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生きづらくさせている心の癖に気づき、働く元気がわいてくる!心と身体を整える「生活ヨガ研究所」[マイプロSHOWCASE関西編]

(C) 田上博敏 (C) 田上博敏

ヨガ、したことありますか? また、「ヨガ」ってなんでしょうか。
日本では、運動不足の現代人が「様々なポーズをすること(しかも身体の柔軟性が求められる!?)」として浸透している節がありますが、「身体を動かして身体的にアプローチする」ことはもちろん、本来は食生活、呼吸、哲学、瞑想などを体系的にまとめた、生き方を学ぶための学問だということです。

大阪の天満橋に、近隣のオフィス街や地域に暮らす人々が集い、整え、元気な生活を送るための場所「生活ヨガ研究所」があります。運営をされている珠数孝さん、美穂さんご夫妻にお話を伺ってきました。

どんなヨガをやっているんですか?

ヨガには色々な種類があります。様々なポーズを取ったり、呼吸を整えたり、身体に直接的にアプローチする方法は全て「ハタヨガ」。その他に瞑想等を通して精神から学ぶ「ラジャヨガ」や、日常生活や奉仕などの行為を通して学ぶ「カルマヨガ」などがあります。

そして巷で「ホットヨガ」や「ビューティーヨガ」「マタニティヨガ」などと呼ばれるものは、全て「ハタヨガ」に含まれ、それぞれの個性を見出しネーミングされているということです。

僕がこの研究所でやっているのは、基本的に全てハタヨガの範疇に入っています。ただ、気持ちとしては、“90分間お話をしている”ような感覚です。

誰の身体にも、“やりにくい動作”というのが潜んでいます。それは好き嫌いや損得感情など、自分の中の色んな心の反応の現れで、やりにくさや歪みを生じています。それに自分自身で気づいてもらうために、手を変え品を変え、時にお話の時間を交えて伝えていく、というようなレッスンです。

ご夫婦共通の友達が、開所祝いに描いてくださったというイラスト。子供から大人まで、みんなでヨガを楽しむ世界感が素敵ですよね。 ご夫婦共通の友達が、開所祝いに描いてくださったというイラスト。子どもから大人まで、みんなでヨガを楽しむ世界感が素敵ですよね。

生徒さんの中には、「一度やったことがあるけど、すごく痛かった」などと、以前のヨガ体験に不快感を持っているケースも少なくないとのこと。

きっと、身体の柔軟性が求められるレッスンだったんでしょうね。エレガントなポーズをビシィ〜と決めることがヨガの本質ではありません。いつ、誰に「もっとちゃんとヨガのポーズを教えてください」と怒られるかドキドキしてますが(笑)。

「このポーズができるようになるために」「スリムになるために」といった目的のためにヨガをするのではなく、身体を通して自分の日常生活の上手くいっていない部分に気づき、バランスを取り戻せるような生活の学びの場なんですよ。

もちろん、美しいポーズもばっちりの孝先生。(C)NaraYuko もちろん、美しいポーズもばっちりの孝先生。(C)NaraYuko

安定感抜群の逆立ち。つついても、(おそらく)大丈夫。(C)NaraYuko 安定感抜群の逆立ち。つついても、(おそらく)大丈夫。(C)NaraYuko

取材前に、「みんなのヨガ」というクラスを体験させて頂きました。ねじったり、伸ばしたりを自分のペースで、自分のやりにくい方向を少し多めに行います。気がつくと身体中で深い呼吸ができるようになっており、無駄な力が抜け、心も軽くなっていくのを感じました。

また、ふたり一組になって足の長さをチェックしたり、背中の固い部分を触らせてもらうといったペアワークも充実していました。

お互いに、どちらの足が長いかをチェックし合っています。このあとの動作で、骨盤のねじれを修正していきます。(C)NaraYuko お互いに、どちらの足が長いかをチェックし合っています。このあとの動作で、骨盤のねじれを修正していきます。(C)NaraYuko

自分のことに興味を持つのはもちろん大事。でも、相手の身体をちょっと触らせてもらうことで「自分とは全然違うんだな」と思ったり、「この人は、こんなしんどさを抱えているんだな」と優しくなれたりもします。

