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「世界を変える」から「未来をつくる」へ。
アクションのためにひらめきを練り上げていく「ダイアログBAR京都」[イベントレポート]

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

「アイデアはあるんだけど、どう実現したらいいんだろう?」とモヤモヤしている方にオススメしたいイベントがあります。それはNPO法人ミラツクが主催する「ダイアログBAR」。グリーンズでも何回かレポートしてきました。

2013年4月に株式会社ウエダ本社との共催で行われた「ダイアログBAR京都」では、greenz.jp編集長・兼松佳宏さんがゲストとして参加。マイプロジェクトをテーマに開催されたそのイベントの様子を、レポートしたいと思います。

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約60名もの方が参加されました

イベントの前半は兼松さんによるトーク、後半は参加者による対話です。トークでは、グリーンズ編集長という、ひとりのマイプロジェクト実践者の話として、グリーンズがはじまる前の話からリニューアルの話、グリーンズにおける編集長という役割について語りました。

ということで、今回のレポートでは、そんな前半部の内容とともに、後半部の対話についてもご紹介していこうと思います。

ダイアログBARに来ている人ってどんな人たち?

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前半部の前に、即興チームメイキングをして自己紹介が行われました

この場に集まった60名の中には、学生や会社員、行政職員の方などまさに十人十色。

参加の動機は「前回参加して面白かったから」というものから、「企業のCSR担当だから」、あるいは「”マイプロジェクト”を行われている中で課題を見つけたから」などさまざま。共通しているのは、みなさんご自身が生活し、仕事をする中で何かしらモヤモヤに直面している、ということです。

グリーンズは物足りない?マイプロジェクトじゃ日本は変わらない?

兼松さんも状況は一緒です。この場では、グリーンズの最近のプロジェクトのきっかけになった二つのモヤモヤを紹介しました。

ひとつが、「すでにプロジェクトを行っている人にとって、グリーンズは正直物足りない情報になっている」という仲間からの意見。これがきっかけになって、グリーンズ副編集長の小野裕之さんを中心に、マイプロジェクトを続ける中でマネジメントやマネタイズの壁に直面している人たちが集まれる場、「greenz biz」というプロジェクトが準備されています。

もうひとつは、グリーンズから2013年4月に発売となった『日本をソーシャルデザインする』という書籍。その前作となる2012年に発売された書籍『ソーシャルデザイン』刊行後のレビューの中でこんな意見を見つけたのです。

「マイプロジェクトっていうのは分かったけど、日本っていう大きいものは変わらないんじゃないの?」っていう気になる意見を見つけて、ちょっと悔しかったんです。だから今回の本は「日本をソーシャルデザインする」と大命題を掲げて、僕たちの思いを世に問うてみることにしました。

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「兼松さんがグリーンズを立ち上げるまでの経緯を詳しく教えてください」とリクエストが

「自分のデザインが悪いシステムに加担しているんじゃないか?」

そんな常に変化の途上にあるグリーンズ。現編集長の兼松さんがグリーンズをはじめるまでの話から前半部はスタートします。ではその「マイプロジェクト以前」に耳を傾けてみましょう。

新卒のウェブデザイナーとして働き始めたのですが、はじめて新卒で入ったデザイナーだったので、自分で自分を育てていく必要がありました。そのとき人事だった小川さんとの出会いは大きく、その方の周りに居た”ナレッジワーカー”的な方々の影響もあって2003年からブログをはじめました。そのブログがだんだんと話題になり、いろんなお声がけをいただき仕事の枠が広がっていきました。

当時兼松さん24歳。ファーストフードのキャンペーンサイトをつくったり、某スポーツメーカーのプロジェクトを手がける中で、途上国の人々を搾取して商品をつくる大企業の裏側を意識するようになり、疑問を抱きはじめます。

当時、ナオミ・クラインの『ブランドなんか、いらない』という本やデザイナーの社会的責任を訴えるAdbustersに影響されていました。自分のデザインがもしかしたら悪いシステムに加担しているんじゃないかと、だんだんストレスになってきたんです。

