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地元の魅力を全国に届ける”10代の声”!石巻の中高生が配信するインターネット番組「くじらステーション」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

皆さんはマイメディアをお持ちですか?ブログやSNS、YouTubeなどを用いて配信される個人の情報発信メディアを、広域媒体であるマスメディアに対して「マイメディア」と呼ぶそうです。

東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市には、明るく元気な声と一生懸命な姿が印象的なマイメディアがあります。地元の10代が中心となって配信しているくじらステーションをご紹介します。

「まずはやってみよう」の精神でチャレンジ

今年の6月に放送を開始したくじらステーションは、毎月1〜2回、Ustreamにて配信しているインターネット番組。企画や会議、取材、番組準備、そして番組配信まで、運営は全て地元の中学生と高校生が行っています。石巻駅から徒歩圏内の「こはく(白空/Co Hack)」というシェアスペースを借りて、1時間ほどの配信時間の中で石巻の魅力を伝えています。

11月9日に配信された第8回では、三陸沿岸部で行われたサイクリングイベント「ツール・ド・東北」や、震災後2年8ヶ月ぶりに再開館したばかりの博物館「サン・ファン館」の様子が紹介されました。1時間番組ということもあって内容は見応えがあり、なにより「良い番組を作ろう」というメンバーの気持ちが伝わってきます。

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第8回くじらステーション、配信の様子

くじらステーション代表の木幡真人(こはたまさと)さんにお話を伺いました。現在、石巻高校の3年生です。

立ち上げのきっかけとなったのは、NPO法人メディアージの大矢中子さんとの出会いでした。大矢さんはその時すでに仙台の大学生と一緒にUstream番組を配信されていましたので、僕が”石巻の高校生”であることを伝えると「じゃあ一緒に、新しく高校生版の番組をやろう!」という話になり、すぐにメンバー募集を始めました。

この時は、一体何人の人が見てくれるだろうという心配よりも、「やろう」という気持ちだけでしたね。

地元のラジオ番組をよく聞いていた木幡さんは、メディアの仕事に憧れを持ち、「将来はアナウンサーになりたい」という目標を持っていました。知り合いの大学生にその想いを話したところ、「メディアの仕事に興味があるなら訪ねてみたら」と大矢さんを紹介されたそうです。自分の想いを身近な人に話すことが、新しい出会いにつながりました。

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くじらステーション代表の木幡さん

最初は声をかけて集まってくれたメンバー6人で、今年の5月29日にミーティングをしました。しかしこの時は、何をやるのかというコンセプトがまとまらなかったんです。学校のことを発信するのか、ボランティアのことを発信するのか。どのようにして強いメッセージ性を出していけばいいのか悩みました。いろいろ考えてみても決まらなかったので、「まずはやってみよう」ということに決まり、6月3日に第0回の配信をしました。

この第0回の配信を行った時は、大矢さんと出会ってから、たったの2週間後。そして第0回の企画は、番組の配信中にメンバーで話し合いをして番組名を決める、というものでした。この勢い、やる気こそが、中高生で運営しているくじらステーションの強みだと感じます。

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第0回くじらステーション配信の様子

配信を続けていくうちに、相手の話していることを聞いてしっかり考えた上で話せるようになりました。また最初は「何をするのか」という視点だけで内容を考えていましたが、今では「誰に対して何を伝えるのか」という視点で内容を考えるように変わりました。はじめる前に想像していたよりも多くの方に見ていただいて、正直驚いています。

放送を重ねるごとに番組の視聴者数も増え、頑張りに対する応援や「マスメディアを通じて知ることのできない情報を知れました」などといった反響の声も多くなってきています。首都圏の方や遠くは広島県の高校生など、多いときで50人ほどの方が見ているそうです。石巻で生まれた熱が、じわじわと全国に伝わりだしています。

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ただ、初回ミーティングからの半年間、木幡さんは団体を運営していく中での苦労もあったそうです。立ち上げ当初は人集めに苦戦し、その後もメンバーへの仕事の割り振り、任せた仕事の管理や会議への出席率の低下などに頭を悩ませる日々。一つ一つの課題に向き合い、工夫しながら乗り越えてきたことで、現在の運営スタッフは14人まで増えました。

いつも心がけていることは、メンバーにやってもらった仕事に対しては、「ありがとう」とお礼を言うようにしています。あと、メンバーがどんなにできないと思ったことでも、小さくていいから何か一つをやってもらいます。簡単に諦めてしまうのではなく、何でもいいのでできる範囲のことをやることで、「自分も参加しているんだ」という本人の意識につながります。

また、今の3年生が卒業して抜けるときのことを考えて2年生の子たちにも仕事を任せるようにしているのですが、「前回の反省点に関して夜にSkypeで話せませんか」という申し出があるくらい自主性も芽生えてきました。熱い気持ちで真剣に取り組んでもらえることは素直に嬉しいです。

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石巻の魅力を、10代の声として伝える

「石巻の魅力は何だと思いますか?」と質問をすると、木幡さんは迷わず「人」と答えました。

石巻の魅力は人です。高校生活だけでは分からなかったんですが、活動を通じていろいろな方と触れ合う中で、石巻には暖かくて心のある人が多いように感じています。そんな地元の方々と、震災後に東京や他の地域から入って来た人たちとの面白いコラボが生じているので、震災前の石巻とは少し違う町になっています。

地域活性化には、よそ者・若者・ばか者が必要といいますが、石巻においてもよそ者が町の空気を変えているようです。それに中高生のような10代にとっては良い刺激になるのだとか。

今までは、地元の大人とか大学生ですら交流する機会がなかったんですが、震災後は面白い方たちとの出会いが増えました。町中のシェアスペースに顔を出すと、そこで活動している面白い大人や東京から来た大企業の方がいて、そんなすごい人たちと普通に交流することができます。目標にできるような大人と出会うと「自分もこういう大人になっていきたい」と思いますし、それによって自分たちの活動の質も上がっていきます。

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番組の先にある価値をつくる

震災から3年目に入った今、人が集まれるソフト面での活動が増え、木幡さんはようやく復興の時期に入ったと感じています。

被災地・石巻という町は徐々に風化しつつあるのかもしれませんが、実感として震災復興はこれからだと思います。まだまだ続く復興に関して、くじらステーションの番組配信を通して、情報と意識の共有が図れるようになるといいなと考えています。

それと、被災地の東北では”高校生も頑張っている”ということを、全国の特に同年代の高校生に届けたいです。

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木幡さんのこれからの目標は、番組の質をさらに高めていくこと。良い番組を作るための努力はこれからも続きます。そして最後に、全国の皆さんへ伝えたいことを伺いました。

「とにかく観てほしい」の一言です。1時間の中で何でもいいので何かを感じてもらって、「石巻へ行きたい」とか「石巻のものを食べたい」といった、番組の先の行動につながっていくといいなと思っています。そんな、番組の先にある価値をこれから作っていきたいです。

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東日本大震災では、「被災地」となった石巻。そこに住む中高生たちは、石巻の魅力を伝えるという前向きな情報発信を通して、”町のために自分たちができること”をカタチにしていました。

次回の放送は12月28日(土)17時から、3時間スペシャルの予定です。ぜひ、のぞいてみませんか?

(Text:安藤貴明)