せっかくこの場に集まった人同士くらいは仲良くなれたらいいなと「ありがとうございました」とお互いに拝み合うような空気感を大切にしています。

みんなで輪っかになって拝み合います。「礼に始まり礼に終わる」とは儒教の教えですが、似たような意識を感じます。(C)NaraYuko みんなで輪になって拝み合います。「礼に始まり礼に終わる」とは儒教の教えですが、似たような意識を感じます。(C)NaraYuko

身体が素直になれば、心も素直になり、色んな人と自然に仲良くなっていけるのかもしれないな、と思いました。

レッスンの紹介

さて、生活ヨガ研究所には、大きく分けて3つのクラスがあります。それぞれのクラスの特徴を教えてもらえました。

「みんなのヨガ」

文字通り、どなた様でも大歓迎のクラス。年齢も性別も、またクラスの時間帯によっても集まる面々や雰囲気がガラッと変わるそう。

その時のメンバーを見て、できることをやるクラスです。来た方みんなに満足感を持って帰ってもらうのは、難しいんですけどね。

寝そべって、腰を浮かす動作ひとつにしても、腰痛持ちの人は「う〜、う〜」とうなっているし、腰が柔らかい女性からは「先生、これが何なんですか?」みたいな目で見られたり(笑)。ただ、そういう人たちが共存しながら、みんなで気持ちよくなっていく。それこそが平和なんじゃないかと思ってます。

研究所には柔らかいベージュの絨毯が敷かれています。「ヨガマットを使うと、自分の範囲が決められているような気分になって、動きが制限されるからあまり好きではないんです」と、孝さん。(C)生活ヨガ研究所 研究所には柔らかいベージュの絨毯が敷かれています。「ヨガマットを使うと、自分の範囲が決められているような気分になって、動きが制限されるからあまり好きではないんです」と、孝さん。(C)生活ヨガ研究所

ただ寝っ転がっているようにも見えますが、ヨガの中でとっても大切なポーズなのだそう。(C)NaraYuko ただ寝っ転がっているようにも見えますが、ヨガの中でとっても大切なポーズなのだそう。(C)NaraYuko

「男のヨガ」

男性限定のクラス。近隣で働くサラリーマンたちがスーツ姿で集まってきます。肩書きや役職から離れ、自分に正直に、できないことへもチャレンジしていくクラスだということです。

必ず設けたかったクラスです。疲れてるおっちゃんたちを何とかしたいなと思っているんです。また男性のストレス解消法っていうとタバコ、お酒、マシントレーニング、ゴルフなどが代表的で“身体感覚を麻痺させる”方向性のものが多いですが、ヨガは身体の内側から変化を促すことができます。

ただ、インストラクターには圧倒的に女性が多く、男性としては視線が気になる。自分も男だから、男の気持ちがよく分かるんです(笑)。そこで、男性限定のクラスを開こうと。

肩書きや役職を脱ぎ捨てて、“裸の自分でチャレンジする”ための空間。(C)生活ヨガ研究所 肩書きや役職を脱ぎ捨てて、“裸の自分でチャレンジする”ための空間。(C)生活ヨガ研究所

「モテるおやじへの旅立ちのポーズ(飛び立つ前)」を披露していただきました。…本当は「鷲のポーズ」といい、バランス感覚を養うためのポーズだそうです。(C)NaraYuko 「モテるおやじへの旅立ちのポーズ(飛び立つ前)」を披露していただきました。…本当は「鷲のポーズ」といい、バランス感覚を養うためのポーズだそうです。(C)NaraYuko

爆発的なブームになることはないにしろ、開校してから、一度も人が途切れたことがなく、安定した人気を見せているとのこと。サラリーマンからの密かな需要を感じます。

アウトドアヨガ(リバーサイドヨガ・リバーサイドビーチヨガ)

“屋外でヨガをする”というコンセプトで土曜日と、水曜の朝に実施。場所は美しい水辺が広がる中之島公園や桜ノ宮ふれあいの水辺で行なわれているそうです。

とにかく、男性も女性も分け隔てなく、ヨガへの敷居を低くしたいんです。ここら辺の景色は素晴らしく、外でヨガをやっていると単純に気持ちがいいんですよ。

また、ヨガを通して、自分の街が心地よい空間へ変われば、街がもっと好きになると思うんです。自分の居場所が心地よいと感じることで、自分の自信にもつながります。このヨガの風景が、ひとつの観光資源になればいいなぁとも思います。