そのときとあるNPOのウェブサイトをプロボノでつくりはじめたり、世界中の問題をクリエイティヴに解決するデザイナーのインタビューを通じて、デザインでできることを深く考えるようになりました。その後『WebDesigning』という雑誌で「DESIGN MAKES THE WORLD MOVE FORWARD – デザインは世界を変えられる?」という連載を2005年から2008年まで続けました。それがグリーンズの原体験です。

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関西のグリーンズライターさん、グリーンズ副編集長の小野さんもフロアに混じっています

「太陽」になってコミュニティの温度をあったかくしたい

クリエイティブディレクターとしてグリーンズの立ち上げに関わり、2010年から編集長を務めている兼松さん。編集長になったときに意識したのは、「コミュニティを大切にする」ということ。

それまで記事にややムラがあったグリーンズに求められたことは、「どこに向かおうとしているのか」ということをライターと編集部で共有することでした。 

その際、編集長の仕事はどういうものになるのか?質疑応答でも話題になったこの問いかけに対して、兼松さんは「コミュニティの温度をあったかくすること」ではないかと語ります。兼松さんはこれを比喩的に「太陽でありたい」と言います。

なんでそんなことを考えたかというと、一人でできることは限られているという、当たり前のことに気づいたからなんです。2011年秋にモリジュンヤくんというスーパー副編集長が抜けた瞬間、グリーンズがガタガタになって。特定の人のスキルに依存して、ノウハウを残せてなかった。

それを繰り返さないために、例えば5人力のひとりで回すのではなく、5人で回して、それを文化として残していけるような、そんな新陳代謝のある編集部に脱皮していきたいと思うようになりました。

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現在、”自分ごと”から問題をクリエイティブに解決している人やプロジェクトを「なぜそれをするにいたったのか」というストーリー含めて紹介する「マイプロSHOWCASE関西編」も始動開始。1位港区、2位渋谷区、3位新宿区という3、4年不動のグリーンズ地域別アクセスランキングに、「先週、大阪が2位にランクインした」とのこと。先日からは東北編も始まりました。

編集部とライターというコミュニティに、「マイプロSHOWCASE関西編」では大阪ガスさんというパートナーが加わりました。現在参加している40から50人のライターさんももう少し増えていく予定。15万人の仲間という読者とともに、グリーンズコミュニティはどんどん拡大中です。

ほしい未来は、つくろう。でもそれ、本当にほしいの?

2013年2月22日。この日、グリーンズのウェブサイトがリニューアルされ、それに伴ってキャッチコピーが変わりました。それまでの「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア厳選マガジン」から「ほしい未来は、つくろう」へ。

誰かが決めた未来じゃなくて、自分がほしい未来を考えていこう。そしてもっと未来をほしがっていい。そういう思いが新しいキャッチコピーの背景にはあります。

ただ、「このキャッチコピーには危うさがある」と兼松さん。精神分析家ラカンによる「人間の欲望は他者の欲望でできている」という言葉を例にその心を紹介します。

雑誌のスイーツ特集を見て、スイーツを食べたいと思った経験は誰にでもあるでしょう。でも外からの刺激ばかりで動いている時は、瞑想したり、ふと静かに立ち止まって、小さな欲望を一度、断捨離する必要があると思っています。空海は、そんな大きな欲望を”大欲”として肯定していますが、自分という枠を広げて、本当に欲しいものは何かを問いなおすことで、本当にほしい未来は見えてくるのかなって。

「世界を変える」から「未来をつくる」へ

兼松さんが時間をかけて丁寧に説明された新たなキャッチコピーの内容とあわせて、その「変化」こそとても大切なポイントだと感じました。それが、「変える」から「つくる」へ、です。

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社会や世界を「変えたい」とずっと思ってきたのですが、変えるという言葉にはどうしても「こっちが悪くて、あっちがいい」と対立構造が生まれてしまいます。その結果、ひずみが残っちゃうんですよね。

変える、という動きは本当に大事だと思うのですが、変わった先の世界でゼロから始めるのではなくて、「こういう選択肢を試しておいたよ」みたいな代替案を提示していくことを、グリーンズでは目指したいと思っています。

交換ではなく、ネクストアクションの循環を

最後に兼松さんが大切にしている二つのことを紹介してくれました。ひとつは「交換よりも循環」。何かを実行するのに、自分への見返りを求めずに、相手に対する贈り物として届ける、ということ。

