ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

2 years ago - 2013.12.24

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企業が変われば社会も変わる!フューチャーセッション=対話を通じて長期ビジョンを策定したアサヒグループの社内ネットワーク「VOICEs」とは?

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Some rights reserved by Marc Wathieu

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは「フューチャーセッション」という言葉を聞いたことがありますか?greenz.jpでも社会的課題を解決するための対話の場づくりとしていくつか事例を紹介してきましたが、今回ご紹介するアサヒグループのように、最近では企業の組織変革にも導入されています。

持続可能な未来を実現するために、個人で動けば物事は早く進むかもしれませんが、影響力のある取り組みにできず、結果として何も形にできずに終わってしまうこともあります。一方で、地域の環境にとっても、そこで暮らす人たちにとっても意義のある社会貢献活動を組織の中で提案しても、「それをやれば売り上げが増えるのか」という一言の壁に跳ね返されて…という経験のある人も少なくないはず。

個人の思いとしては共感できても、既にある組織や市場のあり方を前提に考えると、どうしても先に進めなくなる。そんな既存の組織や市場に潜む壁を、フューチャーセッションのような対話の場を通じて乗り越えようとしているのが、アサヒグループホールディングスのグループ会社横断プロジェクト「VOICEs」事務局の中村威さんです。

中村さんがVOICEsにフューチャーセッションを取り入れたことで、プロジェクトメンバーは自社の経営理念や長期ビジョンの持つ可能性に気付き、その魅力を広く社内外と共有する方法などについて経営陣に提案することができました。VOICEsをきっかけに、社内の各部門で課題の解決に対話を活かそうとする機運も少しずつ芽生えてきたといいます。

企業のアイデンティティを再認識させ、社員のやる気にも火をつけたVOICEs。いったい、どのように始まったのでしょうか。

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中村威(なかむら・たけし)さん 
アサヒ飲料株式会社マーケティング部担当部長兼企画業務室長
米国の大学を卒業後、1991年にアサヒビールに入社。広報、宣伝分野が長く、宣伝部時代には看板商品の『スーパードライ』の広告や企業広告の制作に携わる。2011年の持ち株会社体制への移行を前に、グループの「ありたい姿」を経営層に提言するプロジェクト「VOICEs」(ヴォイス)を立ち上げる。社外でも、社会の様々な問題を子どもの視点に立って考えるChild Future Sessionの運営に関わるなど、多様な議論を通じた持続可能な未来づくりに意欲的に取り組む。

 

中村さんは、米国の大学を卒業した後の1991年にアサヒビールに入社。宣伝部門が長く、宣伝部時代には看板商品の『スーパードライ』の広告や企業広告の制作に携わっていました。その過程で、商品だけではなく企業ブランド向上に本気で取り組む必要性を痛感したという中村さん。グループ会社全体をブランドの視点から見渡せるような部署をつくるべきだと上司に直訴したところ経営企画部へ異動となり、自らその実務を担当することに。これが、今の中村さんの立場を形づくるきっかけになりました。

折しも、同社ではグループ経営という方向性が打ち出され、2011年には純粋持ち株会社体制への移行を検討していました。全グループ会社のブランドステートメント「その感動をわかちあう」が目指すものを社内外に浸透させながら、ビールなどの酒類をはじめ、飲料水や食品、医薬品などの分野でグループ子会社間で協力しながら企業ブランドをいかにして高めていくべきか―。社員の考えを経営層に提言するグループ会社横断プロジェクト「VOICEs(ボイス)」を立ち上げ、中村さんは事務局を担うことになりました。

「浸透」から「対話」による発見へ

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多彩なバックグラウンドを持ったパイオニアたちが、VOICEsメンバーたちに多様な価値観を注入。

VOICEsでは、グループ会社内から自薦他薦で20人を募り、第1期として同年1〜6月まで企業ブランド強化に向けた具体的な施策づくりをテーマに実施されました。中村さんは第1期の当時について、こう振り返ります。

