ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

2 years ago - 2013.08.02

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日本人が忘れかけていた日本の本当の美しさは“村”にある。景観と文化を守る「日本で最も美しい村」連合

鳥取県八頭郡智頭町
「山あいの棚田」鳥取県八頭郡智頭町。撮影:高橋繁夫

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは、“日本の美しい村”と聞いて、どのような風景をイメージしますか?
のどかな田園風景でしょうか。それとも、田植えや草刈りといった昔からある暮らしの風景でしょうか。

手つかずの大自然だけでなく、人の営みと自然が調和した美しい景観を守りたい…「日本で最も美しい村」連合は、フランスから始まった景観保全と地域づくりの取り組みで、一度失ったら二度と取り戻せない景観や文化を守ろうという運動です。

greenz.jpでも2年ほど前にご紹介しましたが、今回は、NPO法人「日本で最も美しい村」連合資格委員の依田真美さんに、日本の村の美しさや、守りたい日本の文化についてお聞きしました。

NPO法人「日本で最も美しい村」連合資格委員の依田 真美さん
NPO法人「日本で最も美しい村」連合資格委員の依田 真美さん

「日本の美しい村」を守る必要性

群馬県中之条町六合
「朝日に輝く」群馬県中之条町六合。撮影:谷中義夫

依田さんによると、近年、市町村合併が進んで、村そのものの存続や、美しい景観の保護が難しくなってきているのだとか。

農業や漁業従事者が多かった時代には、その土地の気候や風土にあった仕事や家づくりをするなど、自然と生活が互いの一部として存在していて、自然に人の営みが加わることがそのまま美しい景観になっていました。その後、高度経済成長期を経て、暮らし方や働き方が様変わりしたことや、近年は過疎高齢化が進んだこともあって、自然の手入れも行き届かなくなってきています。

NPO法人「日本で最も美しい村」連合は、小さくてもオンリーワンを持つ日本の村が、自分たちの町や村に誇りを持って自立し、将来にわたって美しい地域であり続けるよう支援している団体です。

加盟に申請するための条件は、人口が1万人以下であること、魅力のある地域資源が2つ以上あること、議会の承認を得ること。その後、審査を経て加盟を承認された自治体や地域協議会だけが「日本で最も美しい村」連合の会員になることができますが、その後も5年ごとに再審査があるということです。

「日本で最も美しい村」連合ロゴ
「日本で最も美しい村」連合ロゴ

例えばフランスの田舎の村では、屋根や壁の色や素材が統一された家々が建ち並ぶ光景を目にすることがありますが、これは景観を保つための規制が厳しいことが大きな要因になっています。それに比べて、日本では、景観規制が厳しくない分、自分たちで努力をしていく必要があります。

もともと日本は山があって水が豊かなことに加えて、南北に長く伸びているので、雪国の美しさもあれば、珊瑚礁の海の美しさもある。そこに暮らす人たちがずっと築いてきた暮らしの軌跡がそのまま美しい景観に結びつくはずなのに、経済や効率優先の社会になるにつれ崩れてきてしまいました。

そうした傾向に歯止めを掛け、田舎が持つ固有の美しさを守るために2005年10月に7つの村からスタートした「日本で最も美しい村」連合の加盟村は、今では43町村6地域にまで広がっているのだそうです。

日本人が忘れかけている、日本の本当の美しさとは

長野県上水内郡小川村
「故里の春」長野県上水内郡小川村。撮影:須藤東二

依田さんは、「日本で最も美しい村」連合への新規加盟や再審査のために村を訪問しているのだそう。

フランスの美しい村と日本の美しい村の両方を見て思うのは、日本の美しい村にはフランスのような統一感のある景観は欠けているかもかもしれないのですが、コミュニティのあたたかさを感じるところが魅力ですね。

お正月にプライベートで沖縄県宮古郡の多良間村に行ったのですが、ちょうど村の成人式だったんです。成人したのは17人ですが、ご両親や地域の人、小中学校でお世話になった先生たちも勢揃いして、総勢200人くらいでしょうか。

村中の人がお祝いしてくれているかのような雰囲気のなか、成人するひとりひとりが自分と両親の名前と、屋号と、今何をしているのか、今後の抱負を発表するんです。屋号を言えなかったりすると、“お前んとこの屋号は○○だろう”って後ろから声が飛んできたり(笑)。

“就職先が見つからなかったら村に戻ってくるから、村長よろしく”とか。そんな会話ができる関係性があるのは素晴らしいなと思いました。

島には高校がないために進学をきっかけに島外で暮らし、そのまま就職する若者がほとんどだそう。みんなお正月には帰省するので、それに合わせて多良間村では、毎年1月4日に成人式があるのだとか。

沖縄県宮古郡多良間村の成人式
沖縄県宮古郡多良間村の成人式

多良間村の伝統行事に、国指定の重要無形文化財にもなっている”八月踊り“というのがあるのですが、子どもたちが小学生だった時に大人が踊るのに憧れて学校の廊下でいつも踊っていたそうです。それを見た先生が一部の親ごさんに“こどもたちが八月踊りをやりたがっている…”とちょっと話をしたら、村中大騒ぎみたいになって、あっという間に楽器や衣装が揃って、子ども版の八月踊りが実現したのだとか。その時の映像が成人式で上映されると、もう大盛り上がりでしたよ。

