ISSUE 国際交流

3 years ago - 2013.09.09

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ランチタイムに旅をする?!料理を楽しみながら、世界をもっと深く知る「LunchTrip」

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タンザニア大使館でのランチトリップの様子。大使とタンザニア料理でランチ。

「Ladies & gentlemen, welcome aboard…」そんな機内アナウンスとともに「LunchTrip(ランチトリップ)」は始まります。

ランチトリップは、日本にいながら外国を旅行した気分が味わえるプロジェクト。ランチタイムに、ある国について“ガイド”と呼ばれるその国について詳しい人からお話を聞き、ワークショップで理解を深め、他の参加者と交流しながらその国のランチを食べるのです。会場を飛行機に見立て、これから旅する国を機内で学んでいるという設定で、その国を深く理解することを目指します。

今まで行われたランチトリップは「サウジアラビア便」「マダガスカル便」「ハワイ便」「フィリピン便」など40回以上。大使館を会場にした“便”があったり、池上彰さんがガイドとして登場する“便”があったりと、ちょっとした驚きも織り交ぜながら行われ、多くの人が“搭乗”しています。

まずはどんな旅があったのか、見ていきましょう。

州知事になった気分で学ぶ「ハワイ便」

2012年9月に行われたランチトリップは「ハワイ便」。多くの人はハワイと聞くと常夏の楽園、白い砂浜ときれいなビーチ、さんさんと照りつける太陽、大型ショッピングモールなどを想像するのではないでしょうか。

しかし、ランチトリップでは、そういった一般的なイメージだけの理解にとどまりません。この日の“ガイド”は多くのハワイに関する書籍を出版している作家の山下マヌーさん。今回は、山下さんがハワイに暮らすことで見えてきたハワイの現実を、“パッセンジャー”(=参加者)が知ることを旅の目的にしていました。

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山下マヌーさん(中央)と、ランチトリップの松澤亜美さん(左)、はたなほさん(右)

事前課題は堤未果さんの『貧困大国アメリカ』(岩波新書)を読んでくること。ハワイ州は観光が主な産業であるため、地元の人にお金が回らないという現実があります。書籍を読んでハワイ州の現実を知った上で、当日は山下さんからお話を聞きました。

例えば歴史の面では、移民政策をとった理由や日系人の差別との戦い、アメリカに併合された時の話など。また教育は、教育費をカット→先生を首にする→学校は週4日に→親も週4日勤務に……という悪循環が起きていたり、カメハメハ・スクールに入学できるのは、ハワイの血が入った人たちだけであったりという問題があるようです。

他にも、NYのホームレスがハワイに送られていることや、ハワイの人は半数以上がこの島を出たいと答えていること、ハワイ語を話せる人たちは極めて少ないことなど、日本ではあまり知られていない課題がたくさんあるようです。

こういった話を受けて、ワークショップでは「あなたがハワイの州知事だったら、このような現実のあるハワイを、どうクリエイトしていく?お金も時間も関係なく、夢のあるアイデア募集!」をテーマにグループディスカッションを行いました。

各チームには現地の人やハワイを良く知る人が1,2名配置され、参加者はその人と話しながらハワイについての理解を深めました。

パッセンジャーからは

実は歴史的背景を全く知らない状態で行きました。我々の先祖が異国の地で開拓をすすめていった様が、心を打ちました。観光地として、というより先祖が残したものを見てみたい、という意味でハワイに興味を持ちました。

州として成立するまでの苦労以外に、華やかな観光地である現在のハワイにも、貧困、教育などの問題があることを知りました。

などという感想が寄せられました。

その後は参加者同士が交流しながらのランチタイム。ハワイらしいロコモコ、ポテト、ロミロミ、ポキ、マンゴーサラダなどの食べ物に舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせました。

紛争から避難している人のリアルを聞く「シリア便」

また、2013年3月に行った「シリア便」では、WordLinkというICTを活用した新しい国際協力を行う団体とコラボレーションして開催。シリアは現在内戦中であり、紛争の内容に踏み込んだ政治的な話題になると、党派によって違った解釈があって回答が難しい場合もあるといった状況のなかで行われました。

このときのお一人目のスピーカーはジャーナリストの根本かおるさん。シリアから難民申請をする人も数多くいることを受けて、日本の難民支援の状況が説明されました。

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その後はランチタイムに。メニューはマクルーベ(鶏肉の炊き込みごはん)、フムス(シリアやアラビア諸国で食べられるひよこ豆のディップ)、フェダチーズを使ったトルコ風サラダ、トルコ風ラム肉のトマト煮、ヨルダン風チキンバーベキュー。本格的でおいしい食事を食べて、参加者はシリアの食文化に想いを馳せました。

ランチ後は考古学者の山崎やよいさんの講演。何万年もの歴史的背景に触れた上で今シリアで起こっていることを理解できるようにと工夫された内容で、参加者はシリアの現状を理解しました。

その後、トルコに避難中のシリア人学生とSkypeでつないで話を聞いたり、会場にいた愉快なシリア人留学生に話を聞いたりして、現地の人の生の声を聞いた後に、ワークショップに。ちなみに、もしもの時の学生の身の危険を案じ、参加者もカメラマンにもSkypeの画面を撮影する事は控えていただきました。学生も、留学生も明るくひょうきんで年も近いのに、口からは「国に帰れば殺される可能性がある」という言葉が出てきました。

