ISSUE ものづくり

3 years ago - 2013.05.01

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古き良き日本の伝統を守りながら、新しいものづくりをするヒントにもなる九谷焼のワークショップ「KUTANI SEAL」

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KUTANI SEAL」というワークショップブランドを知っていますか?
九谷焼の上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)の六代目である上出惠悟さんと、モノづくりをプロデュースする丸若屋さんが立ち上げた、転写シールを使って自分の好きなように九谷焼を作ることができるワークショップです。新旧を織り交ぜた転写シールのデザインが可愛らしくて秀逸で、思わず時間を忘れて楽しんでしまいます。2009年からスタートして現在まで、全国各地で通算で50回以上開催されているので、すでにご存知の人も多いかもしれません。

上出長右衛門窯は、石川県能美市で創業以来130年にわたって、手描きの絵付け、手仕事の伝統を守り続けている九谷焼の窯元です。KUTANI SEALというワークショップは、九谷焼という伝統工芸を知ってもらうためのものですが、その背景には古くからの伝統を受け継ぐ窯元ならではの思いがあるようです。

今回は、KUTANI SEALのワークショップを体験しながら、上出長右衛門窯で革新的なアイデアを発信し続ける、六代目の上出惠悟さんにお話をうかがってきました。

カスタマイズできる九谷焼が作りたかった

的野 そもそもKUTANI SEALというワークショップを作ろうと思ったきっかけは何でしょう?

上出 もともとは、セミオーダーの焼き物を作りたかったのがきっかけです。当時、カスタマイズできるスニーカー「NIKE iD」が流行っていて、自分だけのものってやっぱりみんな欲しいし、大切にしたいし、そういうものを九谷焼でできないか、というのが最初のスタートです。それで、パートナーとして仕事をしている丸若屋と一緒に考えました。

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的野 カスタマイズであれば、オーダーを受けて作るということもできたのではないかと思いますが、それをワークショップ形式にしたのはなぜですか?

上出 カスタマイズもやってみたかったんですけど、湯のみだったら前がえびす様で裏側は別の絵柄、というのをWeb上でできるようにするには、システムを組んだりする開発費がある程度必要で、それが予算の都合でできなかったんです。

次に、カタログにしようと思ったんですけどそれも難しかったので、シールだったら簡単だからお客さんも自分でできるよねということで、結局自分で貼ってもらうワークショップにしたんです。

伝統の陰に潜む転写シールという技法

的野 ワークショップ化するにあたって気をつけたことや、苦労したことはありますか?

上出 九谷焼でも、僕たちはずっと手描きにこだわって作ってきているので、コストが高かったりします。一方で、転写は量産が容易なので低コストで作ることができます。だけど、お客さんがそれを知らない上で同じ売り場に並ぶのはちょっとフェアじゃないなと、ずっと思っていました。

転写自体は面白い技法だし、僕は全然アリだと思います。手描きでできない事が転写にはできます。もちろんその逆もしかりです。ただ、それをお客さんが分からずに買ってしまうのは悲しいことなんじゃないかと。手描きだと信じて大切に使っている方に、僕は「それ手描きじゃないですよ」とは言えないです。逆に僕たちが手描きでしているものを「今時は転写でしょ?」と言われることもありました。

高級な食器が売れない時代です。正直言うと「うちも転写で安くて買いやすい商品をつくろう」と議論することもありました。でも、その都度「上出長右衛門窯は手描きだからこそ存在意義があって、いいものを作っている窯なんだ」という気持ちで耐えていました。だから「うちは手描きです!」って大きな声で言ってましたよ(笑)

上出長右衛門窯は今でも手描きです。一点一点丁寧に時間をかけて作っていて、KUTANI SEALとはきちんとブランドを分けています。名前もKUTANI SEALという
転写であることが判りやすい名前にして、差別化しました。

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的野 手描きの伝統を守ってきたからこそ、上出さん自身も最初は転写シールを使うことに抵抗があったとうかがいましたが、九谷焼の窯元や産地からも反発がありましたか?

上出 あえて聞いてはいないので、あまり分かりません。結果的に転写をバラすようなものなので覚悟はしてましたが、先日あるデパートで、九谷焼を代表するような先生方がちょうど展示をしている最中に、なぜかその横でワークショップをすることになってしまって、偉い先生方がどんどん集まって来て、その時は「すみません、すみません」って心の中で謝りました(笑)。でも意外と「よう思いついたな」とか「面白いことしとるな」という反応でした。

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「ワークショップにしようと思ったのではなく、やりたいことを実現する方法を模索していったらワークショップになった」と言う上出さん。下手すれば手描きの伝統を廃れさせかねない転写シールという技法を、あえて取り入れるという逆転の発想もさることながら、時間を忘れるほど夢中にさせる楽しいワークショップに仕上げているところが秀逸です。

通常ワークショップというのは、先生やすごい技術を持った人が指導しなければできないことが多いですが、KUTANI SEALはそのような達人がいなくても、簡単な説明を受ければ誰もができる、洗練された仕組みに落とし込まれています。

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これからの上出長右衛門窯のものづくり

的野 上出さんは、ワークショップを開発したり、スペインのデザイナーとコラボしたり、常に九谷焼の伝統に新しいものを取り入れていますが、今後やりたいことや新しい取り組みはありますか?

