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映画『よみがえりのレシピ』監督の渡辺智史さんに聞く、いま在来作物と映画制作について思うこと(前編)

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絶滅寸前だった山形県の在来野菜「藤沢カブ」。映画では復活のストーリーを取り上げた。

2011年に公開された映画『よみがえりのレシピ』は、その地域で古くから栽培されてきた農作物=在来作物をテーマにしたドキュメンタリーです。大量生産、大量消費に適さず、いつしか忘れ去られていた在来作物にフォーカスを当て、その存在から、食と農業の豊かな関係を探る内容が反響を呼び、今でも全国各地で自主上映会が開催されています。

公開から2年超、映画制作と各地での上映会を経て、監督の渡辺智史さんが今考えているのはどんなことなのでしょうか。日本で唯一の固定種専門の種屋さん『野口種苗研究所』の島田雅也さんを交えてお話を伺ってきました。

山形の豊かな食を味わいながらのリラックスしたムードの中、話題は在来作物を起点にさまざまに広がりました。

『よみがえりのレシピ』につながる出会い

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インタビュアー(左)と『よみがえりのレシピ』監督の渡辺智史さん(右)

ー渡辺さんと『野口種苗研究所』の野口さんがはじめてお会いしたのは、どれくらい前なんですか?

渡辺 確か2007年ぐらいでしたね。「こどもゆめ基金」っていう、全国で在来野菜を育てていこうっていう企画で委員会を作ったときに野口さんにお越しいただいたのが最初です。 

島田 まだ本『タネが危ない』を出す前で、講演とかもまだあんまりしてない頃ですね。

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全国で唯一の固定種専門の種屋『野口種苗研究所』。『タネが危ない』は店主野口勲さんが一代交配種の危険性に警鐘を鳴らした一冊。

ー2007年には、まだ野口さんは講演とかしてなかった?

島田 そうそう、お店で農薬とか花とか交配種も売ってた。でも、それから在来種固定種の大切さを伝えなきゃってことで農薬も花も交配種も資材も全部やめて、固定種だけにした。

渡辺 そう、まだ野口さんが全国的に有名になる前でしたね。お会いしたらいきなりミトコンドリアの話になって、なんだこの人は!すごい!って思ったのがもう印象的でした。

『野口種苗研究所』の島田さん。全国で講演活動もおこなっている。
『野口種苗研究所』の島田さん。全国で講演活動もおこなっている。

ー『よみがえりのレシピ』につながる出会いですね。

渡辺 そう、野口さんと会ってなかったらそんなに在来作物っていうのがピンと来ていなかったかもしれないですね。山形の在来作物はぼくにとっては小さい時から食べていたので身近すぎて映画になるイメージは沸かなかったんですけど、野口さんの遺伝子組み換え作物の話なんかを聞いていると、ほんとに種が大変なことになっていると思いました。

それから在来種って面白いし、楽しいよねっていう映画はあんまりなかったこともあって、映画作りの構想につながっていきました。

島田 ぼくも映画を拝見しましたけど、それが本当に良かったです。映画『モンサントの不自然な食べもの』と同じように危機感を煽るテーマでも日本だと直接現実味が沸かないし。

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地元庄内の食材にこだわる“山形イタリアン”『アル・ケッチャーノ』の奥田政行シェフ

渡辺 いやいや、出ていただいた方も『アル・ケッチャーノ』の奥田シェフとかすごい方だったのもありますけどね。なにより種を守っている生産者の方がいいですよね。彼らにちゃんとスポットを当てたいと思っていました。

ー密着取材で時間も長いでしょうから、生産者とも随分仲良くなったんじゃないですか?

渡辺 そうですね。ぼく自身地元の山形に住んでいるので撮影が終わったあとも人間関係も作っていけるのがいいですよね。恵まれているというか。

世の中を変えていくシェフ

ー映画のあと、全国でも在来野菜に注目する動きは聞いたりしていますか?

