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スタッフが生き生きと働くことのできる医療現場の構築を目指して。組織のチームワークを強める「アクリート・ワークス」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

ひと言で医療機関といっても、その種類にはクリニックや総合病院、在宅医療施設、健診機関、調剤薬局などさまざまなものがあります。ただ、どのようなタイプにも共通して言えることは、専門性が高い人材が集まるだけに、チームワークが重要かつ非常に難しい組織であるということです。

大曽根衛さんと、守屋文貴さんが共同代表を務める株式会社アクリート・ワークスは、医療機関に特化して、組織づくりと人材育成を軸にコンサルティングを行っています。従来のコンサルティングとは趣向の違うアプローチで注目を集めているアクリート・ワークス。その業務内容について、事業をはじめたきっかけなどを大曽根さんにうかがいました。

2011年6月に設立。まだそこから2年ほどしか経っていない会社でありながら、アクリート・ワークスが注目を集めているのは、「プロセス・コンサルテーション」と呼ばれる協働型のコンサルティング手法を採用しているためです。

従来型は「分析・提案・解決」のような流れで、コンサルタントが主体となって問題を解決。それに対して「プロセス・コンサルテーション」は、コンサルタントが組織に入り込んで、組織自体の活性化を促し、クライアントが自ら問題やその構造を発見して、ありたい姿へ近づいていく流れを作りあげるのです。

時間の確保が難しい現場

近年、医療機関の経営状況は厳しさを増してきています。病院の過半数は赤字経営に陥っており、その一方で、病院への患者さんからの要望や行政からの監督項目は増えています。そのような環境のなか、日々激務に追われてしまっては、スタッフ同士の関係性も健全な状態を保つことが難しくなります。

私たちは、医療機関で働くスタッフのみなさんが生き生きと仕事ができる環境づくりのお手伝いがしたいと思っています。

落ち着いた口調で、丁寧に言葉を選びながら話をする大曽根さん
落ち着いた口調で、丁寧に言葉を選びながら話をする大曽根さん

しかし、単純に外部から働きかければ、環境づくりができるというわけではありません。

医療機関は専門的な資格を持つプロフェッショナルが集まる場所です。そして日々の業務内容は、命や健康にかかわることのため、緊急性と重要度が高いものが中心です。また24時間365日動き続けている組織でもあります。つまり、全員が集まって長期的な視点で話し合う時間が取りづらいのです。

組織やチームをつくっていく話は、重要度は高いけど緊急性が低いものなので、なかなかそこに時間をつくれない構造があります。他にも理由はたくさんありますが、医療機関はそのような状況から、しなやかで強い組織・チームを本質的につくるのが難しいと言われています。「チーム医療」ということばが医療界のキーワードなのですが、それも言葉だけが先行してしまっているのが現状です。部外者が「分析・提案・解決」を持ちこむだけでは、うまくいかない理由がそこにあります。

働く喜びを感じられる職場・組織をつくると、心に決めました

そんな医療機関にアクリート・ワークスが持ちこんだひとつの手法がワークショップです。ワークショップをやることが目的になってはいけませんが、必要なタイミングで必要な場をデザインしていきます。多様な立場の人が参加し、参加者が最も関心のあるテーマを切り口に、質の高い話し合いができる支援をおこなっています。

視点を変えるきっかけをつくったり、また、お互いに本音で話せるようなコミュニケーションの質を高める工夫を随所に盛り込んでいます。関係性を高めることにもしっかりアプローチし、チームの思考の質が高まることで出てくる「芽」を大切に育て、次につなげていくイメージです。

専門職種・役職の垣根を越えて、深い気づきを共有し合う「場」

専門職種・役職の垣根を越えて、深い気づきを共有し合う「場」

医療機関では「(自己犠牲を前提に)患者第一を実践する」という考えが主流ですが、職員のチカラやモチベーションなどを引き出しながら、医療サービスを提供していくという考え方が、徐々にですが広まりつつあるのを感じています。参加者の方の生き生きとした様子を見ることで、経営者や管理職の方々の意識が変わる瞬間を見るたびに、このような機会の重要性を痛感します。

仕事なのでフィーはいただくのですが、それを抜きにして、そのような瞬間に出会えることや感謝されることが心からうれしく、そういうところにやりがいを感じています。だからこそ続けていこうと心に決めている仕事なんです。

子どもの頃の体験から医療に携わることを決意

医療に携わる仕事がしたい。はっきりとした形は持たないまでも、大曽根さんが漠然と将来の進むべき道を決めたのは、まだ小学生だった頃のこと。

僕は子どもの頃からアトピー性皮膚炎に悩まされていました。かゆくて、それこそ夜も眠れないほど。少し症状が良くなったかと思うと、また悪くなって…。そんなことをずっと繰り返していたのです。

高校生のときにいよいよ状態が悪くなり、治療のために四国の病院に入院しました。そこは全国からアトピー性皮膚炎の重症患者が集まる病院だったのですが、お医者さんから「君はとくに重度だね」と言われるほどひどかったのです。

病院の指導により、食生活やライフスタイル、つまりは生き方を変えた大曽根さん。すると、あれほど悩まされて、なにをしても効果がなかったアトピーが次第に快方へと向かっていきました。大曽根さんはその体験を通じて、医療や健康に関係する仕事に就くことを決意。でも、どんな形で関わればいいのかは、その頃はまだはっきりとはしていませんでした。

