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“震災後を生きる”ことへの希望のメッセージ。“神の島”の人々を描くドキュメンタリー映画「はじまりの島」

映画「はじまりの島」より
映画『はじまりの島』より

「あなたは、これからをどう生きていきますか?」

6月19日、30日に渋谷アップリンク・ファクトリーで公開される、ドキュメンタリー映画『はじまりの島』の冒頭シーンの問いかけです。青い海を見つめる女性の後ろ姿のシルエットが消えると、暗闇に白い文字が浮かび上がってくるのです。

東日本大震災、そして福島第一原発の事故。見えない放射性物質への不安。「どうしてこんなことが起きたんだろう? これからどうすればいいんだろう?」という思いは、今、この国に住むすべての人の胸のうちにあるのではないでしょうか。

『はじまりの島』は沖縄・久高島を描くドキュメンタリー映画であり、この映画で初監督を務めた後藤サヤカさんにとっては「震災後を生きることへのひとつの答え」です。なぜ、この映画を撮ることは、彼女にとっての「答え」になりえたのでしょうか。

後藤さんがこの映画にかけてきた思いと覚悟を聴かせていただきました。

ドキュメンタリー映画『はじまりの島』とは

久高海運代表・内間新三さん
久高海運代表・内間新三さん

久高島は、沖縄本島の東南に浮かぶ細長い島で、琉球神話最高の聖域です。古来、「神の島」として琉球王朝に大切に守られてきました。島では「男は海人(うみんちゅ)女は神人(かみんちゅ)」と言い伝えられ、女性が島の中心となり男性を守るという精神文化が受け継がれています。

今もなお、久高島では年間20以上もの神行事が行われていますが、なかでも重要なのは島全体で新しい年を祝い、健康を祈願する旧正月の3日間です。

『はじまりの島』ではこの旧正月の島の様子に密着。神聖な行事を心から祝う人々の姿や、島に暮らす女性や子どもたちに「島への思い」を尋ねるインタビュー、そして色鮮やかな花や樹木、海や船などの美しい風景カットで構成されています。

のびやかな子どもたちの笑顔、誇り高い女性たちの姿、強く輝く“おじい”の黒い瞳。人口200人の小さな島には、映画館もクラブも、コンビニも高級ブランドショップもありません。でも、そこでは誰もが安心して幸せに暮らしているのです。

同じ時代、同じ国のなかに、これほどまでに違う生き方をしている人たちがいるということに、深い衝撃を受けずにはいられません。

Coccoの存在に導かれて沖縄へ

「はじまりの島」監督 後藤サヤカさん(撮影:松川さくら)
『はじまりの島』監督・後藤サヤカさん

後藤さんは、もともと「沖縄を舞台にしたフィクション映画を撮りたい」と考えていたそう。久高島を訪れたのも、最初は「いつか撮る映画のリサーチ」のつもりでした。

私は中学生の頃からCoccoが好きで。彼女の音楽に出会って色んなきっかけをもらいました。

人見知りだったのに高校で、軽音楽部に入って歌いはじめたりCoccoってすごく不思議な人で、「ユタ」という沖縄のシャーマンだと聞いたりするので、「それ、何だろう?」彼女の存在、そして沖縄を愛する姿に強く惹かれ、沖縄の文化にも興味を持つようになったんですね。

「一度、沖縄の御嶽(うたき)という聖域をめぐる旅をしてみたい」という思いが実現したのは2009年のこと。久高島に出会ったのもそのときでした。

“神の島”と言われるくらいだから、どんな島かと思って行ってみたら本当に何もなくて。思考がストップして無になっちゃうくらい時間がゆっくり流れているような島で、自然も人も心が純粋で本当にきれいなんです。すごくあったかく受け入れてもらいましたし。

島の人たちは、すべてのものは大切だと感謝して暮らしていて、すごくあたりまえのことに感謝して生きている人たちに出会って言葉にならない感動を覚えました。

それから約2年間、忙しい日々を縫うようにして3回久高島を訪れ、後藤さんは島の人たちとの交流を深めていきました。

人間の原点にある感覚を呼び起こしたい

久高島に咲くカエンボク(火焔木)の花
久高島に咲くカエンボク(火焔木)の花

当初は「沖縄を舞台にしたフィクションを」と考えていた後藤さんが、「久高島をドキュメンタリーとして撮ろう」と考えはじめたのは震災後のことでした。

震災後は、一日に何回も地震で揺れるし、放射能への不安でみんなどんどん元気がなくなっていたけど、私は「死ぬんじゃないか」という経験をしたからこそ、「いつまで生きられるかわからない。この震災後から世の中を良くするために私にできることは?」と意識が変わったんだと思います。「自分は何かになりたい、やりたい」じゃなくてね。

