ISSUE ☆日本と世界のソーシャルデザイン

4 years ago - 2012.04.26

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共働き家庭の子育てってどんな感じ?ワーキングマザー&ファーザーの本音を学べる学生向けプログラム「ワーク&ライフ・インターン」 [マイプロSHOWCASE]

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ここ数年で、“ワークライフバランス”という言葉をずいぶん聞くようになりました。この言葉は、いま実際に子どもを育てている人はもちろん、共働き家庭“予備軍”ともいえる学生からも関心を集めている様子。

この3月に発表された、大学3年生と大学院1年生を対象にした調査によると、その就職観は「楽しく働きたい」(31.0%)に次いで「個人の生活と仕事を両立させたい」(20.6%)という選択肢が2位に挙がっています。

でも、身近に小さい子どものいる共働き家庭がない限り、実際のところワーキングマザーやファーザーが日々どんな生活を送っているのか、なかなか知る機会はありません。だから、漠然と「仕事と家庭を両立…」と思っても、具体的なイメージが浮かばないことがほとんど。不安ばかりが膨らんでしまいます。

そんな状況のなか、共働きの子育て家庭と、それに関心を持つ学生をつなぐ新しい取り組みが始まっています。それが、今回ご紹介する「ワーク&ライフ・インターン」。インターン生となる学生が、子育てをお手伝いしながら、ワーキングマザーやファーザーの“ホントのところ”を知ることができるプログラムです。

三ヶ月単位で子育てのお手伝いをする“専属サポーター”プログラム

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インターン中のひとコマ

「お姉ちゃん、次はいつ来るの?」

「ワーク&ライフ・インターン」プログラムを通して自宅にやって来るインターン生たちに、子どもはとってもなつくそう。彼らは、次にインターン生が来てくれる機会を心待ちにしているんです。

子育てをサポートする、というとベビーシッターと変わらないように思えますが、一般的なベビーシッターを利用しているときに子どもがよく口にするのは「ママはいつ帰ってくるの?」という言葉。「お姉ちゃん、次はいつ来るの?」とは、ずいぶん違いますよね。

子どもがなついてくれるのは、決まったインターン生が定期的に来てくれるから。「ワーク&ライフ・インターン」の主なプログラムは、同じインターン生が定期的にお預かりを担当する「専属サポーター」という仕組みです。利用する日時はご家庭の都合次第ですが、原則的に月に6回、2人1組のインターン生が子どものお世話をするので、子どももすっかり慣れてくるんです。

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原則的に1歳から小学校3年生までの子どもを対象に、保育園にお迎えに行ってママが帰宅するまで遊び相手になったり、放課後の習い事の送り迎えをしたり、ときには一緒に買い物に行って料理をしたり。インターン生とご家庭との合意があれば、サポート内容はさまざまです。専属サポーターの期間は3カ月で、継続する場合はまた別のインターン生が入ります。

インターン生といっても、親に代わって大事な子どもを預かる責任のある立場です。通常は保育の有資格者や子育て経験者が行うことが多い、既存のベビーシッター派遣サービスとの差をつくらないために、このプログラムを運営するスリール株式会社では、子どものいない学生がインターンとして活動するまでに手厚い研修を設けています。1カ月半に渡って、3回の座学研修とご家庭での6回の実習を経て、インターン実践期間へと移行します。

家庭が負担する利用料は、交通費も全て込みで月額30,000円。1時間にすると1,000円程度と、相場が2,000円/時の既存ベビーシッターサービスより割安。その代わりに、利用家庭のママやパパは子育てや仕事の経験談を積極的に話したり、インターン生同士が体験をシェアする場でスピーカーになったりといった協力をしています。「ワーク&ライフバランスの現場である家庭にインターン生を受け入れる」という主旨を理解した上で、利用しているんですね。

専属サポーターの他に、家庭のニーズに合わせて単発で利用できるプランもあります。専属サポーターのインターンは無給ですが、こちらは担当するインターン生にも時給が支払われます。現在、インターン生として登録している学生全体は約100人、そのうち40人ほどが専属サポーターを経験しています。

「自分が目指したいロールモデルが見つかった」

インターンとして参加するのは、やはり保育を学んでいたり関心を持っていたりする学生がメインかと思いきや、意外にもそういった学生の登録はわずか数%。登録者のうち、ほとんどが「将来のワークライフバランスの実践に役立てたい」との目的でエントリーしています。だから、保育のインターンではなく、“ワーク&ライフ”のインターンなんですね。

少ないながら、男子学生も活躍中。基本的に2人1組で動くため、女子学生と組んで参加しますが、小学生の男の子をみる場合などは1人で担当することもあるそうです。3カ月のインターンを経験した、文教大学4年生の内田久美子さんと慶應義塾大学3年生の酒井くららさんは、口をそろえて「働くママのリアルな姿がよく分かった」と話します。

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インターンを経験した酒井さん(左)と内田さん(右)

