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国境や世代のボーダーを越え、一緒に未来をつくる場を。 “共創する世界”をデザインする会社「ハバタク」

ハバタクメンバーハバタク株式会社のメンバー。長井悠さん(左)、丑田俊輔さん(中央)、小原祥嵩さん(右)

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

出る杭は打たれる。誰もが聞いたことのあることわざですよね。才能があり目立つ人は周りからねたまれやすい、出しゃばった事をする人は非難される、といった意味があり、以前は日本の社会のあり方を表現するために使われていたこともありました。

このことわざを覆すようなスローガン、“出る杭は羽ばたく”を打ち立てて活動をしている会社があります。その名も、ハバタク株式会社(以下、ハバタク)です。

今年10月より4期目に突入するハバタクは、これまで様々なプロジェクトを手がけてきました。例えば、日本の学生とシンガポールの学生が協力し合う学習プログラムの運営。都市問題解決というミッションを与えられた学生たちは、言葉の壁を越えたコミュニケーション能力を養いながら、価値観を広げていきました。また、ベトナムで行ったビジネス共創ツアー。単なる視察ではなく、現地の人と対話を重ねながら新規ビジネスのアイデアを構築するという取り組みです。

他にも、アメリカのMITやタフツ大学に学生を連れて行き、ともに学ぶプログラムや、地域に根ざした教育環境づくり、まちの未来を住民自身がつくりあげていく場づくりなど、様々な活動を繰り広げています。

一見バラバラに見える事業内容ですが、ハバタクのプロジェクトはすべて、あるミッションでつながっています。それは、私たち一人ひとりが等身大の“幸せのカタチ”を見出し、それを実現できるような社会をつくることです。

社名に込められた思い、ボーダーを越えるプロジェクト、そしてハバタクが描く未来像について、ハバタクの代表取締役である丑田俊輔さんにお話を伺いました。

ハバタク代表 丑田俊輔さんお話を伺った、ハバタク株式会社代表取締役の丑田俊輔さん

自らの探究する世界へ“羽ばたく”冒険者を育む

国境、組織、世代、分野など私たちを隔てるボーダーは世の中にたくさんあります。けれど現実の世界は、ヒトもモノも情報もボーダーを越えてつながっています。もはや決まった正解のない社会において、私たちの価値観もボーダーを越える必要があると、丑田さんは言います。

前職ではグローバル企業で仕事をしていました。その時に感じたのは、グローバル競争のなかで日本人の仕事が残らないかもしれないという不安と、社会のあり方はグローバリズムに乗っかるだけではなくもっと多様であっていいのではないかという希望でした。何か根本的な部分、コンピュータでいうところのOSを丁寧に見つめ直す必要があると思ったのです。

現在の暗記・偏差値型の教育は一律の価値観や限られた成功の道を押し付けがちな側面があります。閉じた環境での学びは、生き方の多様性を狭めてしまうという結果になりがちです。ハバタクは、自らの探究する世界に“羽ばたく”冒険者を育むことを目指し、ボーダーを越えた学びの場を提供し、共に何かを創り出す喜びを体験できる環境作りに取り組んできました。

自分のコンフォートゾーンを飛び出し、たくさんの人やアイデアと出会い、多様な価値観に触れる。するといままで“正しい”と思っていたことがボーダーの向こう側では違っていたり… このような体験がこれまでの固定観念を壊し、それぞれの良さを認め合い、自分のありのままの生き方を見つける手がかりになるのです。

ベトナム、シンガポール、アメリカと多くの国境を越えてプロジェクトを手がけてきたハバタク。その経験から学んだのは、アジアの新興国においても価値観の転換が必要だということでした。

日本の軌跡を猛ダッシュするアジア諸国

経済成長を遂げた日本は、金銭的な豊かさを手に入れました。しかしその反面、心の病気、自殺、格差、犯罪、環境汚染といった社会のひずみも多く抱えています。経済の発展が著しいアジアの新興国でも同じようなひずみが生まれつつあるといいます。

現在アジア諸国は、日米の軌跡を猛スピードで辿っています。彼らは今、経済を発展させることに注力し、これから起こりうる社会問題まで十分に手が回らない。もしくは目下の成長のためにネガティブな影響には目をつぶっている状況です。

同じ過ちを繰り返さないために、日本人がアジア諸国のためにできる事があるのではないか。そう考えた丑田さんは、2011年からベトナムに拠点を置き、社会課題解決に挑む起業家をサポートする事業を始めました。

決して経済成長を否定し止めにかかるわけではありません。けれど、未来のあり方をシフトさせることは可能だと思っています。すこし先の未来を経験した僕ら日本人が問題意識をしっかりと持ってアジア諸国へ行き、現地の人たちと対話を重ねることで、既存の延長線上にはない“第三の未来”を作りたいと思う仲間が必ず増えると思っています。

次代を担う若者をベトナムに送り出し、現地起業家の右腕となって社会課題に挑む。さらに、専門性の高い日本のビジネスプロフェッショナルが彼らをバックアップするという、国境も世代も超えたイノベーション創出への実践がベトナムを中心に行われています。

Habataku_Vietnam社会企業家をサポートするためにベトナムへ飛んだ若者たち

アジアでの事業は日本企業にとって大きな武器となる新たな付加価値も創出しています。物価的な優位性もバイタリティもあるアジア諸国と真正面に戦うには厳しい場面も多い日本企業。だからこそ、彼らと同じ土俵ではなく、社会問題解決・共創型という新たな視点からビジネスをつくっていくことは、現地の人にとっても、これから海外に進出する日本企業にとってもメリットがあります。

