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「エネルギーは“育て”よう!」古民家再生&薪ストーブの給湯システムをDIYし、節エネを実践するエリックさんの暮らし

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。
どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

みなさんにとって、電気は「使う」ものですか?それとも「つくる」ものですか?これまで「わたしたち電力」では、太陽光パネルで電気を「つくる」人たちの様子をお伝えしてきました。

今日は薪ストーブを自分で改造して給湯システムをつくり、さらには植林をはじめ、エネルギーを「減らし」ながら「育てる」を実践する、ヘメンディンガー・エリックさんに、木を活かした暮らしぶりを伺いました。

ほしいから、つくっちゃおう!

「黒澤明の映画で見た、日本の美しい伝統建築にずっと憧れていました」。フランス人のエリックさんが住む家は、築約80年の古民家。来日後すぐ、運良く日本家屋に巡り会ったものの、家は一度リフォームされ、立派な梁を隠すように、合板でできた天井が貼られていました。

「これじゃ、家が呼吸できない」。エリックさんはキッチンとリビングの床も天井も取り払い、ひとつの空間につくりかえました。その後も、門から玄関までのエクステリアと玄関部分をほぼ自力でリフォーム。その原動力になったのは「ほしいものが買えない。ならば自分でつくる」というモットー。

私がもしお金持ちだったら、大工さんを雇ったことでしょう。でも日本建築は専門家に頼むと、どうしても高くなります。だからまずは、できることをやってみようという気持ちではじめました。

でも壁や床を解体したら予想以上に家が傷んでいて、工事の規模がうんと拡大しました。全部を壊してしまった後、穴の空いた壁を見つめながら「自分にできるのかな」と、途方にくれることもありました。

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ヘメンディンガー・エリックさん。来日8年目、本業は飛行機整備士です。実は、この原稿を書く私の旦那様でもあります。木工や大工仕事はあくまでも“趣味”。かつてパリ郊外に住んでいたときに、アパートの壁紙やフローリングを直すといったリフォームの経験はありましたが、日本家屋の改装は初めてでした。

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家の玄関部分。あがりかまちは、“肥松(こえまつ)”と呼ばれる、脂(やに)を多く含む貴重なマツ材を使用。特別に近所の材木屋さんから譲ってもらい、つくりました。奥の座敷はもとのまま。

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キッチンの様子。「厚さ3cmで断熱性抜群」という杉のフローリングは、製材も手掛けました。シンクはステンレス部分だけネットで購入し、台の部分はDIY。写真左手の白い家具もお手製。そのお隣が薪ストーブ

エリックさんには日本の家の、どこが一番魅力的に映ったのでしょうか?

日本建築は世界の中でも、最も「木」の美しさを活かしている建築だと思います。たとえば床の間がある部屋の天井板は、“笹杢(ささもく)”という樹齢の古い杉でしか見ることのない、とても複雑な木目をしています。それを模様として見せているのが面白い。

日本は国土に対して森林面積が多い。だから、これは日本人が昔から木と仲良く付き合ってきた証拠なのだと思います。また縁側や庭があり、内と外の境界があいまいで、家の中にいながら“自然”を近くに感じる点も、西欧との大きな違いです。

「そうは言っても」と、エリックさんは苦笑いしながら、日本の家が抱えるネガティブポイントも話してくれました。

冬になって、日本の家はとても寒く、気密性も低く、どれだけ温めてもすぐに熱が逃げていくと気づき、「寒くてやってられない!」と思いました(笑)。日本人が伝統的な建築から離れていった理由もよくわかりました。

ちなみに、フランスではすべての建物や家屋で、石油やガス、あるいは電気を燃料にしたセントラルヒーティングシステムがあり、11月~4月頃までは建物の全部屋をずっと温めています。そういう環境で育ったので、冬が寒いことは、私には堪えがたく辛いことなのです。

薪ストーブを改造して、給湯システムもDIY

そこで導入したのが薪ストーブ。家の全部屋を温めることはできませんが、いつも人がいるキッチンとリビングだけは、冬の間じゅう、ずっとストーブで温めることにしました。幸いにもエリックさんの家の裏は畑地。煙突から出る少量の煙も、すぐに風に消えていくため、24時間ストーブを焚いても、ご近所からの苦情もありません。

また薪ストーブを日常的に使用する際、苦労するのが薪の調達。実は購入すると決して安くはありません。エリックさんは地元の材木屋さんから、製材した木材の端材(製品としては売れない部分)を特別に譲ってもらい、燃やしています。もちろんストーブから出る灰は、庭木に撒いたり、庭の生ゴミコンポストに混ぜたりして、土に還す、自然なサイクルを心がけています。