後藤さんは、震災後まもなく環境問題・社会問題・原発問題等に関する情報のツイートがきっかけとなり、国内外の環境映像コンテンツを配信する「GreenTV」と意気投合。2011年秋から「GreenTV」の番組制作に参加することになりました。

田舎に行くと、もともと日本にあった暮らしや、先祖が大事にしてきた思いがまだまだ残っていて。「GreenTV」の番組制作に関わるなかで、こういうことをみんなに見て知ってもらいたいという思いが強くなりました。

呼吸ができるのだって植物があるからですよね。この自然があって、祖先から受け継がれた命があるから私たちは生きています。自分たちの思うままにいろんなものを作りだして、便利な暮らしを手に入れても、結果的に自然が壊れたら人間だって壊れてしまうのに。

後藤さんは「自然や祖先を大事にする」ことは、人間の原点にある感覚ではないかと考えます。そして、その感覚を呼び起こすために「原点に立って暮らしている人たち」――2年前に出会った久高島の人々と暮らし――を見てもらうドキュメンタリーの制作を思い立ちます。

私はこれからこの映画とともに生きていく

久高島にて。後藤サヤカさん
久高島にて。後藤サヤカさん

後藤さんは、久高島の人たちとのつきあいのなかで「自然を感じて、感謝して、大事にするべきものを大事にする」感覚が、人間の根底にあるはずだと感じるようになったそうです。その感覚があれば、世界が悪い方向に行くはずがないし、止めることのできない原発を作ることもないんじゃないか、とも。

久高島の自然と島の人々は、私のなかにあった自然や人のつながりに感謝するような感覚を呼び起こしてくれました。だから私はこの島の姿をみんなに見て、感じてもらいたいんですね。

私は「はじまりの島」を持ってこれから生きていきたいと思っています。映画を見た100人のうち1人ずつでもいいから、自然に生かされている、感謝する気持ちをちょっとでも感じてくれたり、あったかいプラスの感情になってくれたらという希望を持って作った映画です。

震災後の世界で新しい物語をはじめよう

渋谷アップリンク・ファクトリーでの公開後は、できるだけ全国各地へ足を運んで映画を上映し、共に話し合う場を作っていきたいと後藤さんは考えています。そして、「生きる」ことを分かち合い、世界が少しでも良い方向に変わっていく力に変えていきたいと願っています。

たとえば、原発問題を伝えるドキュメンタリーと一緒に上映してもらったり、子どもを持つお母さんたちや私より若い世代の子たちと一緒に考える場を持てたらいいなと思っています。

もしかしたら、私も内部被爆していて3年後には病気になるかもしれないし、地震や災害で命を落とすのかもしれません。それでも、一日一日を生きていることを実感して、幸せを共有し合うことができたら「生きたな」と思えるはずだと思います。

『はじまりの島』で描かれている久高島の暮らしは、たとえば東京や大阪のような都市の生活からはあまりにも「かけはなれている」と思われるかもしれません。でも、「かけはなれて」いるのに「すごくいい!」と思う人はけっこう多いのではと思うのです。

もし「すごくいいな」と思うとしたら、その感覚こそが手がかりです。自分のなかにある確かな感覚をしっかりとつかんでいれば「どう生きていきたいか?」への答えは自ずと見つかるだろうし、そこから一人ひとりの新しい物語が「はじまる」のではないでしょうか。

ドキュメンタリー映画『はじまりの島』上映会

6月19日(火)
【1回目】18:00開場 / 18:15開演
19:30〜トークライブ(約35分)
ゲスト:高野要一郎さん(『saro』共同オーナー)、松原広美さん(サーフライダーファウンデーションジャパン事務局長、J-WAVE LOHAS SUNDAY ナビゲーター)

【2回目】20:05開場 / 20:15開演
21:30 トークライブ(約35分)
ゲスト:高野要一郎さん

6月30日(土)
13:30開場 /1 3:45開演
15:00 トークライブ(約35分)
長野ヒデ子さん(絵本作家)、渡辺裕子さん(映画監督)

料金:一律¥1500(アップリンク・ファクトリーのウェブにて予約可)
場所:渋谷UPLINK(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル)