ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

3 years ago - 2013.08.12

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運営スタッフもマイプロジェクトに取り組む、滋賀の課題を解決する人材が“育つ場所”「おうみ未来塾」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

減少する人口、疲弊する産業、増加する耕作放棄地、少子高齢化、交通網の悪化、買い物難民、文化の喪失などなど…。日本の多くの地域で、これらの“なんとかしなければならない”課題が山積しているのは、みなさんが知るところだと思います。みなさんの中には、これらの課題に取り組んでいるという方も多いのではないでしょうか?

今回ご紹介するのは、滋賀県でNPOや市民活動の支援を行っている公益財団法人「淡海文化振興財団」、通称「淡海ネットワークセンター」が展開している、地域プロデューサーが“育つ”「おうみ未来塾」。

ここでは、1年6ヶ月という長い時間をかけて、10代から60代の老若男女が、自分ごとになる地域課題を見つけ、学び、議論し、地域に入り、実際に事業を起こすまでを実践しています。そして、この取り組みはなんと今年で12期目。15年近く継続し、これまでで260人以上の志しの芽が育ってきているのです。

各地に同じような人材育成を行う中間支援組織や取り組みはありますが、これほど長期にわたって続いている事例は、あまり聞いたことがありません。その裏側を、塾の運営を担う膽吹憲吾(いぶき・けんご)さんに伺うと、そこには「人は教えても育たない」という理念に基づく、徹底した主体性を促す現場の姿がありました。

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滋賀県米原市の伊吹山のふもとで暮らす膽吹憲吾さん

淡海ネットワークセンターとは

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こちらの滋賀県立県民交流センターの中に事務所を構える「淡海ネットワークセンター」

「淡海ネットワークセンター」は、社会課題に取り組むNPOや市民団体を支える中間支援組織。こちらでは大きく5つの軸で事業が展開されています。

1つ目は“情報提供事業”。独自に情報誌やメールマガジンなどを発行して、資金力に乏しく、広報にお金をかけられないNPOなどの情報発信を後押ししたり、ネットを通じて助成金のことなど、市民活動に役立つ情報の発信もしています。

2つ目は“未来ファンドおうみ事業”。“未来ファンドおうみ”という名の市民ファンドを作り、市民や企業から“地域への思いの込められた”寄付を募集。寄付者の思いを達成してくれるか、有効にお金を活用し組織の自立のために使われるかなど、厳正な審査を行った後にNPOへ助成。その後の助成効果測定をしながら、同時に運営支援も実施して、“何に使われたのか”が寄付者に伝わるところまでをフォローします。

3つめは“ネットワーク促進事業”。活動で手一杯のNPOの横のつながりや、市民・企業との交流の機会を創出するため、サロンやフォーラムを開催。活動が深まるような組み合わせを意図的にマッチングしたりもします。

そして、4つ目が“人材育成事業”、すなわち“おうみ未来塾”のこと。地域のつながりをつくる人材が“育つ場”を生み出します。最後は、“組織運営サポート事業”。活動内容、運営、NPO法人設立、収入を得るための事業化などの相談を、NPOだけでなく、本業で社会貢献をしたいと考える企業にいたるまで、対象を限定せずに幅広くサポートしています。

人は“育てるもの”ではなく“育つもの”

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事業の4つめ、「おうみ未来塾」は15年ほど前、滋賀県立大学の初代学長で、動物行動学者の日高敏隆先生が初代塾長をつとめた、地域プロデューサー育成事業。この塾の最大の特長を膽吹さんに伺うと、「塾生自ら主体的に塾運営に関わることです」とのこと。具体的にはどういうことなのでしょうか?

“おうみ未来塾”では、教育プログラムは塾生自ら企画し、運営についても主体的に参加してもらいます。もちろん大まかなスケジュールは事務局側で作成しますが、今自分たちに何が必要か、どんな講義を受けたいか、誰を呼ぶか、自分たちの状況・悩みに応じて事務局と話し合ってカリキュラムを決めるため、こちらがつくった予定と異なるなんてことはざらです。

というのも、“人は教えても育たない”というのが日高先生の理念であり、私たちの姿勢の大前提となっています。だから、ここは地域プロデューサーを“育てる場所”ではなく、地域プロデューサーが“育つ場所”。私たちの仕事は、塾生が望むきっかけを提供し、背中を押すことだと思っています。

