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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

「キレイになって,逝ってらっしゃい」

アカデミー賞を受賞した映画『おくりびと』のキャッチコピーであるこの言葉。描かれているのは、亡くなった方を棺に収める納棺師という仕事です。生きるとはなにか、死ぬはなにかを問いかけたこの作品が、心に残っている方もいるのではないでしょうか。

しかし少子高齢化が進む日本では、孤独死という悲しいニュースが絶えません。なかには阪神淡路大震災や東日本大震災などの大きな災害によって、ひとり暮らしになってしまったお年寄りの方が、誰にも知られずに亡くなってしまったというケースも…

そんな誰かにとっての最期を送る仕事に、遺品整理の仕事があります。この仕事に取り組むのは、神戸の西、西宮に拠点を持つ「株式会社リリーフ」。代表取締役である赤澤健一さんにお話を伺いました。

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株式会社「リリーフ」代表取締役の赤澤さん

「リリーフ」はもともと、家庭ごみや粗大ごみを収集し、市の処理施設に持って行く仕事を60年間行ってきた会社です。それまでも年に数件ほど、孤独死のお年寄りの家を片付ける依頼が市からありました。

特に、大変暑かった数年前の夏、お年寄りの室内での熱中症死が相次いだんです。六月から十月の間に30数件という件数で、ほとんどがお部屋の片付けを引き受ける人がいない状況でした。

その頃、「便利屋」を名乗って片付けを受注し、違法に物を捨てたり、遺族に法外な値段を請求する、ずさんな業者が横行していたといいます。

当時、この仕事は社会的に認知されていなかったので、みんなどこに頼んだらいいのかわからない、という状況でした。何が基準なのかもわからないし、どうすればいいのか困っている人がいる。だんだんとこの仕事の必要性を感じ、遺族の力になれるように動き出したんです。

「私たちは本来であれば、ない方がいいサービスなんです」

はじめは、人の死を通してビジネスをすることに大きな葛藤があったといいます。それでも、確実に困っている人たちを助けたいという思いから、遺品整理のサービス化に乗り出しました。

リリーフの理念は、スピーディーであること。24時間以内に見積もり、契約後48時間以内に作業に着手する、日本で1番安心、信頼されるサービスを目指しています。

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作業は丸一日かけて行います

作業に取り組むスタッフは、全員遺品整理士の資格を持っています。彼らはもともと廃棄処理担当で、遺品整理に特化した部署をつくる際に自ら希望したメンバーです。現在の依頼は、ゴミ屋敷の処理や清掃、夜逃げの後処理、遺品整理など多岐に渡ります。仕事の依頼は、葬儀屋さん、介護事業所、マンション管理人の紹介など、さまざま。

私たちの現場が、まさに息を引き取られた場であることもあります。その時には、より一層の誠意をもって整理をします。遺品整理は親族だけでは難しくて、他人だからこそ入って行けることもあると思うんです。ただ捨てるだけならどこの業者でもできますが、それを遺族と一緒に向き合うことも含めてひとつのサービスとして行うこと。これは、実際にお客さんから感謝された経験から始まっているんです。

と赤澤さん。可能な限り遺族の皆さんと立ち会っていただきながら、一つひとつの物を整理していく「リリーフ」にはこんなエピソードもありました。

例えばある疎遠になった親子は、互いに「会いたくない」と気持ちが離れたままで、死を迎えてしまいました。その後ご自宅を整理すると、写真や手紙がたくさん出て来たんです。それらを通して、うまくその思いを伝えられなかっただけで、実はお互いを強く想い合っていたことを知ることができました。

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もし「リリーフ」の活動がなかったら、この親子の溝は埋められなかったかもしれません。物に託された大切な人の思いが届くことで、きっと救われる人がいる。そうやって初めて、死を受け入れることにつながるのかもしれません。

取材の当日、大阪で行われていた現場へ同行させていただきました。まずは、紹介先である管理人さんへの挨拶から。台車を使って荷物を出し入れするにはどうしても音が出てしまうので、両隣の部屋にも挨拶に伺います。「一歩部屋に入れば、何がどこにあるかはわかる」というスタッフの皆さん。「今日の現場で亡くなられた方は本が好きだったみたいです。このたくさんの本をすべて梱包して送るところまでが仕事です」とひとつひとつ失礼がないように丁寧に扱いながらも、短時間でてきぱきこなす姿はまさにプロフェッショナルでした。

人生を整理する生前整理から、人に寄り添ったサービスを目指したい

 
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全員で覚えたエイサーを老人ホームで踊るスタッフの皆さん

スタッフ総出でエイサーを踊るこの写真も、実はリリーフの取り組みのひとつ。社内でエイサーを練習して、老人ホームや集会所で踊るイベントを開催しているのです。これは家に引きこもりがちなご年配の方に、外に出てもらうために沖縄出身の社員が発案した試みでした。

