ISSUE日本と世界のソーシャルデザイン a Piece of Social Innovation

8 months ago - 2013.11.22

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わくわくした気持ちで、成長できる教育現場を。子ども参加のコミュニティをつくる「En Lab.」荒木寿友さん

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ミャンマーの子どもたちと荒木寿友さん

みなさんは学生時代、授業にワクワクしましたか?先生の教え方ひとつで、授業の印象は大きく変わりますよね。

今回ご紹介する「En Lab.(エンラボ)」代表の荒木寿友さんは、その授業での教え方やカリキュラムのつくり方を研究し、大学で先生を目指す学生に対して、授業するだけでなく、ミャンマーでの教育支援や東北復興地での子ども参加に基づいたまちづくり活動を行っています。

そんな荒木さんに、「En Lab.」を立ち上げるまでの経緯と、教育への思いについて伺いました。

ミャンマーの教育を、現場から変えていく

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荒木さんが准教授を務める、立命館大学でお話を聞かせていただきました。

荒木さんは、大学でワークショップ、対話、教育方法を研究し、教育を教えるかたわら、2009年から今年5月まで「南東アジア交流協会」に所属して活動していました。ミャンマーで公立の学校に通えない子どもたちのために、校舎を建てて教育環境を改善することが目的の団体です。

ミャンマーの教育現場の現状を知り、荒木さんは大きな危機感を感じたと言います。

教育のやり方がまずいと感じました。先生が指し棒で指した文面を子どもたちが大きな声でそのまま復唱するだけ。全体的に暗記するだけの教育だったんです。これでは子どもたちに考える力が育たない。この状況をなんとか変えていきたいと思いました。

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貧相な小屋の中で、子どもたちが学んでいる

とはいえ、いきなり外国から来た人にあれこれ言われると問題が生じるため、現地の方と関係をつくりながら、先生たちに授業をどうやってつくっていくのかを徐々に伝えていくようにしたそうです。

最近やっと、先生たちの授業のスタイルがこれまでと変わってきて、ようやく成果がみえてきましたね。日本であれば当たり前なのですが、先生が教材をちゃんと準備するようになり、その教材を通して子どもたちがどう考えたのかを子どもたちに発言してもらうなど、暗記型だけではない授業が増えていきました。

先生たちが授業のゴール(目標)を考えるようになったことは大きいと言います。

これからミャンマー国内の経済格差はどんどん広がり続けると思います。民主主義の意味を理解していない人たちもすごく多いのが現状です。

自分の意志を発言して、他者と折り合いをつけながら共通のものをつくりだしていく力が、これからはますます大事になってくる。そのために今の子どもたちが考える力をつけていかなければ、10年後20年後のミャンマーは危ないと思いますね。

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先生たちの多くは女性。彼女たちも低賃金で働いている

子どもたちによるまちづくりへの参加

ミャンマーだけでなく、これまで研究してきたことを実践で活かしたいという思いから「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の国内事業にも関わっています。

東日本大震災の後、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2011年の5〜6月にかけて、岩手県と宮城県の子どもたちに行った調査の結果、たくさんの子どもたちが「子ども同士で話し合ってまちのために何かしたい」と考えていることがわかってきました。

そこで、この子どもたちの声を受けて、「子どもまちづくりクラブ」という活動がはじまりました。

岩手県陸前高田市、岩手県山田町、宮城県石巻市の3つの地域を対象に、子どもたち同士だけでなく、地域の方と意見交換をし、行政や専門家とも話し合いながら、地域の復興に向け、さまざまな活動を行いました。

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山田を活性化するためのイメージキャラクター「まつしい」。山のさちのまつたけとしいたけをミックスして「まつしい」と名づけたそうです。

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陸前高田を照らすシンボルとなる場所をつくりたいと考えてつくられた「あかりの木」。

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石巻では子どもからお年寄りまで、さまざまな年代の人がコミュニケーションをとって、ゆったり過ごせる広場がほしいという夢から、子どもセンターの計画が完成。現在、着工されているのだとか。

荒木さんが大切にしていることは、ここで子どもたちが考えたことを現実化させていくための黒子に徹すること。子どもたちが夢を描けば、それは実現することを体感してもらいたい。そんな経験を積んでもらいたいと考えているそうです。

子どもたちの夢のエッセンスを読み取って、つなぎあわせていきました。シンボル的なものがほしい、安全な通学路がほしい、といったさまざまな意見が出たのですが、それらをまとめた意見書を行政に伝えつつ、行政が会議をやるときは、子どもたちがプレゼンできるような場所と時間を提供してもらうようにしました。

子どもまちづくりクラブがはじまった当初は、プログラムなども本部・現地スタッフといっしょに考えていましたが、荒木さんは京都で仕事をしているため、頻繁に現地に行くことはできず、現在は本部・現地スタッフがすべておこなっているそうです。

また、子どもたちが大きく成長し、子どもがファシリテーションをする場面も見られるようになったと言います。


 

