ISSUE エネルギー

3 years ago - 2013.07.02

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ワールドシフトの鍵を握るR水素とは?谷崎テトラさんに聞く、”水素経済モデル”のつくり方 [イベントレポート]

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自宅の屋根や庭でつくり過ぎた電気を、売らずに全て自分で使い切りたいとき、まず思い付くのは蓄電池ではないでしょうか。でも、電気をためる手段は他にもあります。例えば、余っている電気で水を分解し、水素を取り出して貯蔵しておけば、必要なときに燃料電池に投入して発電することができます。

発電の際に水しか出さない燃料電池は、数年前まで遠くにある理想のテクノロジーでした。それが、2009年に家庭用燃料電池(エネファーム)が発売され、今では手のひらサイズの燃料電池まで出回り、いよいよ水素を活用する暮らしが現実味を帯びつつあります。「水素でオフグリッド」も夢ではありません。


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より大量の電気を安定的にためられる上に、劣化の心配もない。これが、水素貯蔵の魅力です。NPO法人R水素ネットワークは、水素を「再生可能エネルギーのパートナー」と捉え、「R水素(再生可能水素)」の普及に取り組んでいます。R水素の「R」はRenewableの略。より環境負荷の少ない水素の活用で社会は変わると提唱しています。その活動は、グリーンズでも繰り返し紹介してきました

国内で急速に自然エネルギーの利用が広がりつつある今こそ、R水素の実践が求められています。そこで、文明を根幹から変えるカギとしてのR水素について、ワールドシフトジャパン代表理事で放送作家の谷崎テトラさんに語っていただきました。聞き手はR水素ネットワーク代表の江原春義さんです。

ワールドシフトジャパン谷崎テトラさんも注目

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左が谷崎テトラさん、右が江原春義さん。原宿の屋内フリースペース「空き地」にて。

谷崎さんが水素に興味を持ったきっかけは、某ガス会社の人と交わした会話だったといいます。「水素は普通の都市ガスからも取れる、ガス管を通じて電気の原料を送れる、これからは水素社会だと聞かされて、ショックを受けました」。2000年ころのエピソードです。

その後、谷崎さんは、ハワイ島や屋久島やデンマークのロラン島のR水素コミュニティを取材。エリアを限定して水素社会の実験をしている事例を日本に紹介しました。化石燃料が高価で、なおかつ官民の連動が比較的容易な島々では、水素活用が先行していたのです。

谷崎さん 水素の持っている可能性を知り、水素社会というものを考えてみるだけで、社会そのものの見え方が全然変わってくる。水素を基盤としたさまざまなイノベーションがあることを、多くの人に知ってほしいですね。

江原さん 燃料として、既存の発電施設のタービンを回すこともできます。ガソリン車を改造して水素エンジンの車にする技術も既にあるし、飛行機や船の燃料にもなります。軽い気体なので、飛行船を飛ばすこともできる。それから、水素は農業用肥料など工業製品の原料にもなりますね。同じ目的のために大量に使われている化石燃料の消費も減らせます。

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デンマークの水素ステーション All rights reserved by rh2network

なるほど、水素をためて「畜エネ」することは、リチウムイオン電池などで「蓄電」することと比較にならないほどの可能性を秘めているようです。

しかし現在は、再生可能エネルギーで水を電気分解するよりも、石油や石炭や天然ガスなどを改質したり、工場から出る副生ガスを使って水素を取り出す方法が主流です。しかも、水素の絶好のパートナーとなり得る再生可能エネルギーの国内シェアは、まだ約1%。客席からも、そのシェアの小ささを指摘する声が上がりました。

江原さん 自然エネルギーの普及を待つ必要はありません。その普及と同時に、水素でためていければ良いと思います。水の電気分解の原理は非常に単純で、今すぐにでもできます。小水力、地熱、波力など、24時間発電できるエネルギーを推進すれば、夜間に水素をいっぱい取り出せるようになります。

いかにクリーンな方法で水素を取り出すか。これがR水素の本当のアジェンダとも言えます。自然エネルギーの他に、人工光合成の技術を使う研究もあります。下水や生ごみ、バイオマスからも水素は取り出せます。

ハワイではR水素を支援する政策も!

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ハワイ島で運行する水素燃料電池バス

谷崎さんは、世界の先行事例として、ハワイ大学のミッチ・ユアン教授らが立ち上げたプロジェクトを紹介しました。夜間の安価な地熱エネルギーを水素でためて活用する計画です。潜水艦のエンジニアだったミッチ教授が潜水艦の中で海水から酸素を得るために使っていたのと同じ技術で、海水から水素を取り出しているそうです。

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ミッチ・ユアン教授がつくった水素カー!

ハワイで水素研究が進んでいる背景には、地熱発電が盛んで電気が余っていたというエネルギー事情に加えて、自然エネルギーに関する世界トップレベルの研究施設「NELHA(ネルハ)」の存在、そして、水素活用を後押しする先進的な法整備があります。江原さんも、ハワイで水素関連会社を起業し、持続可能な水素事業を推進するための法案をハワイ州政府に提案して見事に通した実績を持ちます。

谷崎さんは、「今こそ日本でも、ハワイ島の水素経済モデルのような仕組みづくりが必要」と言います。

谷崎さん 政府が新しいエコなテクノロジーに対して法案をつくる。それによって、投資家がチャンスを得て、イノベーションを持っている企業が潤い、その売り上げがNPOの活動資金にもなる。水素活用を推進するためには、こうした基本的な仕組みから丁寧に形にしていくことが大事です。

企業も初めは社会貢献意識だけでやっている。今はその段階ですが、将来的には、水素は必ず儲かるでしょうね。化石資源は有限ですから。水素吸蔵合金の開発など、ちゃんとビジネスになる部分は多いと思います。

水素社会への転換を求める動きは60年代からあったけれど、まだ実現していません。その理由は何か。税制の仕組みや投資の機会の不足でしょうか。例えば、水素技術を世界に輸出するために研究者に資金を回すのでもいい、たった1つの法律で状況がポーンと転換するかもしれない。

役人の仕事は、社会に合わせてミッションが変わります。彼らの役割を変えるために、どういうアプローチができるのかが重要です。



確かに、石油やガスが足りなくなれば新技術で地下深くから掘り出し、電気が足りなくなれば無理強いしてでも原発を増やしてきた過去の足取りを見ると、各国政府が本気で取り組めば、無理そうに見えることでも早急に実現しかねません。

代表の江原さんは、「何よりも問題なのは、人々の無関心」と言い切ります。政策を誘導する主体は、あくまでも私たち。R水素に限らず、何か気になる動きを見つけたら、臆せずに討論に加わってみてはいかがでしょうか。参加意識を持った個人の増加こそが、ワールドシフトの原動力になるはずです。

(Text:瀬戸内千代)

writer ライターリスト

瀬戸内千代

瀬戸内千代

greenz シニアライター 東京生まれ。両親の故郷で瀬戸内海に親しみ海洋動物生態学者を志すも理系文系の橋渡しに興味が移り出版業界へ。2007年からフリーランスの環境ライターとして書籍・雑誌、ウェブに執筆している。プロフィール画像は伊豆下田でスケッチしたムラサキクルマナマコ。

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R水素は、水の中にある水素をパートナーにすることで再生可能エネルギーのポテンシャルを高める、持続可能なエネルギーのかたちです。 NPO法人R水素ネットワークの公式ウェブサイトはこちら

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