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“エネルギー”は電気だけじゃない!森の資源を暮らしに生かす「村楽エナジー株式会社」井筒耕平さんインタビュー

いま、みなさんが使っている暖房はエアコンでしょうか?それともストーブ?

改めて考えると、約半世紀前まで暖房の主役は、火鉢や囲炉裏、炭を使ったこたつなど。料理の煮炊きや湯わかしにも薪が使われていました。そこには、スイッチひとつで、すぐ暖まる電気ストーブやエアコンのスピーディな便利さはありません。しかし国内で採れる木を利用し、自らの手でおこした炎や熱を、その手元で使い尽くす。そんなミニマムで無駄のない、美しい暮らしがありました。

これまで「わたしたち電力」では、楽しい節電の方法や、太陽光パネルなどを使って自分たちで電気をつくるワークショップの様子などをお伝えしてきましたが、今回は電気だけにとどまらず、エネルギーをもう少し多角的に捉えてみたいと思います。

そこで地域おこし協力隊として岡山県に住みながら、バイオマスエネルギー普及に向けて取り組む、井筒耕平さんにお話を伺いました。

山の恵みはすべてが資源

岡山市内から車で北東に進むこと約1時間。井筒さんが暮らす“上山集楽”は、平地でもなく急峻な谷間でもない、ゆるやかな山の中。周囲には、山肌を幾重にも飾るように棚田が広がります。しかし、農業は衰退。耕作放棄地が目につきます。

この“上山集楽”には井筒さんをはじめ、数名の「地域おこし協力隊」のメンバーが入り、棚田再生を軸に目覚ましい活躍を続けています。その様子は以前greenz.jpでもご紹介しました。

棚田写真写真右から美作市地域おこし協力隊(MLAT)の梅谷真慈さん、井筒耕平さんと風太くん、元MLATの水柿大地さん

tanada最盛期には全部で8300枚あったと言われる棚田。写真左手前、草木が生い茂る部分も、かつては棚田でした。

いろり2地域おこし協力隊のメンバーが週末運営するカフェ「古民家いちょう庵」にて。棚田再生を手掛ける仲間たちと、いろりを囲んで集うことは日常茶飯事。井筒さんらが作ったロケットストーブを楽しめる空間も併設。

井筒さんは築約70年の古民家で、奥様と2歳の息子さん、そして生まれたばかりの赤ちゃんと、家族4人で暮らしています。初霜が降りた11月末のある日、井筒家の土間に置かれた薪ストーブに、今年はじめて火がともりました。

火をつけるのは井筒さんの朝いちばんの仕事。ストーブの煙突も部材を買い、自ら設置。「広葉樹はもちろん、煙突に煤がつきやすい松も。手に入る木は何でも燃やす」そうで、煙突掃除も手間をいとわず、まめに行います。燃料となる薪は、棚田再生のために耕作放棄地で伐採した木。また、地元のおじさんたちが「使うか?」と、勝手に軒先に置いていってくれた木。はたまたご近所から手助けを請われ、伐採した庭木など、さまざまです。

井筒さんはもともと愛知県に生まれ育ち、大学院ではバイオマスによる地域のエネルギー自給モデルを研究。2011年に上山に移住してくるまでは、都市部で社会人生活を送った期間もありました。「火を使う暮らしを始めて、いちばん良いことは何ですか?」と、たずねると「狩猟採集のように、必要なものがなくなったら、その辺からとってくることかな」とのこと。

田舎って、木でも金属でも何でも再利用して、資材にしたり燃料にしたりするんです。何か出ると、みんな情報をかぎつけて集まってきて、一気に持っていく。

坂口恭平の「ゼロから始める都市型採集生活」という本にも書いてありますが、ふだん何気なく生活をしていると、実は見えていない“レイヤー(階層)”がいっぱいある。しかし田舎でも、都会でも、中には見えていない“レイヤー”が見えている人だって、いる。

つまりどれだけものの見方と、発想を変えるかということ。“レイヤー”が見えている人なら、捨てるようなバッテリーや太陽光パネルをもらって電気を自給したりします。

ストーブ
ストーブに空気を送り込む竹で遊ぶ、風太くんと井筒さん。井筒家では薪ストーブとペレットストーブで暖をとり、キッチンではガス給湯器を、お風呂の給湯には太陽熱温水器と灯油ボイラーを使っています。

sikanikuwo過疎化が進み林業は衰退し、里山に人が入らなくなってから、鹿や猪が増え農業にも害が出ています。獣害対策で猟師が仕留めた鹿を自らさばくことも。「田舎に住んでいたって、実際に狩猟をやる人は少ないですよ(笑)」と井筒さん。ジビエも生きていくための、大切な“エネルギー源”のひとつ。

