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古民家に「自分ごと」を持ち寄って、能登川のまちづくりを考える「子民家エトコロ」高田友美さん

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古民家をリノベーションした「子民家エトコロ」

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

職場でもなく家庭でもない場所で、人が集まりつながれる場を、近頃は「サードプレイス」と呼ぶようになりました。都市部では、カフェやバーがその役割を果たしているケースも多いですが、地方の小さな街ではそういった場所が少ないのではないでしょうか。

滋賀県東近江市の能登川地区は、織田信長の城があった安土町の隣、かつては繊維業でさかえた近江商人発祥の地のひとつとも言われる町です。その能登川の駅から徒歩1分のところにある古民家では、今、新たな地域コミュニティづくりが始まっています。NPO法人エトコロのメンバーとして活動されている高田友美さんに、お話をうかがいました。

古民家を地域コミュニティの場に

「子民家エトコロ」は、絵(芸術)を通して子どもを育むという意味合いの「絵と子」、そして地域のコミュニティの場としての「良いところ」=「えーところ」という思いを込めて付けられた名前です。紡績商だった方のお屋敷で、蔵もあれば、別の方の所有する隣の建物(絽絽の家)とも廊下でつながっていて、裏庭には小さな菜園もあります。この立派な古民家を活かしながらリノベーションし、コミュニティづくりが始まりました。

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子民家エトコロはみんなの遊び場。お庭にも子どもたちのアートが。

今年、3年目を迎えた「子民家エトコロ」は、活動の幅を少しずつ広げています。たとえば、地元の商工会で企画された女性起業塾を受講した方々が「子民家エトコロ」でチャレンジショップをしたりも。ここで、高田さんがかかわっている、いくつかの活動を紹介したいと思います。

こどもアートまつり in 能登川

商店街のお祭り「えびす講」にあわせて開催された2日間のアートイベント。地元や知り合いのアーティストの皆さんにご協力いただいて、子どもも大人も気軽にアートに触れたり楽しんだりできる空間を「子民家エトコロ」の近くの、普段は使われていなかった建物を借りて開催しました。

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世代を超えてアートに親しむお祭り。ちんどん屋さんも登場しました。

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みんなで作品づくり!子どもたちの感性に大人もびっくり。

ソーシャル子民家立ち上げ事業

「子民家エトコロをもっとオモロイところにするために」を合言葉に、「子民家エトコロ」で何かしてみたい人を募集して、実験的に取り組んでもらう事業を行いました。たくさんの方に応募いただき、Facebookでのコメント募集なども経て、そこから始まった企画は、ヨガ教室や、人形劇づくり、男子料理部、Bar Nagarajaなど、これまでは参加者として遊びに来てくれていた方などが、今までなかった新たな企画を立ち上げてくれました。

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Bar Nagarajaの日は、子民家エトコロがオリエンタルな空間に。

エトコロ勉強会 

「子民家エトコロ」の今後の運営を考えるために、また地域で子育てに関心のある方々とつながるために、子育てや子育て支援の場づくりをテーマにした勉強会を不定期で開いています。たとえば、地域の自然を生かした遊び場「天気村ネットワーク」の取り組みや、異業種・異領域とつながりながらの子育ての場づくり、といった考え方を不定期にゲストを招いて学んでいます。

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地域のママたちの子育て勉強会

能夢会 

毎月ぞろ目の日は、能登川の夢を語る会。住みやすい能登川、大好きな能登川を自分たちの手でつくろう!という、ざっくばらんな飲み会です。

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3月3日、ぞろ目のおひな祭りに開催された能夢会。ほろ酔いでも語りは熱い!

場ができて生まれること、見えてくること。

さまざまな活動に取り組んでいる高田さんですが、地域コミュニティにしていくにはまだ模索しているようです。

じつは、今も「子民家エトコロ」をどんな場所にしていくかについては試行錯誤中です。こんなステキな場所ができた、いろいろやってみたけれど、なかなか地域のいろんな人を巻き込んでいくのは難しいな…という感じですね。

でも、地域の人も含めてエトコロに関心をもってくれる人とあれこれ話していくなかで生まれてくるものが、必要で大切なものだと思いますし、そのプロセスが世代を超えた交流の機会になればと。エトコロはコンテンツやソフトを提供する場所でなくて、コミュニケーションの機会をつくる場になれたらいいのかもしれませんね。

手作りの広報誌「え~ところ」をつくるときも、最初の2号はデザイナーの方を経由して印刷会社にお願いしていたのですが、3号からは商店街のなかにある文房具屋さんに出かけて紙を探し、地元で使える輪転機で印刷したそうです。