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報告書の編集会議を行う塾生たち

塾生たちはまず、先進事例のある現地に入って、地域の人々とコミュニケーションをとりながら半年間、徹底的に地域を学びます。そして半年後、4グループに分かれ、テーマを持って地域に入り、実際に課題を解決する事業を興します。「インプットだけでなく、アウトプットまでを塾を通して行うのも、未来塾の特長です」と膽吹さん。

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アイデアをもとに、目的・方法・スケジュールなどを具体的におとしていく

基本的には月一回のカリキュラムですが、そのほかに塾生会というのを設けて、塾運営や講義内容など、いろんなことを頻繁に議論し合います。それを2年近く続けるのですから、正直言って喧嘩を仲裁することも多いですよ(笑)。

でも、一期において、肩書きも年齢も異なる老若男女が30人も集まるわけです。取り組みたい課題、解決のための方法について、その30人の合意をとっていく。つまりこれは地域の縮図なんですね。誰か一人を阻害する人が出てくるなんてこともあります。でも、それらを乗り越え、卒塾したときには強固なつながりが育っています。このネットワークも、それぞれが地域に入るときの大きな力となるはずです。

支援だけでなく、自らもプレイヤーに

普段はそういった支援する側の膽吹さんですが、実は米原市を舞台に、いくつかのマイプロジェクトを進めています。その代表的なものが、「伊吹おさんぽくらぶ」と「Think!まいばら」です。

「伊吹おさんぽくらぶ」は、自らが生まれ育った伊吹という地域を、参加者と一緒に歩いてまわり、その季節に応じた食事をみんなで食べたり、ワークショップを行ったりするイベント。月に一回開催し、県外からも参加者が訪れています。

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伊吹おさんぽくらぶの様子。この日のイベントは、流しそうめんと七夕飾りづくり

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七夕飾りができて、どうだと言わんばかりのうれしそうな少女

おさんぽくらぶは、取り組み自体はシンプルなものですが、この伊吹という地域と参加者との関係、参加者同士の新しいコミュニティをつくりたいと思って開催しています。僕たちが住む伊吹という地域は確実に少子高齢化が進んでいます。平成24年度で子どもが生まれたのは僕のところだけ。

なんとかしなければならないけれど、急に住む人を増やそうとするのは難しいし、仕事もあるのでこればっかりやっているというわけにもいきません。今できる範囲で、背伸びせずに地域に対してできることを考えたら、外の人と伊吹の集落の関係をつくることだと思いました。何かあったときに声をかけたら来てくれる。そんな関係性が増えてほしいんです。

そしてもうひとつが「Think!まいばら」という、市民の市政への関心を高めるためのプロジェクト。市長選の公開討論会を開いたり、市政の勉強会を開いたり。中でも力を入れているのが“セイジカフェ”。協力してくれるカフェを夕方から借り切って、政治に触れられる場づくりを行っています。

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セイジカフェのポスター

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セイジカフェの様子

カフェってよく音楽がかかっていると思うんですけど、この日はBGMが、誰かの政治観になるんです。議論する人もいる、それを聞いている人もいる、途中から参加してくる人もいる。セミナーではなく、出入りも自由で、お茶を飲みながら自分の政治観を探す。そのきっかけになる、ゆるい場をつくりたいなって。

政治を話題にすると、すぐに「誰かを応援しているの?」って雰囲気になるじゃないですか。特定の人が語るものだと思われがちだけど、市民が政治観を成熟させないと世の中は変わっていかない。今年、米原市議の選挙があるんですが、4年前の前回は議員の定数が20人で、立候補者が22人だったんです。票数が1位の人と、20位の人が同じ議決権を持つ、それって変だなあと思う訳ですよ。

それもあって、まずは、政治に対する裾野を広げる取り組みをしようと。そして、最終的には立候補者が増え、投票率が上がる、政治の課題に取り組むNPOが増えていく、そんな状況をつくっていきたいと思っています。

地域にいたから、課題が見えてきた

こうして、今でこそ支援と実践、両方の側面から課題にアプローチを試みる膽吹さんですが、学生時代は目標が定まらずモヤモヤして過ごしていたそう。

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実は実家が農家なんですけど、父親が当時「農家の息子なんだから、将来は農家を継いでほしい」と熱く語るんですよ。それをまともに受けちゃって、大学は農学系の学科に進みました。

でも、父親も兼業農家で、農家を継いだからって食べていける保証はない。父親は「公務員になればいい」って言うんですけど、「あれ? 俺の選択肢ってそれだけ?」って思って、そしたら普通に就職する気になれなくなったんです。