きっかけは、プレイフルな学びとの出会い

荒木さんは大学の授業だけで忙しいはずなのに、休日や大学の休み期間を使ってミャンマーや東北の活動をされています。それほど行動的に活動する背景にはどんな思いがあるのでしょうか。

30歳まで大学院で教育を学んでいました。博士論文を書くことが当時の主な目標だったのですが、これがいったい世の中に何の役に立つんだろう、と思っていた時期がありました。

そんなとき、たまたま深夜テレビでどこかのNGOが海外のある地域に学校をつくっている映像を見ました。教育学が役に立つ具体的な姿を見た気がして、いつか海外教育支援を行いたいと思うようになりました。

そんな思いを抱きつつ同志社女子大学で教えていた頃、タイのstudyツアーに誘われ、このときHIVの孤児の現状を知った体験から、よりいっそう海外の教育支援を強く意識するようになったそうです。

さらに同じ大学で同じ科目を教えていた上田信行先生との出会いが大きいと言います。

僕の人生を大きく変えた方ですね。「プレイフル・シンキング」や「プレイフル・ラーニング」という本も書かれています。「プレイフル」とは、わくわくドキドキする心の状態のことです。

上田先生はぜんぜん教育者っぽくないのですが、そういったところも含めて、私の生き方に影響を与えてくれました。今アグレッシブに活動しているのは、きっと自分がわくわくできる状況をつくり続けたいからでしょうね。

上田先生から影響を受けた授業の課題に「五感アルバム」というものがあります。

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これは視覚、聴覚、味覚などにうったえかけるものがあれば写真をとって紹介するというものですが、普段意識していない感覚を意識することで子どもに戻る感じがするんです。

効果が実証されているわけではないですが、五感に敏感になることで子どもたちが発信するさまざまな信号をキャッチしやすくなるのではと思っています。僕の授業ではわくわくする状態につながるためのきっかけを用意するようにしていますね。

休校で子どもたちが遊べる場づくりを

そして今年、荒木さんは立命館大学の荒木研究室の学生たちを中心に「En lab.」を立ち上げました。

立ち上げた経緯は複数あります。一つは国内も海外も同じメンバーで教育支援に関われたら一貫性のある活動ができるのではないかと感じたことです。この一貫性は、ワクワクした気持ちで成長できる教育の場の形成を目指すことです。

もうひとつは、今後、日本の教育現場にはますます子ども主体の授業形式、つまり子どもたちがアイデアを持ち寄り新しい価値を創造していくような授業が増えてくると感じていたので、そういった場面にうまく関われる教師、ファシリテーションできる教師が必要だなと感じていたことです。

3つめは、ワクワクした教育の現場やファシリテーター育成やミャンマーの教育支援などは自分ひとりの力では到底できないと感じていたので、仲間がほしいと感じていたこと。こういった想いが重なって団体を立ち上げました。

ゼミというような、成績評価で縛られた関係ではなく、荒木さんが描いた「絵」にボランタリーに集まってくれる人でどこまで組織がつくれるのかを、やってみたかったというのもあるそうです。

ネーミングはサークルの円、人とのご縁、燃えたぎる炎、お互い助け合う援、パーティという宴など、さまざまな意味が込められているとか。メンバーは学部生、大学院生、小学校教員、NPO関係者などさまざま。冒頭で紹介したミャンマーでの活動は「En Lab.」として引き継いでいるそうです。

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地域の子どもがほとんどいなくなって休校になった学校があります。京都市北区の雲ヶ畑小・中学校というところなのですが、この周辺の自治会長さんと知り合ったことがきっかけで、そこに京都市内の子どもたちが集まって、豊かな自然を満喫してもらったり、創造性を刺激するようなワークショップをしています。

そのワークショップを「もくもく大作戦」と呼び、雲ヶ畑地域を学びのフィールドとして開催されています。雲ヶ畑の自然豊かな環境を活かし、子どもにさまざまなワークショップを展開することで、環境に対する認識や、人間を取り巻くさまざまな事柄に対する認識を深めることを目的とされています。

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このプロジェクトには、ファシリテーターを育てたいという思いもあります。

教育現場に入っていくにはワークショップのファシリテーション技術がどうしても必要です。このスキルを鍛える場所としても活用していきたいと思います。

最終的にはこの場所を自然の中にある遊びのミュージアムのような場所にしたいと夢を語る荒木さん。ミャンマーの先生たちや東北の子どもたち、京都で荒木さんから学ぶ若者たちが、荒木さんにどんなふうに影響を受けて活動していくのかも楽しみですね。荒木さんの活動にピンときた方は、まずはEn Lab.のホームページをのぞいてみてはいかがでしょうか。

writer ライターリスト

狩野哲也

狩野哲也

狩野哲也(Tetsuya Kano)京都生まれ、大阪在住。雑誌の編集者兼ライターを経て、現在は冊子やwebの企画編集執筆から、イベントの企画、NPO/NGOの広報アドバイス、企業や大学、行政のプロジェクトをデザインするなど、さまざまな領域で活動中。出張文化講座サロン文化大学の運営も。 Website:kanotetsuya.com Twitter:@kanotetsuya Facebook:Tetsuya Kano

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ミラツク

ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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