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「いつかきっと、思いを実現するテクノロジーは見つかる」。全盲男性の3,500kmの山道踏破を支えた技術とは?

blind man trail

自分の限界は誰が決めるのでしょうか。

もしかすると、私たち自身が自分の限界を決めてそこから進むことを諦めてしまっているのかもしれません。

今回はテクノロジーの力を借りて、自分自身の可能性を切り開いていったある男性のお話です。

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Mike Hanson さん(以下、マイクさん)は、生まれた時から目が見えません。しかし、2010年の春から夏にかけて、マイクさんは携帯電話のGPSのみをたよりに、誰の助けも借りずに約3,500kmのアパラチアン・トレイルの踏破を成し遂げたのです。

アパラチアン・トレイルはアメリカの三大長距離自然歩道といわれており、アメリカ東部のジョージア州からメイン州にかけての14州を横断する超長距離のトレイルです。毎年、約2,000人が踏破に挑戦しますが、達成できるのは全体の約10%、200人程と言われています。マイクさんはテクノロジーを駆使して、その難関を突破することができました。

マイクさんが使ったのは携帯電話のNokia N82。これに「Landstone GPS system」というGPSアプリをインストールしました。これは視覚障害者のために作られた無料のアプリで、音声で道案内をしてくれます。

Some rights reserved by easonlam

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2006年にアプリをダウンロードし、マイクさんの長い挑戦が始まりました。まず、すでにあるGPS情報に足りない情報を自分で入力し、トレイルのルートに目印となるチェックポイントを登録していきます。また、険しい山道を重たいバックパックを背負って歩くための体力作りも平行して行います。2007年には実際に山道を歩いてアプリの機能をテストしました。

こうして約4年間にもわたる準備期間の後、とうとう2010年の3月6日、マイクさんはアパラチアン・トレイルの第一歩を踏み出しました。約20kgのバックパックを背負い、ジョージア州からのスタート。映画監督のGray Steffensさんがドキュメンタリーを撮るために同行していましたが、後ろからついていくだけで、マイクさんが自力で道を見つけて歩いていきます。

チェックポイント毎に立ち止まってGPSで道を確かめ、GPSが障害物や分かれ道の方向を教えてくれる音声に従ってトレイルを進みます。途中悪天候にあって方向が分からなくなったり、険しい地形を進めずにいくつかのポイントを飛ばすなど困難な場面もありましたが、とうとう10月2日にメイン州カタディン山に到着。無事、アパラチアン・トレイルを踏破することができたのです!

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マイクさんが信じていたのは、「たとえ障がいを持っていても、適切なテクノロジーとその使い方を知っていれば、思っているよりも多くのことを実現できる」ということ。そのことを証明するため、アパラチアン・トレイルへの挑戦を決心したのです。

そんなマイクさんは、障がいがある人にも猟や魚釣りなどを楽しんでもらうためのNPO「Capable Patners」の設立者でもあります。生まれた時から目が見えませんでしたが、父親が猟師だった影響で自然に興味を持ちアウトドアに親しみながら育ちました。そこで、同じような境遇にある人々にもアウトドアを楽しんでもらいたいという思いから、このような活動を続けています。

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どうかあなたの思いを諦めないでください。それは“いま”、解決できる方法がないだけなのです。あなたを助けてくれるテクノロジーが開発されるのを、少しだけ待ってみてください。今日じゃないかもしれない。明日じゃないかもしれない。でもいつかきっと、あなたの思いを実現できるものが見つかるはずです。

と語るマイクさんの次の目標は、全長4,260kmのパシフィック・クレスト・トレイル。自分の「できない」を克服するテクノロジーの可能性は、まだまだ無限に広がっていそうです。

 
(Text: 阿部星渚)

[via Co.EXIST,Slate]