ISSUE まちづくり

3 years ago - 2013.03.27

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黒川温泉の未来を一緒に考えてみた。“青年部×都心のクリエイティブ層”で、閉じられた地域社会を開かれた社会へ

(c) Ryo Shimomura

(c) Ryo Shimomura

今年1月下旬、渋谷のco-baでは、ある温泉街の青年たちが郷土料理づくりに励んでいました。彼らは熊本県黒川温泉の観光業に携わる青年部。この日行われたのは「黒川温泉の未来を考える」フューチャーセッションの一環で、都心で働くクリエイティブ層が、黒川の人たちとともにどんなもてなしのプランがあったらいいかを考えようという試みです。

上京している側にもかかわらず、さすがもてなしのプロ。だご汁や馬刺しといった郷土料理で参加者を迎えます。地方と都心でアイデアを交換することが、地域への還元にもなる、そんな可能性を感じる会となりました。

(c) Ryo Shimomura

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多ジャンルのクリエイティブ層が集結

2013年1月25日(金)、co-baライブラリにて行われたのはセッションの第6回目です。ファシリテーターは、フューチャーセッションでお馴染みの野村恭彦さんと、リクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンターの三田愛さん。

これまでは、毎回2名のゲストを東京から黒川に招き、青年部を中心に、旅館経営者、女将、商工会、近隣農家、行政など、地元の人同士で対話が行われてきました。毎回ブランディングや場づくり、デザインの活用など、ゲストから話を聞いて、黒川でできることを模索します。今回はその発展形として、東京に舞台を移し、都心で働くクリエイティブ層約30名と共に、黒川温泉の未来を考えます。

招待性で行われた今回は、集まったメンバーの顔ぶれも華やかです。co-baの代表中村真広さんをはじめ、アサヒグループホールディングス・コーポレートブランド部門の中村威さん、シブヤ大学の榎本善晃さんなど、これまでのセッションで黒川を訪れたメンバーをはじめ、トヨタの未来プロジェクト室の商品企画担当や、アサヒビール株式会社のマーケティング本部の方など、さまざまな分野のクリエイティブな仕事に携わる面々が集まりました。

greenz.jpからはフクヘンの小野も参加! 黒川温泉からは、北里有紀青年部長をはじめ6名の青年部男女が上京しました。

(c) Ryo Shimomura

(c) Ryo Shimomura

そもそもこのプロジェクトは、リクルートのじゃらんリサーチセンターによる調査対象だった黒川地域で「まちが一体となって、まちの未来を考える」実践をやってみようと始まったもの。じゃらんリサーチセンターの三田愛さんはこう話します。

地域を元気にすると言っても、いつもカリスマがいるわけではないですし、コンサルが入っている間だけ状況がよくなっても、持続性がありません。今そこに暮らす人たちが主体的に考える意識をもつことが理想です。

これからの黒川温泉をどうしていくのか? 旅館、商工会、近隣農家、行政など、皆が一体となって黒川の未来を考える機会をつくろうと、この研究プロジェクトが始まりました。

“シェア”の発想で発展してきた黒川温泉

そもそも、黒川温泉とはどんな所なのでしょう?まずは、少しだけ、この温泉街の背景をご紹介します。

黒川温泉があるのは、熊本県の北東部。大分県との県境にも近く、日田市より車で60分ほど、阿蘇山より北に位置します。


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1964年にやまなみハイウェイと呼ばれる新しい道路ができたことで、黒川温泉は一時ブームになり、多くのお客さんが訪れます。ところがその実態は宴会旅行が主で、数年もするとブームは去ることに…。そこへ現れたのが、後に観光カリスマと呼ばれる、後藤哲也さんでした。

後藤さんは、旅館「新明館」のオーナーで、「お風呂に魅力がないとお客さんは来ない」と、自然豊かな露天風呂づくりにつとめた方です。後藤さんの指導のもと、多くの旅館が露天風呂を導入。その結果、多くのお客さんが黒川の情緒溢れる景観に魅了され、訪れるようになったと言います。

そして生まれたのが、画期的なアイデア「入湯手形」です。旅館にとって、自分のところのお客さんを他に出すのはとても勇気のいること。ところが黒川では、一枚1200円の手形を購入すれば、温泉街のどのお風呂にも入り放題という、お客さんを共有する仕組みを取り入れたのです。