様々なフィールドで活躍する丑田さんですが、彼をここまで突き進める原動力は何なのでしょう。その原点は学生時代に取り組んだ活動にあったといいます。

社会課題を解決するビジネスモデル

丑田さんは大学時代、「千代田区中小企業センタービル」の立て直しに携わりました。

千代田区が所有する5階建ての公共施設は、一等地に在るものの活用方法や頻度が限られており、一定規模の維持費もかかっていたそう。同区は民間の力を借りてこのビルをインキュベーションの拠点にし、町を活性化させることを決めました。

公共施設を使って町を盛り上げていくという公益的な側面の強いプロジェクトでしたので、初めはNPOを設立しようと検討していました。しかし、NPOは出資が認められていないという問題があり、大きな建物をリノベーションするためのまとまった資金を集めることは難しい。そこで、「非営利型株式会社」という定款を設けました。

ビジョンに共感してくれる人、自分ごととして経営に参画してくれる人、この町を盛り上げたい人から出資をしてもらい、剰余金は配当にまわすのではなく、活動に再投資することでより多くの価値を地域に還元しようという試みです。

当時大学で学んでいた経営論とは全く異なるビジネスのあり方に関わった丑田さん。価値観を共有できる仲間や株主は次第に集まり、短期的なお金とは違う“配当”を得ることができるプロジェクトは無事に動き出しました。2004年、「ちよだプラットフォームスクウェア」がオープン。現在、NPO、ソーシャルビジネス、ベンチャービジネスなどの様々な組織が集積され、ビルの入居者数は約300数十社にも上っています。ハバタクもこの場所を拠点に活動を広げています。

NPO・株式会社といった既存の概念を越えたビジネスのあり方を学んだ貴重な体験でした。地域・社会の課題はビジネス視点を持って実直に取り組んでいけば、持続的に解決できるということ。ビジョンを共有し顔が見える関係性を育むことで、金銭的な資本のみならず、社会関係資本が培われていくということを学んだ3年間でした。

世代や組織というボーダーを越え、一緒に何かを創ることで得られる喜びと学びは、ハバタクが目指す未来像のインスピレーションとなりました。

s_habataku
ハバタクのウェブサイト http://www.habataku.co.jp/

ハバタクが描く“共創する世界”

これまではI(私)が優先されていた時代です。人と人、人と自然、現在と過去、といった様々な関係性から自由な「個」となり、それぞれの経済合理性を追求することで、暮らしは豊かになっていった。その一方で、漠然とした不安を抱える人も増えていった。3.11はそのもやもや感が噴出する象徴的な出来事でした。これからは、We(私たち)が中心となり、お互いが手を取り合って一緒に未来を創っていく時代です。

人に任せるのではなく、目の前にある社会の問題を自分ごととして認識し、自ら小さな改革を始めてみる。すると、信頼関係や喜びといった、新たな資本が生まれます。お金中心の貨幣経済一辺倒ではなく、必要なものを自分たちで作りだす自給経済、そして共同体の中で知識やモノを交換し合える贈与経済といった多様な経済のカタチが同居すれば、社会はもっと安定するのではないでしょうか。

教育だって同じこと。先生や学校まかせにするのではなく、家族や地域、そして社会全体が学びの場になれば、より多くのアイデアや価値観が生まれるはずです。

このような統合された未来のカタチを、丑田さんは“共創する世界”と呼んでいます。

“共創”という価値観は、学びやビジネス、そしてまちづくりなど私たちを取り巻く様々な場所で必要とされています。ハバタクはこれまでの経験を基に、事業内容を再定義し“共創する世界”を目指して、新たなチャレンジをはじめています。

ハバタクのこれから

現在、ハバタクには丑田さんの他に二人のコアメンバー(長井悠さんと小原祥嵩さん)がいます。長井さんが中心に取り組んでいるのが、共創思考を育む教育環境づくり。教育機関や企業と提携して様々な教育プログラムを開発・運営します。ホーチミン市に住む小原さんが展開するのが、ベトナムを中心としたアジア諸国の社会企業家と日本企業を繋ぐ取り組み。社会問題解決・共創型という新たなビジネスのあり方の創出に尽力していきます。

そして、丑田さんのミッションは、秋田の五城目町で始める「持続可能な社会のモデルづくり」。地域の足元にある宝を見つめ直し、そこから仕事を生み出すローカルベンチャーを集積していきます。同時にまちの教育環境をより豊かにしていくことで、地域の風景や文化、そこで生きるという選択肢を未来に残していくことに挑戦していきます。

活動を進めていく上でメンバーが大切にしているのが、顔が見える関係を育むこと。成功例を持ち込むのではなく、対話を重ね現地特有の課題を理解し、当事者と一緒に解決策を見出していくのがハバタクスタイルです。東京であっても、地方であっても、アジアであってもこのアプローチに揺るぎはありません。

それぞれ土地特有の作法や文化があるので、プロジェクトが一筋縄では進まない場合もあります。けれど、それを楽しみながら受け入れるポジティブさが必要です。最初から100点でなくてもいいのです。大切なのは、凸凹を受け入れながら、一緒に何かを創りだすことですから。

ハバタクの挑戦は始まったばかり。けれど、関係性を育み、対話を大切に、それぞれのあり方を尊重しながら事業を進めていく“共創”という考え方は、これからの日本を支える力強い根っこになっていくのかもしれません。

私たち一人ひとりが主役になって、一緒に何かを創りだす社会。そこにはきっと、お金に換えられない感動と自信が生まれるはずです。