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3 years ago - 2013.09.22

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美術館や森で見つけたものが、楽譜になる。夏の作曲会「アートとあそぶなつやすみ」 [イベントレポート]

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大きな木の下で音楽会ができたらいいな。

子どもたちの夏休みの真っただ中に、そんな思いから実現した作曲のワークショップがありました。今日はそのワークショップの模様をお届けします。

企画の発端は、子どものためのアート情報誌「tonton」(トントン)のプロデューサー、葉山万里子さんと、千葉県にあるDIC川村記念記念美術館の職員、海谷紀衣さんの出会いでした。

2011年から子ども向けワークショップを企画していた海谷さんと、子どものいる家庭を対象にしたさまざまな企画を行ってきた葉山さんのコンセプトが合致し、この夏、同館での「アートとあそぶなつやすみ」というワークショップ企画が実現したのです。

今回ご紹介する「夏の作曲会」は、そのプログラムの中のひとつ。二人が偶然にも「森の音楽会をやりたい」(葉山)、「美術館の庭の大きな木の下で演奏会を聞きたい」(海谷)という共通する夢をもっており、みんなで音楽を奏でるようなワークショップができたら、というところからこの企画はスタートしました。

illustration : hisae maeda
illustration : hisae maeda

上の絵は、葉山さんのイメージをもとにイラストレーターの前田ひさえさんが描いたというビジュアルイメージです。

でも、どうやって音楽を奏でるワークショップを実現するの?

開催が決まると、葉山さんは音楽家の蓮沼執太さんと映像作家/研究者の菅俊一さんに相談をもちかけました。

菅俊一さん(左)、蓮沼執太さん(右)
菅俊一さん(左)、蓮沼執太さん(右)

2人とは、今年の5月に音と映像を使った「音をぬすむ」というワークショップを開催した経験がありました。すると、蓮沼さんから「楽譜をつくる」というアイデアが飛び出し、2人で相談をしながら、誰にでも作曲と演奏ができるようなしくみを設計。菅さんがそのためのツールを考案しました。

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その結果でき上がったのが、上のようなツールです。このツールを使うと、誰にでも1小節のメロディをつくることができるということです。一体どのようにして使うのでしょうか。

目で見たものが、楽譜になる

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当日、参加者がDIC川村記念美術館の会場に集合すると、まずは二人による自己紹介からワークショップがスタートしました。

蓮沼 音楽家の蓮沼執太です。

 僕の名前は菅俊一です。みんなが「不思議だな」と思っていることを「なんでだろう」と考えて本に書いたり、作品をつくったりしています。

その後は、いよいよツールの使い方の説明です。

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 これは簡単に作曲をするための道具です。真ん中が透明になっていて、5本線が書いてあります。この透明な窓を通して森や美術館の作品を見た時に、例えば「木の枝の部分を音楽にしてみよう」と思ったら、枝のかたちや場所に合わせて、線の上にシールを4つ貼ります。これが、そのままみんなの楽譜になります。

蓮沼 シールのところが音符だとすると、この場合はドとドとミとレの音になります。演奏するとこんな音になります。

蓮沼さんが4つのシールを音符に見立てて木琴をたたくと、4拍で1小節のメロディができ上がりました。簡単にいうと、目で見た景色やもののかたちを楽譜に置き換えてしまうツールというわけです。説明が終わっても小さな子どもたちはきょとんとしていましたが、まずは実践ということで、会場の外へ移動。さっそく美術館の敷地内で、音にするかたちを探します。

蓮沼 さて、音楽になるでしょうか、ならないでしょうか。

美術館や森で音探し

DIC川村記念美術館
DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館には1,000点を超える美術作品が所蔵されており、この日もコレクション展が開催されていました。このワークショップでは、展示室の中を自由に歩き回って音符の元になるかたちを探すことができます。美術館というと集中して作品を見なくてはいけないというイメージがありますが、これは子どもにとっても大人にとっても、ちょっと新鮮な体験です。

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ダダとシュルレアリスムの作品が展示されている部屋にて。女の子がツールをかざしているのは、マン・レイの作品「赤いアイロン」
ダダとシュルレアリスムの作品が展示されている部屋にて。女の子がツールをかざしているのは、マン・レイの作品「赤いアイロン」

展示室にはフランク・ステラやバーネット・ニューマン、マーク・ロスコなどの大型作品が多数展示されており、見応えがありました。

それぞれにお気に入りのかたちを見つけ楽譜ができ上がったら、実際に楽譜を演奏する練習にうつります。

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先ほどの会場にもどり、5、6人ほどのチームに分かれて練習。この後はチームごとの発表会とあって、みんなけっこう真剣です。

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ピアニカや縦笛、太鼓やサックスなど、色々な楽器の音が聞こえてきます。色んな「1小節」が重なり、音楽らしい音が聞こえてくる瞬間も。発表会に期待が湧いてきました。

いざ、舞台へ

DIC川村記念美術館
DIC川村記念美術館

コレクションの豊富さに加えて、DIC川村記念美術館のもうひとつの魅力が広大な庭。約30ヘクタールの敷地内には青々とした芝生の広場や池、散策路があり、都心の美術館にはない気持ちよさが味わえます。

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発表会の舞台となるのがこちらの木の下です。この時点でも、冒頭でご紹介したイラストの世界観を実現しているようです。

