それぞれの得意分野を持ち寄って、気負わず緩やかに。福井発のコミュニティ「FLATプロジェクト」

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トマトや柿、さつまいも、ムカゴにこんにゃく、甘エビのスープ……。
つやつやのお米で握られたおにぎりも進む進む。

豊かな食材を使った料理に、農家や工芸家の方々のトークと、内容は盛りだくさん。11月中旬、東京・六本木農園で行われたイベント「ふら~っと福井家祭(やさい)」は、土砂降りの天気もなんのその、福井の秋の味覚とひとの温かさで、体の芯からポカポカしてくる素敵な集いになりました。

このイベントをプロデュースしたのは、「食」「デザイン」「ものづくり」をテーマにさまざまな活動を展開している「FLATプロジェクト」の面々。カフェやスクールの運営を通して、新たな価値観や文化を見つける“文化創造塾”と銘打っています。今回のような地域PRの企画も、その活動の一環です。

FLATが始動して、およそ3年。さまざまな出会いを生み出すプラットフォームを育てる秘訣は、「それぞれの“個”を活かすこと」にありそうです。

「ふくい若者チャレンジ応援プロジェクト」の支援を受けて

店内と庭に設置されたテントを行き来しながら、生産者の方々との話を弾ませました

店内と庭に設置されたテントを行き来しながら、生産者の方々との話を弾ませました

「ムカゴのくるみ和え」「からし大根」などの郷土料理に、おにぎりの具もずらり

「ムカゴのくるみ和え」「からし大根」などの郷土料理に、おにぎりの具もずらり

当日の料理は、県内外で郷土料理を伝える活動を続けている渓流旅館「冠荘」の料理長・石川善一さんと、「FLAT kitchen」のシェフ・藤原皓彦さんが腕を振るったもの。イベントでは、福井出身のアーティスト・横田はるなさんのライブや、伝統工芸「越前焼」の紹介、それから生産者の方にこだわりなどを話していただく六本木農園のユニークな企画“農家ライブ”が行われました。

FLATは地元での活動のほか、以前にもファーマーズ・マーケットに出展したり、知人のお店で福井の食材を使って食事を提供する企画を行ったりと、3回ほど東京でイベントを実施してきました。ただ、どうしても持ち出しも多くなり、無理なく実施できる方法を探していたそう。

そんな折、福井県が展開する「ふくい若者チャレンジ応援プロジェクト」が支援企画を募集していることを知り、これまでの活動や、福井の食のイベントをぜひ東京で続けたいという熱い思いをプレゼン。無事に採択事業となり、今回の「ふら~っと福井家祭(やさい)」の実現が叶いました。

ミディトマト「越のルビー」をはじめ、さまざまな野菜を行商スタイルで販売する麻王伝兵衛さんによる“農家ライブ”

ミディトマト「越のルビー」をはじめ、さまざまな野菜を行商スタイルで販売する麻王伝兵衛さんによる“農家ライブ”

イベントにも来場していた、同プロジェクトを担当している福井県庁若者チャレンジ支援室の前田泰昌さんによると、若者支援という切り口でよく挙げられる“就職”や“就農”などはすでに県庁内に専門のセクションがあるので、このプロジェクトではまだ行政が気づいていない支援の切り口を見つけることに力を入れているそうです。

そのため、個人のメンバー登録によるネットワークづくりと、すでに活動している団体への援助の2本柱で展開。FLATの企画への支援については、「自分たちの活動や、誰かのための一方的な手助けにとどまらず、参加者が新たな機会を得られるプラットフォームになっていることが決め手になりました」と前田さん。

気負わずに、“好きな人と好きなことを”

左からFLAT創設メンバーの出水建大さん、藤田茂治さん、内田裕規さん。雨が上がった六本木農園にて

左からFLAT創設メンバーの出水建大さん、藤田茂治さん、内田裕規さん。雨が上がった六本木農園にて

県の採択事業として実施できた今回は、運営の面ではやりやすかったと藤田さん。でも、だからといって、今までの活動を一気に拡大しよう、というつもりはあまりないようです。

