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リュックひとつでお店のできあがり!山登りしながらフリマを楽しむ「摩耶山リュックサックマーケット」

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摩耶山リュックサックマーケットの様子

秋になると山登りがしたくなる方も多いのではないでしょうか。そんな方にご紹介したいのが、兵庫県の六甲山系で人気を集めている「リュックサックマーケット」です。このフリーマーケットは、リュックひとつあればだれでも参加できます。

山の魅力を知ってもらうために

リュックサックマーケットは、六甲山の高座の滝で産声をあげました。六甲山を登ってみると、中高年の登山客やボーイスカウトの子どもたちは多いものの、若い人たちの姿は多くありませんでした。そこで六甲山が好きなメンバーが山の上で一日カフェなどをして、若い人たちに山の魅力を知ってもらう試みをはじめました。その試みの中から生まれたアイデアのひとつが、リュックサックマーケットです。

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六甲山・大谷茶屋前の山道でリュックサックマーケットを開催

リュックサックマーケットを考案した、編集者の藤本智士さんはこんな文言をチラシに記しています。

きかなくなったCDや、読んでしまった本、じぶんでかいた絵、きなくなった服、手作りクッキーなどなど、なんでもOK。じぶんの「いらない」や「みせたい」や「あげたい」がきっとだれかのHAPPYにつながるはず。そんなささやかな思いをお気に入りのリュックに込めて、会場にきてください。

リュックサックからじぶんのいらないものをだして、かたわらにリュックをおけば、はい、お店のできあがり。出店者とお客さんのくべつがつかない。ほんわかのんびりマーケット。きっとたのしいはず!

またリュックサックマーケットは、お金をつかっておかいものをするのはもちろん、ぶつぶつこうかんだってOK。お金という「ものさし」もいいけれど、それいがいの「ものさし」についてもかんがえてみるきっかけになればいいな。

結果は大盛況。六甲山のふもとの大谷茶屋の前でリュックサックを背負った若者たちがそれぞれ担いできたいろいろなものを並べ、ふだんは登山をする人たちが中心の場所に、見慣れない人たちが混ざって会話している光景が生まれました。

2006年2月からは、このリュックサックマーケットを聞いた摩耶協議会の慈(うつみ)憲一さんが、摩耶山で開催するようになりました。摩耶山も六甲山系のひとつです。阪神・淡路大震災の影響で震災後6年間止まっていた摩耶ケーブルが動きだしたこともあり、魅力あふれる摩耶山を若い方たちに知ってもらうと、リュックサックマーケットをはじめられたそうです。

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慈憲一さん。通称、灘区を愛するnaddist。

はじめたころは10組もなかったのですが、今では出店数が200組を超えるときもあります。車での持ち込みは禁止しているのでリュックの入るぶんだけ詰め込んで、みなさんピクニック気分で登られていますね。

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摩耶山リュックサックマーケットの様子

出展料がいらない。事前に申込する必要もなしということもあって、気軽に参加できることがうけていると分析する慈さん。もともとのハイカーだけでなく、家族連れや若い人たちの参加が目立ちます。

販売が目的ではなく、自己表現やコミュニケーションの場に

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お酒を飲みながら一曲リクエスト曲を流してもらえるブースなども

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古着販売の様子

自宅でつくったパンを売る人、コーヒーをいれる人、人の話をきいて文章にしてくれる人、野点をはじめる人、散髪する人などさまざまな光景が見られます。

出店して儲かるような場所じゃないからギラギラした業者がいません。自己表現のひとつで出店されている方が多いです。山というハードルを超えてくる方たちだからか、自然とゆるい方が集まりますね。出展者同士が仲良くなっていく様子を見るのが楽しいです。

