ISSUE ものづくり

2 years ago - 2014.02.10

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帰れなくなった故郷の思い出を製品に。大熊町出身のお母さんがつくる、くまのぬいぐるみ「あいくー」

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ものづくりからはじまる復興の物語」は、東日本大震災後、東北で0からはじまったものづくりを紹介する連載企画です。「もの」の背景にある人々の営みや想いを掘り下げ、伝えていきたいと思います。

あなたにとって、自分が生まれ育ったまちは、どんな存在ですか?誰にでもひとつくらい、“お気に入りの風景”や“思い出の場所”があるのではないでしょうか。

では、ある日突然、そこに足を踏み入れることができなくなったら、どんな気持ちになるか想像できますか?

私たちには、一握りの土も残されていないんです。立つ場のない恐怖の中で暮らしていかなくちゃいけない。何かにすがらなければ、目指すものがなければ、生きていけなかった。私にとってはそれが、ものづくりでした。

福島県大熊町で暮らしていた庄子ヤウ子さんは、原発事故により故郷を離れることを余儀なくされ、会津若松へ避難。庄子さんはそこで、大熊町のマスコットキャラクター「おーちゃん」「くーちゃん」をモデルとした、くまのぬいぐるみ「あいくー」を製作します。「あいくー」は、庄子さんの元にさまざまな人を呼び寄せ、希望を与えてくれたといいます。

「私たちの帰れない故郷とつながる空」

大熊町は、福島第一原子力発電所の1号機から4号機の所在地です。2011年春、原発事故により立ち入りが全面禁止となり、会津若松市へ自治体機能を移転。庄子さんも、多くの町民と一緒に会津若松へ移住しました。

最初はめまぐるしい環境の変化に追いつくのに精一杯でしたが、6月には仮設住宅に入ることができ、ようやく暮らしが落ち着きました。そのとき襲ってきたのは何もすることがない辛さ、虚しさ。何かしなければ、と思っていたとき、
IIE(イー)」の谷津さんと出会ったんです。

谷津拓郎さんは会津出身の若者で、伝統工芸の会津木綿を使い、避難者の仕事を作る取り組みをしていました。大熊町では30年間ニットを編む仕事をしていて、編み物教室も開いていた庄子さん。かつての教え子や知人を集め、IIEの仕事を引き受けることにしました。
 
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工房で談笑する谷津さんと庄子さん

でもね、始めてみたら、それだけだと物足りなくなっちゃって(笑)IIEの仕事も受けつつ、自分たちでもオリジナルなものづくりをしていこうと、「會空(あいくう)」という団体をつくりました。

會は、会津の旧字。空は、「私たちの帰れない故郷へとつながる空」という意味を込めています。

想いはものに宿り、人を介して深まっていく

「おーちゃん」「くーちゃん」は、ゆるキャラブームが起こるずっと前から大熊町のキャラクターとして愛され、町のHPやパンフレットなどあちこちにその姿を覗かせていたといいます。

会津に来てからすっかり目にする機会が減ってしまったこの2匹を、製品として再現したい。そんな想いから生まれたのが「あいくー」です。自分で型を起こし、試行錯誤しながら生み出しました。
 
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あいくーの肌は黒地の会津木綿を使用し、首には縞模様の会津木綿でスカーフを巻き付けました。ぬいぐるみにすると素朴で温かみのある質感が際立って、素材の良さがよくわかるでしょう?会津木綿を使うことで、自分たちを受け入れてくれた会津若松に少しでも恩返しできたら…と思っています。

少しとぼけた表情が可愛らしいあいくーは、じわじわと評判になりました。福島県内のお店のほか、インターネットや各種イベント、展示会で販売しています。

「初のお江戸上陸だね」「美術館のステージに立つんだよ」。庄子さんやつくり手のみなさんは、自分の子どもの旅立ちを見守るようにあいくーたちを送り出しています。

谷津さんの友人で、會空の製品をネットで販売してくれている青年がいるんですが、彼は「會空の皆さんが潤うように頑張る」って言ってくれているの。そしてね、買ってくれた人の話を教えてくれるのよ。

