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食と農にかかわる仕事にはお金にかえられない魅力がある!異業種から農業の世界へ飛び込んだ3人に聞く「これからの食と農」

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スーパーで、レストランで、何を基準に食べるものを選びますか?
値段でしょうか。それとももっと、他の何かでしょうか。

以前greenz.jpでも紹介した、地球のために生きていきたい人のための学びの場「地球のしごと大學」。その第1回目講座「”これからの食と農”その生産・加工・販売を知る」が3月9日(土)、国連大学GEOCで開催されました。

なぜ食と農をはじめの講座に選んだのか。「地球のしごと大學」代表の高浜大介さんはこう語ります。

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「地球のしごと大學」代表の高浜大介さん

食と農はすべての産業の中でもっとも大切なものといえます。地球の恵みを直接いただいて命をはぐくむ、すべての根幹だからです。受け身でなく自分ごととして、役立つ部分をエゴイスティックにもって帰ってください。

異業種から農業へ飛び込んだ3人

ゲストは農業の現場から菊池晃生さん、食品加工・地域おこしの現場から吉岡隆幸さん、流通の現場から千田弘和さんが招かれました。つくる・加工する・売るというまったく異なる現場にいます。3人とも農業とかけ離れた業界で働いたのち、食と農の世界にきました。

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菊池晃生さん

菊池さんは秋田県のFarmGarden黄昏代表で、稲の不耕起移植栽培/冬期湛水を実践しています。生産者が価格を決めて消費者に無農薬の米を届ける「田んぼの生き物トラスト」という新しい流通形態にも取り組んでいます。

大学卒業後、北海道・十勝の設計事務所でランドスケープデザインを営んでいましたが、2008年に故郷の秋田で風景や生態系の美しさを守る農業をすることを決意し、今に至ります。

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吉岡隆幸さん

合同会社SOZO代表の吉岡さんは、千葉県九十九里が活動拠点です。地元の余剰農作物の加工品プロデュース、「田舎de婚活イベント」など地域と農業の活性化を目指した事業を打ち立てています。旅行会社に勤務していたとき九十九里で農業体験をし、「自分のしたいことは東京ではなく地域にある」と感じて移住しました。

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千田弘和さん

株式会社アシタバ地球号代表取締役社長を務める千田さんは、2010年に会社設立をするまではIT企業に勤めていました。東京の世田谷・三軒茶屋で有機農産物や無農薬無化学肥料の野菜を販売する八百屋「三茶ファーム」の経営、ITサービス事業などを行っています。

理想と現実のギャップ

この3人に、異業種から食と農の世界にとびこんでみて、実際どうだったか語っていただきました。

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菊池 身体の内側から湧いてくるもので農業を始めたと思っているので、仕事をしていてすごく楽しいです。土の上で仕事をするのは、生き生きとしてくるんですね。収入面ではまだまだ修正していかないといけないことはありますが、生きる豊かさ楽しさという面では予想以上のものがあります。

吉岡 社会や人に対していいことをするのは誰でも簡単にできます。難しいのは、それをどうビジネスとしてwin-winにして、自分にもちゃんとお金が入るか、生計を立てられるようにするか考えること。続けられないと今ぼくを支えてくれている地域の人たちががっかりしてしまいますから。

千田 八百屋事業を開始した直後に震災があって、野菜が売れなくなりました。検査に出すとか仕事は増えるんですけどね。継続か方針転換か撤退か、経営者としての判断に悩むところでした。でも現場の話を聞いていると、生産者って農業を辞められない。だからこっちも続けなきゃと思いました。

その後いいこともあって、客が戻ったり、続けたことを信頼してもらってつながりが増えたり。対面販売のやりがいをあらためて感じました。

食と農にたずさわる人が食べていくために

農業や食に関わるしごとには、安定して稼いでいくのが難しいという現実があります。だからこそ生計を立てるための次の一手を少しでも打ち出していく必要がある。3人はどのようなプランをもっているのでしょう。

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菊池 米という、命をはぐくんでいる日本の主食たるものがただの消費物として扱われているのが現状です。それを見直していくことを考えています。

今は幼少の大事な味覚を形成する時期に、過剰な味つけをしたものを多く食べている。それが日本食・発酵食品などの本来もつ、味わいの深さを古くさくまずいものと感じさせてしまう。

変えるには子どもの味覚にはたらきかけるしかないんじゃないかと。学校給食で粗食をやるべきだし、伝統食を取り入れて、完全米飯給食にして、しっかり味覚を育てていく。その上でほかのものを食べる。運動としてすすめていきたいです。

吉岡 うちの地域では以前イチゴが3割くらい捨てられていました。そこで、少し安くなっても捨てていたものに値段がつけば農家さんの収入が変わってくるかなというのが、加工品ビジネスのとっかかりでした。実際はぼく一人で加工品をつくっています。夜にイチゴをカットして乾燥機にならべてというふうに。

とりくんで3年目に思うのは、地域内循環でやったほうが農家さんのためになるのかなということです。地域の加工業者に全イチゴ農家さんが直接もっていってドライにして売る。そこまでやっていく方が限度なく加工できます。地域の規格外のいろんな種類の作物が捨てられてしまっているも現状もあるので、そういう方向に事業をシフトしようと考えています。

それと流通を変えていきたい。農地のない地域の人に区画で畑のオーナーをしてもらって、「あなたたちの農地は九十九里にあります。好きなものをつくりますよ」という仕組みをはじめようとしています。定期的にお金が入ってくれば、農家さんがよりちゃんと生計を立てられるんじゃないかなと。

千田 旬がなくなって同じようなものばかりになった野菜は価格だけの競争になっています。単純規模拡大するしか道がなくなっていてみんな疲弊している。ものを買う基準に安さや見た目のようなスペックだけじゃなく、共感が入ってくるといいですね。おいしさや楽しさで経済がまわっていく世の中になるといい。

八百屋という立場でいうと、消費者の意識がすごく低いなと感じています。安さがダントツに求められる。おいしいですよとかオーガニックですよというよりも単純に安くするとめちゃくちゃ売れる。そういう世界なので、もうほんとに足もとから少しずつ、続けていくしかないかなと思います。

 
食べものをつくる、地域の農業をサポートする、つくられたものを売る、それぞれの立場でそれぞれにできることがあります。同じように、食べるものを選ぶ立場の人にしかできないこともあります。食と農に興味をもった人から、今までとちがう小さな一歩を踏み出していく。そういうささいな積み重ねがやがて大きく食と農の価値観を変えていくかもしれません。