ヨガマットが、レジャーシートのように見える楽しげな雰囲気。(中之島公園にて)(C)生活ヨガ研究所 ヨガマットが、レジャーシートのように見える楽しげな雰囲気。(中之島公園にて)(C)生活ヨガ研究所

開放感が違います!!(C)生活ヨガ研究所 開放感が違います!!(C)生活ヨガ研究所

JR桜ノ宮駅から徒歩10分、帝国ホテルより徒歩3分に突然現れる大川沿いのビーチにて。(C)生活ヨガ研究所 JR桜ノ宮駅から徒歩10分、帝国ホテルより徒歩3分に突然現れる大川沿いのビーチにて。(C)生活ヨガ研究所

将来的には、外国人観光客がヨガをしに立ち寄るようなクラスにしたいということ。水辺で身体を使ったコミュニケーションは、国籍も隔てることなく楽しめそうです。

また、アウトドアヨガを最初に実施したのは、2011年3月の震災直後だったそうです。

イベント自粛のムードが相次ぐなか、ここでやらなければ「人間はもっと自然をコントロールすべきだ」「水辺は危ないから近づいてはいけない」といった思想にますます捕われるのではないかと感じたんです。そこで、「水は生活の中に取り入れて感謝するもの、共存させて頂くもの」という学びをお伝えさせていただきながら開催しました。

写真は2011年4月開催時の様子。天満橋駅目の前にある八軒屋浜という船着き場すぐ近くの護岸で行なわれました。(C)生活ヨガ研究所 写真は2011年4月開催時の様子。天満橋駅目の前にある八軒屋浜という船着き場すぐ近くの護岸で行なわれました。(C)生活ヨガ研究所

珠数夫妻の、ヨガとの出逢い

現在、メインのインストララクターとして活躍される珠数孝さんと、それをサポートする奥様の美穂さん。おふたりで運営している生活ヨガ研究所ですが、その人柄に惹かれて通ってくる方の数知れず。

そんなおふたりの出逢いやヨガを始めたキッカケを伺ってみました。

僕は、実家の家業が「かたの健康会館」という“ヨガ道場”なんです。両親ともにもともとは体育教師だったのですが、父が首をいわせてしまった時に、沖正弘先生という日本のヨガの草分け的存在だった指導者に巡り逢ったんです。ついに両親ともに教員を辞め、家の敷地にヨガ道場を建てた年に、僕が生まれました。

お父様の珠数泰夫さんが執筆された『イノチが喜ぶ生活ヨガ』。40年の経験に基づいたヨガの教えが詰まった本で、初心者でも読みやすい内容です。(C)NaraYuko お父様の珠数泰夫さんが執筆された『イノチが喜ぶ生活ヨガ』。40年の経験に基づいたヨガの教えが詰まった本で、初心者でも読みやすい内容です。(C)NaraYuko

家には大きな体育館があって、ヨガをする畳の部屋があり、瞑想室もあり、いつでも近所の子供たちが遊びにきており、地域と一体で常に開かれているような家でした。

それから中学でサッカーを始めるまでは「ヨガ」とは意識せずに、当たり前のようにヨガへ接していたんです。

中学生以降はサッカー一筋で、また大学卒業後は建設会社の緑化をテーマにした部門へ就職されたということ。若手でも手を挙げればステージを与えてもらえる風土の中、孝さんは充実した日々を送ります。また、社内では奥様の美穂さんに出逢い、結婚。さらに大阪から東京へ転勤と、忙しい日々を送っていたそうです。

10年ほどサラリーマンをしていましたが、とても面白く充実していたんです。ところが、時代の波で会社の業績が落ち込んだり、それまで若手として頑張っていた40〜50代の人たちが、後から入ってくる若手に追いやられて元気をなくしていくことが気になり出しました。

孝さんは「疲れてるサラリーマンの心を元気にしたいなぁ」と、当初は社内環境を変えるプロジェクトを発足しますが、そのうちもっと直接的に“個人”へアプローチする方法はないかと考えます。「そういえばヨガがあった!」と、ヨガと再会を果たすことになります。

