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大学生と企業がガチンコで「より良い未来」をデザインする。100日間の共創ラーニングプログラム「RELEASE;」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは”ラーニング・プログラム”に参加したことはありますか? 

シナリオ・プランニング」や「Changemakers’ Learning Camp」など、これまでgreenz.jpでもさまざまなワークショップや対話の事例を紹介してきましたが、昨年、京都にまったく新しいラーニング・プログラム「RELEASE;(リリース)」が誕生しました。

「RELEASE;」は、京都市のすべての大学生を対象として、パタゴニアやフェリシモといった新しい経済を牽引する企業と大学生がビジネスによってともに未来をデザインし、求められる未来を現実にするためのプログラムです。ワークショップやブラッシュアップイベントを交えながら、エントリーから約100日の共創プログラムを経て、ビジネスを通して未来を変えてゆくためのビジネスアイデアをつくりだします。

キックオフフォーラムは昨年11月2日からスタートし、11月8日にチームビルディングワークショップを開催。随時、企業別ワークショップが行われ、12月23日に一回目のビジネス提案、今年の2月3日に二回目のビジネス提案を経て、2月15日、16日の「RELEASE;2013 FINAL SESSION」で終了しました。

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京都産業大学経営学部准教授の大室悦賀さん

主催者である京都産業大学経営学部准教授・大室悦賀さんは、日本を代表するソーシャルイノベーションの専門家です。大室さんは「RELEASE;」の魅力についてこう語ります。
 

学生たちはインターンシップに飽きているんですよ。リアルでないから面白くない。でもこのプログラムは企業もガチンコでくるし、良いアイデアは採用すると企業が宣言している。そこに魅力があるから150人ぐらいの申し込みがあったんだと思います。

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LUSHの企業別ワークショップ。普段は聞くことのできない商品やお店に対する熱い思い社員の方から聞いている様子

20大学150人の大学生が37チーム参加

「RELEASE;」はおおまかに、企業からの課題発表→企業別ワークショップ→ブラッシュアップ→発表大会という段取りです。そしてプログラムを開催してみて、大室さんはあることに気がつきました。
 
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2013年11月2日に開催されたキックオフフォーラム。200名以上参加者が詰めかけた

ふたを開けてみると、この手の話を友だちと話せる学生がいなかったことがわかりました。最初はひとつの大学でチームを組んでエントリーしてくださいとしていたのですが、彼らはひとりでエントリーしてくるんです。

社会に貢献したいけれど、そのやり方がわからない。そんな話をできる仲間も同じ大学にいない。みんな大学の中では孤立しているんだということがわかりました。

そこで大室さんはチームビルディングのワークショップをしよう、と少しずつプログラムのかたちを変えていきました。京都にはさまざまな種類の学部がそろっているので、複数の大学の混合チームが生まれ、面白いアイデアが出やすくなったといいます。

そこで自分が学んだのは、プラットフォームは固くちゃいけないんだということですね。いろんなカタチに変えられるほうが良いんです。

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会場は関西だけでなく、愛媛や東京など遠方からの参加者も

1割が変われば、社会は変わる

そもそも、なぜ大室さんは京都市やさまざまな企業を巻き込んで、このようなプログラムを実施されたのでしょうか。

たまたまアウトドアメーカーのパタゴニアさんと仲良くさせてもらっていて、学生に課題を出していただき、学生が提案をするという授業をさせていただきました。

パタゴニアは年齢層が上がると顧客が多いものの、10代、20代は価格の問題もあって消費者になりえなかった背景がありました。パタゴニアの考え方を知って消費者になってもらうにはどうすればいいのか、という課題を出してもらい、それを今の4年生がチャレンジしたそうです。

学生から出てきた答えはファッション性とか色とか表面的な指摘でした。そこで、パタゴニアで働く方に来てもらってデザインを変えない、PRしない、売りたくないといったパタゴニアの根本思想からくるマネジメントを教えていただいたところ、彼らが考えていたこととは全然違う企業スタイルを突きつけられるんですよ。そしたら彼らは混沌としはじめるんですね。2012年の冬ぐらいのことです。今まで大学で習ってきたような経営学手法とは全然違うことに学生たちは気づきはじめます。

そうなってくると、彼らはパタゴニアという企業の哲学を探りはじめるんです。課題をもらって解いている学生という立場から、彼らが変わっていく様子を目の当たりにしました。ある意味、恋をしはじめるんです。

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パタゴニアの企業別ワークショップの様子。学生チームは3〜6人で構成されている。それぞれのチームの発言やアイデアを共有できる

発表会には日本支社の幹部の方や、京都のお店で働く方たちも見に来て、「すごく面白かった」と絶賛したそうです。例えばフリーマーケットをやるという意見が出たところ、実際、パタゴニアでは学生の意見を聞く前から動いていたようで、現在はYahoo!と組んでリユースな取り組みをしています。

もともと彼らが考えていたアイデアが学生から出てきたので、すごくインパクトがあったようです。そして、プレゼンの後、なんと学生たちはパタゴニアの商品をこぞって買いはじめたんです。自分の着ているものがなぜこの価格帯になるのか、その哲学を知ったことで理解しはじめたんです。