当時では珍しい、“シェア”の考え方に基づいたこの案で温泉は活気を取り戻し、最盛期には、この手形が年間21万枚も出るほどとなりました。

間伐材を使って、地元の老人会のメンバーの手でつくられた黒川温泉の「入湯手形」 (c) Ryo Shimomura

間伐材を使って、地元の老人会のメンバーの手でつくられた黒川温泉の「入湯手形」

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(c) Ryo Shimomura

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仲間うちから、外に開かれた地域へ

そして今、また時代が変わり、黒川温泉は変革期を迎えています。青年部長の北里有紀さんはこう話します。

手形の数は、最盛期の3分の1、年間約8万枚ほどになっていますが、これは必ずしも悪いことばかりではありません。当時は手形が売れすぎて、日帰りのお客さんでお風呂がいっぱいで、肝心の宿泊客がゆっくり入浴できない弊害もありました。来ていただくお客さんに心から満足してもらえることの方が大切です。

じゃらんリサーチセンターの調査で明らかになったのは、北里さんたち30~40代の青年部とその親世代の考え方のギャップでした。

私たちの祖父の代から、黒川では同業者でも足を引っ張りあうことなく協力し合ってきた歴史があります。それは財産だけれど、仲が良い分、どうしても思考が内向きになりがち。今回フューチャーセッションをやってみて思ったのは、こうした外に開かれた場がとても大切だ、ということでした。

右から2番目が北里さん。 (c) Ryo Shimomura

右から2番目が北里さん。 (c) Ryo Shimomura

この日行われたセッションで、はじめに野村さんが東京の参加者に向けてコメントしたのは「皆さんが、第一の顧客候補です」ということ。自分自身が体験したいと思う、黒川温泉にあったら嬉しい旅のプランを考えました。似通った案の持ち主同士がチームを組み、最後にプランを発表。

これまでの黒川でのセッションでも、「サプライズ大作戦」や「大花見大会」、黒川の人に会いに行ける「ひとマップ」といった、いくつかのもてなしプランがありましたが、この日都会の参加者から出た案には、「旅行者が青年部に入れるツアー」や「黒川の一員になって第二のふるさと帰りが体験できるツアー」など、傾向として

“もてなされる旅”ではなく“参加できる旅”であること。
より地元の人たちに近い視点でリアルな体験ができること。

といったものが目立ちました。

青年部では、後日、この日出された案を元に話し合い、4月半ばに大花見大会を行うことを計画中です。「第2の青年部」の案を取り入れて、一緒に働く運営スタッフを募集し、「朝ご飯を一緒に食べる」プランなども実現しそう。「第2の青年部」に入れるのは定員15名ほどですが、お花見大会はオープンなものなので、どなたでも参加可能です。

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こうしたワークショップでよくあるのは、その場だけ盛り上がって結果として何も残らないこと。都市に住む人間が、地域のことをよそ者として考える場合、無責任さや本当にこの話し合いに意味があるのか?といった疑問が残ります。ところが、北里さんの言葉は、そんな懸念をくつがえすものでした。

私たち青年部側のメンバーは、これからの一生を黒川でやっていく覚悟を持つ者ばかりです。だからこうして外からセッションに参加していただく方々には、ごくライトな関わり方や、深く関わろうという方など、いろんなスタンスの方が居てくださっていいと思っているんです。

多少、無責任なプランが出てきたとしても、それを取捨選択するのはあくまで自分たち。むしろ新しい考え方や刺激を得られる場として、他にないとても貴重な場だと思っています。

今、ちょうど黒川は、北里さんたちの親世代から代替わりの時期を迎えています。30〜40代の彼らが中核となった時、自分やその子ども、孫がリアルに関わる50年後の未来をどうつくっていくのか。このセッションで対話を重ねることで、メンバーの間に新しい時代に向かう土壌が培われている。そんな実感を得ているのだそうです。

地域の同業者の集まりなど、小さなコミュニティの中では、視野が狭くなったり、目先の利害関係にふりまわされて大きな方向性を見失いがちです。外部の人との交流が、そんな閉塞的な雰囲気を晴らし、活力を生むきっかけにもなることを改めて感じる機会となりました。

(c) Ryo Shimomura

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writer ライターリスト

甲斐 かおり

甲斐 かおり

greenz シニアライター 編集・企画・執筆。地域コミュニティ、モノづくり、里山・郷土文化、農業をテーマに取材し、雑誌やwebで書いています。greenz.jpではコミュニティ、町づくり、「地域からの発信」を主に。『TURNS』『ソトコト』『自然栽培』ほか。 twitter: @karorirorin Facebook:甲斐かおりページ

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