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対話をする”タイミング”を大切に。地元の人たちと一緒に東北の未来をつくる「東北フューチャーネットワーク」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

楽天イーグルス日本一!という嬉しいニュースに沸く東北。

東日本大震災から3年を経て生活環境の復旧が進み、東北の人たちはこれからの自分達の未来、暮らしや文化の復興について、考えはじめているようです。
こうした変化に合わせて、支援団体も倒壊した家屋の撤去や泥かきといった肉体労働から、新しい段階へシフトしています。

宮城県石巻市が拠点の「一般社団法人こはく」が展開する「東北フューチャーネットワーク」もそのひとつ。

コアメンバーとして、TEDxTokyoにも登壇したダイアログの専門家ボブ・スティルガーさんや「カルマキッチン」の西園寺由佳さん、「home’s vi」の嘉村賢州さんも参加し、被災地のなかで異なるエリアやジャンルで活動する支援団体をつなぎ、東北の未来の暮らしを複合的に考えていこうという活動です。

今回は「こはく」の代表を務める岩井秀樹さんに、いま東北で求められているものは何なのか、お話を伺いました。

現場でしか事実はわからない 



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前列真ん中が岩井秀樹さん。KUMIKIプロジェクトの桑原さんたちと。

岩井さんは震災当時、保険会社に勤めていました。翌日にはトラック便を出して被災地に物資を配送するなど、会社を通しての支援を行ってはいましたが、保険金の支払い処理など、震災後の対応に全国の社員が総出するほどの慌ただしさだったのなかでした。

問題解決は、実際にその場の人や起きていることをちゃんと理解した上で、発想することでしか上手くいかないと仕事上での経験として思っていたので、早く現地に行って、現地で実際に起こっていることをみて、やれることを考えなきゃという想いをずっと持っていました。


しかし、実際に5月のゴールデンウィークに現地を訪れ、「自分に何ができるかまったくわからなかった」と振り返ります。

東京にいると、まずみんなで課題を出して、ビジョンをつくって、それをプロジェクト化しようという話になるのですが、現地に行ってみると、まずビジョンを考えるなんてそんな状況じゃなくて、ただ悲しくて辛くて…。そんなときにワークショップやりましょう、なんて言えないじゃないですか。

迷いを持っていた時、世界各地で紛争や自然災害の犠牲となった人々への心のケアや、地域の再建の支援を行っていて、以前から付き合いのあったNPO法人JENが、現地のコミュニティ再建から支援をはじめると聞き、

今まで僕がやってきた、色んな立場の人が集まって、さまざまな視点から話し合いを行っていくダイアログという場を開くことや、そこで出たアイデアや意見を地域に活かすフューチャーセンターという考えが、現地で活かせるのではないか、と思ったんです。

と、NPOと一緒に現地へ入り、いよいよ住民の人たちとの話し合いやプロジェクトづくりをしていくことになりました。

現地の人のための支援活動を

こうして石巻市にある牡鹿半島の中程に位置する、東浜という地域で支援活動をはじめます。そこは牡鹿半島は牡蠣の養殖を生活の糧としてきた地域ですが、津波で大きな被害を受けていました。


支援は食料配布からはじまり、浜の生活の中心であった漁業の再開のための物資提供、みこし祭りなどの地域行事の再開をお手伝いするなど、現地の状況に合わせて支援内容はさまざまに変化していきました。 



同じ地域の人の中でも、個人の考え方や、何に困っているのかという支援のニーズは全く異なります。
「必要とされる支援を、必要とされる人へ確実に届ける」をモットーに支援活動を行ってきたNPOが、変化する現地の状況の中でも、地域全体の状況や個人のニーズを丁寧に把握し支援活動を行うことができたのは、町内会の役員会など、地域に関わる話し合いに全て同席するほど、地元の人たちの中に受け入れられているからです。



今でこそ、「役員会の人たちとはみんな友達だから」と笑う岩井さんですが、最初はダイアログの場を開くことさえ難しかったと言います。

最初は大変というか、みんなよそよそしかった。こちらのことを信用してないし、「こいつらなんなんだ…」みたいな感じでしたよ。なので、とりあえず通って、話をして、たまに飲んで交流を重ねていきました。

