ISSUE ☆日本と世界のソーシャルデザイン

3 years ago - 2013.06.15

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学びと創造にあふれた社会を築く。ワークショップを実践する人にとっての道標『ワークショップデザイン論』

イベントや勉強会だけに限らず、企業における新規事業開発やデザインの現場など、様々なところでワークショップが開催されるようになりました。ワークショップの目的はそれぞれあるものの、そこに共通するのは参加者にとって満足のいくものかどうか、その場で新しいアイデアや創発が生まれるかどうか、ということだと思います。

新しい何かを作るためにワークショップを主催する側の人たちにとって、そうした創発の場をどう設計していくかが重要になってきます。そんな問題を解決するために、ワークショップ自体をどうデザインするかについて体系的にまとめた『ワークショップデザイン論―創ることで学ぶ』が、6月5日に発売されました。

著者は、学習環境のデザインについての研究をされている東京大学大学院情報学環准教授の山内祐平さんと東京大学大学院情報学環特任助教の森玲奈さん、そして以前greenz.jpでもご紹介した、ワークショップの実践と方法について研究し、企業の商品開発などにワークショップの手法を取り入れている東京大学大学院学際情報学府博士課程の安斎勇樹さんの3人。

先日開催された本著の出版記念イベントに参加し、本著の意義やこれからのワークショップのあり方についてお話を伺ってきました。

ワークショップの企画運営を体系化する

5月末に東京大学福武ホールにて開催された『ワークショップデザイン論−創ることで学ぶ』出版記念パーティ。パーティには、大学関係者やワークショップの実践や研究に携わる方々などが参加し、出版の喜びを分かち合う場となりました。

また、パーティにはワークショップに携わるNPOや企業などもブースを出し、ワークショップに関しての実践や研究の内容に関しての発表がなされるなど、分野を超えた様々な方々が交流する場となりました。

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今回の出版の目的や経緯について、山内さんに話を伺いました。

今や、様々なところでワークショップが開催されるようになりました。ビジネスやアート、もちろん学習の現場など、領域も多岐に渡っています。その中で、どうやってワークショップを企画運営するかということがしっかりとまとまっておらず、ワークショップという言葉だけが広まっているようにも感じました。

しかし、色々な手法を凝らしたワークショップをじっくり見ていくと、共通の部分や似た構造を持っているものも多くあります。そうした、構造できるところをまとめ、体系化してみようと試みたのが、今回の本です。

ワークショップについての理論や、ワークショップの実例についてまとめた書籍は数多くあります。そうした書籍と違い、実際にワークショップを企画運営し、次のワークショップの現場へとノウハウや知見をつなげるための書籍はあまり見当たりません。そうしたワークショップ実践者として必要な考えやポイントをまとめるが、今回の書籍の目的だと語ります。

安斎 3人ともワークショップ研究の分野に携わっており、これまでにいくつかの論文で実践や手法に関してまとめてきました。私自身、企業の新規事業開発などのワークショップの現場に出向くこともあります。そうした現場において、日頃の研究のノウハウや知見が活きてきます。

これまでワークショップを主催する人は、事例を参考にしながら手探りで実践している人も数多くいました。そうした実践者の経験や勘ではなく、現場に活きる研究のノウハウをもとにワークショップを企画する人たちにとって、ベースとなる参考書を目指しました。

この本は6章構成で作られています。第1章ワークショップと学習、第2章ワークショップを企画する、第3章ワークショップを運営する、第4章ワークショップを評価する、第5章ワークショップ実践者を育てる、第6章ワークショップと学習環境と続いています。ワークショップの過程を企画から運営、そして評価というサイクルで捉え、それぞれの段階に応じた理論をもとに解説されおり、始めから終わり、そして次へ、というワークショップの一連の流れを書籍の中で構成されています。

ワークショップには構造化とクリエイティブの両方が必要

ワークショップは、誰でも簡単にやれそうだと思う反面、参加している人のアイデアを引き出したり、ワークショップを通じて新しい発想を生み出すためにある種の非日常性を創りださなければいけない、という側面も持っています。

画用紙とポスト・イットなどを使い、ワークショップっぽいことをやることは誰でもできるかもしれません。しかし、本当の意味で創発を生み出すためには、基本的なルールを抑えつつ、そこから企画者なりのクリエイティビティを発揮させることで、ワークショップの場が活きてきます。まさに、ルールとクリエイティビティというコインの裏表のような関係の要素が揃うことで、良いワークショップが生まれてくるのです。

東京大学大学院情報学環准教授の山内祐平さん東京大学大学院情報学環准教授の山内祐平さん

山内 ワークショップも含めて、何かを生み出す場というのはその中に新しい学習も生み出します。実践者はより望ましいと思う何を生み出したいという目的があり、それに必要なツールや環境を構築し実践していきながら、仮説検証をおこない目的へと続く道ができるのです。

ワークショップという形や順番を真似るだけではなく、それぞれの企画の意図をもとにワークショップをデザインし、そこからどう創発を起こしていくかを実践者が常に考え、学び、そして次のワークショップにつなげていく。サブタイトルである「創ることで学ぶ」は、まさに裏表の関係にある「学習」と「創造」の関係を踏まえて名づけました。

それぞれのワークショップには、どういった目的をゴールに設定するかで、その場に必要なファシリティも変わります。デザインのわずかな違いが最終的な作品や生み出されるアイデアも変わってきます。同じデザインであっても、参加者が変われば違ったものが生まれてきます。世の中には、1つとして同じワークショップは存在せず、企画した人の思いと目的に応じて、常に細やかな設計をもとにワークショップを運営していかなければいけません。そうした設計に必要な考えや、ベースとなる形を参考にすることで、しっかりとしたワークショップを企画することができるのです。