いままさに就職活動中の内田さんは、昨年の夏に専属サポーターを経験しました。

これから社会人になるにあたって、家庭と仕事を両立させたいと思っても、母親が専業主婦なので具体的なイメージが浮かびませんでした。このプログラムを知ったとき、自分のなりたい姿を探ることができるんじゃないかと思って迷わず参加したんです。

実際に経験してみると、決まった家庭を定期的に訪れることで、子どもとだけでなくママとの信頼関係もできていったそう。ベビーシッター終了後に一緒に夕食をとりながら、仕事の話やワーキングマザーとしての率直な気持ちを聞けたりしたことが、とても参考になったといいます。

活動時だけでなく、利用家庭のママとパパに子育ての体験談を話してもらうイベント「パパママカフェ」でも、率直な声を聞くことができます。

仕事と家庭は50%・50%というイメージを持っていましたが、パパママカフェで知ったママさんの「両方100%!」という姿勢がとても印象的でした。私もそんな姿を目指したいと思います。

と内田さん。

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基本的に2人体制。ご家庭との相談次第で、外で遊んだり、ケーキをつくったり!

一方、学外団体の学生記者として活動する酒井さんは、これまで子どもがいる人を取材することはあっても、企業の人として仕事の話を聞いているので「家庭ではどんなふうなんだろう」と思っても聞けなかった、と振り返ります。3歳の男の子を担当した酒井さんは、最初は不安もあったそうですが、インターンを通してこれまで疑問に思っていたことを肌で感じられたようです。

活動の翌日に必ず書く日報には、子どもの様子などに加えて、自分の気づきやできるようになったことも書き留めることになっています。期間を終えて、ご家庭からのメッセージと一緒に日報を冊子にしてもらったときには、自分が学んだことが実感できて感慨深かったですね。

二人とも、インターン期間を終えたいまも、現在進行形のインターン生の都合がつかないときに以前担当した家庭を訪れたり、パパママカフェや日報の書き方講座などのインターン主導の企画に携わったりと、継続してこのプログラムに関わっています。

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インターンに入っているご家庭に体験談を話していただく「パパママカフェ」

どうしたら家庭との信頼関係を築けるか

実は、スリールを立ち上げた当初は専属サポーターのプログラムはなく、単発利用のサービスのみ設けていたんです。

そう話すのは、スリールの代表取締役、堀江敦子さん。3人姉妹の末っ子だという堀江さんは、物心ついた頃から赤ちゃんや小さい子が好きで、同じ団地の子育て家庭に遊びに行っては面倒を見ていたそう。それが高じて、福祉学を専攻していた学生時代には、「働く女性の子育て支援」を研究しながらベビーシッターの派遣アルバイトを経験、これまでに100人以上の子どもと接してきました。

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スリール 代表取締役の堀江敦子さん

学生のとき、知り合いの方で、出産直後に起業した女性のベビーシッターを担当したことがありました。週に3~4日、生後1カ月半の赤ちゃんの面倒を見ながら、ときには仕事のお手伝いもしたり。私がベビーカーを押して、仕事の現場に同行したこともよくありました。

もちろん私は限られた時間しか接していませんでしたが、それでもその女性とは大変な時期を一緒に乗り切ったことで信頼関係ができていきました。いまでも相談事を聞いてもらったりと、親しくさせてもらっていて。私にとっては社会人の先輩であり、働くママのひとつのモデルになっています。

そんな経験から、堀江さんの中には「学生と働くママやパパとの信頼関係を築ける仕組みをつくりたい」というイメージはあったものの、それをどのように実現するかは、起業した当時はまだ模索中でした。

まずは既存のベビーシッターのサービスのように単発利用の提供を始めましたが、利用家庭のほとんどが2、3カ月に1度程度で、多くても月に3回の頻度。それではたとえ同じ学生が来ても子どもはなつきませんし、インターン体験から多くの学びを得ることも難しくなってしまいます。

共働きのママやパパにはがんばる方が多いので、ぎりぎりのところまで自分たちで乗り切ろうとしてしまうんです。でも、そういう状況でどうしても手が回らない部分をサポートするだけでは、家庭にとっては単にマイナスがゼロになるだけですし、子どもも安心できない。更にはインターンとしても成立しにくい、と単発利用の提供をしていて感じていました。

だから、学生が学びを得るために、そして働くママやパパにゼロではなくプラスの時間を提供するために、定額制で「月に6回利用してください」とこちらからお願いするプランを立てたんです。そうすると、残業など託児の理由があるとき以外は、ママが自分の勉強に充てたりゆっくり美容院に行ったりすることができます。ママに気持ちに余裕があり、笑顔だと、子どもも笑顔になるので、実は子どものためでもあるんです。

子育て中の人や保育の関係者の間には、「3歳神話」といって、子どもが3歳になるまでは母親が必ずそばについているべき、という説があるそうです。でも、「さまざまな子どもやご家庭に接してきて、私は親以外の大人も含めて、多くの人がそばにいることが重要だと考えるようになった」と堀江さんは言います。

母親だけだと、時には余裕がなくなることもあります。親戚、地域の大人、保育士やベビーシッターのような保育者も含めて、大人から十分に愛情をかけてもらうことが、その後の自己肯定感を育てるのに重要なことなのではないでしょうか。

もちろん、スリールのインターン生はその一助になればと思っています。研修で重視しているのは、スキルよりも愛情。自分の子ども・兄弟のように接し、子どもの成長を考えて、愛情たっぷりに接してもらっています。だから、ママも安心してインターン生を信頼し、単なるビジネスライクな関係ではないつながりが生まれているのだと思っています。

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インターン生(左)の疑問などに応じるママさん。子育て家庭の日常を知ることができます

すべての人が自立した社会をつくりたい

自身の経験といまの仕事が密接に結びついている堀江さんですが、意外にも大学卒業後は大手企業に新卒で入社しています。その頃は、まさか保育の経験をこうして起業に結びつけることになるとは思ってもいなかったそう。

私には高校生の頃から実現したい夢がありました。それに近づくために、まずはビジネスを学ぼうと思い、新卒で企業に就職したんです。

その夢とは、「すべての人が自立した社会をつくる」こと。 10代の頃から、子どもだけでなく高齢者や障害者などをサポートするボランティア活動にも積極的に参加していた堀江さんは、福祉の現場の課題を知れば知るほど「誰もが生きやすい社会をの実現するためには、当事者意識が必要だ」と考えるようになったそう。

たとえば車いすの人が電車を利用するとき、いまは駅員さんが乗降口に板を渡してくれていますよね。もちろんそれは現時点で可能なサポートだとは思いますが、もし電車から自動的に板が出てくれば、一人で乗り降りできます。自分が利用するなら、こっちの方が気楽だし自然だと思いませんか?

多くの人が、状況や環境が異なる人のことも「自分の未来の姿だ」と捉えて行動するようになれば、もっと生きやすい社会になるはず。自分のこととして「どういう状況が生きやすいか」を考えたら、やはり人の手を借りないで自立できていることが理想の姿なんじゃないかと、高校生のときに思ったんです。

自立した社会をつくるために、ビジネスを学ぼうと考えて入社した会社でも、堀江さんは自主的にワークライフバランスの勉強会を企画したり、社内託児所の企画を任されたりと活躍しました。でも、本業がどんどん忙しくなる中で、これで本当に自分の夢に近づけているのか、ふと考える瞬間が増えていきました。

そんな折に参加した、自分のライフプランを考える勉強会で、自分と社会との関わりを改めて考えさせられたそう。

そこで初めて、ベビーシッターを通して働くママと接した私の経験を、事業として社会に還元できるのではないか、と気づいたんです。ベビーシッターなら需要があることは分かっていましたし、学生の「働くママのロールモデルがない」という声も聞いていたので、すぐに実現できる。事業を通して誰もが生きやすい社会に近づくことができると、これまでの経験がすべてつながった瞬間でした。

そこからは迷いなく起業の道を進み、わずか3カ月の準備期間を経て、2010年8月に事業の立ち上げに至りました。堀江さんは同年、本拠地を置く新宿区の男女共同参画委員に就任し、計画の策定にも携わっています。

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この笑顔のためにはママとパパの笑顔はもちろん、周囲の笑顔も必要なんですね

現在スリールでは「ワーク&ライフ・インターン」プログラムのほか、イベントなどの際の託児サービスを提供したり、企業と組んで若手社員のライフプランを考えるワークショップを企画したりと、活動が広がりつつあります。中長期的には、大学と地域をつなげてノウハウを提供し、地域ごとに学生と子育て家庭とのインターンプログラムを運営できるようになることを目指しているそうです。

「スリールの本当の目的は、インターン生が社会人になってから達成されるんです」 と、堀江さんは今後の展望を話します。スリールのビジョンを受け継いだインターン生が社会人になれば、それぞれの組織の中で、当事者意識を持って仕事と家庭を両立できる環境をつくっていってくれるはず。そんな動きが重なることで、社会全体も、子育て家庭がより暮らしやすい環境へと少しずつ変わっていくでしょう。

もちろん、実際に子育てをすることと、それを部分的に体験したり想像したりすることとの間には、大きなギャップがあるはずです。でも、これから子どもを持つかもしれない人、また職場に子育てママやパパがいる人も、「子どもがいる生活」や「子どもが生きやすい社会」を自分のこととして考えてみれば、これまでよりもお互いに過ごしやすくなるのでは。働くママとつながりを持ったスリールのインターン生たちは、そんな動きの原動力になっていきそうです。

(Text:タカシマトモコ @tomotks

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タカシマトモコ

フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事を下記のサイトにまとめています)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。 WEB:http://about.me/to.takashima Twitter:@tomotks

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