出展者同士が新しい企画をつくってスピンオフイベントを開催することもあるそう。例えばそのひとつが「摩耶山スパイスピクニック」です。

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摩耶山スパイスピクニックのチラシ

なぜかカレーの出展者が多かったことから食・味をテーマにした企画が生まれたんだとか。総勢26店舗、メニューは40種類以上と、ショッピングセンターのフードコートと変わらない勢いです。

また、アート作品中心の展開を試してみようという企画が「リュックサックギャラリー」です。

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主催/摩耶山再生の会 共催/灘区役所

月に一度、摩耶山にケーブル・ロープウェーで登り、人々が交流の輪を広げる。山上をみんなが集う憩いの場にしたいですね。

摩耶山とまちを結ぶインフラが復活

リュックサックマーケットがきっかけで山上で知り合った方たちのコミュニティが生まれ、そのコミュニティから新しいプロジェクトが生まれました。そしてさらに摩耶山と街を結ぶインフラが整いつつあります。

実は2010年10月ごろに摩耶ケーブルと摩耶ロープウェーで構成される「まやビューライン」が存廃の瀬戸際に追い込まれていました。しかしリュックサックマーケット効果もあってか、存続を求める声が相次いでいたため復活しました。

ここで終わらないのが摩耶山を愛する慈さんたちです。当時、摩耶ケーブルまで行くには三宮からバスで25分という時間を要し、気軽に訪れるのは困難な場所でした。まちと摩耶ケーブルまでの間にバスを走らせることができないかと画策します。

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2012年の秋から坂バスの社会実験が実施され、摩耶山再生の会の事務局長である慈さんも実行委員会のメンバーとして動き、2013年から本格運行がはじまりました。ここでも慈さんたちは手綱を緩めません。バス会社から委託を受けて、回数券を販売しました。

たくさんの方に乗車してもらうきっかけをつくるキャンペーンをいろいろ開催しました。そのひとつがこちらです。

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戦隊モノ!? マヤブルーというそうです。回数券を売っています、というタスキをかけておられますね。このようないろいろな楽しいしかけを使ってまちのみなさんを摩耶山に送り込もうとされています。理由は摩耶山を愛しているから…。その手札のひとつがこちらです。

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ビューテラスの新スポットとして「monte702」が誕生しました。ここでは慈さんたちのアイデアで、アウトドア用品のレンタルを開始されています。

灘区の地元企業との恊働プロジェクト

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2人乗り電気自動車

最近では灘区の企業である六甲産業株式会社によるプロジェクト「六甲山=EVマウンテン」プロジェクトのお手伝いで、六甲山・摩耶山に電気自動車を走らせました。この自動車のレンタルの窓口を担当されています。これは山の上だけを走る乗り物で、摩耶山と六甲山の間の10kmぐらいの期間で乗車できるようになります。

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また、灘区の地元食品会社、サンナッツ食品株式会社と摩耶山上でおみやげとして販売するおやつを開発したり、こちらも灘区の老舗企業、鈴木薄荷株式会社と虫除けを開発するなど、地元企業が活躍できるプラットフォームとして摩耶山が利用できる展開を考えておられます。

現在、六甲山、摩耶山だけでなく、近くの高取山でもリュックサックマーケットを開催する動きが広がっています。

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高取山リュックサックマーケットの様子

慈さんのインタビューを通じて感じたのは、慈さんが面白がって摩耶山を「勝手に応援する」ことで、その遊びに周りの人たちが盛り上がり、その盛り上がる人の輪がぐんぐん広がっているように感じました。

山が好きだから、という理由で活動しているだけで、”まちづくり”なんて言葉は大嫌い。むしろ”まちあそび”をしていると慈さんは考えます。そう、みんなが楽しく乗っかれる仕組みでなければ続かないと確かに思います。

リュックサックマーケットは単に登山を盛り上げるだけでなく、山とまちのヒトモノコトをうまく結ぶことができる仕組みのようですね。みなさんも、山に登るときは試しにリュックの中にいろんなものを詰め込んで登ってみてはいかがでしょうか。