しかし、そのモヤモヤを抱えたまま、4年間の大学通いをするうちにある気づきがやってきます。それが、伊吹という地域の課題だったのです。

大学で農業経済とか農業振興とかを勉強しているうちに、農村である伊吹という地域の課題が見えてきはじめて、地元の友人たちがどんどん県外に出て行ってしまう状況で「僕は地域に残らなくていいのだろうか?」と感じるになりました。そんな悩みもあり、もう少し考える時間が欲しいと思って、大学院に進むことにしたんです。

その大学院で転機は訪れます。膽吹さんが入ると同時に、大学院の副専攻にコミュニティビジネスを学ぶ授業が組み込まれたのです。地域課題に意識が向いていた膽吹さんは、迷うことなく授業を選択。そこで、同じような考えをもつ仲間たちに出会います。

そこにいたメンバーの中には、すでにコミュニティビジネスを学び、起業も考えているような人もいました。衝撃的でしたよ。それまで若い人がいなくて、“きつい・汚い・危険”というイメージしかない農業を、若いおねーちゃんたちを集めて、農業体験とかやって、ちゃんとお金も回しながら楽しそうにかっこ良くやっているんです。今思えばいろいろ甘いんですけど、当時はこんなにしなやかに農村を変えていく方法があるのか、と思いました。

「東京に人材をもっていかれて、地方の少子高齢化は進むいっぽうやんけ。じゃあ僕は、農村の資源を活用して起業する、仕事をつくることをしよう」。そう思ったのが今の仕事に就くきっかけですね。

徹底的に地域で。それが世界的な動きになる

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奥に見えるのが伊吹山。この麓に伊吹という集落があるのです。

「Think locally, Act locally, It`s becomes globally.(地域で考え、地域で行動すれば、それが世界的になる)」。これは、おうみ未来塾初代塾長の日高敏隆先生の言葉だそうです。そして、膽吹さんはこの言葉を胸に秘め、徹底的に伊吹という地域にこだわって、物事を進めていきたいと話します。

大きな外資系の会社に勤めてたくさんお金を稼いで、それはそれで立派なことだけど、それが本当に世の中のためになっているのか、少なくとも地方の地域のためになっているのか? 僕にはよくわからない。僕は自分の暮らす地域で、見える人たちの幸せのために動いていかないと、社会は変わっていかないんじゃないかと思うんです。

市民として地域で活動して、未来塾を通して地域で活動する人の背中を押して、一緒に地域のモデルをつくっていく。こどもたちに誇れる楽しい地域をつくっていく。それが僕の目標です。

「実践してなんぼ」。インタビュー中、膽吹さんの口から何度も発せられたキーワードです。私たち一人一人が、私たちの未来、子どもたち未来のために当事者になる。自分ごとにする。過疎化も選挙も、それらは全部、自分ごととして捉えて実践する人が増えていくことで、解決の糸口が見つかっていくのだと思います。

あなたの“地域”はどこですか? そこにはどんな課題があると思いますか? あるとすれば、あなたには何ができますか? 背伸びをせずに、できることでいいのかもしれません。新しいことでなくても、誰かが進めているプロジェクトに協力するでもいいのかもしれません。ぜひ、考えてみてください。

(Text:赤司研介)

赤司研介(Akashi Kensuke)
1981年生まれ。熊本出身の神奈川育ち。奈良県在住。広告制作会社でライター経験を積んだ後、フリーライターとして活動。現在は西日本最大級の生産力を誇る大阪八尾の印刷会社「株式会社シーズクリエイト」CSR室に所属。“生物多様性”“地域活性”をキーワードに、これからの社会に必要な“しくみ”と“人の居場所”をつくる活動に取り組む。情報発信と同時に、奈良県と外国人観光客の間にしあわせなしくみをつくるバイリンガルフリーペーパー「naranara」副編集長。

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赤司 研介

赤司 研介

greenzシニアライター SlowCulture代表/編集者 1981年生まれ、神奈川県出身。東京の広告制作会社でキャリアを積み、2012年、奈良東部の農村地に移住。2児の父。「自然である健やかな選択」をする人が増えていくための編集・執筆に取り組む。奈良の物事を日英バイリンガルで編集するフリーペーパー「naranara」編集長。「NPO法人ミラツク」研究員。「京都市ソーシャルイノベーション研究所 SILK」ライター・エディターとしても活動中。

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ミラツク

ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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