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学びの環境をつくる「goocus」。キャスタリアが目指すこれからのデジタル時代における教育イノベーションとは

photo by CollegeDegrees360

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「ソーシャルラーニング」とは、学習の記録などを友人らとシェアし、互いに学びの体験を共有することです。これまで、「学び」は自分一人で体験していくものだと考えられてきました。しかし、インターネットなどの発達によって、友達と互いに学習しあったり、コミュニケーションしながら学びの経験を共有することができる時代になりました。

キャスタリア株式会社は、そうした「学び」の環境を、テクノロジーを使い教育業界を変えようとしています。そのキャスタリアが、今年の3月に「goocus」というWikipedia上での検索履歴をソーシャルグラフを通じてシェアするサービスをリリースしました。10月26日には新バージョンをリリースし、さらに学びの環境をつくるツールとなりました。

そんなキャスタリアの立ち上げの経緯、そして、「goocus」をはじめとする教育デジタルコンテンツの未来について、代表取締役の山脇智志さんにお話を伺ってきました。

教育デジタルコンテンツに改革を

yamawaki

山脇さんは、10年以上NYに滞在し、アメリカでビジネスを経験しました。当初、アメリカにおけるpodcastの人気をきっかけに、音楽以外のコンテンツ市場があることに気づき、音楽コンテンツのアグリゲーションサービスを展開していました。

目の見えない人向け、また、アメリカ独特の長距離の移動で、ラジオや音楽を楽しむ市場のポテンシャルを感じていました。そうした中、音楽以外のコンテンツ市場のポテンシャルを模索し、教育コンテンツに目を向けたのが、キャスタリア設立のきっかけでした。

アメリカでは、多くの大学が講義のレクチャーを音声配信していました。それをラジオと同様に聞いて学習する人の多さに気づいたのです。そうした動きを日本でも展開できないか。日本におけるオープンエデュケーションによる教育デジタルコンテンツ市場が作れるのではと考えました。

そうした思いをもとに、2006年にキャスタリアを設立。会社も独特な運営をされており、社員それぞれがインターネットを使える環境であればどこでも仕事ができる環境を実践しており、回線や端末があれば、いつでもどこでも仕事ができる、という環境をつくっています。

「検索」は学習

photo by throwthedamnthing

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当初は、ウェブ上に配信されている各種大学の講義動画やTEDのプレゼンテーション、予備校などの動画教材をもとにデジタル上でノートをとり、デジタルポストイットとしてコメントを残すことができる「iUniv」のサービスをリリースしました。数万人以上ものユーザに利用され、他者とコメントしあうなどのソーシャルラーニングサービスを展開しました。

しかし、もっとより多くの人、一般の人に「学び」の環境を提供したいと考えた山脇さん。そうした中、誰しもがおこなう学びとして「検索」にフォーカスしました。

検索は、学習なんです。昔は、分からない言葉や単語があると誰もが辞書をひいていました。いまは、それをGoogleなどが代替しています。いまの時代、インターネットに関わる人はほとんど検索をおこないます。そして、検索をする人の多くがWikipediaに触れています。つまり、現代の辞書であるWikipediaを検索して終わりではなく、検索履歴を記録するWikiリーダーをつくること、ここからgoocusのヒントが生まれました。

インターネット上において、誰しもが編集加筆がおこなえるデジタル辞書であるWikipedia。膨大な情報を誰もが編集し、集合知として単語や言葉の意味を築き上げるWikipediaこそ、現代の辞書とも言えるでしょう。このWikipediaを検索し、メモが残せる機能、そして友達が何を検索したか分かる共有機能を実装したのがgoocusなのです。

モバイルWikipediaリーダーのgoocus

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goocusの主な機能は「検索する」「記録する」「共有する」、そして友人が記録したものにコメントするコメント機能のみ、というシンプルなものです。また、自分と同じ単語を調べた友人がいるとプッシュ機能が働くなど、自分と友人との学習の共通部分に気づきを与える機能もあります。これにより、学習が友人と共有され、友人とのつながりによって見えてくる学びの機会をつくり、新しいコミュニケーションをつくりあげています。