おばあちゃんが運営している街の文房具屋さんで、紙の種類も少ないです。これぐらいのサイズと厚さのものはありませんか?と聞くと、近しい紙で必要な枚数があるのは一つでオレンジ色のものだけでした。いろんな色から選びたかったのですが、でも、その紙でつくることにしたんです。文房具屋さんと小さいけれども接点ができることに地域で活動する意味があると思って。

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手作りの広報誌「え〜ところ」今月もイベントがいっぱい。

新興住宅地の仕組みづくりが出発点に

高田さんは静岡県浜松市の出身。就職するまでは、特に滋賀県とは何の関係もありませんでした。大学、大学院でフェアトレードや環境活動などに関心を持ち、できれば仕事も何らかの仕組みづくりに携わりたいと考えます。そして高田さんの目にとまった会社は、意外にも近江八幡の建設会社「秋村組」でした。秋村組は「持続可能な社会を近江八幡から実現する」ことを掲げて、サステイナブルな暮らしのための建設を実践していこうとしている会社です。

秋村組がちょうど株式会社 地球の芽という別会社を立ち上げ、「小舟木エコ村」という新しいまちづくりのプロジェクトが始めようとしていたところで、コミュニティビルディングを考えていきたいと思っていた私の気持ちと重なったんです。

大学院生のときに関わりのあったイースクエアという会社の代表であり、ロハスの概念を日本に紹介したピーター・D・ビーダーゼンさんがアドバイザーだったのも決め手になりました。

全く知らなかったけれど面白そう会社があるな、と。そのプロジェクトは、近江八幡の豊かな自然と人と生き物とがともにいきいきと暮らせるまちづくりを目指していて、リサイクルやエコロジーへの取り組みと、コミュニティの話し合いでものごとを決めていける仕組みの起ち上げにかかわりました。

「小舟木エコ村」自治会館の竣工式に住民の方と。一番に左に高田さんの姿も。
「小舟木エコ村」自治会館の竣工式に住民の方と。一番に左に高田さんの姿も。

新しく区画整備する街ですが、そこに住む家族の子どもやそのまた子どもたちが、ずっと「小舟木エコ村」で暮らしたいと思える街並み、いわば、入居者の「地元」づくりのきっかけを整えていく仕事でした。

「自分ごと」の持ち寄りが、まちづくりになる

「小舟木エコ村」のプロジェクトがひと段落すると、高田さんは秋村組を離れ、職場を大学にかえて、まちづくりには個人的に関わるようになります。そして、能登川の駅前にある古民家を解体の危機から守りながら地域コミュニティの拠点にする活動に参加することになりました。それが「子民家エトコロ」です。

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高田友美さん 子民家エトコロに集まったあかちゃんとの一コマ。

ちょうど転職と引っ越しのタイミングで、そんなお話があると聞いて、面白そうなことが始まるな、と。だったら思い切って自分も能登川に住もうと思ったんです。まちづくりの現場から離れてしまうのも寂しかったし、実際に住んでみてわかることも多いだろうし、地域活性させるぞ!と、意気込むというよりも、私も住む街だから楽しく暮らせる街にしたいという気持ちで。自分ごととして、自然に取り組めればと思っていました。

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私はまだ、子どもを産み育てたこともないけれど「小舟木エコ村」でも「子民家エトコロ」でも、いろんな子ども達やお母さん・お父さんたちと触れ合う機会があって、そういう場での気づきや学びが、いつか私自身の子育てにもつながっていくんじゃないか、という期待もありますし、純粋に地域のみんなの楽しそうな笑顔をもっと増やせたらとも思います。

そして大変なことや困っていることがあれば、一緒にこの場を活用して解決していければと。そのための人のつながりを、もっと強いものにしていくことがこれからの宿題です。

高田さんの活動をうかがっていると、魅力あるまちづくりとは、その街に住んでいる人それぞれが「こうしたい」と考える「自分ごと」をいかに持ち寄れるか、また持ち寄ってアクションを起こせる場があるかどうかが重要だと思います。子どもを感性豊かに育てたい、美味しいランチを近所で食べたい、気軽に作品を発表したい、などなど。いろいろな思いがあり、そして、それを受けとめる、誰にでも開かれた場所があること。

「子民家エトコロ」のように街の歩みや記憶を引きついでいる場所が、その役目を果たすことで、街の文脈のなかに違和感なく位置づけながら「自分ごと」の問題を解決したり、叶えたりすることができます。もしも、自分の街を魅力ある街にしたいと思ったら、まず、そういう場になりうる建物を探すのも、1つのスタートになるはず。

「子民家エトコロ」をきっかけに、能登川がどんな街になるのか、それを知るためにも一度、能登川を訪れてみてはいかがでしょうか。