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ネット選挙解禁の今、これからの選挙のあり方について考える。笑えるドキュメンタリー映画『選挙2』

『選挙2』メイン『選挙2』 ©2013 Laboratory X,Inc.

いよいよ、ネット選挙が解禁になりました。「ネット選挙が始まったからって何が変わるの?」と思う方もいるかもしれませんが、これは根本的に選挙のあり方、そして民主主義に対する考え方を変えていく第一歩なのです。

そしてそんなタイミングで「今までの選挙のやり方っておかしくない?」と疑問を呈する映画『選挙2』が公開されました。選挙の映画というと難しそうな印象がありますが、これはドキュメンタリー映画でありながらコメディ映画のようなおかしさをも湛えた「笑える」映画でもあります。選挙の「おかしさ」とはいったい何なのでしょうか。

この映画を監督したのは「観察映画」というジャンルを開拓する想田和弘さん。
『選挙2』というからには『選挙1』があるわけなので、まずはその1に当たる映画『選挙』について簡単に説明しておきましょう。

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『選挙』は2005年に行われた川崎市議会議員補欠選挙に自民党公認で立候補した山内和彦さん(以下、山さん)を追った映画です。この映画で山さんはいわゆる「ドブ板」の選挙戦を展開します。そこから見えてくるのは「民主主義とは何か」ということ。選挙というのは民主主義の象徴的なものであるはずなのに、そこに見えるのは政策や主張ではなく、地縁血縁や「イメージ戦略」というものなのです。しかしそれで山さんは見事当選します。

さてその山さんですが、2年後の選挙では公認を得られず不出馬となり、主夫として4年間を過ごします。その山さんが東日本大震災から約1ヶ月後の4月10日に行われる川崎市議会議員選挙に出馬することになったのです。今度は完全無所属で、しかも「反原発」を掲げ、選挙運動は一切せずに。その選挙戦を追ったのがこの『選挙2』なのです。

映画を観ると、これは非常に不思議な映画だという印象を受けます。この映画はまちがいなく選挙についての映画なわけですが、当の主人公である山さんがやっていることといえば、まずポスターを作って掲示板に貼ること、そして選挙公報を作ること。

だが、映画を撮り始めた段階でポスター貼りは終わってしまっていて、選挙公報も配られ、あとは選挙はがきを残すのみらしいのです。街頭で演説をすることもビラを配ることもしない山さんがやることといえばハガキの宛名書きを友人に頼むことと、掲示板のポスターが剥がれていないかチェックして回ることくらい。つまり、彼にはやることがないのです。だから、監督も撮るものがない、やることがない。

『選挙2』サブ『選挙2』 ©2013 Laboratory X,Inc.

そこで、暇を持て余した(というわけではないと思いますが)監督は対立候補の活動を撮影し始めます。彼らがやっていることはまさに我々が見慣れた選挙活動。震災後ということで選挙カーでがなりたてるということはあまりないし、復興の募金を訴えるということをしたりはしているが、朝、駅で通勤客に「おはようございます」と声をかけたり、ビラを配ったり、選挙演説をしたりします。

そして、それを見ているとだんだんおかしくなってくるのです。挨拶をしてもほとんどの人は振り向きもしない、ビラを配っても受け取ってもらえない、話をしても誰も足を止めない、握手をしようとしても断られる、こんな選挙活動に何の意味があるのでしょうか。

そんな中、想田監督は山さんの元の所属である自民党の候補を撮影しようとして「撮影するな」と言われる事件が起きます。どうも前作をめぐって誤解だか意見の食い違いがあって、今回の撮影も快く思っていないらしく、想田監督とその候補者の運動員とのあいだで言い合い、もみ合いが起きるのです。

それを見て「大丈夫なんだろうか」と心配になると同時に「これは何なんだ」というわけのわからない気分にも襲われます。多くの人に知ってもらうために街角に立っているのに、それを撮られたくないとはどういうことなのか。その運動員は「別にやましいことがあるわけじゃない」「社会人としての礼儀の問題だ」というようなことを言うけれど、何を言いたいのか全くわからないのです。

民主党の新人候補は、道行く人に握手を求めるが断られ、それでも無理に握手をしようと迫るのですが、そして直後のシーンで山さんは「調査によると握手をしてもそれで投票したくなる人と投票したくなくなる人はほぼ同数だからやっても意味はない」というのです。じゃあなんで握手をしようとするのか、そう考えるといま日本で行われている選挙というのはまるで壮大なコメディではないかと思えてしまうのです。

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候補者は「どうしたら当選するのか」ということを考えながら様々な活動をします。私たちも「誰に入れようか」となんとなく考えながらその姿を眺めます。この映画を観ても、この候補者たちの中で自分なら誰に入れるだろうかと考えるのではないでしょうか。「山さんに入れる」と思う人が多いだろうとは思いますが、そうは思わない人もまた多いのではないでしょうか。

しかし、いったいそれはなんなのか、選挙とはなんなのか。この映画の中で候補者の1人が「話していいですか」と断って、選挙制度の問題点、ただ挨拶することの虚しさを語ります。そこで語られるのは政策で選ぼうとしてもなかなかその情報が届かないという現実であり、それは制度が悪いという主張です。たしかにそのような側面はあるでしょう。しかしどのような制度がほんとうに良くて、より良く民意を反映し、よりよい未来を作っていくのかを判断することなどできるのでしょか。

そこで思うのはネット選挙と地方選挙の関係です。山さんは映画の中で「地方政治に政党はいらない」といいますが、これは国政では有権者と議員の距離が遠く、そのため有権者は投票先を判断するのに「政党」というメディアを必要とするけれども、地方選挙ではそもそもその距離が近いので、政党は必要ではないし、当選した後も地元の人達と活動すれば必ずしも政党に頼る必要はないということを意味します。

これは全くそのとおりだと思いますが、ネット選挙というのも実は有権者と候補者の距離を縮めようとしているのです。距離が縮まることで政党というメディアを通さずに直に候補者を知ることができるようになる。それは逆に言えば政党に頼らずに自分を主張できる候補者で無ければ選ばれなくなるということでもあります。

山さんがやってみせた選挙のあり方はそういう意味で、これまでの選挙に疑問を投げかけると同時にこれからの選挙のやり方の可能性を示しているのかもしれません。日本で始めてのネット選挙である参議院選挙に投票する前にこの『選挙2』を見てみてはいかがでしょうか。

『選挙2』
http://senkyo2.com/
2013年/日本、アメリカ/149分
監督:想田和弘
出演:山内和彦