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4 years ago - 2012.05.21

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日本でいちばん家庭的!?父の思いを受け継ぎ、実家で子どもの心のケアを行う「自在塾」[マイプロSHOWCASE]

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いうまでもないことですが、学習塾はもちろん、勉強をするところですよね。
でも勉強を教えるだけじゃない学習塾もあるんです!

NPO法人「ダイバーシティ工房」は、家庭や学力にさまざまな問題を抱える子どもたちを対象に、家庭的な雰囲気を大切にしたユニークな学習塾を運営しています。

「安心して学べる場所を地域につくりたい」との思いから生まれた小さな塾の取り組みに、今の日本の教育格差を解決する糸口が見えてきました!

地域の大人たちが解決できる教育問題がある!

成績の低い子ほど、学校や集団塾では受けづらい、手厚い指導を受ける必要がありますが、一方できめこまやかな指導を受けることのできる個別指導は月謝が高く、低所得家庭は手が届かない…。そんなジレンマがあちこちで起きているんだそうです。

千葉県市川市にあるNPO法人ダイバーシティ工房が運営する「自在塾」は、不登校や学力不足、発達障害など、さまざまな問題を抱える子どもたちも積極的に受け入れている学習塾です。ひとりひとりの個性や学力レベルに応じて、長年のノウハウを活かしたきめ細やかな学習指導をしています。

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実家の庭につくった「自在塾」

「自在塾」がユニークなのは、子どもたちの成長には家庭や学校に限らず地域の大人たちが関わることができるのではないかという思いから、勉強を教えるだけではなくさまざまな取り組みを行なっている点です。

たとえば、学力に大きな悩みを抱える子どもたちは、生活保護、共働き、母子家庭など、家庭環境が複雑な場合が多く見られます。家庭の中に安心して学べる環境がないことが多いのです。

そのため教室は家のリビングほどの広さにし、1クラスの定員は6人まで、授業前におにぎりを出したり、学校行事に参加するなどまるで家族のようなことをすることもあります。親がストレスを抱えている場合もあるので、子どもだけではなく親とも話し合いの場をもったり、子どもの様子がおかしい日は授業をせずに話を聞く時間も大事にしています。

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自在塾のルール

さらに、家庭問題は経済的な事情とリンクする傾向があるため、授業料は通常の学習塾よりも安く設定しました。これによって、経済的な理由で塾に通えないという問題を解消しています。

信頼関係を築くことは子どもや親の精神的な安定に繋がります。精神的に安定すると、自然と学習意欲は向上します。そのうえで学習指導をすると成績も上がりやすく、定時制高校にしか行けないぐらいの学力の子が全日制高校に入学できたり、学校を中退せずに卒業できたりと、低学歴になることを防ぐことができます。すると将来的にはその先の進学や正規雇用での就職に繋がって、子どもたちの未来の選択肢が増えていくというわけです。

また、学習面だけではなく、ひきこもりがちだった子どもが外に出るようになったり、家庭問題に改善が見られたりといった効果も。なによりも「勉強が楽しい」と言ってくれるようになる子どもが増えるのが嬉しいそうです。

「教育でセーフティネットをつくりたい」

代表の不破牧子さんは、大学では国際学部に在籍し、海外の貧困問題や開発経済について学んでいました。貧困の現状を実際に見てみたいと一旦大学をやめて海外放浪の旅に出たこともあります。

一方で、母親は小学校の教師、父親は学習塾経営という教育家庭で育ち、貧困は教育でしか解決できないという話を日常会話の中でよく耳にして関心をもっていました。でも同時に、それは豊かな日本とは関係がないことだろうとも思っていました。

そんな不破さんが、なぜ日本で、お父さんのやっていた塾を受け継いで現在の「自在塾」を始めることになったのでしょうか?

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不破牧子さん

不破さんは、大学卒業後、発展途上国の経済発展に関与できる仕事がしたいと東南アジア関係の商社に入社しました。しかし、商社の仕事はエンドユーザーが見えづらいことや、女性が働きづらい環境だったこと、裏側の複雑な事情を知ったことで、仕事に対して本当にこれでいいのだろうかと疑問をもつようになっていました。

そんな時に書店でたまたま手に取った「TABLE FOR TWO」の小暮真久さんの本を読み、感銘を受けた不破さんは一念発起し、会社をやめて自分で事業を立ち上げることにしたのです。とはいってもはじめは「教育のことがやりたい」という漠然とした思いがあっただけでした。そして「今の日本の教育ってどうなってるんだろう」ということがふと気になって調べてみたのだそうです。

