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日本から移動すること30時間!地球の裏側、チリから学ぶ”即物的”なまちづくりとは? [カラフルな社会構築]

ツクルバのチーフアーキテクト山道拓人(さんどう・たくと)さんによるシリーズ「カラフルな社会構築」は、社会と建築の接点を考えていく寄稿連載です。

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san pedro de Atacama アタカマ砂漠と筆者 南緯22度

はじめまして。渋谷のコワーキングスペースなどを運営するツクルバでチーフアーキテクトをしている山道です。これまでにco-baco-ba libraryといった場の設計をしてきました。

今回から、社会と建築の接点、今建築にできることなどを考えるきっかけになるような記事を、寄稿というカタチで連載していきたいと思います。まずは、「地球の裏側から“まちづくり”を考える」をテーマに、南米の国チリに関することから。

みなさんは南米の国を訪れたことはありますか? 私は2012年3月〜10月まで約半年間、チリの首都サンティアゴにある設計事務所ELEMENTALで働いていました。チリは太平洋を挟んで地球上で日本の真反対に位置しています。日本からは飛行機を使って、30時間ほど。

日本からの直通便は無いため、北米、豪州、中東などで乗り継ぐ必要がありますが、どこを経由してもかかる時間はあまり変わりません。日本からチリに行こうとすると、地球は丸いということがよくわかります。

チリは国土をアンデス山脈と太平洋に囲まれ、周辺の国から島国のように孤立し、四季があります。食卓には魚介類が多く登場し、地震や津波などの自然災害も多いなど、日本にとてもよく似た条件を持つ“鏡”のような存在です。

即物的でカラフルな“まち”

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同スケールの日本とチリの気候分布図

国土は南北6,000km、東西150kmと異常に細長く、そびえ立つアンデス山脈の標高は6,000mを誇り、横から見ても縦から見ても日本を2倍ほど引き延ばしたような形をしています。

上の気候分布図を見ると、日本よりも地域によって気候の変化が激しいことがわかります。チリの環境は地域によって、砂漠から氷山まで環境は実に多様なのです。自然環境の変化だけでなく、都市部からスラムまで社会環境の格差も大きく、各地特有の課題も様々です。

日本でも地域によって気候差があり、地域特有の課題も存在しているはず。ですが、実際の日本における地方都市は、どこも似たような都市風景が広がっています。チリは、日本の国土を引き延ばしたような形をしていることによって、日本よりも地域の差異が大袈裟に現れているようにも思えます。チリは、日本ではフラットにされてしまった地域差を、高解像度で私たちに見せてくれる“レンズ”のような存在とも言えるかもしれません。

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イキケにある廃墟都市ハンバーストーン 南緯20度

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puerto viajo 海辺のスラム プエルトヴィアホ 南緯27度

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valparaiso 斜面都市バルパライソ 南緯33度

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santiago de chile 首都サンティアゴと建設中の南米一高いタワー 南緯33度

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sewell 山岳都市 セヴェル 南緯34度

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rancagua ランカグア近郊 ワインヤード 南緯34度

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isla de chiloe チロエ島の木造住宅群 南緯42度

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paragonia パタゴニア 南緯50度(photo from wikimedia commons)

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Antártida 南極 南緯60度〜90度(photo from wikimedia commons)

条件は日本と似ていても、写真を見ると実際の環境は地域によって大きく変化しているということがよくわかります。チリの人々は、その厳しい環境の中、限られた資源を即物的に使いこなしながら暮らしているように思えます。即物的というのは「材料がこれしかないのだからこれを使って生きるしかない」という、シンプルで合理的なアプローチです。

即物的に作られるまちは、それぞれの環境の差異がまちの景観に現れやすく、作られる建築は、住人の身の丈にあったレベルで、様々にカスタマイズ(改修や増築など)がしやすいものだと言えます。特にチリの北に位置するペルーを訪れたときは、そこら中で今も改修していて、7,8割が違法建築だよと笑って話されました。

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previ peru ペルー

チリではそれぞれの地域がはっきりしたカラーを持つと同時に、一つの地域の中でも住民の手による住宅のカスタマイズが実施され、個々の建物のカラーも見出すことができます。つまり則物性が異なるスケールにおいてカラフルさを生み出していると言えます。

次回は「未完のプラットフォーム/カラフルな社会構築」と題して、チリにおける建築家の実践を紹介したいと思います。

(Text & Photo:山道拓人)

山道拓人(ツクルバ チーフアーキテクト/二級建築士)

東京工業大学建築学塚本研究室博士課程在籍。大学院では研究棟「エネルギー環境イノベーション棟」の基本設計、実施設計、設計監理に携わる。2011年8月よりツクルバの設立に携わり、2012年は南米チリのELEMENTAL/Alejandro Aravena Architectsに勤務。現在はツクルバのチーフアーキテクトを務め、場の発明を行う。これまでにCo-baやCo-ba libraryを設計。

主な賞歴:日新工業建築設計競技大賞受賞 / 野村総研主催NRI小論文コンテスト受賞 / WORLD SPACE CREATORS AWARDS / 2012 Tehran Stock Exchange Competition, 1st Prize (Alejandro Aravena Architectsでの担当作) / 2012 グッドデザイン賞 (エネルギー環境イノベーション棟/塚本研究室での担当作)