社員をできるだけ巻き込みながら、企業ブランド強化に向けた様々な施策を経営層に提言しました。しかし、そのプロセスの中で、グループの企業ブランドと言われても、社員の中には自分の実務とは関係ないという意識があって、実はあまり腑に落ちてなかったんですよ。

そんなことを、ある社外の人に話したら「中村さん、社内浸透という考え方って上から目線ですよ。理念は浸透させるのではなく、社員が自ら動きたくなるようにならないといけないんじゃないですか」と言われてハッとしたのです。

社員をはじめとするグループのステークホルダーの共感を得ながら、皆にとって魅力的な理念や施策を考えていくアプローチが必要ではないかと気付かされたのです。

中村さんは、早速このことを経営層に伝えます。すると、社長から直々に「それなら、アサヒグループとしての『ありたい姿』を社員が自ら考える仕掛けを考えてみないか」との意向を伝えられました。

「さあ、どうしよう」

そんな時、中村さんは株式会社フューチャーセッションズ代表取締役・野村恭彦さん(当時は富士ゼロックス在籍)と出会い、フューチャーセッションについて知ることになります。

フューチャーセッションとは、多様なステークホルダーによる対話から「共通善」と見いだしていく、欧州発の議論と参加による課題解決のアプローチ。野村さんは、フューチャーセッションの日本での第一人者とも言うべき人です。野村さんとの出会いは、中村さんにとってVOICEsのその後を決定づける突破口になったようです。

すべてのステークホルダーの賛同を得ていくことが重要でしたので、フューチャーセッションのアプローチがとても魅力的に感じられました。

中村さんは早速、どのようなスキームによってVOICEs内でフューチャーセッションを行うべきか、野村さんと相談しながら考案し、一ヶ月後には経営層にプレゼン、ゴーサインを得たそうです。

こうして始まったVOICEs第2期は、メンバーに多様な価値観に触れてもらうことで、社会を捉え直してもらうことにフォーカスし、同年10月から8カ月間続きました。子育て、介護、地域活性化、コミュニティづくり…。「食」という同社の本業とは一見すると接点の少ないテーマの最前線の話をきっかけに、メンバーにはアサヒグループの「ありたい姿」のイメージを膨らませてもらいました。

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VOICEsのメンバーがフーチャーセッションでの気付きからグループの「ありたい姿」を討議する様子

議論が進み、いよいよ経営層への提言作成に向けたワークの段階に入っていきます。そこでは「食の可能性の追求」「対話の必要性」という2つのテーマが浮上し、メンバー間で連携しながらさらに提言づくりが進みました。最終的には、どのような提言に結びついたのでしょうか。

「9万回の食」がキーワードになりました。人生80年で1日3回食事をすると考えると、単純計算で私たちは人生で約9万回食事をする機会があることになります。9万回の食のクオリティを少しずつでも上げることができれば、世の中の幸せ度がアップするのではないか―。社内外の人たちとの対話を通じて、そんなことを誰よりも考える集団になろうと提言しました。

提言内容を経営層に報告する際には、フーチャーセッションの時に話してくれた社外の人たちにも同席してもらい、経営層と社外の双方からフィードバックを得ることができました。これも、多様な人たちによる対話を通じた課題解決のチカラを信じる中村さんらしい、ちょっとしたチャレンジでした。

「9万回の食」を掲げることで、ベビーフードから介護食まで取り扱う私たちのグループとしての強みを打ち出すことにもつながり、個人的にも良い提案だったと思っています。

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プロジェクトワークショップの中で出てきた言葉の数々…

大切なのは「枠を取り払うこと」

VOICEsの最終提言となった「食の感動の共有」は、2013年2月に発表されたアサヒグループホールディングスの「長期ビジョン2020」にも盛り込まれ、VOICEsは一つの区切りの時を迎えました。長期ビジョンの文言として残されたのは目に見える成果と言えますが、それと同じぐらい忘れがたいのは、VOICEsに関わったメンバーの変化だったと中村さんは言います。

