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刺激したいのは住民の“誇り”。地元の魅力を知ることが観光にもつながる「いよココロザシ大学」[マイプロSHOWCASE]

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松山市内の元幼稚園だった園舎に、続々と人が集まってきました。この日行われたのは市民大学『いよココロザシ大学』の「妄想授業」と呼ばれる企画会議。この一年間にどんな授業を行っていくのか、アイディアを出し合うために集ったのは、一般市民の方々です。

「いよココロザシ大学」発起人の泉谷昇さんが目指すのは、愛媛県民のシビックプライドを高めること。平たく言えば、「愛媛ファン」「松山ファン」を増やすことです。どんな授業をどんな風に創っているのか?泉谷さんに伺いました。

「いよココロザシ大学」とは何か?

『いよココロザシ大学』は、「いよの国」(つまり愛媛)の魅力や資源について学ぶだけでなく、知識や技術をもった人たちと、知を分かち合おうとする学校です。生徒としても先生としても、市民ひとりひとりが興味のあることや、知的好奇心をフルに発揮して、自己実現してほしいとつくられた場でもあります。

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運営するのは「特定非営利活動法人いよココロザシ大学」。泉谷さんとスタッフ2名で運営しているNPO法人ですが、実質的に授業を企画して運営するのは「授業コーディネーター」と呼ばれる方々。一般市民が自主的に参加し、事務局スタッフと相談しながら、どんな授業をつくっていくのかを決めています。

今は8名の授業コーディネーターがいて、授業テーマを企画し、場所や先生の手配までを行います。この方法で、2011年6月に開校して以来、これまでに約50種類の授業を行ってきました。

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取材に訪れた日に行われていた「妄想授業」とは、授業にしたいアイディアを一般公募したなかからいい案を選んで、集まった市民で具体的に企画しようというもの。皆さん愛媛の文化や面白いものを発掘することに関心を持つ人たちです。大学生から50代の方まで年齢も職業もばらばら。それぞれがチームとなって1~2つの授業をより具体的にプランニングしました。

例えば、私も参加させてもらったチームでは「地元の野草をつかった郷土料理を学ぶ授業」や「愛媛の祭りを知る授業」について、どんな内容が考えられるか、誰に講師として協力を仰げそうか、いろんな意見が出されました。

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企画した授業のPR映像を撮影するまでを行う

企画した授業のPR映像を撮影するまでを行う

学長の泉谷さんも授業に参加

学長の泉谷さんも授業に参加

市民がつくる市民のための場

学長の泉谷さんに、学校の運営についてノウハウを伺ってみました。

――授業コーディネーターの方々は、皆さんボランティアなのですか?

一授業につき5000円をお支払いしています。授業コーディネーターには教室の手配から先生のアサインまで全部お任せするので、金額だけで考えると割にあいません。皆さん本業の合間に、自己実現や人との出会いの場として楽しんでやってくれているので成立しているわけです。

だから僕は学長の権限で授業内容に口出ししたりしないよう心がけています。彼らのモチベーションが損なわれてしまうので。これは実はとても大切な部分だと思っています。市民の方々が、誰でもコーディネーターになれる権利を持っていて、やりたいことを実現できる場にすることが目的なので。

――誰も内容に口出ししないとなると、コーディネーターによって参加者が集まりにくい授業になったりしませんか?

定員割れするかしないか、参加人数が多いか少ないかで授業の良し悪しを判断しがちですが、参加者が多いからいい授業か。そうは言い切れないと思っています。たくさん人に集まってもらっても満足度が低ければ意味がないですし、参加した人は少なくても、授業の後にその体験を話したい、広めたいと思ってもらえるような授業であればいい。目的が愛媛ファンを増やすことなので。

――これまでに、どんな授業があったのでしょう?

