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「ベランダで野菜を育てるように、電気をつくろう!」“あるものいかす”独立型太陽光発電インストラクター、早川寿保さんインタビュー

依頼主が暮らすマンションのベランダで、太陽光パネルの設置角度を調整する早川寿保(としやす)さん 依頼主が暮らすマンションのベランダで、太陽光パネルの設置角度を調整する早川寿保さん

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

「自家発電に興味はあるけど、高そうだし、難しそう…」と思っている方、多いのではないでしょうか?

売電を目的とするシステムは業者に頼む必要があり高額ですが、送電線を必要としない独立型のシステムを自分で設置すれば、ケータイの充電程度なら1万円台から可能。10万円もあれば、自宅にいっぱしの発電所ができあがります。

自家発電暦10年!の早川寿保さん

札幌からバスや車で約1時間のところにある、夕張郡由仁町に住む早川寿保(としやす)さんは、電気の自給を望む人々に、発電のしくみ、希望や環境に合う機材、設置方法などをわかりやすく伝え、自分に合ったお手ごろサイズの自家発電から始められるよう導いてくれる、頼もしいインストラクター。

自家発電暦10年、DIY暦20年以上の経験と勘所を活かし、走行距離35万6千キロ(約地球9周分)の愛車いっぱいに機材や道具を積んで、道内どこへでも出張レクチャーに駆けつけてくれます。

頼めば施工も引き受けてくれますが、早川さんの本領は、自力で設置したい人々のガイド&サポート。なぜなら、自分が手や体を動かして関わるかどうかで、そのシステムに対する愛着の度合いが変わってくるからです。

最初からすべての電気を自給しようとしなくていい、というのがぼくの考えで、「自分がまず自給したいのは何を使うための電力なのか」に焦点を合わせ、ムリのない予算で、できる範囲から始めてみることをオススメしています。

自家発電の醍醐味は、誰かに任せきりにせず、自分でチャレンジしてみること。野菜だって、自分でつくった家庭菜園のものは、特別かわいくておいしく感じるっしょ?電気も同じ。自分で手をかけたぶん愛しくなって、「だいじに使おう」っていう気持ちが自然と湧き上がってくるんです。成り立ちがわかり電気が身近になると、いろんな発見も生まれるはずですよ。

アフターケアも含む個別対応の傍ら、お声がかかれば複数の人々へのセミナーやワークショップも開催。別の仕事をしながらこの活動を始めた早川さんは、約2年間で100回を超えるセミナーやワークショップを開き、道内50ヶ所以上のお宅に、送電線から独立した“マイ発電所”が誕生しました。

この夏、札幌市南区のMさん宅にも、照明自給にフォーカスした“100W発電所”が誕生! 撮影:はらみづほ この夏、札幌市南区のMさん宅にも、照明自給にフォーカスした“100W発電所”が誕生!(撮影:はらみづほ)

独立型太陽光発電って、どうやるの?

早川さんの手づくり資料「誰でもできる自家発電のすすめ」をもとに、独立型太陽光発電の基本を、少しだけお伝えしましょう。基本的に必要な機材は、以下の4種類。この順番で各機材を配線でつなぎ、最後はインバータに付いているコンセントに、使いたい家電のプラグを差し込めばいいのです。

1)発電用の太陽光発電パネル:屋外に置くことが多いが、日当たりのいい屋内でもOK。

2)発電からチャージまでの現状を表示し、電気の逆流を防ぐチャージコントローラー:屋内に設置。

我家のチャージコントローラ。現在12.3Vで充電中。にっこりマークは、“順調”のサイン 撮影:はらみづほ 我家のチャージコントローラ。現在12.3Vで充電中。にっこりマークは、“順調”のサイン(撮影:はらみづほ)

3)発電した電気を貯めておくバッテリー:風雪で消耗するので屋内に置くか、容器に入れ屋外に。

繰り返しの充電に適した「ディープサイクルバッテリー」。写真の品の容量は115Ah(アンペアアワー)=1380Wh(ワットアワー)。でもバッテリーは電気の残量が半分以下になると電圧が落ち働かなくなってしまうので、計算上は最大690Whの容量となり、例えば10WのLED照明なら、69時間使える、という計算
繰り返しの充電に適した「ディープサイクルバッテリー」。写真の品の容量は115Ah(アンペアアワー)=1380Wh(ワットアワー)。でもバッテリーは電気の残量が半分以下になると電圧が落ち働かなくなってしまうので、計算上は最大690Whの容量となり、例えば10WのLED照明なら、69時間使える、という計算