フューチャーセッションを重ねるうちに、少しずつメンバーの目の色が変わってきました。業務上、VOICEsの活動は全体業務の1割ぐらいになるという前提でお願いしていましたが、盛り上がってくると徐々に割合が大きくなってきましてね…(笑)。

社内にだけいると、何かと我慢したり、発想が狭くなりがちです。でも、こうした場をつくることで、グループ会社同士の親密度は上がりました。(社内外、部署などの)枠を外すことと、外した時にお互いに共有できる「ありたい姿」を持つことの大切さを痛感しました。

そして何より、事務局メンバーの中で自分が一番変わったと言う中村さん。

企業ってそれぞれ個別に経営理念をつくりますが、それらを社会でもっと他の企業や他のセクターの人たちと共有すれば、社会を良くする力になると思うんですよね。それぞれ役割を持った個人が、共感をもってつながっていくと、組織が強くなり、社会が変わっていく——。VOICEsでのフューチャーセッションを通じて、そんな可能性を体感することができました。

VOICEsのメンバーは今、それぞれのグループ会社の現場に散らばり、「食の感動」の具体的な事例をつくるべく奮闘しています。「VOICEsはまだ始まったばかりなので、具体的な成果物と言えるようなものはまだありません」と中村さんは謙遜しますが、VOICEsで蒔かれた種は、少しずつ芽吹き始めています。

その一つが、アサヒグループホールディングスのCSR部門が毎年11月11日に実施している「いただきますの日」(*)感謝祭イベントの中で、食をテーマとしたフード・フューチャー・セッション(FFS)を開催したことです。

今回のFFSでは、フードロス(食品廃棄)の問題を取り上げました。フードロスを課題として取り上げるのではなく、私たちのビジネスや暮らしの中でどう活用していくかという視点でセッションを行い、今後も継続的に開催することになりました。課題や情報を各部門がどのように活かしていくかを考えさせる仕組みができたことは、小さいながらも成果ですね。

*「いただきますの日」プロジェクト普及推進委員会は、並んだお箸をイメージし、11月11日を「いただきますの日」と設定しています。「いただきますの日」には、“いただきます”という言葉にこめられた5つ(自然・いのち・労働・知恵・周りの人)の感謝を通じて、それらのつながりを実感するためのイベントを開催しています。http://itadakimasu1111.jp/

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FFSの様子

多様性があれば突破できる!という確信

それにしても、中村さんはどうしてこうも組織にいながら次々と新たなチャレンジを続けられるのでしょうか。グループ会社間のネットワーク「VOICEs」の原型を提案したり、そのあり方に限界を感じた時にはフューチャーセッションという新しい手法を取り入れるように提言したり、はたまた経営層に成果をフィードバックする場に社外の人も入れてしまおうなんて考えたり———。中村さんのこうした発想と行動の原点も、実は多様性がキーワードになっていることが見て取れます。

高校、大学とアメリカで過ごす中で、自分の狭い価値観だけに縛られていては全然ダメだということを、イヤというほど思い知らされました。でも逆に、多様な人たちの考え方の中のどこかに必ず突破口があるということも、同じぐらい感じることができました。だからでしょうか、経営層にフューチャーセッションの提案をする時も根拠のない自信がありました。

中村さん自身が、多様性に身をさらし、ネットワークを広げれば可能性が開けることを、信念を持って体現しているのです。

社会的なインパクトをもたらすためには、組織の持つリソースをもっと活用したほうがいいと思います。僕のような人間が、企業側の窓口になって持続可能な社会づくりに取り組む社外の方々とつながりながら活動を広げていくことに、これからもチャレンジしていきたいです。

VOICEsのメンバーが核となって広がったさざ波が、どのような商品やサービスという大きなうねりとなって実を結ぶか——。ビールが出発点だった会社からは考えられないような、いい意味で期待を裏切るものとなるかどうか、今からとても楽しみですね。

ぜひみなさんも、対話の場が持つ力をビジネスにいかしてみてはいかがでしょうか?

(Text:木村麻紀)

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ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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