ある方は、家で飾っていると娘や孫が来たときに「これ可愛い」って言って持って帰っちゃうから、何度も買ってくださるんですって。彼もそういう人との関わりがすごく楽しいらしいし、私たちも話を聞くと嬉しくなるのよ。

会津若松にある「スペース・アルテマイスター」でも、製品の展示販売やワークショップを行っています。スタッフの方たちはあいくーを可愛がり、ポケットに入れてくれているそう。
 
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そんな風に、つくり手・売り手・買い手の3者の想いが重なったときは、やっていてよかったなってしみじみ思います。ものづくりとは言っても、ものともの、ものとお金じゃない、結局は人と人の関係なのよね。想いはものに宿るし、想いのある人に託すと、もっともっと想いが深まる。私はそういうことを大事にしたいと思っています。

現在、JALの国内空港ラウンジには期間限定(2014年1月・2月)で、赤いスカーフを巻いたあいくー数体をツリー状に組んだ「あいくーツリー」が展示されています。全国各地のラウンジに展示されていて、使われているあいくーの数は合計440体!庄子さんたちは嬉しい悲鳴をあげながら製作したといいます。この企画も、アルテマイスターで展示されていたあいくーに一目惚れをした方のご紹介で実現しました。

この子たちはね、自分で営業するの。いろんなところに連れて行ってもらって愛想振りまくから。あいくーのおかげで、たくさんの出会いがありました。

踏み出すことで得られる力がある

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ある日突然、大事な故郷と暮らしを手放さなければならなくなった苦しみと、先のことがまったくわからない不安。そうした状況の中で、前を向いて新しいことを始めた庄子さんたちの想いには、胸を打たれるものがあります。

「これからどうしていけばいいんだろう」という気持ちは、ほんとに、ほんとに切実でしたよ。でも、何もしなければ、ずっとそのまま。だったら何かやろうって始めたのがものづくりでした。

そうして動きはじめたら、ふしぎなご縁で、たくさんの人と出会って、人が人を呼んでつながっていって。踏み出すことによって得られる力の大きさを感じました。

誰かに力を貸してもらって、自分の中から力が湧いてきて、それに押し出される。「じゃあやっていこうか」って進んできて、ようやく希望が見えてきたのがいま。たくさんの人に支えられてきたので、これからはその恩返しをしていきたいと思っています。

小さなくまのぬいぐるみには、たくさんの想いと豊かな物語が詰まっていました。みなさんも、よかったら「あいくー」を手にとってみてくださいね。

思い出の生地でつくったくまのぬいぐるみ、あいくー誕生秘話・・・詳しい物語はこちら
東北マニュファクチュール・ストーリー

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hidaemi

hidaemi

greenz.jpエディター/ライター 1984年2月29日生まれ。茨城出身、神奈川在住。 「地域」「自然」「生きかた・働きかた」をテーマに、書くことや企画することを生業としています。虹を見つけて指さすように、この世界の素敵なものを紹介したい。 HP:http://www.cotohogu.com/ blog:http://himaemi.blog.jp/ twitter:@emi229「東北マニュファクチュール・ストーリー」というサイトを、一般社団法人つむぎやと一緒に運営しています。 ・日本橋のシェアオフィスにて、気ままなごはん会「6階食堂パルプンテ」を開催。日によって美味しさにばらつきがある、適当な会です。

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つむぎやは、日本全国の地域に眠る資源に手を添えてカタチにし、それをさしだす人・うけとる人、双方の人生がより豊かになるような関係性を紡ぐことを目指しています。 現在は、宮城県石巻市・牡鹿半島を拠点として、「OCICA」や「漁網100%ミサンガ」、「ぼっぽら食堂」などの事業に取り組んできました。また、震災後に新たに生まれたものづくりの物語を紹介するWEBサイト「東北マニュファクチュール・ストーリー」の運営もしています。 他にも、日本各地で、様々なプロジェクトの立ちあげを行っています。 つむぎやFacebookページ: https://www.facebook.com/TUMUGIYA OCICA:http://www.ocica.jp/ マーマメイド(漁網100%ミサンガ・ぼっぽら食堂):http://mermamaid.com/ 東北マニュファクチュール・ストーリー:http://www.tohoku-manufacture.jp/

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