渡辺 環境の観点からですけど、熊本のイタリアン『リストランテミヤモト』の宮本シェフは世界農業遺産で阿蘇地域を認定するために一番最初に県に働きかけた人で、実際に認定されたんですよ。

宮本さんも奥田さんと一緒で、昔から地域の食材に注目してた人ですね。静岡のあるお茶農家ではお茶の畝に茅を敷き詰めるんですけど、そこにたくさんの生物がいて、その茅場があることで景観とか生物多様性が守られているんですね。世界農業遺産は規模が小さくても認定されるみたいです。 

ーそうしたものに認定されることで、地元に対してのメッセージにもなりそうです。

渡辺 先日、文化人類学者の辻信一さんとお話したんですけど、シェフが世の中を変えていくってのは世界的にもあるみたいで、貧困の激しいコロンビアの街でオーガニックレストランを開いた人が近所の主婦を雇って、オーガニックに関する勉強会を開いたりしているみたいです。

奥田シェフだけじゃなくて、日本全国にも世界にも料理人の社会的役割を意識して活動をしている人がたくさんいますね。 

種と食の話を楽しく伝える

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同年代の参加者たちにユーモアたっぷりに話す島田さん。PHOTO:池田万里子

ーぼくと島田さんとは2013年に一緒に種の大切さを伝えるイベントをしたんですよね。

島田 そう、『いただきますの日~ごはんとタネの未来な関係』にお誘いいただいて。

ー島田さんはその時が人前でのはじめての講演だったのに、そして、難しくなりがちな種についての話なのに会場に笑いがおきまくったんです。

島田 大体は今、種が危ないっていう話をすると暗い話にいきがちなので、そういうのはさらっと話そうと思って。例えば一緒に畑やろうぜっていう時に暗い話はしないですもんね。

渡辺 確かに。やっぱり直接お客さんに種を売る現場にいるから楽しい話もできるわけですよね。

島田 今は小学校とかにも講演に呼んで頂いたりすることがあるんですけど、なるべく小さい子にも楽しく伝えるっていうことは意識していますね。

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イベント時に展示された島田さん持参のタネ

ーイベントをするときに野口さんではなくあえて島田さんに依頼したのも、種や生命の循環と同じように、世代のバトンも少しづつ渡していけたらと思ったから。子どもに伝えていくというのもそうですよね。

渡辺 食について、子どものうちから伝えていくことは大切だと思います。島田さんの講演もぜひ聞いてみたいです。

今、編集中なのが短編ドキュメンタリー『在来作物で味覚のレッスン』というものなんですけど、在来作物を使って子どもの味覚や感性を育むというところにもうちょっとフォーカスしようと作っています。

2013年にもフランス流の味覚教育の「味覚の一週間」っていうイベントを都内でもやったんですけど、それも撮影して。フランスなんかでは国を挙げて子どもの味覚を育ててるんです。

島田 日本だと食育というとマナーとかになりがちなので、小さい頃から地域の食材で味覚を育てるようにするのは本質的でいいですね。

渡辺 ありがとうございます。学校でも上映できるような30分くらいのものにする予定なので、どんどん使ってもらえたらうれしいですね。

(対談ここまで)
                                                                    
                                                          
食についての強い思いを持ち、それぞれのフィールドで活動するおふたりだからこそ語れる言葉と話題の広がり。仕事だけでなくライフワークとしても食に取り組むおふたりが、ともに子どもに対する食育に力を入れていることにもとても興味深く感じました。

後編では渡辺監督の気になる次回作のことや、在来作物の価値、田舎で暮らし働くことについても聞いていきます。

渡辺監督の短編ドキュメンタリー『在来作物で味覚のレッスン』紹介&寄付募集中!

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当作品の制作につきまして寄付を募集しています。
■個人の方 1口5,000円 ■企業・団体の方 1口10,000円

サポーターとなって下さった方には、映像完成後の試写会にご招待いたします。
(試写会は東京および山形県内での開催予定。平成26年春完成予定)

詳細:http://y-recipe.net/mikaku_lesson/

島田雅也さん(野口種苗研究所)への講演依頼も受付中です。

ご依頼はこちらのアドレスまで。
<hitotubukarahajimaru★yahoo.co.jp>
※★を@に変えてください。
※お店の繁忙期にはご希望に添えない場合もありますので、あらかじめご了承下さい。