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トルコに避難中のシリア人学生とSkypeでつないで状況を聞いたほか、会場のシリア人参加者にもお話を聞きました。

この回のワークショップでは「もしあなたが、シリアから他の国に避難している立場だとすれば、SNS、Skypeなどインターネットを使って、東京の人たちとどんなことがしたいと思いますか?」というテーマでチームに分かれて話し合いました。

パッセンジャーからは以下のようなコメントが寄せられました。

会場にいらっしゃったシリアからの留学生が、現地にいる学生の意見を代弁してくれた時の言葉や表情、思いが印象に残っています。

明るく素敵な笑顔が印象的でしたが、家族と離れ、辛いことも多いのだろうと思います。今日お話してくれた彼を含め、難民の方々の状況が改善していくように、日本からできることを見つけていきたいと思います。

ガイドならではの内容とワークショップを大切に

内容が盛りだくさんで、毎回非常におもしろそうなプロジェクトですが、どんなところに工夫があるのでしょうか。ランチトリップの代表、松澤亜美さんにお話を聞きました。

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ランチとリップ”搭乗中”の松澤亜美さん

たった2時間半の間でその国のことをすべて何もかも知ることなんてできっこありません。だからこそ、ガイド個人のパーソナルな想いや考えが伝わる形でランチトリップを企画することが大切だと考えています。同じハワイ便でも、ガイドによって内容が違うので、何度来ても楽しめるのですよ。

また2時間半という時間を最大限に有効活用するために、ランチトリップではワークショップの内容を非常に大切に考えています。松澤さんは学生時代に教育学を専攻しており、授業案を考えていました。授業案は通常、一つの授業の内容だけのことを考えるのではなく、その授業の前後の時間に何をするかまで考えた上で、その授業で最高の学びを得られるように作成します。

この授業案作りの経験を生かし、松澤さんは2時間半という短い時間で、参加者がその国を可能な限り深く理解できるように、ガイドとともに事前課題やワークショップを組み立てています。

誤解をなくす異文化理解を

ランチトリップを始めたきっかけを、松澤さんはこう話します。

ランチトリップは、国際交流や異文化体験というよりも、異文化理解を大切に考えて行っています。なぜなら、アメリカへ留学したときに、異文化理解は今後の日本にはますます必要になると感じたからです。

アメリカへは9・11テロ事件の約5年後に行ったのですが、家の近所でターバンを巻いた男性が、イスラム教徒だとして殺されたのです。実際には、その人はイスラム教徒ではなくシーク教徒だったのに。イスラム教徒だから、という理由だけで人を殺そうと思うのは、「イスラム=悪」という単純な図式しかその人の頭の中になかったからでしょう。誤解というものは非常に恐ろしいことだと思いました。近い将来、日本ももっと国際化が進むでしょうが、異文化理解を進めた方がよりよい社会が作れると思いました。

また、留学中に仲良かった友達のほとんどは、もともと日本に興味のない人たちでした。そこで手巻き寿司を食べてもらうことで文化を紹介することができるということを実感したのです。

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また、ルームメイトはメキシコ人移民だったのですが、会って初日にアメリカのことを「この国はFAKEだ」と言っていました。彼女は6歳の頃からリンゴ畑で働いたそうです。そのリンゴは安価な値段でアメリカ人の口に入ります。そうやって一方で移民の安い労働力に依存しつつも、もう一方で移民を追い出そうとしているアメリカの姿を彼女は「FAKE」と表したのです。

彼女の発言や見聞きしたことからアメリカの多様性の問題を考えるうちに、「日本は単一民族だと言われがちだけれど、そうではないな」と、翻って国内の問題を考えることにもなったんです。

異文化理解を深めることは、無理解や誤解による憎悪犯罪を抑止することになり、自国を再発見することにもつながる。そう確信した松澤さんが、「楽しい、好きなことなら続けられる」と考えたときに思いついたのが食、旅、学のランチトリップだったのです。

世界に目を向けよう

松澤さんは旅で受ける衝撃をランチトリップで疑似体験してほしいと言います。ランチトリップ後のパッセンジャーの変化はさまざま。たとえば、今までハワイや韓国などのにしか旅行をしたことがなかった人が、ランチトリップで異文化理解の楽しさを知ってあまり一般的でない国を旅したくなったり、旅行先で現地の人と交流するようになったり。国内にも多様な文化があることに気づく人もいるそうです。

また、ランチトリップで得た知識をそれぞれの仕事に活かしている人も多いとのこと。このように、少しずつでも世界に目を向けて理解しようとする人が増えてほしいと、松澤さんは話します。

ランチトリップは1,2ヶ月に1回程度、不定期で運航(開催)しており、費用は4,000円程度。次回は9月29日、イラン大使館でのLunchTripが決まっているとのこと。東京がメインですが、大阪、静岡、福岡などでも年に数回開催しています。その国を深く知りながらランチを楽しむランチトリップ。ぜひ皆さんも一度”搭乗”してみてはいかがでしょうか。

LunchTripに参加してみよう!
LunchTripホームページ

writer ライターリスト

FelixSayaka

greenz ライター フェリックスさやか。大学院卒業後、小学校非常勤講師を経て教育系出版社に編集者として勤務。退職後、フリーランスで執筆活動を行う。在職中から外国人向けテニススクールの運営を手伝い、「地球人としての日本人のありかた」「日本人の国際人教育」について興味を持つ。 Twitter:@SayakaFelix

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