20代は“土台をつくる時期”と思って仕事先を探した

大学を卒業して社会にでるときには、できる限り厳しい環境の会社を探しました。20代はまず土台をつくる時期、仕事の筋力をつける時期だと考えたのです。それで、きびしいと言われる営業の会社と、やはりきびしいと言われるマネジメントの経験を積める会社に就職し、その後、30歳を前にして3社目に病院の経営コンサルティングを行う会社に入社しました。そこでは、実際に現場に入り、事務長として経営不振の医療機関の経営再生に従事しました

アクリート・ワークスのプロセス・コンサルテーションというアプローチ方法は、在籍していた会社での経験で行き詰ったときに、さまざまな外部の学びの場で体感したことが下敷きになっているのだそう。前の会社にはなんの不満もなく、大好きな会社だったそうですが、どうしても組織づくりと人材育成に特化した仕事がしたくなり、中学高校時代からの友人とふたりで、アクリート・ワークスを設立するにいたりました。

相棒の守屋文貴は現役の医者です。そして医者でありながらベンチャースピリットを秘め、とても熱い想いをもっています。学生の頃はそこまで仲がいいわけでもなかったのですが、私が医療業界に足を踏み出すときに相談に乗ってもらったり、また、彼がキャリアなどについて悩んでいるときにアドバイスをしたりするうちに、だんだん交流が深まりました。

業者になっては仕事ができないので営業はしていません

アクリート・ワークスのコアメンバーは大曽根さんと守屋さんの二人のみ。仕事を行うには営業など必要だと思いますが、そのあたりにも、大曽根さんの強みが発揮されているようです。

積極的な営業活動は一切していません。なぜなら営業をすると、業者にみられてしまう傾向があるからなんです。僕たちはご用件をうかがう業者ではなく、パートナーとして仕事がしたい。また、そうしなければうまくいかない仕事だと思っています。

全職員を集めてのダイアログ。他人ごとから自分ごとへ

全職員を集めてのダイアログ。他人ごとから自分ごとへ

大曽根さんたちは組織マネジメントなどのテーマで、しばしば講演会などを行っています。また、よい組織をつくることをテーマにしたコミュニティを運営して、毎月、研究会なども開いています。そういった出会いの場を増やすことで、ふとした雑談の中から、「アクリート・ワークスに仕事をお願いしてみたい!」という人や組織が現れるのだそう。知り合いからの相談や紹介などが多いのも、人のご縁を日ごろから大事にしているからこそ。そこからトライアル的に導入して、仕事に発展していくケースが多いのだそうです。

「ここでずっと働きたい」という現場の声がさらなる活力に

大曽根さんがプロセス・コンサルテーションに用いる手法は、世の中にある様々なワークショップ等の手法や各種学問などの考え方の要素を融合させ、その現場に合わせてアレンジする、大曽根さん独自のものです。

ワークショップには深い気づきを引き出すオリジナルの工夫もたくさん

ワークショップには深い気づきを引き出すオリジナルの工夫もたくさん

組織が抱える問題や課題などをヒアリングしながら、企画者や現場のひとたちとダイアログを重ね、どのようなワークショップを、どのようなタイミングで導入していくかを検討します。ワークショップの手法などについては常に研究を重ねていて、講義やセミナーなど、たくさんの実践の場にも参加してきました。

そんななかで身についたのが、決まったパターンとしてワークショップを取り入れるのではなく、ケースによって最適なスタイルを模索するやり方です。そもそも目指すゴールですら、話し合いのなかで変わっていくものですからね。

参加するだけでも元気をもらえる「場」づくり

参加するだけでも元気をもらえる「場」づくり

組織の課題が少しずつクリアされていき、風通しのよい環境が生まれてくることには大きな喜びとやりがいを見出しています。「わたしはここでずっと働きたいです」「悩んでいたのは自分だけじゃないことがわかって気持ちが楽になった」。そんな言葉が聞こえてくると、ますますやる気が出てくるそうです。

生き生きとした医療機関を増やしていくために

医療機関のみなさんが、自主的に、活発にミーティングをしたり、よりよい方向に向けての話し合いをしたりすることができれば、私たちの目標はひとまず達成されたと思っています。

私たちは黒子になるべき存在です。ファシリテーターとして場に関わることはありますが、組織の状態や様子をみながらクライアントに徐々に場の運営を任せて、フェイドアウトしていければいいと思っています。

緊張度の高い現場では普段話せないような話でも、話していいんだという安全な場をつくる

緊張度の高い現場では普段話せないような話でも、話していいんだという安全な場をつくる

立ち上げてからまだ2年。今後は「プロセス・コンサルティングを軸にしつつ、新しいサービスも考えていくところです」。そしてこのような考え方や、やり方をさまざまな医療現場に広く浸透させていき、その先にある地域や社会の安心や活性化にも携わりたいという想いがあるのだそうです。

コミュニティでの勉強会や、その他さまざまな場をつくることを通じて、もっと広く、 共感を呼べるようにしていきたいですね。医療の現場はとても疲弊しておりますが、活力がみなぎる場になっていくという希望をもっています。

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やりがいを感じる生き生きとした医療現場を増やし ていき、そのポテンシャルを最大限に発揮できるようにするために、これからもっと力を 入れて、活動していきたいと思っています。それもまた大切な「まちづくり」のひとつだ と考えています。

組織のチームワークは、どの職場でも大切な要。皆さんも、自分のいる環境を改めて見なおしてみませんか?