身近にたくさんある“バイオマスエネルギー”

そもそも、“バイオマスエネルギー”とは、生物由来の有機エネルギーのこと。木材、生ゴミ、海藻、家畜糞尿などが該当します。

井筒さんが日常生活の中で実践する“木質バイオマス”の活用方法もさまざま。例えば、木材を薪や炭にして使う。または粉砕してチップやペレット(固形燃料)にし、ストーブやボイラーで燃焼させ、給湯に使用する、など。

また近年では、木材を燃焼させ、その熱でタービンを回し、電気をつくる“バイオマス発電”も少しずつ広まってきています。しかし、電気をつくる際には廃熱や配電で、ロスが発生することは避けられません。電気にする前の“熱”そのものを、そのまま利用する考えはなかなか日本では普及していない、と井筒さんは言います。

例えば、太陽の光も立派な“熱”です。ヨーロッパでは熱利用の考えは進んでいて、バルセロナで2000年から新築、および改築建造物で太陽熱温水器の設置の検討が義務づけられました。その結果、2000年から2004年までの間で、太陽熱温水器の設置面積が、1650平方メートル→19600平方メートルへと10倍以上に増えました。

太陽光や太陽熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーを利用することは、思っているより意外と簡単にできるのです。太陽熱温水器を設置しただけで「お湯が出る!」みたいな。こんなあたりまえの“身近さ”をもっと感じて欲しい。

至るところにエネルギーはある。それが見えていないだけなのです。

1昨年から数年の間放置されていた薪炭林に入り、木を伐採して炭焼きをはじめました。炭焼き作業の参加者と上山集楽の地域おこし協力隊のメンバー。井筒さんは後列右端。

2「杉や檜の人工林は木の背丈も高くうっそうとして暗い。一方、薪や炭に使う広葉樹が生えている”薪炭林”では、色とりどりの落ち葉もあって気持ち良い」と井筒さん。木々を倒すたびに差し込んでくる光。見上げた空は山仕事の合間のごほうび。

moriはじめは足の踏み場もないくらい草木が生い茂る斜面も、ひたすら木を伐り、場を開いていきます。伐採した木は適度な長さに“玉切り”し、横に並べて“棚”をつくります。無秩序だった森に、人の手が加わることで、整った美しい姿に変わっていきます。

「儲からないって、本当かな?」で、はじめた林業

日本の国土面積に占める森林面積は約7割。先進国の中ではフィンランドとスウェーデンに次ぐ森林国です(※国連食料農業機関発表のデータによる)。「日本は資源に乏しい国」とよく耳にしますが、井筒さんいわく「こんなに木が生えている国ってあまりない。山の木ってすごく豊かな自然資源」。しかし、それを活かしきれていないのが現状です。

その理由は林業の衰退にあります。昭和30年代には約44万人いた林業従事者たちは、平成17年のデータで4万7千人に激減(※農林水産省林業に関する統計による)。現在では、林業家といえば、林業だけを主な生業とする“専業林家”が主流ですが、林業が最も盛んだった60年代は林業以外にも収入源を持つ“兼業林家”と呼ばれる層の人口が多かったのです。

この兼業林業家を増やすべく、井筒さんたちは、自ら林業に着手。「鬼の搬出プロジェクト」(通称「オニハン」)を2013年の3月から始めました。

林業家って、47都道府県で4万7千人いるとして、単純計算で1県あたり1,000人しかいません。つまりたった1,000人ずつで各県で頑張っている状態です。

これを「あーあ、ひどいな」と思うか「チャンスだ」と思うかで違うと思うのですが、僕は「チャンスだ」と思ったんですね。やっている人口が少ないし、森林面積は広いし、社会的にはすごく必要とされているから。

「オニハン」の仕組みは次の通りです。まず近隣に住む山の持ち主に声を掛け、木材市場なら安値しかつかないような木を伐倒してもらいます。それを指定の場所に持ってきてもらい、1トン6,000円で買い取ります。このとき現金ではなく、地域通貨の「オニ券」で支払います。