一方、奥様の美穂さんは、もっと“人の心”を学びたいと、通信制の大学で再び勉強を始め、一足先に会社を辞めていたそうです。

会社では設計の部署で“緑の設計”を担当していました。病院の屋上や中庭の緑などを担当する機会もあったのですが、例えば、その窓からの風景を見ながら一生を過ごす子どもたちにとって“いい緑”を考えても、分からなかったんです。ハナミズキを植えるときに適した土は分かっても、何を植えればいいのかが分からない。

そこで、もっともっと人のことを知りたいなぁと思って、メンタルヘルスやカウンセリングなどを勉強し直すことにしたんです。

それまで“運動経験はまったくなし”だった美穂さんも、大阪の大学で仕事をするようになったことをきっかけに、孝さんのご両親が営む道場でヨガを学びだしたということです。

こうして、お二人はそれぞれのタイミングで勤めていた会社を辞め、ヨガに取り組み、それぞれの方法で「人の心を元気にする」ことを生業とし始めます。

やがて、孝さんは「生活ヨガ研究所」を天満橋で開所。美穂さんも手伝いながら、半分は“植物を育てながら元気になる”というような園芸療法のお仕事をされているということです。

美穂さんが、大学でリハビリテーションを先行する学生に園芸を教えている授業風景。 美穂さんが、大学でリハビリテーションを先行する学生に園芸を教えている授業風景

「ハタヨガ」も、「緑」も、人の心を元気にするためのひとつの手段。日常生活の中にヨガを取り入れる、自分の気づきを得られるような学び舎としての役目を担っていければと考えています。

くよくよ、くよくよしている元気のない人が、一過性のものではない元気を取り戻し、「もう一度働こう!」と思ってもらえるようにしたいんです。

ヨガを生活を通してトータルで学べる場所

さらに、将来は宿泊施設付きの道場を開きたいという夢を抱いているそう。

おふたりの笑顔に出逢うと、心の中に爽やかな風が吹きます!(C)NaraYuko おふたりの笑顔に出逢うと、心の中に爽やかな風が吹きます!(C)NaraYuko

「生活ヨガ研究所」と付けたように、“人の生活”をトータルで改善したり、学べるようなヨガがやりたいんです。やはり90分の中でお伝えできるものは限られています。寝食を共にすることで、お互い学び合える関係が築けると思うんです。もう少しビジョンがはっきりしたら、宿坊か、ゲストハウスなのか、そんな夢も叶えたいと思います。

美穂さんも同じような意志を持っているそうです。

宿泊施設をしたいなぁという夢はありますね。畑などをしながら、仕事と生活が近い場所にある、という環境が作れたらいいなぁと思います。

月1回ペースで開催されている「おとなの遠足」も、そんな将来の夢への一歩なのかもしれません。毎回趣向を凝らした内容で、ハタヨガや瞑想に始まり、火起こしやタケノコ堀りなど楽しそうなプログラムが目白押しです。1日がかり、時に泊まり込みもありで開催されており、大人が楽しんでいる横で子どもたちも思う存分羽を伸ばしている様子が伺えます。

同じ空間で、大人と子供がそれぞれの時間を過ごしています。(C)生活ヨガ研究所 同じ空間で、大人と子どもがそれぞれの時間を過ごしています。(C)生活ヨガ研究所

草原の中で、好きな場所を見つけて瞑想タイムを楽しみます。瞑想後には不思議と姿勢が正され、顔つきまで変わってしまうということ。(C)生活ヨガ研究所  草原の中で、好きな場所を見つけて瞑想タイムを楽しみます。瞑想後には不思議と姿勢が正され、顔つきまで変わってしまうということ。(C)生活ヨガ研究所

充実した「食」のプログラムに、心も身体も満たされそう…。(写真はスモークチキン)(C)生活ヨガ研究所 充実した「食」のプログラムに、心も身体も満たされそう…。(写真はスモークチキン)(C)生活ヨガ研究所

おふたりの経験と、温かさが満ち溢れたスペース。これまで“ヨガ”の敷居が高く感じられた人にもぜひ訪れてもらいたい、そんな場所です。いつでもニコニコ笑顔なおふたりに元気づけられる人は多そうです。