地元の僕らから見ても、福井の農家や工芸家の方々がものづくりに懸ける姿勢はかっこいいし、その産品もすばらしい。FLATを通して地域に貢献したい気持ちはもちろんあるけれど、あまり気負わずに、ただ福井のいいものをたくさんの人に知ってもらえたらと思っているんです。

と藤田さんは話します。さらに、「好きな人と好きなことをやっているだけ」とも。この言葉だけ耳にすると、あまりの自然体ぶりに拍子抜けしてしまうくらいですが、実際に今回のイベントの運営メンバーや生産者の方々も終始笑顔で、参加者と一緒にこの空間を楽しんでいる様子が印象的でした。

「食べながら、というのも大事なんですよね」と内田さん。

おいしいものがあると場が和んで、打ち解けやすいし発想も柔軟になる気がします。「FLAT kitchen」もそんなイメージで始めましたし、こういうPRの場にも“食”は欠かせない。今後も福井のとびきりのものを東京に持ってきたいです。

同じく農家ライブに参加したフィールドワークスさんのさつまいも「とみつ金時」。甘いっ!

同じく農家ライブに参加したフィールドワークスさんのさつまいも「とみつ金時」。甘いっ!

互いの得意分野を持ち寄って、緩やかに長く活動

藤田さんは公益財団法人ふくい産業支援センターのデザイン振興部に所属する福井県の職員で、日ごろはデザイン関係のプロジェクトや県産品の販路開拓などを手がけています。建築家の出水さんは、建築会社を経営しながら「FLAT kitchen」を運営。デザイナーの内田さんも自分のデザイン事務所を経営する傍ら、FLATではスクールやイベントの企画・広報を担当しています。

こんなにバックグラウンドが異なる3人は、数年前に藤田さんが企画したセミナーで出会いました。

IDEE」「世田谷ものづくり学校(IID)」「自由大学」などの創設者でありプロデューサーの黒崎輝男さんを講師に招き、世界に誇れる日本のデザインとコミュニティづくりに関するお話をしていただいたんです。そこで、3人がそれぞれずっと思い描いていた、学んだり刺激し合ったりできるコミュニティを福井につくりたいというイメージが重なって、黒崎さんに背中を押されるように動き出しました。

緩やかに交流できるカフェや、スクールも開ける拠点がほしいと考えていたところ、実にちょうどいいビルが見つかって。ある日の集まりで酔った勢いもあって、僕が買うと宣言してしまったんです。何なら自分が住んだっていいかなと。

今年5月、FLATビルで行った映像作家の菱川勢一さんを講師に迎えたFLAT SCHOOLINGの様子

今年5月、FLATビルで行った映像作家の菱川勢一さんを講師に迎えたFLAT SCHOOLINGの様子

そうして実際にビルを購入した藤田さん。だいぶ古かったこともあり、リノベーションの計画を出水さんが立て、それ自体をワークショップ形式にして参加者を募りました。同時に、FLATのロゴやウェブサイトをはじめとするデザインは、内田さんを中心に進行。今ではすっかり、さまざまな人がカフェやスクーリングに訪れる、活気がある場になっています。

現在のFLATについて、出水さんは「街づくりや地域活性化のためにというよりも、まずは“個”の持つ力を発揮できるような場所」と話します。

もちろん一個人の活動でもいいし、例えば同じ街づくりに関心がある人同士がつながれば、それぞれの“個の力”が集まって地域の力になったりする。今後も形を変えながらいろいろな方向へ進んでいくでしょうし、それがいいんじゃないかな、と思っています。

非営利の活動は、それをどう継続していくかが大きな課題。今回のイベントのように行政の支援を受けることは、その打開策のひとつになります。また長期的に見ると、FLATの面々のように、自分の持てる能力やリソースを出し合って無理なく取り組める、本業と非営利の活動がリンクしていることもカギになるのでしょう。

関わる人が増え、笑顔が増え。「最近、福井でのFLATの役割を実感するようになりました」と藤田さん。今後もますます、このフラットで温かいコミュニティは豊かになっていきそうです。

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