村の子どもたちが、伝統というのものを学ぶのではなくて、憧れて自然と継いでいくって美しいですよね。こうしたコミュニティのあたたかさ、豊かさは、日本の村の美しさだと思っています。

「日本で最も美しい村」連合の加盟村が増えていくなか、ひとつ、悲しいお知らせも聞きました。

福島県飯舘村が“日本で最も美しい村”に加盟して1年も経たないうちに、福島原発事故によって、計画的避難区域に指定されてしまいました。

何かできることはないかと、海外の「最も美しい村」協会の仲間からの支援もあって、昨年の夏には、イタリアのシチリアにある美しい村が飯舘村の中学生たちを招待してくれました。毎日マスクをするのが当たり前の生活だったので、シチリアについてもマスクをしていたら、現地の子どもに指摘されて初めてマスクを外しても大丈夫だと気付いたりして。

放射能を心配することのない環境のなかで、現地の人とコミュニケーションをとりながら、少しずつ笑顔が戻っていったと聞いています。

観光は、多様な人びとの“関係性”の縮図

京都府伊根町「船屋の花火」京都府伊根町。撮影:堀内勇

依田さん自身の「最も美しい村」運動との出会いは、学生時代にまで遡るのだそう。

アメリカ留学時、夏休みにヨーロッパに行こうといろいろ調べているうちに、フランスに「最も美しい村」協会という団体があって、美しい村々を選んで写真集だったかガイドブックにまとめていることを知りました。その本にあった写真を眺めながら、その美しさに目を奪われましたが、それが「最も美しい村」との最初の出会いですね。

20年以上も前の話になりますが、それ以来、日本にも「最も美しい村」協会ができたらいいのにとずっと思っていたんです(笑)。

結局、その時はフランスを訪れなかったものの、ずっと後になって、また機会が巡ってきたのだとか。

MBAを取得して帰国してから、ずっと金融関係の仕事をしていました。具体的には証券アナリストとして産業や企業の分析をしたり、格付会社では企業に加えて自治体や非営利機関なども担当していたのですが、ある程度経済的に余裕ができたら違うことをしてみたいと漠然と考えていました。ちょうどその時、北海道大学の観光学高等研究センターが、1ヶ月以上にわたって日本経済新聞の「ゼミナール」というコーナーに記事を連載していたんです。

そこでは、観光をビジネスの側面からだけ捉えるのではなくて、地域の自立や地域外の人との協働という側面から説明していました。その考え方が自分の考えと一致していたことがきっかけで、観光学に関心を持ちました。それで思い切って、仕事を続けながら大学院の博士課程に入学したんです。

その大学院で美しい村と再会することになったと語る依田さん。

世界の観光分野の認証制度について調査をする機会があったので、フランスの「最も美しい村」協会について調査したいと手を挙げたんです。それで初めて「フランスの最も美しい村」協会の本部に足を運んだのですが、その調査をきっかけに日本でも既に立ち上がっていた「日本で最も美しい村」連合の方々と知り合う機会ができました。

それにしても、まったく異なる業界への転身。そこまで惹かれた、観光の魅力について聞いてみました。

観光って、多様な利害を持った人たちの集まりなんですね。英語で言えば、マルチステークホルダー。地域のなかの人だけでは成立しない。観光客として必ず外の人も関わっている。地域政策にかかわる自治体も、ホテルや旅館を営む人やレストランを営む人も。その背後には食材を供給してくれる農家や地域の人たちもいるし、旅行業者もかかわっている。観光とは、多様な人びとの関わりそのものなのですが、そこが面白いと感じた点ですね。

ボランティアツーリズムに見た、これからの時代のあり方

北海道美瑛町
「北の大地」北海道美瑛町。撮影:藤原 昌平

一方で、観光には課題も多くあると依田さんは指摘します。

富士山のゴミ問題が有名ですが、大挙して自然のなかにまで入り込んだ結果、自然環境が破壊されてしまったり、たくさんの人を受け入れようと、地域の景観にそぐわない建築物をつくってしまったり。また、外部の資本が入った結果、観光で稼いだお金が地域に還元されずに、外の企業だけが儲けていたり。こうした観光を巡って地域が抱える問題は日本だけでなく、世界的にも反省されています。

現在は、ボランティアツーリズムについて研究されているのだとか。

ボランティアツーリズムは、大量輸送大量消費のマスツーリズムの反省のもとに生まれた“オルタナティブツーリズム”や“持続可能な観光”と言われる観光の一つの形です。自然や歴史、文化などその土地固有の資源を活かすこと、観光によってそれらの資源が損なわれることがないこと、さらに地域経済への還元があること、そういったことを目指す観光ですね。

