ISSUE まちづくり

2 years ago - 2014.03.31

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ジャズという文化遺産を次世代へ。足かけ50年、大人たちの夢が育んだ「JAZZの街、岡崎」の物語

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特集「音楽の街づくりプロジェクト」は、音楽の力を通じてコミュニティの未来をつくるプロジェクトを紹介していく、ヤマハミュージックジャパンとの共同企画です。

まちの至るところに“JAZZ”の文字が並び、第一線で活躍するミュージシャンの音楽を、まちなかで気軽に聴くことができる。そんな日本のニューオリンズとも言えるような、ジャズの拠点を目指してきたまちがあります。

“音楽によるまちづくり”、ヤマハの「おとまち」プロジェクトを紹介する連載の第4回目。今回取り上げるのは、“ジャズのまち”愛知県岡崎市です。

JAZZのまち、岡崎

地下通路にも「JAZZの街岡崎」のポスターが
地下通路にも「JAZZの街岡崎」のポスターが

愛知県岡崎市は、名古屋から電車で30分ほど、豊橋と名古屋のちょうど真ん中辺りに位置します。ここは、今第一線で活躍する著名なジャズミュージシャン、渡辺貞夫さんや日野皓正さんなど数多くの音楽家が若い頃から何度も訪れたまち。毎年11月には、「岡崎ジャズストリート」というイベントが2日間にわたって開催され、街中がジャズに染まります。

それにしてもいったいなぜ、このまちでジャズなのでしょう?そこには、ジャズをこよなく愛し、半世紀以上にわたりジャズミュージシャンを応援し続けている内田修さんという人物と、その思いを受け継ぎ、岡崎を市民によるジャズの活動が盛んなまちにしていこうと働きかけた人々がいました。

その年月、足かけ50年。ここでご紹介できるのはごく一部ですが、多くの人の思いがつながり、“ジャズのまち”として結実した物語です。

一人のジャズ愛好家とミュージシャンたちとの関わり

内田修さんは、岡崎や名古屋にジャズ文化の土台をつくった第一人者です。今は84歳ですでに引退されていますが、岡崎市在住の外科医でした。若い頃から熱心で行動力あるジャズの愛好家で、国内外のレコードを1万枚以上集めるだけでなく、コンサートを核とした愛好会をつくり、ジャズを通して縦横無尽に人とのつながりをつくっていった人物です。

若いジャズミュージシャンの演奏する場を創出しようと、何百回とライブを企画し、今や誰もが知るトランペッターの日野皓正さんや、ジャズピアニストの山下洋輔さんなど当時まだ若かったミュージシャンを東京から招き、新しいジャズの発信の場を名古屋につくりました。
 
「Dr.JAZZ」として親しまれている内田修さん
「Dr.JAZZ」として親しまれている内田修さん

内田さんが普通のジャズファンと違うのは、ミュージシャンたちと直接深く付き合い、彼らを支え続けたことでしょう。生活の不安定なジャズメンを物心両面で支え、自宅を宿泊所として提供したほか、本業を活かして彼らの治療もしました。

かの渡辺貞夫さんも体調不良で内田さんの病院に入院したことがあり、彼を慕っていて、頼まれればライブに駆けつけたことも。薬物に侵された若いミュージシャンが更生する際には「僕の所に来るかい」と自宅に置いて面倒をみるなど、太っ腹で愛情深い人だったそう。多くのジャズメンが内田さんを頼りにして心の支えにしてきたことが想像できるエピソードです。

岡崎の内田さんの病院には、入院中に音楽を聴いたりセッションしたりすることもできるスタジオがありました。そのスタジオで録られたプライベート音源や、内田さんが個人的に録音したテープなどの未公開音源が、今は岡崎市のコレクションの一部として、また日本ジャズ史の貴重な資料として残されています。
 
内田修ジャズコレクション」に収納されている内田さんのレコードや所持品
内田修ジャズコレクション」に収納されている内田さんのレコードや所持品

当時の内田病院のドクターズスタジオ(撮影:小森雅文)
当時の内田病院のドクターズスタジオ(撮影:小森雅文)

「内田修ジャズコレクション」に再現されたスタジオ
「内田修ジャズコレクション」に再現されたスタジオ

国内のジャズメンに演奏の機会をつくりたい

こうした内田さんの思いを受け継いだ一人の人物が、ヤマハの山東正彦さんです。名古屋店でレコード売場のジャズ担当だった山東さんは、内田先生との出会いをこう振り返ります。