上出 今、窯を変えたいと思ってます。僕一人で企画したりデザインしたりすることが多かったんですけど、段々小手先になってきてる感じがしていて、何か新しいことをやろうと思っても、今あるものをミックスしたりセレクトしたりするだけで、新しい見せ方はできるけど新鮮味がなくなっていて、行き詰まりを感じているんです。せっかく職人が何人もいるんだから、彼らと一緒にものをつくることに力を入れていこうと思っています。

今まではどちらかというと、職人をただの作業員としてしか扱っていなかったというか、僕たちはついつい「(職人は)主体的に動かない」とか言っちゃうんだけど、残念ながら、一緒になって何かを考えたり、意識を共有したりということはあまりなかったんです。

数年前にハイメ・アジョンというスペインのデザイナーとコラボレーションして、手描きでやるような簡単なデザインではないものを、あえて手描きでやってるんです。それを情報として伝えるだけでなく、実際に見てもらえるようにムービーにしてYouTubeにアップしたんです。(上のムービー参照)そうしたら外国の人が結構見てくれて、その中に「ロボットみたい」というコメントがあって、それは「すごいね」という意味でもあるんだけど、結局僕たちも職人さんをロボットみたいにしか扱ってこなかったことに気付きました。そうじゃなくて、これからはもっとみんなで一緒に何かを作ろうという気持ちがあります。

5年後に上出長右衛門窯をどうしたいかという未来像も、ほとんど共有できていなかったので、それをみんなで共有しながら、これからはチームワークで新しいものをやっていきたいなと思っています。窯元として、火が中心にあるというのは理想的ですが、こないだ僕がすごく難しい、普通は粘土で作るような仕事じゃないフォルムをオーダーをしたら、「長右衛門窯は他でやらないようなことをやっていかなきゃダメだよ」と、うちのろくろ師が言ってくれてすごくうれしかったです。

(インタビューここまで)

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変わらずにいるために、変わり続けること

歴史ある窯元ではあまり見られないような、上出さんの先鋭的で斬新なデザインや取り組みに、少しずつ周囲の人たちの意識も変わってきているのでしょう。上出さんの話やワークショップの中には、日本が世界に誇るべき技術であり文化である伝統工芸を、廃らせることなく残し続け、さらに発展させていくにはどうすればいいのかというヒントがあります。

ずっと変わらずにいるためには、常に変わり続けなければならない、とはよく言われることですが、長い歴史と伝統を受け継いでいる場所で、それを実現するのがいかに大変なことかは想像に難くありません。これは古いものを残すことだけに言えるのではなく、何かを新しくつくり出す時にも、これから長く続くサステナブルなものにしていくための、いいお手本になるのではないでしょうか。

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「KUTANI SEALは、もう50回以上やってるから飽きてきちゃった」といたずらっぽく笑う上出さんですが、今度は新しく別のワークショップも企画しているそうです。九谷焼には転写シールよりさらに古い「はんこ」を使った量産技法もあり、東京のイラストレーターAkkoさんとコラボして、消しゴムはんこを使ったワークショップを作ったのだとか。

GWに石川県能美市で開催される「九谷茶碗まつり」の期間中は、上出長右衛門窯でどちらのワークショップも受けられるそうなので、興味のある人はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。日本の伝統工芸の新しいかたちを体験できるはずですよ。

KUTANI SEALに参加してみよう!
ワークショップ情報はこちら

writer ライターリスト

的野 裕子

的野裕子(Yuko MATONO)。福岡生まれ。大学入学をきっかけに東京に住み、数年前に福岡に戻る。サイトデザイン、コンテンツプランニング、サイトマネージメントなど、WEBサイトに関わる仕事を生業にしてきた。理に適っているデザインが好き。ユーモアのあるデザインも好き。そういう心あるデザインの良さをもっと人に伝えていきたくて、次第にWEBサイトで文章を書き、情報を配信することが中心となる。2006年にアシュタンガヨガを始めてからは、生活のあらゆる場面でのチョイスが、シンプルで無理と無駄のないものとなってきた。荷物は軽く、心も軽く、ヨガを通じて旅を続ける毎日。

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