さらに、goocusはGPS機能も実装され、Wikipedia上にて位置情報が付与されている情報を、自分が今いる場所を起点として調べることができます。これによって、旅行時や、新しい場所に行ったときに即座にいま自分がいる場所の特徴や歴史などを知らべることができるのです。

こうした機能を実装し、さらに先日バージョンアップをおこない、新機能も実装されました。それは、リテンション機能と呼ばれる、復習機能です。「人は一度調べた単語は3日で忘れる」というヘルマン・エビングハウス氏の研究における忘却曲線を、キャスタリア独自の調査によって計測しました。ヘルマン氏の調査では、人は1日で単語を忘れると言われていますが、ウェブ上での検索は人が能動的に調べた単語であるため、記憶の時間は長くなります。

キャスタリア独自の調査の結果、人はウェブ上で知らべた単語は3日で忘れる、という調査結果となりました。そこで、ある単語を検索したら、その3日後に自身が調べた単語を改めて知らせる機能を追加しました。これによって、自身の学習の定着性を高めることができようになったのです。

goocusが目指す、新しいソーシャルラーニングの形

goocus2

「みんなで辞書を回し読みしてる感覚」。goocusの使い方として、山脇さんはこうした表現を使っています。かつて、インターネットがなかった時代は、辞書にマーカーで線をひき、人がつけたマーカーを自分と比較して楽しんだ人も多かったでしょう。こうした、楽しみながら学習させる場を、デジタルに最適なものに作り上げるのがgoocusなのです。

調べる単語そのもののコンテンツだけではなく、そのコンテンツに対して、人がつけた付加価値に意味がある。そして、その付加価値こそが「学び」を創発させるものだ、と山脇さんは語ってくれました。こうした、人とのつながりの中から楽しみながら「学び」を生み出すことを、goocusは目指しています。

どんなにテクノロジーが進化しても、学習しない人はいません。日々の生活、日々の仕事の中でも、様々な気づきや学習は必要不可欠だと考えています。だからこそ、いかに楽しく、いかに自然に調べることを習慣づけるか。そのためのツールとして、スマートフォンはこれからの時代においてとても意味があります。常に携帯しているツールだからこそ、自分自身にとって有効なツールとして活用することが大事なのです。

goocusは、Wikipediaをベースにサービスを展開しています。そうした中、ただのWikipediaリーダーだけではなく、膨大な情報が編集されたデジタル辞書であるWikipediaを、新しい利用方法や次の展開の可能性を模索しようと動いています。

Wikipedia自身も「Wikipedia Zero」というプロジェクトを進めています。携帯電話会社がWikipediaとパートナーシップを結び、Wikipediaへのアクセスについてデータ通信量などのコストを0にするというものです。このWikipedia Zeroプログラムにgoocusも協力しており、海外の携帯電話にgoocusがプリインストールされるなど、海外の、特に途上国におけるモバイル事情、そして、モバイルを利用した教育環境などを構築するなど「学び」の新しい可能性を提示しています。

スマートフォンでの「学び」とこれからの可能性

photo by William Hook

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「スマートフォンでの学びはこれから」と山脇さんは語ります。PCや従来のeラーニングとスマートフォンは違い、画面の大きさや携帯性の違い、位置情報などスマートフォンならではの特徴があります。ちょっとしたすき間の時間や、SNSなどを通じたソーシャルラーニングの可能性など、様々な可能性を秘めています。

一回インストールして終わり、という状況ではなく、シンプルで毎日使い、そして日々のちょっとした積み重ねによって学習が定着していくと思います。そうした、状況をいかに作り出すか。日々の積み重ねこそ「学び」であり、こうした流れをキャスタリアは作っていきたい。

キャスタリアは、goocusなどの教育ツールだけでなく、提携している幼稚園などに対してiPhoneやiPadを使った教育現場のイノベーションも事業として手がけています。これからのデジタル時代において、さらに重要性がますスマートフォンやインターネットを使ったツールの活用。こうした、これからの時代の教育環境にイノベーションを起こそうと、キャスタリア日々活動しています。ぜひ、goocus、そしてキャスタリアの動きに注目していきたいですね。

goocusを使ってみよう!