本格的な薪ストーブは高価なので、エリックさんは、まずは実験的に安価なストーブをホームセンターで購入しました。7年間使い続けて「天井までの高さが3.5mある大きな空間を温めるには、やっぱり薪ストーブしかない」と判断。昨年ついに大型クッキングストーブを入手しました。

stoveopened右はオーブン部分。上の天板はクッキングプレートになっています。じんわり、熱が伝わるからか「シンプルな料理でも、素材の持つ味がぐっと濃くなる」とはエリックさんの分析。チキンの丸焼き、グラタン、煮込み料理、どんなお料理でもこのストーブが魔法をかけてくれるのです

購入したクッキングストーブは暖をとるだけではなく、料理もできる一台でニ度おいしい優れ者。これだけでも熱をうまく利用しているように思えますが、エリックさんの探究心はとどまるところを知りません。なんと、このストーブで湧かしたお湯を、キッチンとお風呂の給湯に使うシステムをDIYでつくったのです。「そんなことできるの?」と思いますよね。その全貌をご説明しましょう。

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薪ストーブのファイヤーボックス(薪を入れる空間)を上から見たところ。薪を燃やすため、ストーブの中でも安定して高温が持続する部分です。背面にある鉄製の分厚い板がはずれるようになっています。

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プロ向けのホームセンターで買った銅管(通常は水道工事などで使う)をつづれ折りにして設置。パイプの下方から水を流し、水が暖まってお湯になると上昇する仕組み。この循環サイクルは“熱サイフォンの原理”(※)を利用しています。カーブをつけることで水がファイヤーボックス内を流れる時間を長くし、暖まりやすくしています。

※お湯の密度が、水の密度よりも低いため上昇するという原理

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ストーブ側面に取り付けてある鉄板を外したところ。先ほどのファイヤーボックスの左側です。パイプを通す穴は、もともと開いていました。この銅管に断熱材を巻き、タンクまでつなげ、お湯を貯めます。

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お湯をためるタンクを設置しているところ。お湯がきちんと上昇し、水とお湯が循環するように、タンクは熱源より上に設置します。タンクはもともと電気温水器で使われていたものですが、廃棄するところを知り合いの業者さんからもらいました。容積は340リットル、重さは約30kg。設置するために、まずはしごをつくり、はしごに棒を打ち込んで、支えにしながらほとんど1人で設置。

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給湯器設計図。タンクには銅管を2つ通し、すぐ隣にある洗面所の壁にはわせます。洗面所の床にも穴をあけ、床下まで通し、床下でもともとの水道管に接続。銅管と、もともとの水道管の接続部分には、切り替えバルブ(インターネットで購入)を導入しました。

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エリックさんの家では都市ガスも使っているので、今のところ薪ストーブでつくったお湯はキッチンで使い、お風呂には主に都市ガスを使用。先ほどの切り替えバルブを間に接続することで、スイッチひとつでお湯を使い分けるように工夫しました。

この自家製お湯システムの開発にかかった費用は、合計約12万円(実験段階の部材も含む)。その内訳は以下の通り。

・切り替えバルブ…約2万円×2個
・タンクに接続するバルブ…約5千円
・お湯の温度を監視するための温度計…約5千円
・銅管…約3万円
・タンクと家のお湯の回路をつなげているプラスチック製の管…約4万円

タンクを知人から譲ってもらった以外には、部材はインターネットの販売サイト「monotaro」と、近所のプロ向けのホームセンターで調達しました。それにしても一体、このシステムの着想をどこから得たのでしょうか?

ストーブの上によくやかんを乗せますよね。何度も沸騰しては水を足しているうちに「20回でもお湯がわけば、お風呂だって湧かせるかも」とアイデアが浮かんだのです。かつて日本では当たり前に薪でお湯を湧かしていたよね。そこからも着想を得ました。

そこでうちのストーブ(アイルランド製)のオフィシャルホームページを調べてみると、お湯を循環させ、他の部屋まで温めるシステムを追加注文できる設計になっていました。しかし日本ではそういったマーケットがないため、技術もない。ストーブの輸入販売会社には「できません」と言われました。そこで、このシステムも、自分でつくることにしたのです。

「薪ストーブ=エコ」とは限らない!

