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4 years ago - 2012.05.30

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教えるだけが”学習支援”じゃない!児童養護施設で暮らす子どもの自信や意欲を育む「3keys」 [マイプロSHOWCASE]

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勉強ってなんでやるんだろう? 将来何をやりたいんだろう?
誰でも1度や2度は考えたことがあるのではないでしょうか。

18歳になったら施設を出て自立しなければいけない児童養護施設の子どもたちの中には、学業不振や経済的事情など、さまざまな問題によってその問いかけすら諦めてしまう子どもも多いのだそうです。

そんな子どもたちの実状に目を向け、児童養護施設の学習支援を通じて自信や意欲を育む活動をしているのがNPO法人「3keys」です。

「やっていることは学習支援ですが、進学することだけが目標だとは思っていません」と話すのは、代表の森山誉恵さん。進学を目的としない学習支援って、いったいどんなものなんでしょうか?

活動のキーワードは“きっかけ・きづき・きぼう”

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「3keys」は3つのキーワード「学ぶ“きっかけ”に出会い/自らの可能性に“気づく”ことで/“きぼう”をもてる社会を目指して」というビジョンを掲げています。事業として提供するのは、この“きっかけ”の部分。自らの可能性に気づき、希望をもつきっかけを提供したいという思いが込められているそう。

現在手がけている取り組みは大きく2つあります。

一つは主に中高生を対象にした家庭教師型プログラム。施設とボランティア希望者の仲介をすることで、多忙な職員さんの負担を軽減。子どもとボランティア希望者のマッチングをしっかり行なってそれぞれの子どもに合った人を選出できるようにしています。

子どもたちはさまざまな事情で精神的に不安定な場合が多いため、事前研修や月に1度の報告書の提出、勉強会の開催や、指導に関する相談に乗るなど、ボランティアさんが必要以上に悩んだり、トラブルを抱え込まないようにフォロー体制も整えています。そうすることでボランティアの継続率を伸ばし、長期間の学習指導を実現して、その子の学力レベルに応じた指導をしたり、信頼関係を築くことを目指しています。

もう一つは、主に小学生向けの教室型プログラムです。これは、それぞれの子どもの学力レベルに合わせた少人数制の補習教室を週1回開いて指導をし、それ以外の日は用意した教材に毎日取り組んでもらうというもので、早い段階から学習習慣をつけさせることを目的としています。こちらは現在、試験的に2施設で実施していますが、学習が大きく遅れてしまう前の予防プログラムとして効果が期待されています。

児童養護施設の子どもが抱える学習環境の問題点

なぜ児童養護施設は、子どもたちの学業不振や不登校などの問題を抱えているのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。

近年、施設に入所する子どもたちの家庭環境は、貧困やひとり親家庭、精神的に不安定な家庭が多く、学習どころか生活環境としても適切でない場合が多いのがまず第一の理由です。それに加え、子どもたちは、施設に入る前に一時保護所というところでいったん保護されます。一時保護所は緊急時の保護が目的のため保護されている間は外出禁止になっていて、学校に行くこともできません。

その上、虐待や育児放棄が増え、受け入れ先がなかなか決まらないことで、本来は1、2週間の滞在を想定している一時保護所に、最近では1ヶ月から1年近く滞在する子どももいます。するとその間は学校に行くことができないため、必然的に勉強についていけなくなってしまうのです。

このように施設にきた時点で子どもたちの多くは学習面でハンデを負っています。そして施設ではひとりの職員さんが平均して6人の子どもの面倒を見ているため、生活のケアで手一杯で、学習までフォローしきれていないというのが実状なのです。

みんなが気もち良く学習支援活動ができる仕組みづくり

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森山誉恵さん

森山さんは、学生時代に児童養護施設の学習ボランティアを経験しました。そして、それまでに経験した塾講師や家庭教師とはまったく事情が異なる児童養護施設の学習実態に衝撃を受けました。

私もいち学習ボランティアとして中学生の女の子の指導をしていましたが、施設では学習ボランティアを直接受け入れる体制すら整っていないことに気づかされました。

人手は足りないしお金も足りないから、ボランティアには頼りたいけど、子どものケアだけで手一杯で、ボランティアを募集したり、面接したり、継続的にコミュニケーションをとりながら、ボランティアの悩みを解消する手間なんて到底ありませんでした。ボランティアに10分時間を割くと、その10分間、6人の子どもたちは放置なわけですから。

だからといって、この状況を放置しては施設の現状を知ってくれる人も増えないですし、たまたま知ったとしても、充分に施設を理解してもらい、本当に子どもにとって適切な人かどうかを見極めないまま指導につくことで、長続きしないことは施設においても大きな課題でした。ボランティアが長続きしないことは「親に見捨てられた」と思っている子どもにとって、再び自分のもとから人がいなくなる経験にもなりかねないのです。

これでは職員さんもボランティアさんも子どもたちもみんなにとってあまりいい状況とは言えません。それで、面接や研修、マッチングをしっかり行なう民間の家庭教師派遣システムを学習ボランティアにも適用して、みんなが気もち良く学習支援活動ができる仕組みを作れないかと考えました。

当初は学生団体として立ち上げ、「卒業までに体制作りをして引き継ごうと考えていた」という森山さん。それでも卒業までに満足がいく形にできなかったので、思いきって就職せずに、NPO法人として事業を継続していくことに決めたのです。

教師ではなく、応援者になる!

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森山さんが気になったのは、学力の問題だけではなく、たとえ子どもが夢や目標をもっても、それを支えて応援する人がいないということでした。そこで「3keys」では、ボランティアさんは「指導者+応援者」であることを大切にしています。

浪人した子どもが「周りに迷惑をかけてまで夢に向かっていいのか」と悩みながらも、2年間同じボランティアさんと勉強を続けて無事に合格したことがありました。逆のパターンでは、ボランティアさんと相談しているうちに、自分がやりたいことが明確化されて大学受験をやめて専門学校へ進学した、なんてこともあったそうです。

これらは、1対1でしっかりと向き合い、信頼関係を築いたからこそ生まれた未来ではないでしょうか。

環境的に不利な状況にいて、現状では周りと比べたら劣っている可能性もあります。でも、やればやった分だけ確実に前に進んでいるのです。大切なのは周りと比較せずにその子だけを見て絶対的な評価をしていくことです。子どもがちゃんと成長していることを誰よりも近くで見て気づいてあげて「先週よりこれだけ伸びたね」って伝えることがいちばん意義があることだと思っています。

だからボランティアさんには「受験に合格することが目標だと思わないでください」と伝えています。勉強が続けられるかどうかっていうのは本人次第といえば本人次第。私たちがやっているのは、その子が勉強を継続できるための条件を整えていくことです。

自分のことが客観視できるようになったり、成長を素直に受け入れられるようになったり、強がらないようになったり。そういう精神面での変化が子どもたちにとっていちばん大きいと思います。もちろん教師的な役割もするんですけど、勉強を教えることは「プラスα」の部分なのかなと思っています。

とは言いつつ、昨年は4名が大学と専門学校を受験し、4名とも合格。高校受験者は6名で、6名とも合格しています。合格実績は意識していないけれども、実際の合格実績は良くなっているというわけです。

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ボランティア側にも学びがある

変化は子どもたちだけに限らないというのも大きな特徴です。「3keys」では、子どもとともに学び、成長していこうという思いを込めて、ボランティアのことを「まなボラ」と呼んでいます。

教育や福祉について学ぶ大学生が現場での経験を積みたいと応募してきてくれることが多く、次いで教育に関心のある社会人の応募が増えてきています。

子どもたちと接していると、それまでの自分の生活とのギャップに、自問自答することがたくさん出てきます。「人生って何?」「勉強ってなんで必要なの?」っていう疑問にぶつかるのは、実は子ども以上にボランティアさんなんじゃないかと思います。

これから教師になったり福祉職に就く人が、そういうことを自問自答できるのはすごくいいことだと思うので、ボランティアを希望する方々には、学ぶ気もちをもつことを前提にきてもらっています。

ボランティアの側にも大きな学びがある…。それは、森山さん自身の経験からも伺えることです。今でこそ、NPO活動に従事している森山さんですが、実は学生時代はひたすら上を目指していて、エリート志向が強かったのだそうです。

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目指していたのは漠然と有名大学だったし、就職活動する時も、本当にその会社に就職したいかどうかはちゃんと考えず、一流企業ばかりを狙っていました。

それが学習ボランティアをきっかけに、そうじゃないんだって思い始めたんです。その子と出会ったことで「人生って?」とか「本当に大学に行くのが唯一の幸せなの?」とか、そういうことを初めて考えるようになりました。

気軽な気持ちで始めた学習ボランティアが森山さんの価値観まで大きく変えてしまったのです。

以前は上ばかり見ていつも何かに追われていたんですけど、今は精神的にすごくのんびりしているし、楽しくて充実しています。やりたいと思ったことをやっているせいか、大変なことをあんまり大変だと思わないんですね。たまにこんなに毎日充実してていいのかなって思うぐらいです。

子どもの成長を見届ける息の長い支援を

事業を開始してから3年が経ち、支援の体制もできあがってきました。今後しばらくは、事業の拡大というよりも、今関わっている施設でのプログラムをしっかり作りあげることに専念していきたいそうです。

たとえば先ほどの浪人した子の話にしても、1年で成果を出そうと焦っていたら、子どもの意志とは反した方向にいっていたかもしれません。長い目で、本当にその子にとっていいと思えるプログラムを作っていくことの大切さを、3年間活動してきて実感しています。

児童養護施設の支援は単発のものは多いのですが、子どもと向き合う息の長い支援は、職員さんだけで抱えてる状況です。そこがいちばん難しくもありますが、大事でもあると思うので、何年もかけて子どもの成長を見届けられる支援をする団体になりたいです。

勉強に対するポジティブな意欲と、その意欲を支える応援者の存在、そしてわからないことにひとつひとつ取り組んでいくことで得る自信…。

「3keys」の学習支援は、知識という意味での学習だけではなく、学習する動機とその動機をフォローすることに焦点を当てた、もっと根本的なことを大切にした学習支援なのです。

(text:平川 友紀)

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平川 友紀

greenz シニアライター ストーリーライター/記録家。 物語性のある記事を得意とするストーリーライター。 1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。体調を崩したことをきっかけにマクロビオティックを学び、持続可能なライフスタイルを模索し始める。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らし、コミュニティを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。平川まんぼう宛でも、郵便物が届くのが、自慢。 facebook:https://www.facebook.com/captainmanbou twitter:@captainmanbou

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