飲むのが一番大事。行くときは必ず一升瓶を1本持っていくほどです。1回飲めば漁師さんも腹割って話してくれる。「お前こういう奴だったのか!」って(笑)

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ダイアログと言っても、なんとなく集まって対話をしても納得感がないまま終わってしまいます。そこで石巻でも、現地の状況をみながら少しずつ進めていくことに。

例えば参加してくれる区長さんが前向きになった時や、浜の人たちが 「やっぱり自分たちが先のことを考えなきゃいけないよね」という気持ちになった時だけ、実際に地域の人とダイアログの場を開きました。

被災者の人は、これからのことを考えられる状況ではなかったり、被災した体験について話したいと思ってなかったりする。だから、まず地元にいて、どういうタイミングだったらいいのか、誰とだったらいいのかを見ないといけない。

目的を忘れて、ダイアログをやりたい人のためのダイアログになっていけないから。当たり前だけど、その後はフォローしていってちゃんと現実に何かを変えていくことも大切です。


“浜の人のために”という気持ちが、住人と岩井さんの信頼関係を築きました。

今では区長さんたちとは、とてもいい関係です。地域の情報をしっかりと私たちに出してくれます。なにより、こちらからの情報やアイデアをなるべく受け入れて、「地域をよくしていきたい」ってトップの人が思ってくれていることが嬉しいです。

浜の人が浜に住み続けられて、地域が維持できるように

岩井さんが支援活動を行う浜のひとつ、狐崎浜の漁業者は、震災前と比べて減ってはいませんが、若者層の移転などによって急速な過疎化と高齢化が進んでいます。

この数年で、浜の漁業がある程度まで復興しても、さらに20年経ったときに漁師さんがいなくなってしまう。あとを継ぐ人もいないから、漁業者がいなくなるということが間違いなく起きてしまうんだよね。


遠くない未来、漁業を復興しても、人がいなくなる。そんな現実が浜にはありました。

また、牡鹿半島には約30の浜があり、そのほとんどの浜には、それぞれ違う漁業支援の団体が入っています。どこの浜も抱えている問題は似ているので、各地で漁業体験ツアーや宿泊施設をつくるなど、同じような活動を行っています。

立ち返れば、もともとは漁業の復興も、その地域での生活、仕事、教育を維持させるということが目的だったと思うんです。

だから漁業だけに目を向けるのではなく、地域に入っている支援団体が協力して、さまざまな視点から、浜の人が浜に住み続けられて、地域が維持できる仕組みを考えなくてはいけないと思ったんです。

そのために、2013年1月、漁業者支援や、高台移転、避難所の生活支援など異なるテーマで活動している団体が、“暮らし”というテーマで話すことのできるダイアログの場をつくりました。

そこから、それぞれの団体がこれまでの活動で見つけた課題の解決に、複合的に取り組むプロジェクトをおこしていこうと発足したのが「一般社団法人こはく」であり、「東北フューチャーネットワーク」だったのです。

支援活動を牽引する存在に


「フューチャーネットワーク」とは、地域の人や、企業、政府、自治体などの暮らしに関わるさまざまな立場の関係者を加えた対話の場をもうけることで、新しい視点を取り入れ、地域や支援活動が抱えている課題を解決するアイデアを生み出していく枠組み。

その中でも、岩井さんが最も期待をかけているのが、支援団体のリーダーの方々がよりリーダーシップを発揮できる体制を整えるためのファシリテーターとしての役割です。

リーダーの方々は、当然スキルとか技術を持っています。しかし日本では前例のない震災のなかで、悩みながら、自分たちの役割を見つけないといけないという場面では、自分がやっていることを内省したり、本当に自分が何をしたいのかとか探求したり、そういう時間が絶対必要だと思うんです。


特に、瓦礫撤去などの活動を行っていた団体は今、ボランティアのオペレーションから、これからの地域や、高齢者の暮らしを考え、支援する役割にシフトしようとしています。

一人でやっていても、そういったことはなかなか上手くいかなくて、むしろ悪い方向にいく可能性もある。そこで、みんなで話していきたいと思ったのが、この活動をはじめた一つのきっかけでもあります。

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フューチャーセンターの様子

お互いに触発できるような場があると、自分の想いを突きつめていくことが健全にできるのではないか、と岩井さん。

自分自身がダイアログを始めたときは、まだ企業に所属していいましたが、会社を辞めて新しく会社を作るべきなのか…とか、大きい転機のときに少し相談できる場があったことで、自分の方向性を失わずに進んでこられたと思っています。

だからダイアログの可能性として、活動の原点や、新たな可能性をそれぞれのリーダーの方が気づき、導き出していく場をつくることは、必ずできると思うんです。

支援活動の転機を迎える団体も多い中、岩井さんは、瓦礫撤去など、地域に入りボランティアを行ってきた団体の方が現場のことをよく知っていて、地元の人からもすごく信頼されているので、その地域の抱える課題の発見やアイデアを出すことに、適正があるのではないかと考えています。

「浜の人が浜に住み続けられて、地域が維持できるように」という想いからはじまった「東北フューチャーネットワーク」は、被災地全体の支援活動を牽引していこうとしています。 





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フューチャーセンターとしての未来 



「東北フューチャーネットワーク」の役割としては、(1)課題テーマの設定、(2)関心のある、あるいは利害関係のある人たちを集めての現状確認、(3)アイデアをた出すダイアログの場の開催、(4)プロジェクトのコーディネートの4つがあります。



現地からは課題提示がされ、アイデアを出す話し合いの場はあるけれど、実際に課題解決までたどりつかない。そんな“ワークショップ疲れ”の声も聞こえてきます。その一方で、現地の人にとっては「実際に実行することが自分に委ねられている。でも、自分たちには実行に移す力がまだない」という現状もある。



現地の人たちが、自分たちでこれからの未来をつくろうとしている今だからこそ、「東北フューチャーネットワーク」では、ネットワーク化で協力体制を築くだけでなく、ダイアログの場で得たアイデアをプロジェクト化していくチャレンジをしようとしています。



ステークホルダーとして関わる企業には、金銭的な支援だけでなく、事務所やコールセンターを開設することで、東北に雇用を生むというだけでなく、東北が自立していくためのノウハウ提供を行ってほしいと岩井さんは言います。

例えば我々が新しい情報発信の仕組みを作ろうと思った時に、企業からひとりふたりが、2〜3ヶ月間の間ボランタリーに手伝ってくれたら、東北でいいものがつくれるようになるんです。そういう支援の仕方をしていただけませんかと、企業に提案していきたいと思っています。

東北では、人口減少と高齢化が進んだ地域でいかに豊かに生きていくか、というのが一つの大きなテーマになります。
この問題は被災地だけの問題ではありませんが、特に被災地が急激に変化したことによって、被災地での解決策が他の地域の解決策になる可能性もあるのです。例えば高齢者の医療や健康の問題では、医療関係の企業や、製薬会社、医療器具の会社などに働きかけることができます。

ただ、企業にいいことだと思ってもらえるように、こちらからの働きかけや情報発信をしていく必要があるので、情報発信の仕方はこれからの課題だと思っています。

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地元の若者たちにも未来について考える機会をつくります

まだ活動をはじめたばかりの「東北フューチャーネットワーク」ですが、 これからの展望について岩井さんは、オランダをはじめとする行政との連携を特長としたヨーロッパ型のフューチャーセンターを目指したいと言います。

地域の復興でコーディネートできるパワーを一番持っているのは行政なので、そこに組み込まれてもいいと思っています。その可能性があるということは、行政のやり方そのものが変わる可能性があるということなので。

全部を変えるのは難しいとしても、行政と恊働関係を築けたら、縦割りじゃなくて全てを横に考えていく場所ができる。そうすることで、従来の行政と全く違うものがそこに実現されるんじゃないかなと。それがよりよい東北の未来にきっとつながると考えています。

たくさんの目がほしいと岩井さん。
現地からの声に応え、よりよい未来を築こうとする「東北フューチャーネットワーク」には
みなさんも、もちろん参加することができます。

東北で起きてることで自分なりに感じたこと、見たことがあればぜひ、岩井さんに伝えてください。みなさんからの情報が反映され、一緒にできることを模索することで、ネットワークはよりよい東北の未来をつくっていくはずです。

(Text:櫻井眞)