この手法でいけば、購買行動が変わるのだな、と大室さんは考えました。

そもそも京都には42大学もあり、学生は人口の1割である15万人もいるんです。1割が変われば社会は変わる。その思いが「RELEASE;」の企画書に変わるんです。

そこで京都市役所、パタゴニア、Lush、ヤラカス館などに企画書をもって説明に行き、京都市の研究助成を活用したり、gift*incの桜井さんたちの協力もあり、「RELEASE;」がスタートしたのです。

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ヤラカス舘の企業別ワークショップの様子。大阪本社ビルから東京とテレビ会議

学生が良い会社しか選ばなければ、社会は変わる

「RELEASE;」の協力企業は、全社とも共通点があるそうです。

基本的にはこういう社会にしたい、というビジョンがあって、自分たちならではの、のぼり方をしている方たちです。例えば環境負荷が一切ない未来など、そういった社会をつくるためにビジネスをやっている人たち。協力企業の「ウエダ」は日本人の働き方を変えたいという背景があります。

同じく協力企業の「坂ノ途中」は小さな農業を元気にしたい、未来からの前借りをなくしたいという背景があります。そういうビジョンを知った学生が、良い企業しか選ばなくなれば会社は変わります。

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坂ノ途中代表の小野さんと机を囲んでの第一回ワークショップの様子。参加者との距離が近いこともありお互いに質問や想いを交換する実践的な場になっていたそう

大室さんはgreenz.jpでも紹介したアメリカのNPO「Teach for America」が良いお手本だといいます。これは、教育を受ける機会が少ない貧しい家庭の子どもたちのために、ハーバードやスタンフォードを卒業した優秀な新卒者を教員免許の有無に関わらず大学卒業から2年間、米国各地の教育環境に恵まれない地域の公立学校に常勤講師として赴任させるプログラム。全米のトップ企業がそこにお金を出しはじめ、プログラムを経た学生は良い企業に就職できるようになります。

「RELEASE;」のプログラムで良い学生を社会にアウトプットし続ければ、僕らが考える良い企業は社会に対してきっちりとインタラクションしていくと思っているんです。

型を教えているだけ

このプログラムの中で、学生たちの力が引き出されているように感じますが、大室さんは「型にはめて覚えてもらいたい」と言います。

柔道の型と同じで、最初はなぜ受け身を覚えないといけないか分からないけれど、そのときに理解してくれなくても良いというスタンスでいます。

パタゴニアさんの例でお話したように、自分たちが勉強してきたスタンスで提案を解こうとするけれど、なかなか解決できないジレンマに陥る。ブラッシュアップの段階で枠を壊される。

そこに型をこわす型があるんです。すると自分たちが提案したことを否定されるので大混乱しはじめるんですね。悶々とする中、企業の本質をやらないとまずいということに気づくわけです。そこではじめて良い提案がのぼってくる。詳しくは参加して体感してほしいのでこれ以上は書いてほしくないのですが(笑)。このプロセスを通過すると学生の能力は高くなりますね。

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ウエダ本社にて、個別相談会の様子

そして、この「RELEASE;」のプログラムは学生だけでなく、社会人にも応用できそうです。

そもそも企業経営がプロセスで紡がれているものであり、いろんな意思決定をして、効率性を求めるとプロセスを削除しはじめる傾向がある。もともと必要なプロセスまで削除してしまって、体力勝負なビジネスになっているのが今。このプロセスをちゃんとやらないと、うまくいかないと思います。

過去の優秀な経営者たちは本来必要なプロセスを「型」と呼びました。そこを見失って価格競争をしてきた企業は今苦しくなっている、と続けます。

学生にはその本質のところを体感してほしいと思っています。サントリー創業者の鳥井信治郎さんは「やってみなはれ」が口癖だったそうなんですよ。その真意は、自分はやったことがあるからその素晴らしさがわかるけれど、あなたはまだやっていないからそれがわからないでしょう。やってみたら絶対学ぶことがあるから。その型に飛び込んでみろよ、ということなんですね。

プログラムが予想外なところまで広がりはじめている

第2回は、京都の大学生以外にも門戸を広げようと考えているそうです。

大阪、兵庫、滋賀の学生からクレームがありました。なんで京都の学生だけなの?と(笑)。やってみたとたんに、いろんな声があがりました。

ある企業からは社員研修に使いたい、と提案があったそうで、次回は学生だけではなく30歳まで可にしようと考えているのだとか。

僕らが最初に想像していなかったことがたくさん起きています。Impact Hub Kyotoもこのプログラムに関わってくれていて、「RELEASE;」を英語にして世界に発信してくれています。それがきっかけで海外企業からもオファーがあり、「RELEASE;」をうまく活用しようと考えてくださるところが出てきています。

大室さんが語ったように、大学生が良い未来のためにビジネスをしている企業しか選ばなくなったら、社会はどう変わっていくのか楽しみになりました。第二回のプログラムは2014年夏に予定されています。気になる方はまずウェブサイトをチェックしてみてくださいね。