他にも、”生前整理”というものもあります。自分の将来を考えるご年配の方から、一緒に整理を行ってほしいという依頼があるのです。

たくさんの思い出の品をひとりで整理するのは難しい。そこにスタッフが一緒に取り組むことで、自分自身の人生を振り返ることにもつながります。

残された物から時間を超えて、人と人をつなぐ。

その人に寄り添いたい。この「リリーフ」の姿勢は、「今日こうしたら喜んでもらえた!」という嬉しいエピソードをメンバー間で共有する習慣から始まっています。

ときには特殊な清掃が必要な場合もあり、綺麗な部分だけが見えるわけではないので、この仕事には強いメンタルが必要なんです。だからかもしれませんが、僕らにとって当たり前の作業でも、遺族の方には毎回感謝していただくのがありがたいですね。ただの廃棄物を扱うのとは違う、人との関わりの深さがやりがいになります。

実際に現場で遺族の方と話しながら作業を進める、勝浦優孝さんにお話を聞きました。

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勝浦さん

「その人が最後の瞬間までいた場だからこそ、少しでも身軽に旅立てるお手伝いができたら」そう話す勝浦さん。

昨年の夏のことですが、60歳で一人身だった方がお母様を亡くされました。かなり落ち込んでいらして、遺された持ち物をみるのだけで涙が止まらない状態でした。

「目を通したので、全て処分してください」と依頼されたのですが、整理していく中で、手書きで書かれた新聞の書き込みを見つけました。それが、亡くなられた方と親しくされていた知人のお名前だったんですね。「私の目が届きませんでした。これで母の死を知らせられます」と感謝していただいたんです。

勝浦さんは自分の両親を含め、4人の死を看取ってきました。その中で、自分は人の死を見送る仕事がしたいと思うようになりました。その出会ったのが赤澤さんの著書『遺品整理業、始めましたー廃棄物ビジネスからソーシャルビジネスへー』でした。

これだ!と思って、すぐ電話しました。58歳でスタートしたこの仕事は、自分にとって天職だと感じています。

新しい持ち主のもとで、新しい命を吹き込む仕組みを

いま「リリーフ」が動き出しているのは、「整理→捨てる」の一歩先を行くリユースです。物の処分に経費の半分がかかってしまうものの、多くはまだまだ使えるものばかり。そこで、遺品にもう一度命を吹き込もうという挑戦を行なっています。

私たちが扱うのは、使えなくなったものではなく、昨日まで持ち主に使われていた元気なものばかり。それをもう一度、新しい持ち主に届けることで命を吹き込みたい。

その舞台はカンボジア。現在、実験的にリサイクル事業をスタートし、カンボジアの首都プノンペンで、現地の人が販売を行うリサイクルショップが展開されています。その収益の一部は、カンボジアの孤児院や学校に寄付されるそうです。

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日本から送られたリユース品が並ぶリサイクルショップ「リンリンオレンジ」

私たちはこれをサービスとして取り組んでいます。だからこそ私たちには説明責任がありますし、情報はできるだけ公開しています。ひとつひとつオープンにすることで、ネガティブに受け止められてしまうリユースの産業化、社会化を目指したいんです。

現地では小学校へ出前授業をしたり、住民の方とごみ分別についての意見交換を行うなど、積極的な姿勢が伺えます。「すべてのステークホルダーから安心、信頼されることを目指したい」と赤澤さんは話します。

言ってしまえば、僕の大切なお客さんは社員一人ひとりなんです。その社員は直接お客さんと一期一会のやり取りをする。そうやって目の前の人を大切にしていく姿勢が、正しいサービスにつながると思っています。

人の死は誰にでも訪れるからこそ、みんなが当たり前に考えるべきことなのかもしれません。遺品に宿る思いの強さが、時間を超えて人の心を動かす力があることを、リリーフは教えてくれているのです。孤独死のニュースが耳に入ると、悲しい切ない気持ちになりますが、そんなニュースを聞いたときはぜひ、「リリーフ」の活動を思い出してみてください。

(Text:青木優莉)

青木優莉
横浜生まれ横浜育ちのハマっ子。中高時代はオーケストラ部に所属しバイオリンに打ち込みながら、校外活動で読売新聞の子ども記者、横浜開国博Y150のFM横浜ラジオレポーターを務める。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に通いながら、人をつなげたい!とインタビュー、デザインを足を動かしながら学び中。イベント、WSの企画運営を行いながら、声だけでハーモニーをつくるアカペラに飲めり込む毎日。
Twitter:@pandaoki