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4つの音符を並べただけの楽譜は、それをどんな風に演奏するか、どんな長さや強弱で演奏するのか、というのが肝心なところ。蓮沼さんが各チームを回ってアドバイスします。作曲家として活躍する蓮沼さんの腕の見せどころです。

そしてなごやかに練習がつづく中、ついに「じゃあ、そろそろやってみましょうか」という一声で発表会がはじまりました。
結果は、下の動画をご覧になってみてください。全員による合奏(0:20〜)では、各チームが2小節ずつ演奏した後、全チームで2小節を演奏します。たった1小節の組み合わせがハーモニーのように重なる瞬間にご注目ください。

ワークショップを終えた蓮沼さんと菅さんに、今日の感想をお尋ねしてみました。

蓮沼 楽譜をつくるというアイデアから出発して、参加者の方に抽象的なことをやってもらうワークショップだったので、ちゃんと進行できてよかったです。外で演奏するということもなかなかないので、良い機会になったかなと思います。

 試みとして面白かったです。今日参加してくださった方は、「木のパターンっておもしろいな」とか、普段の生活を見る目が少し変わってくるんじゃないかと思うんです。

僕は “日々の暮らしがより楽しく見えてくるしくみ” をつくりたいと思っているので、今日のワークショップで新しい視点でものを見るという感覚を感じてもらえたら嬉しいですね。このことが音楽を楽しむきっかけになればと思います。

美術館の海谷さんとtontonの葉山さんからも一言。

海谷 夏休みはご家族連れでいらっしゃる地元のお客様が増える時期ですから、遊びながら学べるワークショップを提供することで、美術館をより身近な場所に感じてもらいたいと考えていました。

今回はアーティストも手探りで着地点の見えない「予定不調和」な状態からスタートしましたが、みんなの個性が集まって形になる過程で、スリルと達成感を共有できたことが良かったと思います。

tontonプロデューサーの葉山万里子さん(左から3人目)、tontonスタッフの向坊衣代さん(右)tontonプロデューサーの葉山万里子さん(左から3人目)、tontonスタッフの向坊衣代さん(右)

葉山 作曲というとハードルが高いけれど、通常とは違う方向から作曲を体験してもらえたんじゃないかと思います。イメージのイラストのような楽しい空間の中で、子どもたちが幸せそうに演奏していたことが良かったです。これからも、色々な切り口で「tonton」の活動を展開していきたいです。

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取材を終えて

作曲家の蓮沼さんと映像作家/研究者の菅さんにとっても実験的な試みだった今回の企画。ワークショップというと、既にでき上がったメソッドを教えるというのが普通ですが、教える側も楽しみながら、初めての試みにトライしていたことが印象的でした。

今年の2月に21_21 DESIGN SIGHTで開催されていた「デザイン あ」展など、最近子ども向けコンテンツがおもしろくなってきています。菅さんが自己紹介で言及していたように「不思議だな」とか「なんでだろう」といった気持ちに、大人と子どもが同じ立場で興味をもてるようなコンテンツ増えてきました。

その背景には、制作にさまざまなジャンルのクリエイターが参加し、自由な発想や、子どもの発想から大人が刺激を受けるといった相互作用がうまく生かされるようになってきた、ということがいえるのではないかと思います。そういった取り組みから生まれたコンテンツは、子どもが楽しみながらとりくめる、ということが素晴らしいと思いました。

今回のワークショップのような試みも、今後ますます求められていくのではないでしょうか。参加者のみなさん、企画者のみなさん、ありがとうございました!

菅俊一(映像作家/研究者)
1980年東京都生まれ。
映像作家/研究者。人間の知覚能力に基づいた新しい表現の在り方を研究し、映像や展示、文章をはじめとした様々な分野で活動を行なっている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/0655」ID映像、modernfart.jpでの連載「AA’=BB’」、著書に「差分」(共著・美術出版社)など。2014年4月より多摩美術大学美術学部統合デザイン学科の教員に就任予定。
http://syunichisuge.com

蓮沼執太(音楽家)
1983年東京都生まれ。
音楽作品のリリース、蓮沼執太フィル/チームを組織して国内外でのコンサート公演、コミッションワーク、他ジャンルとのコラボレーションを多数制作する。音楽アルバムに4枚組CD『CC OO|シーシーウー』(2012年 HEADZ / UNKNOWNMIX)、舞台作品に『TIME』(2012年 神奈川芸術劇場、国立新美術館)、主な個展に『have a go at flying from music part 3』(2011年 ブルームバーグ・パヴィリオン|東京都現代美術館)、『音的|soundlike』(2013年 アサヒ・アートスクエア)。11月に神戸アートビレッジとNADiffにて個展を開催予定。2014年よりアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の招聘でアメリカ・ニューヨークに滞在。
現在、蓮沼執太フィルのスタジオレコーディングアルバムを制作中。
http://shutahasunuma.com

writer ライターリスト

yu miyakoshi

ライター 大学時代に絵を学び、アメリカやアジアなどを旅して異文化交流の楽しさを知る。 greenzではクリエイター/アーティストへのインタビューを担当。 アートの着想がいろんなことを引っ張っていってくれる。アーティストじゃなくても、そんな思いつきが壁をやぶってくれるはず。そんな瞬間がたくさんあったらいいなと思っています。   宮越 裕生 FACEBOOK @yumiyakoshi

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