そしてこの買い取った木材を、薪などに加工して販売。その売り上げ金を、各商店で“オニ券”と交換するというものです。3月のプロジェクト開始から、11月末日までで合計180トンもの材が集まりました。

オニ券3地域通貨の“オニ券”。美作市内の約20の商店や飲食店などで使える。地元の山の手入れも進み、木材も消費され、地域の商店も潤う画期的な仕組み。

「オニハン」のポイントは「いかに販路をつくるか」。市場で売り物にならないくらいの木材は、本来の相場は1トン3,000円くらい。それを薪にして、ひと手間かけることで付加価値をつけ、1トン約12,000円で販売します。最近は備前市に住む備前焼の陶芸作家から「窯焚きに使いたい」と購入され、なかなか好評だったとか。

ちなみに、一般的に陶芸の窯焚きで使用する木材は松。ところが近年は、害虫による松枯れ被害が各地で広まり、近隣での松の入手が困難になってきていたそう。そこで「オニハン」で伐り出された檜材を、試しに使用したというわけです。

備前は美作から約30キロメートル、と比較的近く。地元の間伐材を有効に活用しながら、地域の伝統工芸にひと役買う、という良い循環ができつつあります。

何のための“再生可能エネルギー”?

木材を有効活用するサイクルができつつある一方で、これから井筒さんがもっと開拓していきたい分野は“小水力発電”。上山でも2年ほど前に集落を流れる川の、わずかな落差を利用して、数ヶ月間発電機を仕掛けていました。

しかし購入した機器で発電できる量は3~10ワット、なんとかLED照明や携帯の充電に使えるかといった程度。現在は小水力発電をいったんストップし、来年から発電機の設置場所を変えて、またトライするのだとか。仕切り直しを考えた、その主な理由は次の2つ。

・発電機を設置していた川の水量と、川の落差が十分ではなかった。

・その労力と発電機のコストに対して発電量が少なく、バッテリーにためたとしても実質的使用用途が限られる。

上山だけに限らず小水力発電を行う場合、発電機を設置する河川や用水路では“水利権”といって、流れる水の利用許可を得なくてはなりません。そのためいくつもの関係各所に許可を申請する必要があります。

「再生可能エネルギーを利用したエネルギーの自給も、まずは利用用途を明確にすることが大事だ」と井筒さんは言います。

何のために再生可能エネルギーに着手するのか、がポイントです。たとえば、企業がビジネスを目的に行う再エネ事業なのか、個人が副業や趣味で行いたいのか、そのモチベーションはさまざま。

もし地域がエネルギーの面で自立することを検討するなら、コミュニティで“特定目的会社”を設立し、出資者を募るというのも、ひとつの手です。例えば「上山電力」みたいに地域の名前がつく“ご当地電力”が、日本のあちこちでできたら面白いと思うのです。

また、再生可能エネルギーで地域が自立するためには、行政や地域住民、NPOや関連企業などをつなぎ、現場の人間関係を構築しながらプロジェクトの推進も行う「ドライビングアクター」が必要だ、とも井筒さんは言います。

これからは「ドライビングアクター」として、木質バイオマスの利用や水力発電を実践しつつ、他の地域では、自然エネルギーをビジネスとして導入したい人にコーディネイトをしていきたいです。

エネルギーのあり方を、国が決める時代は終り。今こそ、一人ひとりが心地よい暮らしのために、そのあり方を決める時代が来たんじゃないかな。

小水力設置螺旋式ピコ水力発電装置「ピコピカ」(発電量3~10W、落差10cm、流量10L/秒)を設置したときの様子。実験的に数ヶ月間使用し、発電した電気は屋外に設置したLED照明の点灯に利用していました。

現在、日本のエネルギー自給率は4%(※ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES 2010による)。井筒さんが書いた論文を読んでみると、かつては水力発電を主力とし、1960年のエネルギー自給率は58%を維持していた、とあります。

今や日本は、エネルギー資源の95%を海外からの輸入に頼り、世界第5位のエネルギー消費国となりました。自国の資源でエネルギーをつくることをやめてから、その消費量が格段に増えたとは、何とも皮肉なパラドックスです。

いつの間にか、すっかり誰かの手に預けてしまったエネルギーのこと。「もう一度引き寄せたい」と思ったら、井筒さんたちの暮らしぶりがヒント。まずは至るところにある、自然界のエネルギーを感じることから、あなたもはじめてみませんか?