エリックさんは飛行機整備士になるための専門学校で学んだ熱力学の基礎知識と、趣味の木工の技術を統合して、このシステムをつくりあげました。決して簡単とは言えない設備をつくるのに至った背景には、こんな思いがあります。

木をエネルギーとして使うようになってから、エネルギー問題をもっと意識するようになったのです。薪をつくるためには、自分で木を運んで、切って、割って、収納して。そして最低2年は乾燥させます。ひと冬でどれだけ薪を使う、ということが目に見えると1本の薪の大切さもよくわかります。しかし遠くのどこかで、見知らぬ誰かが、あるいは巨大な機械が、地中深くから取り出した化石燃料や原子力では、なかなかそれに気づけません。

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愛息の瑠海くん(2歳)も、エリックさんの真似をして薪運びをお手伝い。この日割った薪を使うのは2年後。

「一生をかけて、脱化石燃料ライフを目指したい」と言うエリックさん。ガスストーブを併用していた一昨年と比べると、ひと月のガス代は約16,000円から、約6,000円に下がりました。それでも「薪ストーブを使うことが究極にエコだとは思わない」と言います。

なぜエコじゃないかって?だってうちは冬の間ずっとストーブ焚くのだから、驚くほど大量の薪を使う。それも、50年も80年も時間をかけて育った木を、です。このままじゃ「ただの木の消費だ」とある時、気づきました。だから自分でも木を植えて、次の世代がちゃんと使えるように、木を育てたいなと思うのです。これからも、もっともっと緑を増やしたい。できれば使った分を地球に返したいです。

もっとも、究極にエコなのは昔の日本人みたいに部屋を温めずに、こたつや火鉢で身体の一部だけ温めること。でも残念ながら自分にはそれはできないから、せめて木を増やそうと。

“気づきと木使い”の心を育む

木材を燃料とし、それを未来の世代もまた使えるように木を植林する一方で、昨年から地元の小学校で木と森の現状についてレクチャーをはじめました。

日本の国土に対する森林面積は約7割。しかし、外国からの安価な輸入木材におされて、国産木材の需要は減り、林業は廃れ、森林は荒れています。この現状が残念でならないと、エリックさんは言います。

子どもたちの中には「割り箸を使い捨てることがもったいない」という話だけを聞いて「木を使ってはいけない」と思い違いをしている子もいます。国産材を使わなければ、いつまでも林業は活性化されないし、森も健康な姿を取り戻せない。その現状に気づこうにも、そもそも無垢の木に触れ、森の現状を知る機会があまりありません。だからせめて本物の日本の木の美しさに触れて、知ってもらえたらと思います。

外国の林業は大型機械で効率的に作業できますが、日本の急峻な山では機械を使ったとしても、まったく同じように作業効率を高めきれません。必然的に手間と時間もかかり、人件費は木材価格に反映されます。でもその背景に潜む物語を知っていれば、大人になったときに、少し高くてもそちらの方にお金を払う人になると思うのです。

lecture小学校の5、6年生を対象にした特別授業の様子。図工クラブで子どもたちと一緒に木で小物をつくったりもしています。

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図工クラブのために試作したお箸。上から桜、イブキ、黒柿をそれぞれ使用。子どもたちと短時間で安全につくれる木工のアイデアをいつも探しています。

木は二酸化炭素をストックしている

エリックさんは、木を使うことだけではなく、すでにある木材を長く使うことの大切さを教えてくれました。

当たり前のことですが、木が植物として生きている状態では二酸化炭素を吸い、吸ったCO2を体内に貯めています。これを伐採し、森に放置すれば、やがて腐って微生物が分解していきます。このときせっかくためたCO2は、再び大気に出てしまう。だから切った木もなるべく木材として使うのが理想です。

樹齢の古い太い木、つまりCO2をたくさん貯めた木は、柱や梁として使われています。もし家を建て替えたりするために壊してしまえば、柱は燃やされてしまうでしょう?するとせっかく貯めたCO2がまた空気中に出てしまう。

だからせめて、70年ものの木材ならば、最低でもそれと同じ年月はもたせるのが理想です。昔の日本人は暮らしの中で、それを当たり前のこととして行っていた。この知恵は、どうか忘れないでいてほしいと思います。

「日本の木は艶があって、うっとりするくらい美しい。日本人はどうして外国の木材を選ぶようになってしまったの?」と聞かれて、うまく答えられませんでした。どうして私たちは森と離れてしまったのでしょう。そしてどうしたら、森と共に生きてきた、あの蜜月を取り戻せるのでしょう。

化石燃料ができるまでには、数百万年、あるいは何億年もかかったとも言われています。つまり人類の力だけでは、つくり出すことができません。しかし木は、人間のライフスパンで育てられる一番身近なエネルギー。使用するエネルギー量を減らすことはもちろん、国産の無垢の木を長く使うこと、植林すること。まだまだできることがあるな、と実感しました。

みなさんも何かひとつ、できることをはじめてみませんか?