バングラデシュの労働者を笑顔に!人権フレンドリーな職場カイゼンで、海外受注を支援する「ek sathe(エクシャテ)」 [マイプロSHOWCASE]

バングラデシュの子どもたちの笑顔

バングラデシュの子どもたちの笑顔

ニット製品、ワイシャツ、コットンパンツ、レザーの靴。低価格の商品の生産国を見ると、最近は”Made in Bangladesh”の文字を見ることも多くなりました。安い労働力を求めて、多くの企業が進出している国。それが、バングラデシュです。

安価で豊富な労働力を生かして、バングラデシュは今、急成長を続けています。しかし、急成長の裏側で起こりがちなのが、過酷で危険な労働環境です。日本に暮らす人にとって、最低限の人権が守られていることは当たり前のこと。そして当たり前すぎるからこそ、安い製品の裏で「誰かを犠牲にする」という可能性があることに、意識が向かないことも多いのではないでしょうか。

今回はこの問題に光を当てる「ek sathe」(エクシャテ)の取り組みを紹介します。

“Made in Bangladesh”製品の裏にあるもの

今、バングラデシュでは世界中の企業から生産を受注している工場がたくさんあります。それらのうち、ひどい場合には、私たちが想像すらしたことがないような、劣悪な労働環境で働かされている場合もあるのです。

Team Spirit / noricum

Team Spirit / noricum

丸腰で有害な薬品を使って作業をしたり、炎天下の中で休みなく小さな子どもが重いものを運んだり。最低限の命の保障が守られていない労働環境が、途上国ではありえるんです。

と語るのは、エクシャテ代表の青沼愛さん。

「自分一人でできる最大のインパクトを」と語るエクシャテ青沼愛さん

「自分一人でできる最大のインパクトを」と語るエクシャテ青沼愛さん

しかし、そのような過酷な労働環境では、何百人もの人が事故で亡くなったり、安定的なものづくりができなかったり、離職率が高いことで技術の向上が難しかったりします。一方、よい労働環境で仕事ができる工場では、労働者のモチベーションや製品の質がまったく違ってくるのだそう。

よい労働環境を整えられている工場で働く人は、何より目が違います。みんな目をキラキラさせていて、表情が明るいんです。向上心も強く、その結果、不良品も少なくなるんです。

ビジネスのコアは”人”です。人を大切にしている工場は、質のよい製品をつくることができる。よい製品をつくることができれば、発注も増えます。つまり、人権の観点を抜きにしても、悪い労働環境は、長期的には工場オーナーにとっても、その工場に発注する企業にとっても、メリットがないのです。

好んで悪い環境で働かせたい人なんていない

 Some rights reserved by melanie_ko
Some rights reserved by melanie_ko

では、なぜ受注側にも発注側にもメリットのない”悪い労働環境で操業を行う工場”が、仕事を続けられているのでしょうか。「その理由は”情報の不足”と”コミュニケーションの不足”にある」と、青沼さんは言います。

日本の企業は「劣悪な環境で労働者が働いている場合がある」ということすら、想像していない場合があります。もし少しでもその事実を知っていれば、ほとんどの企業が労働環境の改善を求めると思います。知らないうちに、劣悪な労働環境に加担してしまっていたことが後々に発覚すれば、イメージダウンになるからです。

一方、バングラデシュの工場オーナーたちは、世界的な水準から見て、自分たちの労働環境が悪いのか、どこが悪いのかを知らないことがあります。工場オーナーも、自分たちの労働環境が、海外企業が発注を躊躇するほど悪いとわかれば、改善するんです。やはり仕事がなくなるのは困りますからね。

エクシャテの事業の3つの柱

しかし、日本からバングラデシュに出張して、現地の工場を下見に行っても、実態が確認できない場合もあります。目に見えない部分に、その原因があることも考えられるからです。

一方、バングラデシュの工場では、労働環境に関する国際的な資格をとることに意欲的な工場も増えてきているそうです。その資格があれば、海外企業からの信用を得ることができるからです。資格取得には費用がかかるため、確実に資格を取得したい。そこで、エクシャテでは、