山東さん いつもたくさんレコードを買っていただくお客さんということで、ご挨拶に伺ったんです。入社したばかりであまりジャズを知らなかった私に、内田さんは呆れてこれを聴け、次はこれ、と教えてくれました。その頃からジャズの楽しさを人に伝えたいという思いがとても強い方だったんだと思います。その後ずいぶん長いお付き合いになりました。

ヤマハのOBで、現・内田修ジャズコレクションのディレクター、山東さん
ヤマハのOBで、現・内田修ジャズコレクションのディレクター、山東さん

ちょうどその頃、ヤマハの名古屋店では、内田さんの力を借りて「ヤマハ・ジャズクラブ」というコンサートを月1回行うことになりました。これは、内田さんの「国内のジャズメンたちに演奏の機会をつくりたい」という願いを具現化するもので、ここから次々に新しいジャズが名古屋から発信されていきました。この現場を担当し熱いライブを間近に見てきたのが、山東さんです。

山東さん ヤマハ・ジャズクラブを中心に、プロのミュージシャンや地元のジャズ喫茶同士のつながりができていきました。当時東京でも聴くことのできない最先端の音楽を名古屋で聴くことができたのはこの場所があったからです。

1964年(昭和39年)に始まった「ヤマハ・ジャズクラブ」は名古屋で生のジャズを聴ける貴重なライブコンサートの場となり、その後33年間、合計 150回も開催されるという、他に例を見ない記録をつくります。この試みは、若きジャズミュージシャンを育てた一方で、多くのジャズファンを地元に生みました。

山東さん ヤマハは楽器やレコードを売る会社なんですけども、原点に立ち返れば、一人でも音楽の好きな人を増やすことが使命なんです。ヤマハの音楽教室などもこの思想から生まれたものですが、その後私は今のおとまちの前身とも言える“音楽企画”という部署で、まちの公共施設に音楽の企画を持ち込んだり、イベントを行ったりする仕事をするようになりました。

その後、山東さんは浜松に異動になり、ここでは全国的にも有名になる「ヤマハジャズフェスティバル in 浜松」を企画し、内田さんを監修に迎えます。ヤマハと内田さんのタッグは、山東さんを通して継続していきました。

内田コレクションを岡崎市の文化資産に

それまで名古屋や浜松を拠点にしてきた内田さんと山東さんですが、内田さんは外科医を引退するのを機に、自らのコレクションを岡崎市に寄贈することを決めます。これが、いよいよ岡崎市でジャズが広まっていくきっかけになりました。

この時、市の担当だったのが小柳英二さんです。膨大な数のレコードや、ジャズの資料とともに内田さんが託したのは、「このコレクションをただ倉庫に眠っているだけにはしたくない」という強い思いでした。

小柳さん これは単なるレコードコレクションではない、と内田さんはおっしゃいました。日本のジャズ史であり貴重な資料だから、岡崎市がきちんと市民のために活用できるのであれば寄贈したいが、そうでなければ他の大学に持っていく、と。直に録音したライブ音源があったり、当時のジャズの歴史を知る上で、学術上も価値のある資料だったのです。

岡崎市は内田さんのコレクションを広く活用することを約束して、寄贈を受けます。内田さんから引き受けたこのジャズ文化資産を、今後どう活用し、市民に役立てていくのか。このことが、その後小柳さんの大きな使命になりました。
 
1993年の寄贈式にはジャズミュージシャンの故 日野元彦さんや佐藤允彦さんなども同席した
1993年の寄贈式にはジャズミュージシャンの故 日野元彦さんや佐藤允彦さんなども同席した

岡崎市職員のOB、小柳英二さん
岡崎市職員のOB、小柳英二さん

小柳さん 私が市の職員である限り、どんな部署に移ろうと、市長が変わろうと、内田さんから預かったコレクションには大きな責任があると思いました。なんとか、これをきちんとした形で市民に届けないといけない、と。

小柳さんがヤマハの山東さんに出会ったのも、この寄贈の際です。小柳さんの思いは、内田さんをよく知る山東さんにも伝播して、二人はその後、岡崎ならではのジャズコレクションの活用という目標に向け、動き始めます。

「内田修ジャズコレクション展示室」が開設

小柳さんは、市民が実際にジャズやその文化にふれる機会をつくることから始めようと、内田コレクションの収蔵企画展を行いました。こうした仕事は大手広告代理店にまとめて依頼するのが一般的です。しかし、「この企画を頼めるのはほかにいない」と、山東さんに声がかかりました。

また、その数年後に内田さんのコレクションがJR岡崎駅前のシビックセンターに移されると、ここを拠点として「クリニック」という子ども向けのジャズワークショップを始めました。これは、著名なジャズミュージシャンを岡崎に招き、子どもたちの指導をしてもらうという企画です。

