつの音がクリアで、音が波動として体を通り抜けていく感覚。低温が豊かで、高温の伸びもよく、中音は音が丸まらない。すぐそこに演奏者がいるような感覚に驚きます。

藤田さん 湧き水で淹れたコーヒーと水道水で入れたコーヒー、ってくらい音が違うでしょ。一度知っちゃうと、もう戻れないですよ。

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空間プランナーの藤田晃司さん。田口さんとの出会いは、田口さんのつくるスピーカーに惚れ込んで、10年ほど前に研究室に遊びに行ったことがきっかけ

ちなみに、ラボの屋根の上には、200Wのパネルが6枚載っていて、これでソーラー電源による音響システムの電力をまかなっているのだそう。

実は、日本の”商用電源”と言われる規格は「電圧は100V」とされ、世界でも最も低い電圧なのだとか。

田口さん それって明治時代に決まって以来、そのままなのね。ドイツからそういう規格の発電機を輸入しちゃったからという理由なんだけど。安全だけど音を鳴らすには、すごく効率が悪くて。ヨーロッパのスピーカーを日本に持ち込んでも、ぜんぜんいい音が鳴らないのね。

世界中を探しても、一般家庭のコンセントに100Vが送られているのは日本と北朝鮮の一部だけ。世界規格では、アメリカなどで120V、欧州・豪州などでは240Vが一般的です。

さらに周波数をみると、東日本では50Hz(ヘルツ)、西日本では60Hz。新潟、群馬、埼玉、山梨を境界として、静岡は分断されるような形で周波数が異なります。これは、管轄する電力会社の発電装置が、どの国から購入されたかという違いによるもの。東日本は東京電燈(現在の東京電力)がドイツから、西日本は大阪電燈(現在の関西電力)がアメリカからそれぞれ異なる発電装置を購入したことに由来しています。

藤田さん 東日本でつくった電気を西日本へは運べない。その逆もしかり。しかも、つくられた電気が、送電線を通るたびに直流から交流に変換されて、各家庭でまた直流に変換されて…と、変換の際にはエネルギーのロスがあるんですね。

食も地産地消と言われるように、エネルギーだって地産地消がいい。発電所でつくられた電気を家庭に運ぶということに、もうそろそろ疑問を持つべきですね。

田口さん うちのは独立電源。それこそ山奥だって機材担いで持っていきます。いま普及が進んでいるソーラー発電の多くは系統連携なんだよね。発電したら送電線に流すというのは、エネルギーのロスもあるし、本当の意味では地産地消とは言えないかな。

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「3人のなかで、僕は情熱部門の担当です」と笑う活動家の村上智章さん

村上さん “量”では商用電源にかなわない。でも、“質”なら独立電源がいい。音というアウトプットは、その“質”のよさが簡単に証明できるツールなんです。

一度聴けば、誰でも“質”を理解してくれるというソーラー電源によるサウンドシステムですが、バッテリーには課題があると田口さんは言います。

田口さん 今のところ、バッテリーには一番安定していて入手しやすい鉛蓄電池をつかっていますが、最先端の実用バッテリーはリチウムですかね。電気自動車でも使われていますが、値段が10倍くらいするので、まだ手が届かない。しかも、個人で廃棄処分をするのは難しい。

僕たちが納得して使えるような“蓄電”の技術や商品が揃うには、まだまだ時間が掛かりそうです。

震災後、それでも毎日のぼる「太陽」に救われた

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ソーラー電源によるサウンドシステムを様々なステージで展開する「RA-energydesign-」が結成されたきっかけは、東日本大震災後にありました。

村上さん 震災後、田口さんが、知り合いに定期的に朝日の写真を送っていたんですよ。

藤田さん 太陽は、必ずのぼる。大丈夫。みんな太陽で出来てるからね。がんばろうって。救われましたね。

震災後、反戦、平和を主軸に置いたフリーギャザリング「〜Spring Love〜 春風」の実行委員をしていた村上さんは、野外イベントで、田口さんと藤田さんに相談して独立電源をつかうことに。そして「自分たちがやるべきことは、ここにある」と3人とも思ったのだそう。

自然と週に1回、集まって話すようになり、自分たちの活動に名前をつけようと、太陽神ラー、だけでなく、なんとドラゴンクエストに登場する、真実を映し出すといわれる伝説の鏡「ラーの鏡」から、「RA-energydesign-」と名乗ることに。以来、世の中に流されず、自分たちは何をしていくべきか話し合いを重ねています。

田口さん エコストーブをつくりたいね。ストーブでかつ焼却炉。お湯もつくれて熱を家じゅうに回すようなね。地球人としてカッコいいことやりたいんだよね。

村上さん 興味は幅広く、宇宙からうんちまで。音だけではない世界に向かおうとしています。人間って、本能として開拓したいんですよね。でも、その開拓する方向性は今までとは違うよという「新たな方向への開拓」みたいな。

藤田さん 次のオリンピックは、このスピーカーと電源でやるべきだって話しているんです。本当は「どうして日本に決まったの?」という違和感を抱えていて。このままじゃ迎えられない。でも、震災後に日本は変わったよという、世界に示せるものが必要なんじゃないかと。

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「ソーラー発電によるレコーディング環境を提案したい」とも話す藤田さん。写真は、このソーラー電源でCDのマスタリング制作中

音響システムへの電力供給をスタートに、新たなエネルギーの捉え方を見つけようとするの3人は、「僕たちの使命は、エネルギーの“質”を掴んで、その“質”をアウトプットすること」だと語ります。自分たちの手で電気をつくることの面白さや質の高さを知って、音響システムへ電力供給をすることは、彼らにとっては“入り口”にすぎないのかもしれません。

エネルギーの未来を明るく照らすには、自分たちの手で、よりよい手段を見つけていくということ。その手段を、日々研究し、磨き、進化させていくということ。「RA-energydesign-」の活動は、エネルギーの捉え方を”問い直す”ことの提示なのです。

ソーラー電源との音の聴き比べをしてみたい方や、ホームオーディオをソーラーにしたいという方は、「RA-energydesign-」に相談してみてはいかがでしょう?ぜひ彼らが生み出す”音”を、自分の耳で、体で、感じてみてください。