普通の観光では地域の人がホストで、旅行者がゲストに決まっている訳ですが、ボランティアツーリズムでは、外から来たゲストである旅行者が、地域の人びとのために何かをする、という逆転の現象が起こります。こんな風に旅行というものが、遊び、休息といったものから、他者のために何かをするということや働くことにまで広がってきているのは、日常にその機会がなくなってしまったからかもしれないですね。

その結果生まれる人と人との交流を商品化の対象としてだけ見るのでは、同じことの繰り返しになります。そうならないためにはどうしたらいいのか、という研究をしています。

相手を商品としないためには、やはり顔が見えることが大切だと言います。

観光する人と地域の人との関係性をどう構築していくか、それは他の産業の消費者と生産者でも同じことです。顔が見えるって大切な要素だと思いますね。

例えばお米という農産物も、現在の流通のなかでは作っている人の顔が見えてこない。流通に乗るということは、均質になって遠くへ移動することが求められますから、ある意味、顔が見えなくなることでもあると思うんです。でも、生産者と一度会ったことがあるだけで、そのお米に対する気持ちがぐっと変わる。

どこかに行きたい理由が、温泉とか食べ物とか、モノやコトであることはなくなるわけではありませんが、人のつながりで、○○さんに会いにいきたいとか、○○さんが言っていた景色を見てみたいとか、そんなふうに、顔が見えるというか、人とのつながりが今また求められてきているんじゃないかと思います。

好きな場所が増えれば、“自分ごと”が増える

長野県南木曽町妻籠
「花嫁行列」長野県南木曽町妻籠。撮影:米窪昌治

また、依田さんは、観光研究や「日本で最も美しい村」連合に携わるようになってから、ふらっとまた行きたいと思える、好きな場所が少しずつ増えているのだとか。

旅先では、ゆっくり過ごしてほしいですね。その地域の生活時間を大切にして、そこに暮らす人と話して、時間と一緒に流れているものを“おすそわけ”としていただいて、参加させてもらう。

例えば、「日本で最も美しい村」連合の馬路村には特別村民制度というのがあって、村外の人でも村の仲間に入れてもらえる仕組みもでき始めていますが、ちょっと嬉しいですよね。都会だとコミュニティが大きすぎて自分の居場所が分からなくなってしまうけど、また来たよ、と行って帰れる場所、好きな地域がいくつかあってもいい。

好きになるということは、“他人ごと”から“自分ごと”になるということですから。そうなるとその場所を大切に思って、友達や家族を連れてまた行きたいし、その村のお米や野菜を買いたくなるし…。離れていても気に掛けて応援するようになる。

最近は旅行で訪れるだけではなく、村のような小さなコミュニティに移住をする若者も少しずつ増えているようです。

通信技術の発達で、地理的に離れていてもできる仕事が増えてきました。そうなると、職種によっては通勤ラッシュに朝晩もまれながら生活費の高い都会で暮らす必要がなくなってきます。自然は豊かだし、顔が見える、誰かに必要とされる、おまけに課題も沢山あるだけに挑戦しがいのある仕事も沢山ある、“生きる場所”としての田舎の魅力が再評価されてきているのだと思います。

「日本で最も美しい村」連合の中でも、島根県の海士町などはIターンやUターンが多いことで注目を浴びていますし、葉っぱビジネスやごみを出さないゼロウェイスト運動で有名な徳島県上勝町でも、地元出身者が大学を卒業してから村に仲間を連れて戻って起業するなど、面白い動きが出てきています。

「最も美しい村」の輪は、ますます広がっていきそうです。

昨年の夏に“世界で最も美しい村連合会”がフランスで非営利法人として登録をしました。今は、フランス、イタリア、カナダのケベック州、ベルギーのワロン地方と日本の5か国が会員ですが、スペインやドイツのザクセン州、ポーランド、韓国なども関心を持っています。

景観や文化財を保護するための財政が苦しいので何とかしたいという差し迫った問題もあると思いますが、経済成長や効率性だけを優先する社会の限界に気付いて、経済を暮らし全体のバランスの中に位置付けなおそうとする動きは世界中で起こっているのだと思います。

私が研究しているボランティアツーリズムもそうした動きのひとつでしょう。社会の中で“田舎”や“村”が果たす役割はますます重要になっていくと思います。

「日本で最も美しい村」連合では、村を知っていただき、村のファンを増やすために「日本で最も美しい村の情景」写真コンテストの開催や、オフィシャルガイドブック『日本で最も美しい村』の出版などを進めています。

みなさんも、今度の休みは日本や世界の美しい村々を訪ねてみませんか。

日本の美しい村について、もっと知ろう!
「日本で最も美しい村」連合 公式サイト

writer ライターリスト

増村 江利子

増村 江利子

greenz シニアエディター/シニアライター 国立音楽大学卒。Web制作、広告制作、編集を経て現在はフリーランスエディター。一児の母。主なテーマは、アート、建築、暮らし、まちづくり。八ヶ岳の麓の賃貸トレーラーハウスで、“小さく暮らす”をモットーに、DIY的暮らしを実践中。 facebook:http://www.facebook.com/e.masumura twitter:https://twitter.com/eriko_n

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ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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