小中学生70名によるビッグバンドが結成され、このバンドが発展して、今では「Beanzz」(ビーンズ)というキッズジャズオーケストラになりました。岡崎で毎年演奏会を行っており、一周年記念の2010年には日野皓正さんを招き、「日野皓正カルテットwith Beanzzコンサート」も開催しました。

このオーケストラを卒業後、プロを目指して活躍し始めている若者もいます。これも内田さんから次の世代に引き継がれた、大きな財産です。
 
子ども向けのジャズワークショップから生まれたキッズジャズオーケストラ「Beanzz」
子ども向けのジャズワークショップから生まれたキッズジャズオーケストラ「Beanzz」

各パートごとにプロの指導を受けられるという贅沢さ
各パートごとにプロの指導を受けられるという贅沢さ

こうした事業のもとになっているのは、シビックセンターで策定した「内田修ジャズコレクション基本計画」です。市の小柳さん、ヤマハの山東さん、ほか関係者により、内田さんのジャズコレクションを官民協働で活用することを目標に策定しました。基本計画というと堅そうなイメージですが、その内容をみると、夢のような“ジャズのまち、岡崎”のビジョンが描かれています。その一部をご紹介すると…

・市民が日常茶飯事的にジャズに関わるまち。ジャズを聴いたり、接したりする機会がほかの市町村に比べて格段に高い。行政機関から音源が、喫茶店、商店、学校などへ配信される

・日本のジャズ史に興味のある人が世界中から集まる、日本のジャズ界の総合資料館となる

・「ジャズを知りたければ岡崎へ巡礼」が全国のジャズ愛好家の合い言葉になる
・往年のジャズミュージシャンの住むまちとして有名に。ミュージシャンが技能や知識などの文化資源を提供することで、老後の生活を受け入れる体制を整える

などなど。じつに自由に、真剣に夢を描いています。その中には、山東さんや小柳さんの願った10〜20年後の岡崎が描かれた一枚のイラストも。
 
「内田修ジャズコレクション基本計画」に掲載された岡崎市の将来像イラスト
「内田修ジャズコレクション基本計画」に掲載された岡崎市の将来像イラスト

この計画の一部が市の中心市街地活性化の構想と合致し、2008年に設立された「図書館交流プラザLibra(りぶら)」に「内田修ジャズコレクション展示室」として実現しました。ジャケットの展示や試聴コーナー、スタジオが再現され、市民に活用されています。
 
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「内田修ジャズコレクション展示室」 「内田修ジャズコレクション展示室」

まちへの広がり〜「岡崎ジャズストリート」の始まり

そしてまた一方では、基本計画で描かれたように、ジャズの市民活動も活発になっていきます。いくつものジャズの市民団体が生まれ、それぞれがプロのミュージシャンを呼んでライブを行うなど、自然発生的に音楽の盛んなまちになっていきました。

こうしたまちの流れがより大きなうねりになり、大きな形として実ったのが、市民主体によるジャズのフェスティバル「岡崎ジャズストリート」です。

市民発の「岡崎ジャズを楽しむ会」が母体となって、地域団体、商業団体などを巻き込み、2006年にはついに、第1回目の「岡崎ジャズストリート」が開催されました。その後も毎年、11月の第1土日は市内のホールや広場、街頭で演奏が行われ、まち中がジャズに染まります。第8回目となった昨年は5万人を超える人が訪れる大きなイベントに成長しました。
 
たくさんの人で賑わう「岡崎ジャズストリート」
たくさんの人で賑わう「岡崎ジャズストリート」

内田修さんという一人の人物によって岡崎に始まったジャズ文化は、市、市民、商業団体へと連鎖して発展してきました。内田さんと山東さんの出会いから、約50年。市のOB職員となった小柳さんは資料整理を手がけ、ヤマハを引退した山東さんも岡崎市の内田修ジャズコレクションのディレクターとして、見守っています。

長い年月をかけて多くの人の夢がつながり、少しずつ実現してきた「JAZZのまち、岡崎」。でも、山東さんたちが描いた日本一のジャズの拠点の姿にはまだまだ。これからもジャズのまちづくりは続いていきます。

[参考文献:『ドクターJazz内田修物語』(三一書房)]

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音楽の街づくりプロジェクト

writer ライターリスト

甲斐 かおり

甲斐 かおり

greenz シニアライター 編集・企画・執筆。地域コミュニティ、モノづくり、里山・郷土文化、農業をテーマに取材し、雑誌やwebで書いています。greenz.jpではコミュニティ、町づくり、「地域からの発信」を主に。『TURNS』『ソトコト』『自然栽培』ほか。 twitter: @karorirorin Facebook:甲斐かおりページ

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