1.日本企業や団体からの依頼を受けて工場の監査を代行すること
2.日本でバングラデシュの工場に発注したい企業や団体に向けてセミナーを行うこと
3.バングラデシュの工場から依頼を受けて、労働環境のコンサルティングを行うこと

の3つの事業を行っています。

“コミュニケーション”の難しさと大切さ

日本企業がバングラデシュの工場の実態を知った後、実際に労働環境の改善を求めていく場合、「コミュニケーションを上手にとる必要がある」と青沼さんは言います。

そのためには、バングラデシュの文化を理解する必要があります。わかりやすい例で言うと、バングラデシュでは、食事をフォークなどを使わず手で食べます。その手をきちんと洗わずに、労働者が衣料品を作る仕事をしたら、衣料品に汚れがつきます。

この問題を改善するために「フォークを使って食べてほしい」と言うか、「手を洗ってほしい」と言うか、解決策はどちらでも良いのですが、どのように伝え、コミュニケーションをとるかで、改善度合いや仕事に対するモチベーションは変わってきます。

イスラム教の国であるバングラデシュは、カレンダー通りの休みが金曜日だったり、ラマダン(飢えを体験することによって神に感謝するために、太陽の出ている間は断食を行う)期間は勤務時間が変わったりするなど、思わぬところで日本と文化が異なるのだそう。

文化を知り、相手へのリスペクトを込めてコミュニケーションをとることが必要だと言うことは、言うまでもありません。だからこそ「日本と同じ感覚で要求することは難しいこともある」と青沼さん。

例えば、安易に「14歳以下を雇わないでほしい」と言ってしまった場合に、14歳の労働者の家族全体が食べていけなくなる可能性もあるからです。しかし、話をすれば改善できることもたくさんあります。

労働環境の専門家として、やらなくてはならないこと、やれること、現段階ではできないことを依頼主の日本企業と一緒に考えて、バングラデシュの工場オーナーのモチベーションが上がり信頼関係が築けるように、意向を伝えていきたいと思っています。

エクシャテはバングラデシュの文化と労働環境の専門家として、バングラデシュの工場と日本の企業の橋渡しをしているのですね。

バングラデシュへの想い

エクシャテ代表の青沼愛さんは現在、Aoyama Business School MBAコースに在籍中でもあります。バングラデシュと日本を行き来し、活動を続けるのはとても大変そう。そのような熱い想いはどこから湧いてきているのでしょうか。お話を伺ってみました。

ek sathe(エクシャテ)代表の青沼愛さんとバングラデシュの子どもたち

ek sathe(エクシャテ)代表の青沼愛さんとバングラデシュの子どもたち

バングラデシュに行って私の人生が変わったんです。一言で言うと、世界に対する見方が変わりました。2004年から学校への支援を行っているのですが、支援している学校のある村に行くと、人々が”分け与える心”を持っていて、「貧しくても、自分にできることをやって、少しずつ変えていこう」という精神があるのがわかります。

バングラデシュには、「今年よりも来年は生活がよくなる」という期待に満ちているんです。行くたびによいエネルギーをもらっています。

青沼さんは学生時代に、当時世界最貧国のひとつであったバングラデシュで行われた3週間のボランティア活動に参加。そこで、生きていくために働くだけで精一杯で、将来の夢を抱けない子どもがたくさんいることを知りました。初めて目の当りにする貧困という現実、生まれながらに決められたチャンスの少ない世界で生きる彼ら。

私はただ日本に生まれただけで、個人として何か大きな努力をしたわけではない。それでもバングラデシュに生きる彼らと比べて、この差は何なのだろう。

と、世界の不平等な現実に衝撃を受けたと言います。

小学生の頃に戦争について学んだことがきっかけで、もともと国際協力に興味を持っていた青沼さん。一時期、日本からの支援として、途上国に学校を設立することが流行していた頃がありましたが、その頃にできた学校が今や運営の危機にさらされているのを知り、その後バングラデシュの働く子どもたちのための学校(Non Formal Primary Education)を支援する団体を立ち上げます。「そのとき大切にしていたのは長期的に関わること。自分たちでお金を出し、続ける覚悟があるメンバーが集まりました。」と青沼さん。