そして「ネクストアクションを大事にする」。記事を読んだ人たちが単に情報として「他人のプロジェクト」を消費してしまうのではなく、「次に自分たちが何をするか」を考えてもらうことこそグリーンズの哲学だと言います。

実際、「最初は海外事例を見て『すごい!』と思っていたけど、本が出たときから段々『自分でもはじめないと』と思う人が増えた」と兼松さんが語る通り、「ネクストアクション」の輪はつながり、循環ができつつあります。

小さなマイプロジェクトは「大きなもの」を変えられないわけじゃなく、それが連鎖になり、コミュニティが拡大する中でこそ可能性は広がっていきます。さあ、次は私たちの番です。

持ち寄られた12のトピック

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マイプロジェクトの即興プレゼンテーションが行われています

こうした兼松さんのマイプロジェクトの話から、後半は参加者主体による対話へ。「こんなことをやってみたい、考えてみたい」という12名が持ち寄った、12のトピックが掲げられました。

「自分の住むシェアハウスの交流を活発にしたい」
「”フェアトレード”という言葉をなくしたい」
「得意技を持つ人を見つけるプロジェクト」
「京都を最大限に楽しむ」
「患者支援、医療のマイプロを持つ人をどう発掘しつながっていくか?」
「そうだ、イノベーションを起こそう。食と人で。」
「笑顔の意味を深く考えたい」
「これからの理想のコミュニティモデルとは?」
「うさんくさくない”ソーシャル”って?」
「まだクラウドファンディングサイトは必要?」
「どこでも地域活性化は可能か?」
「そもそも”働く”って何?」

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12のトピックと、ミラツク代表の西村勇也さん

「まちづくりに若い人がなかなか集まってくれない」

筆者が参加したのは、「得意技を持つ人を見つけるプロジェクト」と「まだクラウドファンディングサイトは必要?」についてのチームディスカッション。内容を少し紹介していきましょう。

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チームディスカッションには兼松さんもご参加

前者はまちづくりに関わる大津市の行政職員さんによる問題提起。これまでイベントは起こすものの若い人がなかなか集まらず、それぞれの人がどんな”得意技”を持っているのか分からない。それを改善するようなプロジェクトはできないか、という実感から来る課題です。共感された京都市の行政職員さんと学生さんとともに対話がはじまりました。

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途中、西村さんのベルで対話のメンバーがシャッフル。後半「まだクラウドファンディングサイトは必要?」は、クラウドファンディングサイトの立ち上げを考えられている方の問題提起。「そもそもクラウドファンドって?」という方、行政職員さん、そして市民ファンドを実際に進められている方によるチームです。「まだクラウドファンディングサイトは必要?」という疑問は「クラウドファンディングとは何か?」という素朴な問いと相性が良く、一方で市民ファンドを行われる方からは具体的に税制上の問題点などが指摘されるような場となりました。

それぞれの立場や専門性を持ち寄る

当然のことながら、個々人の疑問からスタートするマイプロジェクトも、それを共に考え合えるチームの存在はとても心強いもの。話を聞いて他者と共有するだけでも面白いでしょうが、ある具体的なアクションを目指し、それぞれの立場や興味関心が重なり合うことによって、マイプロジェクトが”自分たちごと”になる場。それが「ダイアログBAR京都」だったように感じます。

この3時間を「足りない!」と感じた方もいるかもしれませんし、さらにモヤモヤした方もいるかもしれません。そのモヤモヤはさらなる一歩へのステップアップです。

今後ミラツクでは2日間という長い時間をかけてマイプロジェクトをブラッシュアップし、PRまで進めるためのワークショップを実施する予定とのこと。ぜひ皆さんもこの機会をお見逃しなく!

(Text:榊原充大、写真:楢 侑子)

榊原 充大 
建築家/リサーチャー。大学では文学部芸術学科に所属し建築を研究。その後2008年から、より多くの人が日常的に都市や建築へ関わるチャンネルを増やすことをねらいとし、建築リサーチ組織RADを共同で開始。RADとして建築展覧会、町家改修ワークショップの管理運営、地域移動型短期滞在リサーチプロジェクト、地域の知を蓄積するためのデータベースづくりなど、「建てること」を超えた建築的知識の活用を行う。同組織では主として調査と編集を責任担当。
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Website:RAD