一番印象に残っているのは、『ヒトノユメ』という授業です。チャットモンチーの元メンバーの高橋久美子さんの、詩と絵のアート展を行いたいという夢を起点に、多くの市民の夢を展示する場へと発展し、47名の市民が表現者として参加しました。

この時はいつもより準備も大がかりでしたし、僕もボランティアの方々と必死で準備しました。結果、会期中に2200人以上の参加者が訪れて大成功となりました。そのほか、大人をキーワードに企画した愛媛大学と共催の「対話を肴」に過ごす「ラーニングBar」、店長さんと書店をめぐる「閉店後の本屋さんナイトウォーカー」など、変わり種の授業もずいぶん増えています。

「ヒトノユメ」授業の準備の様子

「ヒトノユメ」授業の準備の様子

店長とめぐる「閉店後の本屋さんナイトウォーカー」

店長とめぐる「閉店後の本屋さんナイトウォーカー」

愛媛の資源を生かすために

 
泉谷さん自身、実は愛媛の出身者ではありません。もともとフィルムコミッションの仕事をするために東京から愛媛へ移住した方。フィルムコミッションとは、映画やドラマなどの撮影舞台になりそうな場所を撮影して、映画やテレビ会社に提案する、地域活性のための事業です。映画やドラマで取り上げられれば、それだけ観光客が訪れるということ。愛媛県だけでなく、全国各地で、このフィルムコミッションの事業は行われています。 

フィルムコミッションの仕事を通して集めた松山の魅力集とも言えるデータは、約2割が実際に活用されても、残りの8割は人の目にふれないまま。これだけある土地の魅力を、何とかもっと多くの人に知ってもらって、より愛媛の魅力をアピールできないものか、と考えたのが市民大学の始まりでした。

地域資源を「授業」という形にして、観光客ではなく、一般市民にまず知ってもらおうと考えたのです。

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泉谷さんは、東京のシブヤ大学をはじめ、全国の市民大学を視察してまわります。この時、モデルにしたいと感銘を受けたのは、愛知県の「サマーセミナー」。年に一度、たった3日間の開催で、約4万人の市民が参加、ボランティアが1万人という20年間続いている市民大学の老舗とも言える、ビッグモデルでした。

愛媛県にも145万人の県民がいます。僕たちが目指すのも、この住人全員に参加してもらえるような大学です。この取り組みの根幹にあるのはシビックプライドだと思っているんです。僕のように移住してきた人も含めて、今この土地に住む人の中でいかに地元ファンをつくるか。それが観光にもつながってくると思っています。

もともと四国にはお遍路さんへの「おせったい」の文化があります。訪れる人をねぎらったりもてなす文化を持っていたんですね。その気持ちを思い出して、地元の人がこの地を訪れた人に楽しんでいってほしいと思えたら、自然と観光も盛り上がるんじゃないかと。

日本にも、働く場所としてのNPOを

泉谷さんが「いよココロザシ大学」に携わるようになったのには、もうひとつ、かねてからの個人的な思いがありました。それは、日本の若い優秀な人たちが、企業でも役所でもなく、安心してNPOに就職できる社会をつくること。18歳から24歳までの青春期を海外で過ごした泉谷さんにとって、海外での暮らしは、日本に対して沢山の疑問を感じさせるきっかけになりました。

同じ24時間なのに、生まれた場所が違うだけで日本だと深夜まで働くのが当たり前で、海外ではもっと皆プライベートを大切にしたり楽しそうに暮らしている。この違いは何なんだ、と思いましたね。NPOも同じです。海外では社会に対してなすべきことをしつつ、きちんとお給料を払えるNPOが沢山あります。日本でもそんなNPOを実現することが、僕のひとつの目標です。

事務局の山本文さん(左)、泉谷さん、江戸恵子さん(右)

事務局の山本文さん(左)、泉谷さん、江戸恵子さん(右)

今、「いよココロザシ大学」では、フィルムコミッションの事業を引き続き行いつつ、企業や行政ではできないNPOならではの仕事を請け負って、新たな事業展開を始めています。

この学校を運営していくための資金面に責任を持つのが、今の自分の立場だと思っている、という泉谷さん。今はファンドレイジングに力を入れています。市民の誇りを育て守るための取り組みは、まだ始まったばかりです。

「いよココロザシ大学」についてもっと知りたい

「いよココロザシ大学」学長ブログ