そうしたら不登校が12万人とかニート・フリーターが100万人とか、不登校や高校中退の原因に低学力と人間関係が大きく影響しているっていうデータが出てきたんです。さらにその内訳を見ると、ひとり親とか生活保護世帯などの貧困層が多かったんですね。

そういうデータを見ているうちに、私が学生時代に取り組んできた、発展途上国が抱える貧困の問題と日本の教育が抱える問題ってじつはあんまり変わらないんじゃないかってことに気がつきました。じゃあ日本の教育問題を解決するにはどうしたらいいんだろうって考えているうちに「そういえばうちの父親、塾をやってたな」って思い出したんです(笑)。

灯台もと暗しとはまさにこのこと!いちばん身近にあった学習塾に、いろいろな可能性が見えてきました。

もともと父親は公共の教育ではフォローできない問題を抱えてる子や、どうやって生きていったらいいかわからないっていう子どもたちに対して、教育でセーフティネットを作りたいって言ってたんです。私が考えていたことと同じようなことを父親が考えていて、しかも37年前に実践してたんだっていうことに、3年前に気づいたんですね(笑)。

実はそのとき、この塾は生徒が減って存続の危機にあったんです。でも父親が言ってた理念ってすばらしいし、ここはつぶしちゃいけない、塾を立て直したいって思ったんです。

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そして、収入が少ない家庭でも通わせられるような低料金で、不登校や学力不足の子どもたちを受け入れる方針を決めて宣伝すると、たくさんの申し込みがありました。口コミで評判も広がって、塾の経営も再び軌道に乗り始めました。潜在的なニーズはやはりあったのです。

うちの塾が普通の塾と違うことができるのは、不登校や中退をなくす、子どもの心のケアをするなど、ミッションやビジョンをはっきり打ち出したことで、通常の塾では考えられないような人たちがボランティアやインターンとして力になってくれるからなんです。

臨床心理士、作業療法士、元教員や教員志望の学生、社会課題に対してアクションを起こしたいと思っている人、本当にたくさんの人が「自在塾」の運営に協力しています。

安い授業料で運営できる理由は、実家の庭でやっているため家賃がかからないことと、家族経営のため人件費の変動にスムーズに対応できることに加えて、こういった協力してくれる人たちの存在がとても大きいのだそうです。

発達障害に特化した教室の設立準備中!

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不破さんが今、力を入れている事業のひとつが発達障害児向けの教室の設立です。

自在塾を運営する中で発達障害の子どもたちが勉強や生活面で苦労している様子をみて、どうしたらいいのかとあれこれ考えていたとき障害者自立支援法に基づく国の制度を知りました。この制度を使うと、国がサービス利用料の大半を負担してくれるようになります。調べていくと「自在塾」の取り組みならば、この制度が利用できそうだとわかりました。

そこでこれまで困難に思えた発達障害児の教育問題を解決できると考え、発達障害児に特化した教室を2012年9月にスタートする予定で準備を進めています。行政機関と話をしたり、発達障害児の親の会と連絡をとったりしていますが、早く始めてほしいと言われることが多く、その必要性をひしひしと感じています。

塾って20年ぐらい前まではお家の一角で小さく開いている個人塾が主体でした。大手の学習塾がたくさんできて数が減ってしまいましたが、より細やかな指導が必要な子どもっていっぱいいて、小さな塾のニーズは今でもあると思うんです。

最終目的は、たとえば発達障害の子どもたちや学校の授業にはついていけない子ども、なにかしらの困難を抱えている子どもたちでも安心して通える塾がいっぱいある、進路もたくさんの選択肢がある、ハンデがある子どもたちに当たり前に選択肢がある社会をつくること。だから今準備している発達障害の子どもたちの教室は、そのための成功事例にしたいと思っています。

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海外の貧困問題や経済発展に取り組んでいたはずが、自分の住む日本にも同じような問題があると気づき、父親の経営していた学習塾にその問題解決の糸口が見えたという、なんとも不思議な遠回りの旅。探し続けた答えは、いちばん身近な場所にあったというわけです。父親とも協力しあいながら塾の経営をしていますが「その状況もよくよく考えると不思議でならない」と不破さんは笑います。

教育問題に身近なコミュニティが重要なように、大切なことは遠くではなく足元にある、それは不破さんの実体験をとおしても伝わってきます。

子どもたちが安心して勉強できる環境づくりとは、いちばん根本にある「心」を大切にする、ということなのかもしれません。

(text:平川 友紀)

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writer ライターリスト

平川 友紀

greenz シニアライター リアリティを残し、行間を拾う ストーリーライター 1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。体調を崩したことをきっかけにマクロビオティックを学び、持続可能なライフスタイルを模索し始める。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らし、コミュニティを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。 facebook:https://www.facebook.com/captainmanbou twitter:@captainmanbou

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