青沼さんたちが支援している学校の様子

青沼さんたちが支援している学校の様子

フェアトレードやエシカルを当たり前に

学校支援の活動は今年で9年目。しかし継続しているうちに、やはり貧しさから学校をドロップアウトしてしまう生徒がいること、そしてドロップアウトしていく生徒やその両親が働く工場が、決して安心して働ける環境とはいえないことに気づきました。

劣悪な生産体制、児童労働、低賃金や賃金未払いの問題、工場での事故やストライキなどの暴動による事故など、労働環境に関する問題は数多く存在しています。

自分たちが関わってきた人が、工場で働いている。そう考えると、すべての製品が「フェアトレードで取引されるべき」「エシカル(倫理的、道徳的)な作られ方、届けられ方をするのが当たり前」とシンプルに思いました。

情報の格差があるからフェアな取引ができない状態になる。それならば情報が行き届けば、誰も傷つけないような製品ができる…必要な情報を必要な人に行き渡らせるような、”健全な発展へ導くシステム”をつくりたいと思うようになりました。

上からの目線で「バングラデシュの人々はかわいそうだ。だから助けたい」というのではなく、製品に関わる人たちすべてが一緒になって、よりよい製品の作り方を模索したくて行っている青沼さんの活動。ベンガル語で“一緒に”という意味を持つ「ek sathe(エクシャテ)」という名前も、その思いから来ていたのです。

Sadhinota 24/40 by sharna.shumona (off for a while because of net pro, on Flickr

Sadhinota 24/40 by sharna.shumona (off for a while because of net pro, on Flickr

ひとりから最大のインパクトを与えるには?

大学卒業後に「ビジネスが及ぼす影響の大きさを知りたい」と、外資系ビジネスイベント会社やSRI/CSR調査会社で勤務した経験もある青沼さん。エクシャテの活動を始めるとき、「どのようにしたら、最大のインパクトを与えられるか?」という問いについて考えたと言います。

労働者への教育やフェアトレードなどの取り組みは、すでに様々な団体が行っています。そのような団体とは別の切り口で、共通の目的が達成できるシステムをつくれば相乗効果が生まれると思いました。

また、今はエクシャテの活動は一人で行っています。一人で、しかもバングラデシュでは外国人である私が最大のインパクトを与えるためには、労働者と接するよりも、工場オーナーや発注側の日本企業と協力していく方がいいと思ったんです。日本企業が変われば、工場オーナーも変わる。工場オーナーが変われば、結果的に労働者の環境も変わるはず。この方法なら自分でも実行できるし、インパクトも大きいのです。

現在、バングラデシュでは工場が5,000社以上あるそう。ほとんどの発注元は欧米企業で日本はまだ2%。そこで日本企業が進出しやすいように、今後こういった工場の中から、意識が高い工場のリストをつくる予定です。

優良な工場のリストがあれば日本のバイヤーさんにも紹介しやすくなります。また、バングラデシュでは、出稼ぎで都会に出てくるときには親戚や知人を頼って出てきますが、知り合いの勤め先に勤務することがほとんどなので、このようなリストがあれば、バングラデシュの人々にとっても勤め先を選ぶことができます。労働力が優良工場に集まるようになれば、労働者の確保の観点からも、工場オーナーが変わっていくきっかけになるはずです。

私たち消費者にできること

工場オーナーが変わり、日本企業が変われば、労働者の環境も変わる。しかし、他にも大切なことがあります。それは、消費者の意識が変わること。

日本では、ISO9000/14001など品質や環境関係のマネジメントシステムの国際規格はよく知られていますが、SA8000などの労働環境を含めたコンプライアンスの国際規格はあまり知られていません。

欧米の企業は、工場オーナーに”労働環境の基準”を突きつけて、基準を守って製品をつくることを要求します。それは何より消費者が、人権を配慮したつくり方をしていることを気にするからです。私たち消費者がエシカルな商品を購入したいと要求していくことが、とても大切だと思っています。

労働環境が改善するとバングラデシュの工場で働く人が笑顔になり、
バングラデシュの工場オーナーがよい製品を作ることができ、
発注した企業が安定的に良質な製品を購入でき、
消費者の私たちが気持ちよくバングラデシュ製の商品を購入できるようになる。誰も犠牲にしない、「win×win×win×winな取り組み」をつくる青沼さんの取り組みに、今後も目が離せません。

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