4)発電された12Vの直流電流を、家電で使える100Vの交流電流に変換するインバータ:屋内に設置。(12Vの電化製品のみ動かせればいい場合などは、インバータは不要)

手前の青い器具がインバータ。横の白い器具はチャージコントローラ。どの機材も、容量やデザインはまちまちです 撮影:はらみづほ 手前の青い器具がインバータ。横の白い器具はチャージコントローラ。どの機材も、容量やデザインはまちまちです(撮影:はらみづほ)

太陽光パネルは、直角に光が当たると最も発電率が上がります。通年の発電効率を考えると、関東なら南向きに30度の角度で設置するのがベストですが、北海道や雪の多い地域ではパネルの上に雪が積もりにくい60~70度に設置するのがベターで、垂直にすると雪に日光が反射して夏より発電率が上がる場合もあるそう。

パネルを載せる架台を可動式にしたり、何かに立てかけて置き、季節や時間によって角度を変えることができれば、最も理想的。必ずしも屋根に上げる必要はありません。

台車に載った可動式の太陽光発電システム。パネル以外の3種の機材は、それぞれ小型のものが白い箱の中にセットされています 撮影:はらみづほ 台車に載った可動式の太陽光発電システム。パネル以外の3種の機材は、それぞれ小型のものが白い箱の中にセットされています(撮影:はらみづほ)

ここで忘れずにおさえておきたいのが、電気の基礎知識。

・電圧=V(ボルト)…電気を送り出す力の強さ。人間で言うところの血圧。
・電流=A(アンペア)…電気の流れる量。V×A=W。10A契約なら、一度に1000Wの電力が使えます。
・電力=W(ワット)…どのくらい電気を使うか、を表す単位。
・電力量=Wh(ワットアワー)…1時間に消費する電気量。W×h(時間)=Wh。

複数の機材をつなぐ場合は、電圧が増える「直列」と、電流が増える「並列」の2通り。電気も水と同じで高い方から低い方へ流れるので、太陽光パネルからバッテリーに電気を流す場合、

1)バッテリーが12Vの場合は、電圧が17Vの太陽光パネルを並列につなげば、「電圧」は17Vのまま、「電力」が増加。

2)12Vのものを2つ並列につなぐなどして、バッテリーを24Vにした場合は、太陽光パネルを直列につなげば、17×2=34Vとなり、「電圧」が増加。

何をどのくらい使いたいかで容量、個数、配線も変わってきますが、これが基本形です。

現在の我家の太陽光発電所。太陽光パネル70W×3枚+100W×1枚を“並列に”つなぎ、バッテリーは12Vのまま、計310Wの電力を発電するシステムになりました 撮影:はらみづほ
現在の我家の太陽光発電所。太陽光パネル70W×3枚+100W×1枚を“並列に”つなぎ、バッテリーは12Vのまま、計310Wの電力を発電するシステムになりました(撮影:はらみづほ)

「寿保エネルギー」、発電中!

小学生でもわかるやさしい言葉で楽しく語られる「発電方法から宇宙の営み」にまで及ぶ早川さんのトークには、笑いや発見がいっぱい。名前通りの“寿保(寿を保つ)エネルギー”に感電したファンの輪と小さな発電所が、道内各地に急増しています。


今年の4月に札幌・豊平区のSさん宅で行われたセミナーの様子。みなさんのワクワクが伝わってきますね(撮影:松本のぶゆき)

早川さんがこの活動を始めたのは、2011年3月11日の東日本大震災のあと。福島原発の事故がきっかけでした。それまで一人で研究と実践を重ねてきた自家発電の手法や楽しさを広め、電気は誰にでもつくれることを多くの人々に伝えたい!と思ったそうです。

福島原発の事故後しばらくして、mixiで友達になった女性から、札幌市内で行われるという「脱原発デモ」に誘われたんです。それまでデモに参加した経験はなかったけれど、終わってから参加者たちで語り合う交流会があるというので、生まれて始めて参加しました。

何を隠そう、この記事を書いている私もその会で早川さんと出会ったのですが、みんなが不安や憤りに満ちた顔つきで今後の対策を講じ合う中、満面のニコニコ顔で発言した早川さんの声と言葉は希望と温かさに満ちていて、ぶあつい雲間から突然陽の光が差し込んだように人々が笑顔になり、その場の空気が一気に明るくなったのを覚えています。

出逢った当時、2011年春の早川さん 撮影:はらみづほ 出逢った当時、2011年春の早川さん(撮影:はらみづほ)

「イオテクノロジー」は、あるもの活かす“エネルギー博物館”!

「イオテクノロジー」の研究・実践所でもある早川さんのご自宅は、

・丸や三角などいろんな形をした、何枚もの太陽光発電パネル
・近所の消防署で定期的に廃棄するものをたびたびもらい受けているという、消防車のバッテリー
・不要になったソファの木枠に黒く塗った使用済みのペットボトルを並べて作ったという太陽熱温水器
・底にスクリュー型の穴を空けたビールやジュースの空き缶144個で手づくりした太陽熱温風器
・「いらないダンボール+内側が銀紙の菓子袋」で作れるというソーラークッカー
・新聞紙を圧縮して薪代わりになるブロックをつくる道具
・おふろでキャンドルを楽しむときに使うという廃材利用のお手製ランタン

…と、ゴミになってしまうところだったものたちに新たな命を吹き込んだ道具たちが所狭しと置かれ、まるで「エネルギー道具のDIY博物館」!

早川邸の太陽光発電パネルはすべて中古。ズラリと並べられたいろんなパネルは、まるで見本市のよう 撮影:はらみづほ 早川邸の太陽光発電パネルはすべて中古。ズラリと並べられたいろんなパネルは、まるで見本市のよう 撮影:はらみづほ

こちらは駐車場に面した日当たりスペース。こんなカタチのものもあるんですね 撮影:はらみづほ こちらは駐車場に面した日当たりスペース。こんなカタチのものもあるんですね 撮影:はらみづほ

消防署で定期的に廃棄するものをもらい受けた、消防車用のバッテリー。早川さん宅ではこのバッテリーをインバータなしでLED照明とつなぎ、キッチン、トイレ、おふろ、廊下の4ヶ所を照らす毎日の電力をこれ1つで自給。「直流電流しか使えない車用の中古品でも、大助かり!」だそう 撮影:はらみづほ
消防署で定期的に廃棄するものをもらい受けた、消防車用のバッテリー。早川さん宅ではこのバッテリーをインバータなしでLED照明とつなぎ、キッチン、トイレ、おふろ、廊下の4ヶ所を照らす毎日の電力をこれ一つで自給。「直流電流しか使えない車用の中古品でも、大助かり!」だそう 撮影:はらみづほ

黒ペンキを塗ったペットボトルが並ぶ、外置きの太陽熱温水器 撮影:はらみづほ 黒ペンキを塗ったペットボトルが並ぶ、外置きの太陽熱温水器 撮影:はらみづほ

太陽光温水器は、2リットルのペットボトルを10本並べた“一号機”と、20本並べた“二号機”を作ったのですが、外側の箱は、いらなくなったソファの内側に組み込まれていた木枠なんです。捨ててしまう前に活かせないかと思って解体してみたら、「お、これは使えるぞ!」と思いついてね。

温水器を作る場合、ペットボトルは必ず口の部分が白いものを選んでください。太陽熱で冷水が60度近くまで熱くなるので、透明のものだと溶けてしまいます。

早川さんの太陽熱温水システムは、家の壁に穴を空けて塩ビ管を通し、日当たりのいい外に置いた一号機と二号機から浴槽に直接給湯できるようにDIYされていましたが、発泡スチロール箱の内側に銀色のシートを敷き、その上に黒いストッキングを履かせたペットボトルを並べて日当たりのいい場所に置くだけでも、暖かい晴れの日なら50度以上に。ペットボトルやガラスボトルに入れた水を日に当てておくだけでも温水になります。

たとえぬるま湯にしかならなくても、冷水から火にかけるよりずっと少ないガスで熱湯になり便利。雪国では冬は屋外に置くと凍ってしまいますが、日当たりのいい室内なら有効でしょう。

子どもでもカンタンに組み立てられ、持ち運びにも便利な、ダンボール+アルミシートのソーラークッカー 撮影:はらみづほ 子どもでもカンタンに組み立てられ、持ち運びにも便利な、ダンボール+アルミシートのソーラークッカー 撮影:はらみづほ

ソーラークッカーもいろんなタイプのものがありますが、いらないダンボールをカットして、内側が銀色のポテトチップやポップコーンの袋をピッタリと貼り、写真のように組み立てれば、お金をかけずに楽しめます。

光が集まる底の内側に小さなフライパンや金属皿などを置いて卵を落とせば、“太陽の目玉焼き”が完成。内側の中心はビックリするほど熱くなるので、やけどにはくれぐれも気をつけてくださいね。

宇宙の「ギフト」を受けとる方法

新品の方が安価にも関わらず、「自分用にはできるだけ中古品を選ぶ」という太陽光パネルをはじめ、様々な廃品に知恵とワザを吹き込み、エネルギーづくりの資源として活用している早川さん。

地球約9周分を走り抜き、現在は地球から月までの距離にあたる384,400kmを目指して走行中の愛車も、もともとはお友達が廃車にするものをもらいうけたそう。その徹底した“あるものいかすマインド”は、どんな想いに根ざしているのでしょう?

愛車とともに、函館発青森県大間行きのフェリーのりばにて 撮影:はらみづほ 愛車とともに、函館発青森県大間行きのフェリーのりばにて 撮影:はらみづほ

太陽光発電のしくみを「ソーラーシステム」と言いますが、発電に限らずこの地球の営み自体が、地球を含む太陽系の壮大なソーラーシステムのおかげだと思うんです。

ぼくのニックネームでもある「イオ」は木星の第一衛星の名前ですが、宇宙の星々は互いに響き合っていて、例えば地球に生きる一つ一つの命も、その命の中に生きる細胞も、ぜんぶ宇宙の星々と相似形で影響し合っている。ぼくにはそう思えてならなくて、そうするとこの星に存在するものすべてが愛しくてね…。

太陽光発電パネルも資源を費やして作られているから、最後の最後まで大事に使いたいんです。食べものも、品物も、エネルギーも、結局はすべて、宇宙からの贈りものですからね。

昨年の元旦、自家発電の普及より多くの時間を費やしていた別の仕事を終え車で帰宅する途中、早川さんの身に、まさに「小説より奇なり」というできごとが起こりました。

運転中に意識を失って他人の車に衝突。その衝撃で正気に戻り、慌てて車を降りて相手の車に駆け寄り、ドライバーに「大丈夫ですか?」と話しかけると、「ぼくは平気だけどあなた血だらけですよ」とのこと。相手の視線の先を見ると、自分の胸から下が血だらけでビックリ。救急車で運ばれた病院で胃潰瘍と診断され、内視鏡で手術を受けることに。

するとその途中に、昼食で食べた餠が胃に空いた穴のフタとなり、大量出血をまぬがれていたことが判明。「念のために」と胃の細胞を取って検査したら、さらに胃ガンが発覚し、胃の2/3を摘出することに。偶然にも自分の誕生日に受けることとなった手術は見事成功し、生まれ変わったように元気になった早川さん。まさに、「すべては宇宙からの贈りもの」という信条が具現化したようなできごとを、身をもって体験したのです。

実はこの話にはまだ先があるんですよ。手術の3日後に、ぼくにとって決定的なできごとが起きたんです。

夜、病院のベッドで眠っていたら、後頭部を誰かにガーン!となぐられたんです。「え?」と思って起き上がって見ても、もちろん誰もいない。おかしいなぁ…と思っていたら、耳元で低い男の声がハッキリこう言うのが聞こえたんです。「おまえ、やりたいことやってんのか?」って。

今思えば、あれはぼくの心の声だったんでしょうね…。実はそれまで「送電線に頼らない発電を多くの人に広めたい!」と強く思いながらも自信がなくて行動が伴わずグズグズして、別の仕事にばかり時間を費やしていたんです。

核心を突いたこの問いに慌てながら「わかりました!ぼくは自家発電の普及を仕事にします!」と答え、自分の本当にやりたいこと行動しようと誓いました。すると急にあちこちから声がかかるようになり、依頼やご縁がグングン増えていったんです。人生にムダなことは一つもないですね。起こってくれたすべてに、心から感謝しています。

与えられている現状に心を開き、恵みとして楽しむチカラ。それが、早川さん自身を輝かせ、触れ合う人々にも次々チャージされている、“寿保エネルギー”の本質なのかもしれません。

ぼくは、大きな発電システムより、小さな発電システムの方がずっと大切だと思っています。なぜなら、限られた電力量しか得られない方が、ふんだんにあるよりもありがたさに気づくことができ、意識がシフトしやすいから。ぼくが発電を通して伝えたい本質は、「意識が変わるよろこび」なんです。

インバータで変換せず、12Vの直流電流のまま使用したLED照明は、闇に輝く太陽のよう 撮影:はらみづほ インバータで変換せず、12Vの直流電流のまま使用したLED照明は、闇に輝く太陽のよう 撮影:はらみづほ

「自分のような仕事をする人が日本各地にゾクゾクと生まれ、宇宙とつながる電気を自給する人がグングン増えるのが目標」と語る早川さん。もしかしたらそんな未来は、もうすぐそこかもしれません。

顔の見えない企業から言い値で買うしかなかった電気を、宇宙からの「無償のギフト」として受け取れるようになる、独立型太陽光発電所。あなたのお宅にも、開設してみませんか?