安斎 日本の武芸には「守破離」という言葉があります。その最初の「守」がしっかりと確立することで、基礎から発展させる「破」が活きてきます。ワークショップにも、ベースとなる「守」があると考えています。

私が書籍の中で主に担当した箇所も、ワークショップをどのように企画運営するかという最も現場な内容を記載しています。ワークショップはある種の非日常性を持った空間の中から、いかにして新しいものを生み出すかという視点が大事になります。そうした視点を作り出すために必要な環境を、どう設計するかを考えるヒントになればと思います。

一回のワークショップで終わらせるのではなく、そのワークショップを通じて実践者が学んだことをしっかりと評価し、そして次に繋げるというある種のPDCAを確立することで、よりよいワークショップを作り出すことができます。そのワークショップのサイクルの基礎を創る、まさに「守」を踏まえることが大事なのです。

自由と制約のバランスをどう保つか

東京大学大学院学際情報学府博士課程の安斎勇樹さん

東京大学大学院学際情報学府博士課程の安斎勇樹さん

出版にあたり、完成まで1年以上の時間をかけて執筆されたそうです。ワークショップをデザインする、というこれまでになかった内容を執筆するにあたり、苦労した点もいくつかあったそうです。

山内 知識を獲得する学習はある程度体系化することができますが、何か新しいものを創るという行為を体系化するということは、ある種の矛盾もはらんでいますし、私たちもこれですべてを体系化できたとは思っていません。

今回の書籍の内容をそのまま踏襲すれば完璧なワークショップができる、というわけではありません。あくまで、ワークショップの基本的な考えやルールをまとめた参考書だと考えています。この参考書を片手に、それぞれの実践者が自身が思うような形にカスタマイズしていく自由があります。その自由の部分こそが、実践者自身の創造性に満ちた箇所なのです。

そのため、ワークショップはそうした制約と自由のバランスが大事であり、そのバランスの中から新しい何かが生まれてくるのだと思います。

なんでも自由にやっていい、と言われると案外何もできないこともあります。何かしらのルールや制約があることで、その制約をあえて崩したりズラしたりすることで、新しい気付きや発見があり、そこに創発を生み出す要素が含まれています。そうした創発を作り出すためには、まず基準となる制約が必要です。そうした基準を作ることこそ、この書籍の大きな意義なのです。

安斎 書き進めていく中で、色々な迷いもありました。こうやったらうまくいく、と一概に言えるものが多くはありません。かと言ってこのまま経験や勘だけでワークショップが企画されることは、ワークショップの企画者や参加者にとっても良いことではありません。ワークショップを通じ、少しでも学びを感じ取ってもらえるために、今ある材料をもとに暫定的でもあれ体系化をすることに、1つの意味があると思いながら少しづつ書き進めていきました。

ワークショップのための1つの参考書。もちろんこの書籍が完成でもなく、この先のワークショップのあり方について私たち自身も一緒になって「創る」ことで、新しいワークショップについての「学び」が生まれ、そして次のワークショップにつながるのだと思います。今作り出すことができるワークショップについての1つの軸をもとに、様々な人たちが手を介し改善をしていくことで、新しい創発が生み出されていくのだと思います。

もっと世の中に学びと創造にあふれたワークショップを

パーティの片隅では、レゴを使って「あなたにとってのワークショップとは」というお題で表現する場もパーティの片隅では、レゴを使って「あなたにとってのワークショップとは」というお題で表現する場も

最後に、どういった人たちにこの著書を手にとってもらいたいかを伺いました。

山内 ワークショップに参加する人は増えてきました。参加することがある程度一般化した次は、参加だけではなく一人でも多くの人がワークショップを作ってもらえたらと思います。もちろん、一人で1から企画するのは心細いでしょう。その時に、このテキストを読んでこれをもとにチャレンジして欲しいと思います。

仲間を募って企画するのも楽しいかもしれません。今や、誰でも共通の思いを持った人を集めることができる時代になっています。一人でも多くの人がこの本を読み、そこから世の中に学びと創造にあふれたワークショップが広がって欲しいと思います。

また、そうしたワークショップが行なわれることによって、少しづつ社会も変わっていくのだと思います。そのような動きの芽は、次第に出てきつつあります。そうした、未来への思いを持った人たちにとって1つの参考になれば幸いです。

これから、様々なイベントや勉強会などでワークショップが開催されていくと思われます。聴講型の学習ではなく、参加者同士のインタラクティブな場を通じて創発を生み、そこから新しい学びを生む機会も増えてくるでしょう。同時に、誰もがワークショップを企画することができる時代になってきました。誰もが参加、企画することができる時代だからこそ、その時の1つの参考書として、この著書が私たちにとって意味を持っていきます。

私たち自身が様々なものを創り、そこから学んだことを踏まえ、そして次の挑戦への糧とする。そうした未来へと続く学びと創造の活動の1つの道標として、ぜひ『ワークショップデザイン論−創ることで学ぶ』を読んでみてはいかがでしょうか。

writer ライターリスト

Eguchi Shintaro

江口 晋太朗 ( Shintaro Eguchi ) 1984年8月生まれ。福岡県出身。ヒト、コト、モノをつなぎ、次の時代のあり方を思考し、実践していく仕事をしています。東京を拠点に、全国を奔走しています。One Voice Cmapaign発起人。 Twitter @eshintaro blog Design of Social

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